なんで私⁉ 野球知識皆無のJKが戦国時代で野球を広め、信長の恋女房になってしまう件~   作:ハムえっぐ

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第64話 長谷川真昼、織田家親族会議に巻き込まれる

 茶筅丸君行方不明事件。

 私は自分の勘を信じてとある場所を目指した。

 

 ビンゴ。

 私が向かったのは岐阜城の天井に近い、太い梁の隙間。

 ただの暗い隙間じゃない。そこにある小さな換気窓からは、小牧山――茶筅丸君の亡き母・吉乃さんと一緒に過ごした思い出の地がある方角が、真っ直ぐに見渡せるのだ。

 

「真昼様……どうしてここに?」

 

 膝を抱えて目を赤く腫らしている茶筅丸君。

 私はサーカス団の花形のようにヒョイッと梁に登り、彼の隣に座った。

 

「茶筅丸君、吉乃さんのこと大好きだったもんね」

 

「……グスッ、母上……」

 

「寂しい?」

 

 茶筅丸君が、コクンと小さく頷いた。

 

「私もだよ。吉乃さんには、いつも助けられてばっかりだったしさ。えっとね、私も寂しい気分になると、行きたいなぁって方角に向けて全力ダッシュする癖があったから、茶筅丸君もここら辺じゃないかなって思って見つけたんだ」

 

「真昼様らしいですね。……僕には、走る勇気もない」

 

 茶筅丸君が、ポツリと本音をこぼした。

 

「奇妙丸兄様は文武両道で何でもできるし、妹のごとくは薙刀の試験で僕を倒すどころか、兄様と互角の腕前を見せたんだ。……僕には、何の才能もないんです」

 

(……ちょっと待って、おごとくちゃんヤバくない? まだ幼児だよね⁉ やっぱり織田家の女子のDNA、闘争本能に全振りしてるよ!)

 

 私は心の中で戦慄しつつも、茶筅丸君に真剣に向き直った。

 

「人にはそれぞれ役割と才能がある……なーんて、ありきたりな慰めはしないよ? 私は。我が長谷川家の家訓は壁にぶつかったら、とにかく何も考えずに殴れ! だったし」

 

「真昼様も、壁にぶつかったことがあるんですか?」

 

 茶筅丸君が、涙を拭って意外そうな顔で私を見た。

 

「失敬な! いっつも壁にぶつかってるよ? 2つ上に何でもできる唯我独尊・天上天下ってお姉ちゃんがいたしね。織田家に就職してからも、あっちこっちで強敵に負けたりして『こんにゃろ!』って心の中で煮えたぎらせてるよ? 『次は絶対に勝ってやる』ってね♪」

 

 私のあっけけらかんとした言葉に、茶筅丸君は目を丸くした後、「クスッ」と吹き出した。

 

「……真昼様らしいですね」

 

「でしょ? さ、行こっか。大広間で奇妙丸君とおごとくちゃんが待ってるってさ」

 

「はい、真昼様」

 

 私は茶筅丸君と手を繋ぎ、梁から軽快に飛び降りた。

 

「そうだ! 城の厳しい警備網をすり抜けて、あんな見つかりにくい所に隠れられたんだから、茶筅丸君には誰にも負けない才能があるよ! 立派な忍者になれるかもね!」

 

「ハハハ!」

 

 茶筅丸君の明るい笑い声が廊下に響いた。

 

「ありがとうございます、真昼様。おかげで勇気が出てまいりました」

 

 茶筅丸君の声を聞きつけ、角の向こうから新五郎君と政尚さんが駆けつけ、安堵したように優しい目で私たちを見つめた。

 

 ***

 

 茶筅丸君を連れて、指定された大広間の襖を開ける。

 

 ……えっと、開けないほうがよかったかも。

 そこには異様な光景が広がっていたのだ。

 見渡す限りの織田、織田、織田の方々。

 

 上座に信長様、奇妙丸君、おごとくちゃんが座り、広間に信治様、信興様、信包様、長益様、長利様、秀成様、信照様、信次様、信昌様、信直様……etc.。

 とにかく、織田の血を引く親族たちがズラリと向かい合って座っているのだ。

 

(んん? 何これ? 家族会議?)

 

 私が戸惑っていると、唯一立っていた信広さんが茶筅丸君に声をかけた。

 

「おお、茶筅丸、厠から戻ったか。ちょうどいい、今は4対4の同数で意見が割れている。今回の無作為抽出の9人目、最後の1票はお前だ。選べ」

 

(んん? 票? 何してたの、この全織田の皆さん?)

 

「えっと、どゆこと?」

 

「すみません、真昼様。僕が逃げていた理由はこれだったのです。何の才能もない僕なんかが、お犬叔母様の運命を決める票を入れる資格なんてないと思って、怖くて逃げ出したんです」

 

 私に一礼すると、茶筅丸君は広間の中央に置かれた木箱の前に進み出る。

 少しだけ緊張した面持ちだったけれど、さっき私と話して勇気をもらったのか、迷うことなく「エイッ」と木札を投じた。

 

 開票役の信治様が、箱を覗き込んで高らかに結果を読み上げる。

 

「票数、5対4! これにより、お犬の恋愛結婚を認め、大野城主・佐治為興殿との婚姻を正式に許可する!」

 

「おおっ!」と沸き上がる全織田の男たち。

 

(んん? お犬ちゃん、結婚するの⁉)

 

 お犬ちゃんは、信長様の妹でお市ちゃんの下の妹だ。

 あの破天荒な一族の中にあって、奇跡のように礼儀正しくお淑やかな女の子。

 

(ちょっと待って、恋バナじゃん! なんで私に相談なかったの⁉)

 

 私がアワアワ震えていると、お犬ちゃんが感極まった様子で茶筅丸君に駆け寄り、ギュッと抱きしめた。

 

「ありがとう……茶筅丸!」

 

 上座の信長様が、満足げに口を開いた。

 

「見事だ茶筅丸。己の最後の票で運命が決まる重圧の中、迷わず己の意思で票を入れた。……さあ、議事は終わりだ! 宴だ! 存分に飲め!」

 

 信長様の一言で、大広間は一気に宴会モードに突入し、酒樽が運び込まれてきた。

 

『めでたい席には酒が一番よ! 酒を浴びせよ! たらふく吸い込むぞ!』

 

 信長様の横でセンイチがはしゃいでいる。

 もう、ボールのくせに呑兵衛なんだから。

 

(なんかよくわかんないけど、ハッピーエンドみたいだし、私も美味しいもの食べよっと!)

 

 昼寝の時間はなくなっちゃったけど、笑顔を取り戻した茶筅丸君と、幸せそうなお犬ちゃんの姿を見て、私も心がポカポカしてきた。

 

「お犬ちゃん、結婚おめでとうー! あ、そのお団子もらっていい?」

 

「フフフ……どうぞ、真昼」

 

「ところで、恋バナだったら私に相談してくれたらよかったのに」

 

「ウフフフ、真昼は忙しいから。このくらいのことで手を煩わすわけにいかないもの」

 

「えー? まあ、たしかに忙しかったけどさあ。恋バナだよ? 女子がご飯と寝ることの次に大事な恋バナだよ?」

 

 お犬ちゃんは私の質問に、笑いながらはぐらかしていく。

 

(ま、いっか。お犬ちゃんが幸せなら)

 

 私は束の間の平和な宴に混ざりながら、いつか自分の恋愛結婚の番が来ることを、ほんの少しだけ夢見るのだった。

 ……まあ、当分先になりそうだけどね!

 

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