なんで私⁉ 野球知識皆無のJKが戦国時代で野球を広め、信長の恋女房になってしまう件~   作:ハムえっぐ

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第33話 長谷川真昼、幼児にも先を越される

 矢作川の河川敷に、信長様の放った特大ホームランの余韻が残っている。

 勝負は決した。私たちの勝ちだ。

 

「おう、竹千代、いや、三河岡崎の城主松平次郎三郎元康よ、これからどうする?」

 

 信長様がバットを肩に担ぎ、へたり込んでいる元康さんを見下ろして問う。

 元康さんは地面に視線を落とし、力なく首を振った。

 

「完敗じゃ……。好きにしてくだされ。ああ……瀬名、竹千代……不甲斐ない儂を許してくれい」

 

 涙ながらに奥さんと子供の名前を呼ぶ姿は、タヌキ親父の面影はなく、ただの家族思いのお父さんだ。

 すると今まで分身して守備を固めていた保長おじいちゃんが、術を解いて信長様の前に進み出た。

 そして土下座するように深く平伏する。

 

「信長様……どうか、我が主・元康様にお慈悲を!」

 

 主のために裏切り者の汚名を被り、それでも最後は主の命乞いをする。

 忍者の忠義ってやつだね。ぐっときちゃうよ。

 

 信長様はそんな2人を見て、つまらなそうに鼻を鳴らした。

 

「俺は美濃獲りに集中してえんだ。東がウザいのは困るんだよ」

 

「へ?」

 

 元康さんが涙目のまま顔を上げる。

 

「お前が俺と手を組むなら、今川はてめえに任せたい。俺の背後を守れ。そうすれば久助を貸して、てめえの妻と子供を取り戻す手助けもしてやるぜ?」

 

「そ、そんな……儂のためにそこまで……」

 

 元康さんが絶句している。

 そりゃそうだ。さっきまで敵対してて、しかも騙そうとしてた相手だよ?

 なのに許すどころか、背中を預ける同盟を持ちかけて、さらに家族救出の手伝いまでするなんて。

 信長様の器、マリアナ海溝より深いんじゃない?

 まあ、合理主義の塊ってだけかもしれないけどさ。

 

 感動的な場面。これにて一件落着、大団円と思っていると?

 

「ええい! 元康も信長も泰朝も皆殺しじゃああああ! 儂の存在を無視しおってえええええ!」

 

 空気を読まない怒号と共に、吉良義昭が戻ってきた。

 さっき泰朝に殴られて気絶してたくせに、私たちが話し込んでる間に兵を旋回させて囲んできたのだ。

 

 周りを見渡せば、数百の吉良兵が槍を構えている。

 こっちは野球道具を持った数名と忍者だけ。

 多勢に無勢すぎる。私たちに緊張が走る……わけないじゃん。

 

 信長様は呆れたようにため息をついた。

 

「遅せえぞ、右衛門尉」

 

 その言葉を合図にしたかのように、吉良兵の背後で無数の松明が一斉に灯った。

 闇夜を埋め尽くすほどの光の数。

 

「佐久間右衛門尉信盛! 参る!」

 

「水野藤四郎信元! 参上!」

 

 ドスの効いた名乗りと共に、織田・水野連合軍が姿を現した。

 兵数は吉良軍を遥かに凌駕している。

 

「ひいいい! なんでこんな大軍が⁉」

 

 吉良義昭が素っ頓狂な悲鳴をあげた。

 

「おじさまたち、美味しいとこ取りすぎでしょ!」

 

 私のツッコミも虚しく、吉良義昭は「覚えておれえええ!」とテンプレ通りの捨て台詞を吐いて、東条城へ逃げ帰っていった。

 ……まあ、あっちも必死なんだろうけど、小物感がすごいよ。

 

 東の空が白み始めてきた。

 

「さあて、清洲へ帰るか。元康は岡崎で妻子救出の報を待て。その後どうするか考え、決めろ」

 

 信長様がそう言うと、一益さんと保長おじいちゃんが並んだ。

 

「久助! 保長殿と駿府に向かえ!」

 

「承知! 吉報をお待ちくだされ」

 

 一益さんと保長さんの姿が、朝霧に溶けるように消える。

 忍者コンビ、かっこいいねえ。

 

 こうして三河での戦いは松平元康を解放し、英霊ボール・スギウラを手に入れる大戦果で終息したのだった。

 ……あれ? そういえば泰朝は?

 辺りを見回しても、あのマスク姿の大男の姿はどこにもない。

 いつの間にか消えていた。

 スギウラボールは信長様の手にある。

 ボールを失い、主君である今川も斜陽。

 彼はこれからどこへ行くんだろう?

