なんで私⁉ 野球知識皆無のJKが戦国時代で野球を広め、信長の恋女房になってしまう件~   作:ハムえっぐ

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第50話 長谷川真昼、ドラえも◯を思い出す

「……なんじゃ、その報告は。もう一度言ってみよ」

 

 二条御所のほど近く、三好三人衆の1人、三好長逸が偵察から戻った忍びの報告書を投げ捨てた。

 

「はっ……。尾張の織田勢、軍事訓練と称し、金属の棒を一斉に振り回し、奇妙な声を張り上げながら土を蹴り、同じ足運びで九つの陣地を行き来する舞を踊っております」

 

「……棒振り、舞踊り?」

 

 長逸が鼻で笑うと、隣にいた政康と友通も盃を傾けながら嘲笑を漏らした。

 

「あやつら、美濃を獲って狂ったか。越前の義昭なる僧侶を担ぐために、まずは集団演舞で景気付けというわけか。野蛮な田舎者の考えることは理解できぬな」

 

「左様。我らが擁立した義栄様こそ真の将軍。鉄棒を振り回す蛮族など、伝統ある名門三好の槍で突けば、一瞬で逃げ出すわ」

 

 ***

 

 さて、こちらは活気に満ち溢れる岐阜城。

 私がおごとくちゃんのクンカクンカ攻撃から逃れ……もとい信長様に呼ばれて執務室に入ると、そこに信じられない光景が広がっていた。

 

「……えっ? ちょっと信長様、大丈夫? 変なキノコでも食べた?」

 

 信長様が、あの傲慢不遜で私にまったくこれっぽっちも休みをくれない信長様が、信じられないほど猫をかぶった殊勝な態度で筆を走らせていたのだ。

 

「『武田信玄様、お元気ですか。今度、美濃の美味しいお菓子と、金山で獲れた鮎を送りますね。これから京に将軍様を助けに行くので、留守中はお静かにお願いします♥』……って、キモッ! 何そのラブレター⁉」

 

「うつけが。誰が恋文など書くか」

 

 信長様は筆を置き、不敵にニヤリと笑った。

 

「これは敬遠の策よ。真昼、お前でもそれくらいのルール、センイチから聞いて知っているだろ?」

 

「敬遠? ……あ、なんかバッターと勝負しないで、わざとボールを投げて歩かせるやつ? バッターがピッチャーに◯玉ついてんのか! って怒る人もいたって言ってたっけ」

 

『アホンダラ! それはストレート投げてこいってバッターが、変化球投げられた時のセリフじゃ!』

 

 あっ、居たのねセンイチ。

 

「真昼……貴様、俺に金◯がついてないと抜かすか?」

 

「例えですって! 奇妙丸君たちを製造してるんだから、あるのは知ってます! 要は点を取られないようにする作戦ですよね?」

 

「そうだ。背後に信玄や景虎、氏康といった強敵がいるんだ。わざわざ真っ向勝負をして体力を削られるのは愚策よ。まずは丁寧に挨拶を送って今の領土に留めておく。俺が上洛するまで、大人しく茶でも飲んでもらうための撒き餌よ」

 

「……なるほど。頭を下げるだけで背後を突かれないなら、安い買い物ってわけね。プライドをドブに捨ててでも効率を取る……令和のSNSなら信長、日和ったwって炎上案件だけど、意外とリアリストなんだから」

 

 私は呆れつつ「それで呼ばれた用件は?」と訊ねる。

 

「そろそろあやつが到着する頃よ。会っていけ」

 

「ん? あやつって?」

 

 誰だろう? と思ってると久太郎君が入ってくる。

 

「徳川家康殿、到着しました」

 

「通せ」

 

 すると狸に似た青年が入ってきた。

 なんだ、家康って誰かと思ったら元康さんかよ。

 久しぶりじゃん。だから私が呼ばれたのか。因縁あるもんね。

 

「信長様! 真昼様! 松平元康改め、徳川家康。岡崎より参上いたしました!」

 

 三河のタヌキ……もとい徳川家康さん。

 一向一揆を鎮圧して、ようやく三河を完全に掌握したらしい。

 

「フン、狸が化け直したか。名前を変えたところで、お前の内面は変わらんだろうがな」

 

 信長様の激励に、家康さんは「ははっ!」と平伏したが、彼の懐から聞こえてくる声は、いつになく暗かった。

 

『……信じられん。ワシが教えたID野球の真髄を、あやつ、眼鏡のくせに全部盗んでいきおった……』

 

『……ノムサン。しっかりせんかい、タヌキの主が泣いとるぞ』

 

 センイチが呆れた声を出すけど、ノムサンは、ブツブツと恨み言を呟いていく。

 

『配球も、守備シフトも、ワシの思考をすべて先回りしおって……』

 

「……えっ? 何があったの?」

 

 私が尋ねると、家康さんは痛恨って感じの表情で語り出した。

 

「一向一揆の際、それがしの側近中の側近、本多正信が離反しまして。あやつ、どこからか英霊ボールを手に入れ、一向一揆の大将として立ちはだかったのです。そのボールの名は『ノビタ』」

 

「……は⁉ ノビタ⁉」

 

 私の脳内に、黄色いシャツを着た眼鏡の少年が浮かぶ。

 

