なんで私⁉ 野球知識皆無のJKが戦国時代で野球を広め、信長の恋女房になってしまう件~   作:ハムえっぐ

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第58話 長谷川真昼、将軍の就任式に立ち会う

 三条河原のクソガキたちを更生させ、村井さんの炊き出しを手伝い始めてから数日。

 京の街は、信じられないスピードでリフォームされていた。

 

「ちょっと村井さん! このスケジュール、労働基準法以前に人道的におかしいよ! 1ヶ月で御所を建てるって、どこの突貫工事現場なの⁉」

 

 私は山積みになった資材の横で、帳面を抱えて絶叫していた。

 そう、信長様が次期将軍・義昭様のために命じた二条御所の建設。これがもう、わけわかんない現場になってるのだ。

 

「甘いぞ真昼! こうして俺も働いてるんだ! 絶対間に合わせろ! 死んでも間に合わせろ! 将軍の住処があってこその京の都だろうが!」

 

 上半身裸で巨大な石を担いでいるのは、他ならぬ信長様本人だ。

 ……この行動力の塊、自ら現場に出て石を運んでやがるよ。

 それを見た織田軍の兵士たちも、「殿がやってるなら!」と、持ち前の連携プレーで巨石をバケツリレーしていく。

 もはや土木作業というより、超重量級のベースカバー練習だ。

 

「真昼様、こちらに石材が足りません。……あそこの古い石仏、土台に使いましょう」

 

「久太郎くん⁉ さらっと怖いこと言わないで! 石仏を城の壁にするなんて、コンプライアンス的に炎上案件だよ!」

 

「是非もなし。古い秩序に安座してもらうより、新しい秩序の礎になってもらうほうが功徳というものよ」

 

 信長様が爽やかな汗を拭いながら一蹴する。

 

「石仏の積み重ね、こうすれば見栄えも良くなります」

 

 信長様の小姓となった鶴千代君が、賽の河原の石積みのように仏様を積み上げてる。

 

「いいぞ鶴千代! そのまま積み上げよ!」

 

「鶴千代君、ここはこうしてこうしましょう!」

 

「信長様、お褒めにあずかり光栄にございます。久太郎様、さすがでございます」

 

 ……だめだこの人たち。宗教観より効率重視すぎる。

 

 こっちの現場も地獄だけど、光秀さんと幕臣の藤孝さんも精神をすり減らす日々を送っていた。

 

「……十兵衛殿、朝廷の方々の防御が固いですな。どうせ織田家もすぐに京を出ていくと侮っておられる」

 

 藤孝さんが、和歌の短冊を片手にため息をつく。

 対する光秀さんは、眉間にシワを寄せながら信長様の提案を最終確認していた。

 

「内裏の修復費、即位式の費用、全部織田家が持つと信長様は言っておられますが、たしかに治安維持に京に置く兵の余裕がありませぬ。痛いところを突かれてます」

 

「どうでしょう? 京に十兵衛殿と秀吉殿が残るというのは?」

 

「え?」

 

「義昭様も十兵衛殿の知略、秀吉殿の美貌を気に入っております。帝も公家どもも、織田家にその人ありと名を轟かせ、信長殿のお気に入りの両名がおれば、見捨てられる心配がないと安心するでしょう」

 

「なるほど……信長様に提案してきます! 藤孝殿、今後もよしなにしてくだされ」

 

 藤孝さんの策は大成功。

 こうして最大の障害だった朝廷の説得を、見事勝ち取ったのだった。

 

 ***

 

「……征夷大将軍に、任ずる」

 

 簾の向こう側にいる帝からの宣旨が下り、足利義昭様が第15代将軍に就任した。

 私はというと、光秀さんの策略のせいで神の巫女として豪華な着物を着せられ、義昭様の背後に座らされていた。

 ……重い。かんざしが頭に刺さって痛い。

 

 義昭様は、兄・義輝様の非業の最期を思い出し、涙を流しながらその座に就いた。

 

「……兄上様。見ておるか……。余はついに、この都に秩序を取り戻したぞ……」

 

 こうして足利幕府という古い看板が、織田信長という最強のメインスポンサーによって再建されたのだ。

 

「信長。そなたの功績は計り知れぬ。余をここまで導いた恩賞として……そなたを副将軍か管領に任じようと思う」

 

 周囲の権六さんや秀貞さんたちが、「おおおっ!」と色めき立つ。

 副将軍! 水戸の御老公とおんなじ役職じゃん! 印籠作んなきゃ!

 信長様の横にいる同盟者たち、長政さんも満面の笑みだし、家康さんもソワソワしているし信元さんも喜んでる。

 ってか、いたのね。水野信元さんも。

 

(省略されてただけで、上洛最初からいたわい!)

 

 さすが古狸。私に視線だけでツッコみいれるとはやるね。

 

 そんな信長様の出世に祝福ムードが流れるけど、ところが信長様は礼儀正しく頭を下げ、即座に首を横に振る。

 

「お断りいたします」

 

「なっ……なぜじゃ⁉」

 

 義昭様が目を白黒させる。私も「もったいない!」と叫びそうになった。

 信長様は冷徹な瞳で言い放つ。

 

「それがしは肩書きが欲しいわけではありませぬ。副将軍も管領も、実権のないのが実情」

 

「ぐぬぬ……なら欲しいものを申せ! 余が報えることを告げよ!」

 

「それならば、堺、大津、草津の支配権をいただきとうございます」

 

 義昭様は信長様が、副将軍というキラキラしたブランド肩書きをあっさり捨てて、地方の商業都市の支配権なんて地味な実務を選んだことに、拍子抜けしたみたいだった。

 

「信長……そなた、本当に欲がないのう。まあよい、堺でも何でも好きにするがよい。その代わり、この都に新たな秩序を築く手助けをせよ」

 

 義昭様が扇を広げて、満足げに頷く。

 でも光秀さんと藤孝さんの表情は、一瞬だけ険しいものになった。

 

「信長様、よろしいのですか。副将軍の座を辞退し、堺や大津の支配権を求めるということは……すなわち幕府の権威そのものよりも、実利を優先すると天下に示すことになります。武田や上杉、毛利はすぐに気づくでしょう」

 

 儀式が終わった後の控えの間で、光秀さんが静かに問いかけた。

 信長様は豪華な正装の襟元を乱暴に緩めると、近くにあった卓に腰を下ろして口を開く。

 

「十兵衛。形だけの官位など、この乱世では腹の足しにもならぬ。堺の港を押さえれば、南蛮の鉄砲も硝石も、莫大な銭も俺の掌中に落ちる。義昭様には将軍という名の看板を背負っていただき、俺はその裏でこの国の血の巡りを支配する。それが合理というものよ」

 

「……織田弾正忠信長、貴殿は恐ろしいお方だ。今までの幕府にいなかった御仁よ」

 

 藤孝さんが苦笑しながら首を振った。

 

「よし堺に向かうぞ。藤孝殿、義昭様のことをお頼み申す」

 

 二条御所の完成を待たずして、信長様はそう宣言した。

 

「ええっ⁉ ちょっと待って、全然休みがないんだけど!」

 

「三好の残党が堺を支配してるんだ。速攻で落とさんと、連中に銭を奪われる恐れがある。休みなら岐阜に帰ってから休め! もっとも休めるかは知らんがな」

 

 そう言って、信長様は5万の軍団を率いて、あっという間に堺の街を包囲しちゃった。

 休めるかは知らんって、めっちゃ死亡フラグじゃね?

 

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