 また会うことになるのかな……。今度はもっと命のやりとりをする強敵として……。なんとなく、そんな予感がした。

 

 ***

 

 それからしばらくして、清洲城の大広間で盛大な宴が開かれていた。

 上座には信長様、吉乃さんと子供たちが座り、家臣団がずらりと並んでいる。

 そして客座には、水野信元さんと共にやって来た元康さんの姿があった。

 

 一益さんと保長おじいちゃんの超絶ファインプレーにより、駿府から奥さんの瀬名さんと息子の竹千代君が無事救出されたのだ。

 元康さんは信長様の前まで進み出ると、深々と頭を下げた。

 

「この松平元康、今後決して裏切ることなく、信長様の覇道を背後より支えることを誓いましょう」

 

 力強い宣言。うんうん、もう二度と私を猪と呼ぶなよ。

 信長様が許しても、この長谷川真昼が許さないからね。

 

「おう、堅苦しいことはなしよ。お前の息子の竹千代と俺の娘のおごとく、同年齢だったな。婚約させたいがどうだ?」

 

 信長様が酒を飲みながら、さらっと爆弾発言を投下した。

 

「ぶふっ!」

 

 私は飲んでいたお茶を吹き出しそうになった。

 

「え! おごとくちゃんまだ抱っこが大好きな幼児だよ! もう許嫁ができるの⁉」

 

 おごとくちゃんは私の膝の上で、我関せずと料理に夢中なんだけど。

 マジですか。戦国時代の結婚事情、早すぎない? 私なんて彼氏いない歴=年齢なのに!

 

 元康さんは驚き、そして震える声で答えた。

 

「なんと……婚姻という名の人質、本来なら儂から申し出するところを……感無量でございます」

 

 涙ぐむ元康さん。同盟を強固にするための政略結婚だけど、信長様なりの信頼の証って受け取ったんだね。

 

 宴は和やかに進み、お酌の時間になった。

 秀長の妹猿、旭ちゃんがトコトコと元康さんの元へ行き、小さなお猪口にお酒を注ぐ。

 

「ウキー」

 

 旭ちゃん、着物を着てて可愛いなあ。

 ……なんで織田家重鎮たちが集まる場でお酌係に就任してんだよ。

 それでなんで私は上座に座ってるんだよ。お酌係、私のほうがよくない?

 元康さんはお猪口を受け取り、旭ちゃんを見つめる。

 

「かたじけない。……ポッ」

 

 ん? 今、擬音が聞こえたぞ?

 元康さんの頬がほんのり染まっている。

 そしてモジモジしながら、信長様や秀吉さんたちに問いかけた。

 

「あ、あの、信長様、秀吉殿、秀長殿、こ、こちらの木下旭殿は、そ、そのう、独り身なのでございますか?」

 

 シン……。

 宴会場が静まり返った。

 権六さんが持っていた盃を落とし、秀貞さんが口をあんぐり開け、信元さんが「甥っ子よ、正気か?」という顔で凝視している。

 

「んん?」

 

 信長様も珍しくキョトンとしている。

 視線を集めた元康さんは、ハッと我に返ったように慌てて手を振った。

 

「あ、いえ。な、なんでもありませぬ。……今の発言、妻の瀬名に知られぬようご配慮をお願い申し上げます」

 

 ……やっぱこの人、タヌキなんじゃないの? だからお猿さんに惚れ……いや、この考えも無理あるわ。

 つーか私、おごとくちゃんと旭ちゃんにも先にお嫁に行かれちゃう感じなの⁉

 え、私の婚期、マジでどこ行ったの? 泰朝みたいに消えた?

 

『ノムサンよ、こやつお前さんに似て……』

 

『センイチ、それ以上口にするとガチであれが召喚されそうだからやめい』

 

 センイチとノムサンも、ドン引きしてるし。

 ちょっと気になるから、あとで拷問して吐かせよ。

 

「ハッハッハ、元康よ。三河を統一したら野球チームも発足させよ。練習試合をしようぞ。そのためにノムサンは預けておく。精進しろよ」

 

 信長様は豪快に笑い飛ばし、懐からノムサンボールを取り出して元康さんに投げ渡した。

 元康さんはしっかりとボールを受け止め、深く頷く。

 

「承知いたしました。必ずや最強のチームを作り、信長様に挑みましょう。……旭殿に見てもらうためにも」

 

 最後の一言、ボソッと聞こえたけど聞かなかったことにしてあげよう。

 信長様の上機嫌な声が、宴会場で響くのだった。

 平和だねえ。次はどこの国と野球するんだろ……って、呑気なこと言ってる場合じゃなかった。

 私の婚活、本気で始めないとマズイ気がしてきたよ!

 

 ――【美濃も三河も強敵だらけ、元康救出編】完

 

 【最強の敵、半兵衛君を説得せよ、美濃攻略編】に続く

 

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