なんで私⁉ 野球知識皆無のJKが戦国時代で野球を広め、信長の恋女房になってしまう件~   作:ハムえっぐ

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第36話 長谷川真昼、球場飯を考案する

「引越しだ! 本拠地を小牧山へ移転する!」

 

 犬山城攻略の興奮も冷めやらぬ清洲城の大広間。

 信長様の突然の宣言に、家臣一同「はあぁぁぁ⁉」と素っ頓狂な声を上げた。

 私も飲んでいたお茶を吹き出しそうになったよ。

 

「ひ、引っ越しって……お館様、城を移すのですか?」

 

 秀貞さんが目を丸くして尋ねる。

 

「城だけじゃねえ。城下町ごと丸ごと移動だ! 武士も商人も職人も、全員まとめて大移動だ!」

 

 無茶苦茶だ。この人、シムシティか何かと勘違いしてない?

 清洲は尾張の中心で経済も回ってるのに、それを捨てて何もない山に移るなんて。

 

「美濃を獲るには清洲は遠すぎる。小牧山に砦ではなく本格的な城を築き、そこを拠点に稲葉山へ圧力をかけ続けるのだ!」

 

 なるほど、攻めの拠点移動ってことか。

 

『ふむ、ナゴヤ球場からナゴヤドームへ本拠地移転するようなもんか。狭くて野次が飛ぶ球場も味があったが、空調完備のドームも捨てがたいしのう』

 

 懐のセンイチが妙に納得している。

 いや、小牧山に空調なんてないからね? むしろ山だから虫とか凄いと思うよ?

 

「お、お館様! 清洲はこの尾張の中心。商いも盛んで、先代様からの思い出も詰まった地。それを捨てて、何もなき小牧の山へ移るなど……!」

 

「左様! 兵たちも家族を連れての移動となれば、反発は避けられませぬぞ!」

 

 林秀貞さんや柴田権六さんら古参衆が食い下がる。

 無理もない。令和の感覚で言えば「明日から会社を山奥に移転するから全員強制引越しな」と言われるようなものだ。

 

「……あ? ならもっと稲葉山に近い二ノ宮にするか?」

 

 信長様の額に青筋が浮かぶ。手にしたバットを床に叩きつけ、広間の空気が凍りついた。

 

 私が二ノ宮ってどこ? と小声で秀吉さんに訊ねると、「小牧山よりさらに山の奥深くで、とても人が住めるとこでは……」と返答が返ってくる。

 信長様、ガチギレしてるじゃん。普通、みんなが反対したら折れて良い条件提示するべきでしょ⁉

 

(ウキー)

 

(秀長、親指立ててるけど、山なら俺に任せろって? いやいや、私も毎夏ボーイスカウト教室参加してたから、野生で暮らすのは慣れてるぞ)

 

 思い出すぜえ。お姉ちゃんと一緒にツキノワグマを倒してみんなと食べてたら、先生にめっちゃ怒られたのを。

 

「あらあら、信長様。皆様を驚かせてはいけませんわ」

 

 吉乃さんがそっと信長様の横に寄り添った。

 彼女は信長様の荒ぶる肩を優しくなだめ、家臣たちに向かってニコリと微笑んだ。

 

「皆様、ご安心ください。信長様は小牧山に皆様のための、それは立派な新しいお家をご用意されるおつもりなのです。清洲よりも広く、最新の守りを備えた夢の城下町。それを皆様への報奨になさりたいのですよね、信長様?」

 

「……あ、……おう。そうだ」

 

 信長様が毒気を抜かれたように瞬きをする。

 絶対そんなこと考えてなかったよね⁉

 むしろ「野宿でもしてろ」くらいの勢いだったよね⁉

 でも吉乃さんの「信じていますよ」という瞳に見つめられ、信長様は咳払いを一つして胸を張った。

 

「ふん……。そうだ! 新しい武家屋敷が必要だからな。全員分、俺が建ててやる! 文句ねえな!」

 

「な、なんと……! 新築の屋敷を……!」

 

「お館様、ありがたき幸せ! 小牧山、喜んで普請に励みまする!」

 

 さっきまでの不穏な空気が嘘のように、家臣団がやる気に満ち溢れて沸き立った。

 ナイス吉乃さん、頼りになるよ!

 

「吉兵衛! 金の捻出は任せたぞ! 無論、民への負担はなしだ!」

 

 あっ、信長様の声に、村井吉兵衛貞勝さんの魂が口から抜けていく。

 

「……薪の使用制限して、津島で商人に土下座して、あっちでアレを買い占め、あそこで売って儲け出して、物資は清須の家屋解体して使うとして……あと何すればいいのだ?」

 

 うん……頑張れ、貞勝さん。

 あっ、そうだ!

