なんで私⁉ 野球知識皆無のJKが戦国時代で野球を広め、信長の恋女房になってしまう件~   作:ハムえっぐ

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第56話 長谷川真昼、浪速の天才をスカウトする

 京まであと一歩の私の頭の中は八ツ橋、金平糖、そして舞妓さんとの握手会で埋め尽くされていた。

 

「ねえ信長様、もうすぐ京だよね? 私、着いたらとりあえず本場の抹茶パフェ食べたいんだけど」

 

「うつけが。茶なら沢彦の爺にでも点てさせろ。今は上洛前の大事な調整中だ」

 

 相変わらず夢のない信長様である。

 そんな私たちの前に、京の防衛ラインとして立ちはだかったのが、三好三人衆の拠点、勝竜寺城と芥川山城だった。

 

 まずは京への入り口、勝竜寺城。

 ここを守るのは三好三人衆の岩成友通っておじさん。

 

「三好の雑兵ども! 織田軍のクリーンナップ、柴田権六勝家、推参なりぃ!」

 

 権六おじさまが、丸太みたいな特製金属バットを肩に担いで咆哮する。

 隣にはバットを槍のように構え、殺気をムンムンに放つ森三左衛門可成さん。

 

「信長様を出すまでもない。この三左のフルスイング、その身に刻んでくれるわ!」

 

 城壁の上のおじさん……岩成さんは、もうガクガク震えていた。

 

「な、なんじゃあの者たちは……! 槍も持たず、光り輝く金属の棒を振り回し、地響きを立てて突進してくる……。あ、あれは地獄の獄卒か⁉」

 

 権六おじさまがバットを一閃。

 

 ――ガゴォォォォォォン!

 

 城門が、まるで紙細工みたいに粉砕された。

 衝撃波だけで周囲の兵士が吹き飛んでいく。

 権六おじさまが絶叫する。

 

「ストライクアウトじゃあああ!」

 

 岩成さんは「これは人の戦法ではない! 神仏の祟りじゃぁぁぁ!」と叫んで、戦う前から白旗を上げて開城して逃亡しちゃった。

 

 うん、パワーイズジャスティス。戦国時代でも通用するんだね。

 

 続いて三好長逸の守る要塞、芥川山城。

 ここは5万の連合軍で、物理的にも精神的にも圧力をかけることになった。

 

「守備範囲、城全体に設定。ネズミ一匹逃しませんよ」

 

 半兵衛君がモリミチボールを指先で回しながら、冷徹な指示を出す。

 

「三好軍の逃亡率はすでに9割を超えていますな」

 

 家康さんがノムサンと一緒にネチネチとボヤき、秀吉さんと秀長が死角からスタンバイ。

 

「さあ、我ら浅井家も存分に腕を振れ! 小谷で待っているお市殿に届くように!」

 

 長政さんの掛け声に浅井軍の気合の声が響く。

 スルーしようと思ったけど、浅井軍の人たちの鉢巻や鎧に『お市様命』『お市様以外勝たん』と書かれてるのはなんでだよ。

 

 全軍の準備が整ったところで光秀さんが合図する。

 

「義昭様! これぞ新たな秩序の舞にございます! 一斉に振れ!」

 

 5万の兵士が同時にバットを素振りする。

 

 ――ブンッ! ブンッ! ブンッ!

 

 空気が震え、山全体が地震のように揺れる。

 仕上げに、信長様が私に向かってウォーミングアップの全力投球。

 

 ――バシィィィィィィン!

 

 私のミットが、大砲みたいな爆音を轟かせた。

 これを見た城主の長逸さんは、腰を抜かして叫んだ。

 

「織田の兵は雷鳴を操り、鋼の棒で山を削るのか⁉ あ、あんな化け物巫女がいる軍勢と戦えるか! 逃げろ! 夜逃げじゃぁぁぁ!」

 

 長逸さんは夜陰に乗じて、速攻で城を捨てて逃亡していった。

 あらら、逃亡しないで降伏してこっち側になればいいのに。残念。

 

 もぬけの殻となった芥川山城の天守閣に私たちが乗り込むと、そこに異様な光景が広がっていた。

 豪華な絹の座布団の上に、気品あふれる銀色の輝きを放つボールが鎮座していたのだ。

 

