なんで私⁉ 野球知識皆無のJKが戦国時代で野球を広め、信長の恋女房になってしまう件~   作:ハムえっぐ

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第38話 長谷川真昼、生き別れの姉弟の再会に立ち会う

「力攻めはもう終わりだ。半兵衛に防がれるのは懲り懲りだ」

 

 小牧山城の大広間で信長様が地図を広げ、駒を動かしながら宣言した。

 私のトラウマでもある、あのバックトスによる鉄壁守備。思い出しただけで頭が痛くなるよ。

 

「次は内部から崩す。五郎左、お前に任せる」

 

「お任せあれ。すでに手は打ってあります」

 

 指名された丹羽長秀さんは、いつもの温厚な笑みで頷いた。

 自信満々だ。米五郎左と呼ばれるだけのことはあるね。

 

「長秀さん、調略って何するの? 賄賂? それともハニートラップ?」

 

 私が興味津々で尋ねると、長秀さんは苦笑いした。

 

「真昼殿、人聞きが悪い。私はもっと高尚なことをしますよ」

 

「高尚?」

 

「ええ。心を動かすのです」

 

 長秀さんはそう言って、胸に手を当てた。

 

 ***

 

 私たちは中濃の要衝、加治田城へと向かった。

 メンバーは長秀さんを筆頭に、護衛と道案内を兼ねて私と秀吉さんと秀長が同行している。

 加治田城は美濃の東西南北を結ぶ交通の要所。

 ここを落とせば、斎藤家の連携を分断できる重要な拠点だ。

 

「よくぞ参られた、丹羽殿」

 

 城主の佐藤紀伊守忠能さんが私たちを出迎えてくれた。

 見た目はごく普通の真面目そうなおじさんだ。でも、顔色が優れない。眉間に深い皺が刻まれている。

 

「龍興様にはほとほと困り果てております。稲葉山を乗っ取られても配下の城で戦支度もせず酒池肉林。……しかし、長年仕えた斎藤家を裏切るというのは武士として……」

 

 忠能さんは板挟みで苦しんでいた。

 そりゃそうだよね。ブラック上司は嫌だけど、転職するのは勇気がいるもん。

 

 長秀さんが静かに語りかける。

 

「忠能殿。信長様は、野球という新たな理で天下を布武しようとしています」

 

「野球……噂には聞いておりますが」

 

「はい。力でねじ伏せるのではなく、ルールという枠組みの中で技を競い、勝敗を決する。敗者にも再戦の機会を与え、共に高め合う。それが信長様の描く未来です」

 

 長秀さんの言葉に熱がこもる。

 うまいなぁ。信長様のジャイアニズムを、こんなに綺麗に翻訳するなんて。

 

「それにね、忠能さん!」

 

 私もここぞとばかりに口を挟む。

 

「龍興さんはボールを蹴飛ばすような人ですよ! 道具を大事にしない人に、野球の神様は微笑みません! センイチだって怒ってましたもん!」

 

「なっ……ボールを蹴飛ばすと⁉」

 

 忠能さんが驚愕する。

 そこへ、襖の影から可愛らしい声がした。

 

「お父様、お客様ですか?」

 

 顔を出したのは、10歳くらいの女の子。忠能さんの娘さん、八重緑ちゃんだ。

 クリクリした目が可愛い!

 

「これ、八重緑。控えなさい」

 

「だって、お話が楽しそうだったから。野球って、みんなで走ったり投げたりする遊びでしょう? 私もやってみたい!」

 

 八重緑ちゃんの無邪気な笑顔を見て、長秀さんがすかさず畳み掛けた。

 

「忠能殿。龍興様の元にいて、この姫君の笑顔を守れますか? 織田家につけば、私が保証します。娘御も安心して野球を楽しめる、平和な世を作ると」

 

 忠能さんの視線が娘の笑顔と、長秀さんの真摯な瞳を行き来する。

 そして深くため息をついた後、決意の表情で顔を上げた。

 

「……わかりました。時節が来たあかつきにはこの加治田城、織田信長様に献上いたしましょう。娘の未来のため、泥を被る覚悟を決めました」

 

「賢明なご判断です」

 

 長秀さんが深く頭を下げた。

 やった! 調略成功だ!