 

「ねえ貞勝さん」

 

 私は会議が終わって解散になったのに、魂抜けたままの貞勝さんに声をかける。

 

「せめて光秀殿がいれば……ブツブツ」

 

「えい!」

 

 とりあえず、魂を元に戻しておくか。

 

「おわっ……な、なんですか真昼殿」

 

「いやあ、何か手伝えることがないかなあと思いまして。ほら、私が安心してご飯食べれるのって、貞勝さんが難しい仕事をしてくれてるおかげだし。信長様もよく言ってるよ。『吉兵衛は織田家のショウカだって』」

 

「の、信長様がそれがしのことを……クッ……おかしいな、目にゴミでも入ったようで視界が霞んで……ううっ」

 

「うんうん。村井さん、よっぽど嬉しいんだね。消火係にされたの」

 

 あちこちに土下座して、不満を消火させるのって重要だもんね。

 

『小娘、ショウカとは漢の高祖を支えた三英傑の1人、蕭何のことだと思うぞ? 少しは書物読まんかい小娘。儂は戦国の世に来てから、日の本と大陸の軍記物を片っ端から読んだぞ』

 

 訳わかんないこと言ってるセンイチはスルーして、私は貞勝さんに告げる。

 

「貞勝さん。こういう作戦はどう? 話題沸騰の料理メニューを考案して、考案料を貰うってのは?」

 

「は、はあ。(何言ってるんだ? この化け物)」

 

「ん? なんか言いました? 貞勝さん?」

 

「いえ、やってみましょう」

 

『球場飯考案じゃな! 儂に任せろ。とりあえず味噌じゃ! 味噌を塗って塗って塗りまくれ!』

 

 よし、貞勝さんの胃に穴が開く前に、ちゃっちゃと稼ぐとしますか!

 私は金属バットを担ぎ直し、センイチを懐に入れて、貞勝さんと共に尾張の商業都市・津島へ向かった。

 

 ***

 

「さあ、商人の皆さん! 今日はビッグなビジネスチャンスを持ってきましたよー!」

 

 津島の会合衆が集まる大広間。

 私は満面の営業スマイルでプレゼンを開始した。

 目の前には堀田家や伊藤家といった、織田家の財布を握る大商人たちが並んでいる。

 

 彼らはなぜか、顔面蒼白でガタガタと震えていた。

 部屋の隅には冷や汗をダラダラ流す貞勝さんが控えている。

 

 私が愛用の金属バットをポンと叩くと、商人たちが「ヒイッ!」と短い悲鳴を上げてのけぞった。

 なんだろう、みんな随分とリアクションがいいな。

 

「で、本題です! 小牧山への引っ越しに伴い、新しい『球場飯』を開発しました! これを皆さんの店で独占販売する権利を、特別価格でお譲りします!」

 

「きゅ、球場飯……?」

 

「そう! 戦も野球も腹が減ってはできません! そこでこれです!」

 

 私はニッコリ笑って、センイチのアイデアを披露した。

 

「名付けて『味噌焼き猪肉』です!」

 

 パン粉がないからカツは無理だったけど、味噌さえあればなんとかなる!

 

『いいか商人ども! 味噌だ! 何がなんでも豆味噌を使え! 猪肉を煮込むのも味噌、野菜を食うのも味噌、焼いた飯に塗るのも味噌だ! 味噌を制する者が天下を制するんじゃあ!』

 

 懐のセンイチがヒートアップし、大音量で怒鳴り散らす。

 商人たちは恐怖でパニック寸前だ。

 

「球体が喋ったぁぁぁ!」

「噂は本当だったんだ……織田家は鬼神を飼っていやがる!」

「あの鉄の棒で犬山城の門を粉砕した怪物……逆らえば我々の店など一撃で……!」

 

 何かヒソヒソと失礼な異名が聞こえた気がするけど、気のせいかな?

 

「どうですか皆さん? この味噌づくしメニュー。考案料として、お金をドーンと弾んでいただければ、レシピと販売権を差し上げますよ?」

 

 私は商談を成立させるべく、一歩前に踏み出した。

 

「「「か、買いますぅぅぅぅぅ!」」」

 

 商人たちが一斉に土下座した。

 素晴らしい! 即決だ!

 

「い、いくら払えば命を……いや、権利をいただけますか⁉」

「有り金全部置いていきます! だからその鉄の棒をしまってください!」

「味噌でも泥でも何でも売りますからぁぁ!」

 

 次々と差し出される矢銭の山。

 貞勝さんが提示していた目標額をあっさり達成してしまった。

 津島の商人の即断即決力、さすがだね!

 

「まいどありー! いやあ、ウィンウィンの関係って素晴らしいですね!」

 

 私がホクホク顔でお金を回収すると、商人たちは涙目で「ありがとうごぜえます、命をありがとうごぜえます」と拝んでいた。

 そんなに味噌メニューが嬉しかったのか。

 センイチも『うむ、わかればいいんじゃ』とご満悦だ。

 

 ***

 

 帰り道、私の背中の風呂敷はずっしりと重くなっていた。

 

「見ましたか貞勝さん! 私のプレゼン能力! これで小牧山の普請もバッチリですよ!」

 

 意気揚々と歩く私に対し、後ろをついてくる貞勝さんの足取りは、死刑台に向かう囚人のように重かった。

 

「……金は、できた。小牧山引越しの予算ができた……」

 

「でしょ! また困ったことがあったら言ってくださいね! ひと肌脱ぎますから!」

 

 貞勝さんは、遠い目をして空を見上げた。

 

(……虎の子の津島衆を、あんなに震え上がらせてどうする……。信用と引き換えに金を得るとは、まさに悪魔の所業……)

 

「え? 何か言いました?」

 

「いえ! なんでもございませぬ! 真昼殿は城でおとなしく……いや、信長様の護衛だけしていてくだされば、それで結構ですので!」

 

 貞勝さんは必死の形相で私の手を握りしめた。

 なんでだろう。感謝されてるはずなのに、貞勝さんの目から「こいつに二度と財布を触らせない」という固い決意を感じる。

 

 まあいいか!

 これにて引越し資金問題は解決!

 いざ、新天地・小牧山へレッツゴー!

 

 ちなみに球場飯は大繁盛。

 津島の商人たちは数年で元手を回収したそうな。

 

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