なんで私⁉ 野球知識皆無のJKが戦国時代で野球を広め、信長の恋女房になってしまう件~   作:ハムえっぐ

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第52話 長谷川真昼、信長様の推しを知る

「説得するのはいいけど、信長様、理由を教えて。でないと上手く伝えられないし」

 

 長政さんの領地、北近江・佐和山城にて。

 昨日の夜、お市ちゃんに検分っていう名のダイソン並みの吸引を首筋に食らって、まだヒリヒリしてる箇所を押さえながら、私は信長様に向かって疑問を口にした。

 

 六角家が義昭様への協力を拒否したのに、信長様が私と光秀さんに「もう一度行け」なんて言ったからだ。

 

 すると信長様は、いつになく神妙で厳かな声で語り始めた。

 

「いいか真昼。承禎の親父……六角定頼って男はな。この混沌とした乱世に、最初に規律と秩序という名のグラウンドを整備した男だ」

 

「……は? グラウンド?」

 

「定頼公は城下に兵を住まわせ、商いを自由にし、将軍を支えて天下の審判を自ら務めた。定頼公が作った足軽軍法は、日の本初の規約と言えるものよ。……俺が今やろうとしていることの、最高の手本なんだ」

 

 信長様の瞳が少年のように輝いている。

 マジか。あの傲慢不遜で「俺がルールだ」と言わんばかりの信長様に、まさかの憧れの人が存在していたなんて。

 

(……ええっ、信長様の推し発覚⁉ 令和のSNSなら『信長、推しを語る』でトレンド世界1位確定だよ! そういやお姉ちゃんも、年下の女性アイドルのガチファンだったっけ。私に布教してきたときのお姉ちゃんの顔にそっくりだよ、信長様)

 

「だから定頼公の息子と孫に、もう一度だけ機会をやるのが俺の敬意だ。……行ってこい」

 

 そこまで言われたら仕方がない。

 行ってきますか。

 

 ***

 

 というわけで私と光秀さんは、センイチ連れて観音寺城へ登城した。

 ……が、空気は最悪。お茶も出なければ座布団すらない。

 

「承禎殿、義治殿。信長様は、六角家こそ義昭様の第一の臣になるべきと考えております」

 

 光秀さんが必死に、信長様の言葉を相手を気持ちよくさせる美辞麗句にして告げるけど効果なし。

 六角親子は仏頂面だ。

 

「信長様は六角家先代、定頼さんのことを凄く尊敬してるんです。生きていたらサイン貰いに、近江まで来てたぐらいに」

 

 私もだんまりしてるわけにいかない。なんとか糸口を見つけなきゃ。

 

「フン。小娘を使者に寄越すうつけが何を抜かすか」

「そうよ義治。織田家は余程人材不足と見える。異形な恰好のおなごしか、使者できないぐらいにな」

 

 ムッ。私のことは眼中なしかい。

 

『六角承禎! 六角義治! 定頼は野球で言えば『名球会入り』間違いなしのレジェンド! 貴様たちも二世三世なら才能あるはずじゃ! その才能を沈黙と待ちだけで使い潰す気か!」

 

 堪りかねたセンイチが飛び出して叫ぶが、どうやら癪に障ったらしい。

 

「黙れ、石の分際で人に説教するな!」

 

 義治は激昂して立ち上がり、背後の壁一面に描かれた地図をバンバンと叩いた。

 

「我が六角家は観音寺城を中心に、18の支城を連携させた絶対に抜けぬ網を敷いている! 織田の集団など一歩も通さぬわ! 我らは三好家が奉じる義栄様を支持する!」

 

「帰って信長に伝えよ。尾張のうつけ如きが、父の名を安っぽく口にするな、とな」

 

 舌打ちしながら承禎が吐き捨てる。

 

 ……あーあ。交渉失敗。

 

『ムムム……石じゃないわ。儂はボールじゃ』

 

 センイチも短く呟いた。

 

「よろしいのですね? 信長様は、義治様に京都所司代になっていただきたいとまで申しております」

 

「くどい!」

 

 光秀さんの最後の言葉にも罵詈雑言を浴びて終了。

 結局私たちは、塩をまかれる勢いで追い出された。

 

 ***

 

 佐和山城に戻り、事の顛末を報告する。

 

「……であるか。奴らは俺が真昼とセンイチを行かせた意味も理解できなんだか」

 

 話を聞き終えた信長様は、金属バットを床にバンッ! と叩きつけた。

 凄まじい覇気に、居合わせた秀吉さんや権六さんたちが反射的に平伏する。

 

 いや、私も信長様の意図がわかんないんだけど?