『なぬっ⁉ この隙のない優雅な輝き……おい、タツナミ! お前、中京にいないでこんなところで油を売っとったんか! てかいたのか! 儂はてっきり108の英霊にいないと思っとったぞ』

 

 私の懐からセンイチが飛び出し、驚愕の声を上げた。

 銀色のボールがふわりと浮かび上がり、育ちの良さそうな声で答える。

 

『……お久しぶりです、センイチさん。相変わらず騒々しい波動ですね。……中京にいたら絡まれるからここにいたのに……』

 

『ん? なんか言うたか?』

 

『いえ、お会いできて光栄です。センイチさん。なぜ僕が108に含まれていたかは野球の神の趣味としか……』

 

「タツナミ? センイチ、また知り合い?」

 

『おう! ドラゴンズの球史にその名を刻む、走攻守三拍子揃った天才……野球殿堂入りした名選手じゃ!』

 

「ほえ~、凄いんだ」

 

 私も小学生時代、無遅刻無欠席無早退、学校イベント全参加で『よく頑張ったで賞』で殿堂入りしたっけ。

 

『……お褒めに預かり光栄です。僕は元々摂津の出身で、里帰りの最中にこの城の者に拾われたのですが……あの長逸とかいう男、僕の技術理論を南蛮の教典だと思って、全く耳を貸さないんですよ。喋る石として崇めてはくれましたがね』

 

「へえ、お疲れ様でした」

 

『まあ、こいつは監督としてはダメダメじゃがな。神も気まぐれよ、最下位しか経験しとらんお主を数合わせにしとるなんて』

 

『ゲフンゲフン。……時期が……時期が悪かっただけだあああああ! あと一応、勝利数ランキングなら108位以内なんだあああああ!』

 

 まーた、どっからか怒られそうなネタをぶっ込んでるんじゃないだろうな?

 私がジト目すると、センイチがコホンと咳払いして続ける。

 

『ともあれ勝負じゃ! 儂の闘魂でお前を屈服させたる! 来いタツナミ!』

 

 センイチが気合を入れるが、タツナミはため息をついて私を見た。

 

『無駄な争いは嫌いです。……信長殿の采配、そしてそこの神の巫女・真昼殿の噂……ブルッ。降伏いたします』

 

 そう言うと、タツナミは自らフワリと私の手の中へと収まった。

 

『……よろしくお願いします、信長様』

 

 タツナミはそれだけ言うと、スウスウと寝息を立て始めた。

 

「無条件降伏か。まったく、味気ないな」

 

 信長様が拍子抜けしたように呟いた。

 

『武闘派じゃが、監督やって心折れたんじゃろ。ガッハッハ』

 

 半兵衛君の手にあるモリミチが大笑いした。

 

「なんか、今までのボールの中で一番礼儀正しいのが来た! センイチ、少しは見習ってよ」

 

『やかましいわ! 儂はこれでいいんじゃ!』

 

 こうして、摂津の国もあっさり織田家の門に降ったのだった。 

 

「ワッハハハ! 三好三人衆とやら、織田の天下布武の前には赤子同然よ! 天下はすでに余の掌中にあるわ!」

 

 芥川山城に入城した義昭様が、勝利の美酒を浴びるように飲んで大笑いしている。

 三好があっさり逃げたことで、将軍就任間違いなしだもんね。

 笑ってばっかいないで、ちゃんと仕事もするんだぞ?

 

 そんな義昭様の傍らで、神妙な顔をして控えていた松永弾正久秀さんが、ふと私に目を向けた。

 

(……ククッ、計算通りよ。名将の魂が一つ、また一つと信長の元へ集まる)

 

 久秀さんの口角がわずかに吊り上がった。瞳が一瞬だけ不気味な赤色に光る。

 

(……集まれば集まるほど、チームが崩壊した時の衝撃は大きくなる。今は精々、勝利の味を噛み締めるがいい。ブレイザー、次のサインを送る準備はできているな?)

 

 久秀さんは誰にも聞こえない小声で呟き、再び恭しく義昭様に酒を注いだ。

 

 そんな不穏な空気に気づくはずもない私は、窓から見える外の街並みを眺めていた。

 

「よーし! これで明日には京! 待っててね八ツ橋! 私は貴方を食べるために戦国に来たと言っても過言じゃないんだから!」

 

 平和な食欲全開の私の背後で、歴史の歯車が、また一つ大きく狂い出そうとしていた。

 

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