「ノビタが……タヌキをいじめたの? で、タヌキは泣きながら四次元ポケットから道具を出して逃げた……ってこと?」

 

『小娘! その「ノビタ」は野比の◯太ではなく、捕手としてノムサンのデータを継承し、さらに進化させた最強の頭脳ボールじゃ! 最も、ノムサンと違い感情を重視するタイプじゃったが……フウ。ノムサン、ノビタに負けたんか。ププッ』

 

『負けておらん。最終的に勝ったのは儂らよ。じゃから儂らはここにいる。そんなこともわからんのかセンイチよ』

 

『あ?』

 

『ほれほれ、反論してみい。儂の巻いた種で優勝したくせに』

 

『何を抜かすか! 儂の鉄拳と血の入れ替えがあってこそよ!』

 

 もう、英霊ボールは仲が悪いのばっかなんだから。ともかく、味方なんだから仲良くしないと!

 

「任せて! のび太とジャイアンとスネ夫と静香ちゃんに虐められている狸ぐらい、私が護ってあげる!」

 

『『小娘、貴様、ドラ◯もんをどういうふうに見てたんじゃ? 狸じゃなくって猫だぞ』』

 

 センイチとノムサンが同時にツッコんでくるけど、あんたたち、歴史知識は綺麗さっぱり消滅してるのに、テレビアニメは記憶してるんかい。

 

 冗談なのに! 毎年春の映画を、春休み中に毎日行っていた私だよ?

 大体、ド◯えもんが狸も無理あるよ、青色じゃんあれ。家康さんのほうが狸っぽいぞ。

 

「ほう? 真昼のいた世では、狸のような猫がおるのか。一度会ってみたいものよ」

 

 残念、信長様。◯ラえもんはビビりだから、信長様に会ったら逃げると思うよ?

 

「と、というわけでございまして、部員の大半が退部したため、未だ野球部設立は為せておりませぬ! ああ……旭殿……不甲斐ないそれがしを許してくだされ」

 

「よいよい、無事で何よりだったぞ、家康」

 

 信長様って、このタヌキには甘いよね? やっぱり子供の頃から知ってるからなのかな?

 

 ***

 

 場面は変わり、ここは北近江の佐和山城。

 越前を脱出した次期将軍候補・足利義昭が、明智光秀に連れられて到着していた。

 

「十兵衛! 早く信長と、神の巫女に会いたい! 彼女の振るう神の杖、球道なる曼荼羅の理……早く見せてくれ!」

 

「は、ははっ……」

 

 義昭は、真昼を神の巫女だと信じ込んでワクワクが止まらない。

 そんな義昭様を、浅井長政とお市、浅井家家臣団海赤雨三将を筆頭に盛大に歓待する。

 

「見てくだされ義昭様! この剃り上げたツルツルの脛を! これこそ、お市殿から伝授された、空気抵抗を極限まで減らした走りの構えにございます!」

 

 長政さんはドヤ顔で、真っ赤な褌にツルツルの脚を晒した。

 

「お、おう?」

 

「「「我らの歓迎の証、見てくだされ!」」」

 

 海赤雨三将、その他大勢が膝に両手を当てて上半身だけで周る。

 

「ん? んん?」

 

「真昼とお兄様が合流したら、誰の脛が一番美しいか競わせる催しをしたいと思ってますの。員昌、準備を任せますわ」

 

「承知いたしました!」

 

 佐和山城主磯野員昌が、真面目な顔で全身全霊の気迫で返答した。

 額の白い鉢巻に『お市様命』と書かれている。

 

「もちろん、真昼が汚れてないか、私の鼻で検分もしますけれど……ウフ、ウフフフ。義昭様、お楽しみにしてくださいね」

 

「……? よ、よきにはからえ……」 

 

 お市ちゃんの不気味な笑みに、義昭は震え上がるしかない。

 

「義昭様、我ら浅井家、織田とともに幕府再興を目指す所存、息子長政をどうぞよしなに」

 

 跪く久政を見て、義昭はフッと笑みを浮かべた。

 

「久政、そちは普通じゃのう」

 

 普通ならよくね⁉ と思いつつも、ちょっとだけショックを受ける久政だった。

 

 ***

 

 光秀さんは義昭様を浅井家に預け、岐阜に戻る前に南近江を支配する六角承禎の動向を探っていた。

 

「……六角は一歩も動かぬか」

 

 報告書を読み、光秀さんは嘆息した。

 六角承禎・義治親子。彼らは名門の家名に胡坐をかき、信長様の上洛の誘いを完全に黙殺している。

 

(……彼らは古い常識が絶対だと信じている。打席に立ってもバットを振らず、四球を待つだけの老害……。だが信長様の球は、逃げ切れるほど甘くはない)

 

 光秀さんの予想通り、信長様は岐阜城のバルコニーから西の空を指差した。

 

「敬遠はここまでよ。新五郎(斎藤利治)は奇妙丸と岐阜の守りを固めよ。三十郎(織田信包)と九郎(織田信治)と彦七郎(織田信興)、尾張を任せるぞ。それ以外は全軍出撃じゃあああああ!」

 

「「「おお!」」」

 

 信長様の号令に、私たちは全員バットを掲げた。

 

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