 

「真昼殿もセンイチ殿も、世の理の外にある存在。その存在に関心を持たないことが、最早信長様にとって失望なのです」

 

「って、センイチはともかく、私を人外扱いしないで光秀さん」

 

 解説ありがとうございました。

 

「……敬意を払って損をしたな。定頼公の教えを忘れ、古い縛りに胡座をかく愚か者どもには、二度と打席には立たせん。死ぬまで土の中で見学させてやるわ」

 

 もはや推しの息子であっても容赦はしない。

 信長様の中で、六角家への戦力外通告が決定した瞬間だった。

 

「……信長様。六角の18城防衛は、一箇所ずつ攻めると他箇所から増援が入る仕組み。一点突破の進軍は必敗確実でございます」

 

 竹中半兵衛君が信長様の横に立つ。

 

「策があるようだな、半兵衛」

 

「ええ、一見万能の防衛布陣ですが、我ら織田家は精鋭揃い。これを活かした策がございます」

 

「任せる。存分に振るえ」

 

「承知。全員、僕の指示通りに動いてください。作戦は同時波状攻撃、名付けて連鎖粉砕の計。観音寺城以外を同時に攻略します」

 

「言葉にするのは簡単だけど、ムズくね? 通り過ぎる城もあるし」

 

 私が疑問を口にすると、半兵衛君はクスリと笑う。

 

「それが六角家の致命的な欠陥です。六角家の防衛戦は1つの城が包囲されたら、他城から出撃し、逆包囲する戦法を必勝にして成功していました。その体験が忘れられないのです」

 

 半兵衛君は扇子で地図を指し示し、淀みなく私たちを割り振っていく。

 

「……箕作城に丹羽長秀殿を主将に、滝川一益殿、木下秀吉殿、秀長殿。貴殿らの機動力で城をもぎ取ってください。小六殿、小右衛門殿、先程伝えておいた策を刻限通りに実施を」

 

「お任せあれ」

「ウキー!」

 

「「承知だぜ! 半兵衛のアニキ!」」

 

「和田山城は柴田勝家殿を主将に、森可成殿、前田利家殿、並びに西美濃三人衆。ここは六角最強の守備兵力が集まる場所。……細かい策は不要です。力を叩き込み、城門ごと粉砕していただきます」

 

「おう! 待ってましたぁ!」

「三左、行くぞ!」

「うっしゃ! 金属バットの又左、大手柄を立ててやるぜ!」

 

 権六おじさまたちが、殺気立った笑顔でバットを握りしめる。

 

 わーお。織田家新入り半兵衛君。もう一気に織田家No.2のポジションになってるよ。

 自然すぎて、誰もツッコみも入れないよ。

 てか、私よりも偉いってことじゃん!

 

「守備の要の日野城……ここは長谷川真昼殿を主将に明智光秀殿。それと僕がここを抑えます」

 

「ええっ⁉ 日野城って、なんで私が主将なの⁉」

 

「日野城は六角の連携を繋ぐ中継役。ここを止めなければ、六角家は何度でも再生します。……真昼殿が必要なのです。続いて佐久間信盛殿、浅井長政殿、徳川家康殿は……」

 

(……ちょっと待って、半兵衛君、私に無茶振りし過ぎじゃない⁉ これ、補習授業よりハードなミッションなんだけど!)

 

「池田恒興殿、佐々成政殿は信長様と共に、いつでも遊撃できるように待機。以上です」

 

 信長様は不敵に笑い、バットを肩に担いだ。

 

「半兵衛、見事だ。……者共、聞いたな! 近江の守備網、全て同時に叩き潰すぞ! プレイボールだ!」

 

「「「オオオオオッ!」」」

 

 岐阜、近江、三河……全ての織田勢力が、同時に動き出す。

 

 まったく、私を主将にするなんて半兵衛君は何を考えてるんだか。

 てか、光秀さんと半兵衛君が一緒って、私、飾り物じゃね?

 でも主将か~。委員長とか生徒会長みたいなもんだよね。頑張るぞ~。

 

 気合を入れる私を尻目に、光秀さんが半兵衛君に囁く。

 

「真昼殿を褒めずに動かすのは信長様と君ぐらいだよ」

 

 と、呆れながら。

 

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