なんで私⁉ 野球知識皆無のJKが戦国時代で野球を広め、信長の恋女房になってしまう件~   作:ハムえっぐ

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第8話 長谷川真昼、おっさんの飲み会に殴り込みをかける

 若手ホープたちを順調に獲得した私は、いよいよ織田家の古参衆たちを攻略すべく動き出した。

 情報は藤吉郎さんからゲット済みだ。

 なんでも今夜、おっさんたちが集まって秘密の会合を開いているらしい。

 

「場所は城下の居酒屋ノブ。個室を貸し切りにしているそうだ」

 

「よし、カチ込みだ!」

 

 私は袖をまくり上げる。

 藤吉郎さんは「ま、待て真昼! 相手は筆頭家老の柴田殿だぞ! 無礼討ちにされかねん!」と慌てているけど、そんなの知ったことか。

 酒の席なら無礼講。これ、日本の常識でしょ?

 

 ***

 

 ここは清洲城下にある居酒屋ノブ。

 来る者は拒まず、喧嘩する者は即座に追い出される呑兵衛どもの聖地。

 そんな居酒屋ノブの奥座敷は重苦しい空気が漂っていた。

 車座になって酒を飲んでいるのは、織田家を支える古参衆トリオ。

 

 ヒゲが立派なガチムチ猛将、柴田権六勝家さん。

 なんか気難しそうな顔をしたおじさん、佐久間右衛門尉信盛さん。

 そして隅っこで静かに飲んでいる渋いイケオジが滝川久助一益さん。

 

 完全に上司の愚痴をこぼすサラリーマンの飲み会状態のようだ。

 

「……お館様の考えが分からぬ」

 

 勝家さんが重々しく口を開く。

 

「ぼおるだのばっとだの、南蛮の武器開発かと思えば、ただ球を打って走るだけだと? 今川が迫っておるというのに、うつつを抜かしておられる。我ら古参への当てつけか?」

 

「左様。我らの経験や勘を軽視しすぎなのだ、お館様は……。戦とは、もっと厳かで泥臭いものであろう」

 

 信盛さんも盃を強く握りしめる。

 一益さんは無言で酒を煽るだけだが、背中には「中途採用組だから意見しづらいけど、俺も不安だよ」というオーラが漂っていた。

 

 空気が淀んでいる。

 これは私が風穴を開けるしかない!

 

 ドガァッ!

 

「たのもー!」

 

 私は勢いよく襖を開け放った。

 背後で藤吉郎さんが「ああっ、もう終わりだ……」と顔を覆っているけど心配しないで。

 私、お母さんとお姉ちゃんに言い負かされて泣いているお父さんを、よくお酌してあげてたから!

 

「なっ、何奴!」

「ききき、貴様は例の南蛮娘! 無礼であろう!」

 

 勝家さんと信盛さんが立ち上がり、殺気立った視線を向けてくる。

 普通の女子高生ならここでちびって泣くところだ。

 でも私は違う。ヤクザの事務所だろうが戦国の飲み会だろうが臆したら負けなのだ!

 

「まあまあ、固いこと言わずにさ。お酌しましょうか、権六おじさま?」

 

 私はスタスタと部屋に入り込み、勝家さんの盃にトクトクと酒を注いだ。

 私に自然な動作と物怖じしない態度に、勝家さんは毒気を抜かれたように座り直した。

 

「……ふん、度胸だけはあるようだな」

 

「ここがおっさんたちの秘密基地ですね! 私も混ぜてください!」

 

 次に一益さんの隣に座り込み、おつまみのスルメを齧る。

 藤吉郎さんも恐る恐る入ってきて、末席に正座した。

 小一郎はちゃっかり勝家さんの膝に乗って、私の真似してお酌してあげている。

 勝家さん、不快そうな顔と困惑が混ざってるね。

 信長様の元奥さんのペットだから、無理やりどかすのもできないってとこかな?

 

「で? 何の話してたの? 上司の悪口?」

 

 私がニヤニヤしながら聞くと、信盛さんが咳払いをした。

 

「人聞きの悪い。我らはお館様の行く末を案じておるのだ。訳の分からぬ遊びに熱中し、若手ばかりを重用する。我らのような古い人間は、もう用済みということか……」

 

「分かる~! 上司が何考えてるか分かんない時ってあるよね! 若手の柔軟な発想を~とか言いつつ、結局振り回されるのはおっさんだもんね!」

 

 現代JKのコミュ力全開で共感を示す私に、おっさんたちのガードが少し緩む。

 

「そうだ! 儂はお館様のためなら死ねるが、無意味な死は御免だ! なぜ我らに説明もなしに突っ走るのだ!」

 

「そうそう、説明責任って大事だよねー」

 

 勝家さんがヒートアップしてきた。

 ここだ。ここで切り込む!

 

「でもさ、おじさまたち。愚痴ってても始まんなくない?」

 

「なに?」

 

「信長様が何考えてるか分かんない、若手の気持ちが分かんないって言うならさ。一緒にやってみればいいじゃん」

 

 私はスルメを指に挟んでビシッと言い放った。

 

「そう、野球を!」

 

 3人が顔を見合わせる。

 

「野球だと……?」

 

「そうそう。信長様が夢中になってる野球を、若手たちが楽しんでる野球を、おじさんたちも体験してみればいいの。百聞は一見に如かずって言いますよね? やってみれば信長様の考えも、若手たちの気持ちも分かると思いますよ!」

 

「……我らに、若者の真似事をせよと?」

 

 信盛さんが眉をひそめる。プライドある古参衆っていうやつだもんね、簡単には首を縦に振らないか。

 

「真似事じゃないよ。勝負だよ」

 

 私はあえて挑発的な笑みを浮かべる。

 

「それとも、おじさまたちは体力も気力も衰えちゃって、若手たちについていけないのが怖いんですか~?」

 

 ピキッ。

 勝家さんの額に青筋が浮かんだ。

 

「……小娘。誰に向かって口を利いておる」

 

「図星? 悔しかったら野球に参加してください。おじさまたちの経験とパワーが、若造たちに通用するか試してみればいいじゃないですか」

 

 勝家さんが立ち上がり、巨大な拳を握りしめた。

 殴られる⁉ と思いきや、彼はニヤリと獰猛な笑みを浮かべる。

 

「面白い。売られた喧嘩は買うのが柴田権六だ。その野球とやら、儂の力でねじ伏せてくれるわ!」

 

「ほう、権六殿がやるなら儂も付き合おう。老いたと侮られるのは癪だからな」

 

 信盛さんも立ち上がる。

 残るは一益さんだけど……。

 

「……甲賀忍者のそれがしを参加させたこと、後悔させてやるぞ。若者の席を必ずや奪うと誓おう」

 

 渋く呟いて、残りの酒を飲み干した。

 よっしゃあ! おっさんズ、ゲットだぜ!

 

「決まりですね! ポジションとか守備位置とか猛練習して奪ってください!」

 

 私はガッツポーズを決める。

 これで参加してくれる人、増えること間違いなし。

 あとは信長様とセンイチ監督に丸投げだ!

 

「やれやれ……。真昼殿の度胸の良さには舌を巻くよ」

 

 藤吉郎さんが呆れつつも感心したように呟いてきた。

 

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