 やっぱり、子供の純粋な一言と親心には勝てないね。

 

 私たちがホッとしていると、忠能さんが「実は……」と言い出した。

 

「我が城にもう1人、織田家に味方したがっている者がおります」

 

「ほう? どなたです?」

 

「新五郎様、こちらへ」

 

 忠能さんが呼ぶと、奥の部屋から1人の若武者が現れた。

 凛々しい顔立ちに、どこか見覚えのある雰囲気。

 彼は私たちの前に座り、真っ直ぐな瞳で名乗った。

 

「お初にお目にかかります。斎藤新五郎利治と申します。父・道三の遺言通り、信長様に美濃をお渡しするために参じました!」

 

 斎藤……道三の息子⁉

 ってことは、帰蝶様の弟⁉

 

「……新五郎か?」

 

 隣で秀吉さんが息を呑んだ声に、新五郎君が反応する。

 

「その声……その面影……母上様にそっくり……まさか、帰蝶姉上ですか⁉」

 

 新五郎君が身を乗り出す。

 秀吉さんはハッとして口元を押さえたけど、もう遅い。

 目と目が合い、お互いの瞳に涙が浮かぶ。

 

「生きて……生きておられたのですか……! 義龍兄上に殺されたとばかり……!」

 

「新五郎……大きくなったな……。立派な武者になりおって……」

 

 感動の再会だ。

 生き別れの姉弟が敵味方に分かれて、そして再び巡り会ったんだ。

 全米が泣くよこれ!

 私のお姉ちゃんもどうしてるかなあ? あ、そういえば千円借りてたっけ。早く返さないと、地球の海や川の水全部抜いてでも私の居場所確認してそうだよ。

 ブルッ……誰か永楽銭千貫ほど、令和に送ってくれないかな? 

 

 でも、ちょっと待って。

 ここには忠能さんもいるし、長秀さんもいる。

 秀吉さんが元・帰蝶様だってことバレたら不味いんじゃ?

 

「あー! えーと、そっくりさん! ドッペルゲンガーだよ! 世の中には自分に似た人が3人いるって言うじゃん? それそれ!」

 

 私が慌てて2人の間に割って入り、バタバタと手を振る。

 

「新五郎君、人違いだよ! この人は木下藤吉郎秀吉さん! サル使いのお兄さんだよ!」

 

「ウキー! ウキキ!」

 

 秀長も「そうだそうだ」と援護射撃する。

 

「私は何も聞いていませんよ?」

 

「それがしも何も聞いておりませぬ」

 

 うんうん、長秀さんも忠能さんも物分かりよくて助かったよ。 

 でも新五郎君は私の必死の言い訳を聞き流し、秀吉さん――姉の顔をじっと見つめた後、深く頷いた。

 

「……なるほど。承知いたしました。……今は木下藤吉郎秀吉殿、ですね」

 

 察しがいい! さすが道三の息子!

 新五郎君は居住まいを正し、改めて秀吉さんに頭を下げた。

 

「木下殿。それがしも微力ながら、織田家のために尽力いたします。どうか、ご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いいたします」

 

「ああ……頼りにしているぞ、利治殿」

 

 秀吉さんの声が震えている。

 男として振る舞っているけど、瞳には隠しきれない姉としての愛情が溢れていた。

 

 こうして加治田城は織田方の極秘の拠点となり、さらに道三の血を引く新五郎利治君という強力なカードが手に入った。

 美濃攻略の大義名分を得たのだ。

 

 帰り道、秀吉さんは何度も何度も空を見上げていた。

 きっと、天国の道三さんに報告しているんだろうな。

 

 ***

 

 はるか西の京の都。

 薄暗い屋敷の中で、男が怪しげな光を放つ英霊ボールを弄んでいた。

 

「クックック……美濃も騒がしくなってきたようだな」

 

 男の名は松永弾正久秀。

 乱世の梟雄と呼ばれる危険人物。

 

「そろそろ将軍の首もすげ替える頃合いか……。なぁ、ブレイザー?」

 

 久秀の手の中のボールが不気味に脈動する。

 歴史の歯車が、大きい音を立てて狂い出した。

 

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