なんで私⁉ 野球知識皆無のJKが戦国時代で野球を広め、信長の恋女房になってしまう件~   作:ハムえっぐ

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第9話 長谷川真昼、恋女房にされる

 ついに信長様とセンイチが完成した野球道具を携えて戻ってきた。

 清洲城近くの空き地で、センイチが指示していた体力作りの走り込みをする私たちと合流する。

 うん、さすが戦国の世だね。みんな基礎体力凄いよ。

 

「何故……あのおなごは息切れしておらぬのだ」

「やはり化生なのでは……」

 

 なんか後ろでひそひそ話が聞こえるが失敬な。

 まだ全力出してないぞ?

 ふう、でもこれで私のチーム織田家野球部創設任務完了だよね。

 ま、せっかくだしマネージャーとして、チームの行く末を見守るとしますか。

 忙しくて、吉乃さんやお市ちゃんと約束した私の普通の女子高生話をまだまだ語り尽くしてないし、これからは織田家女子の絆を深めないとね。

 藤吉郎さんと、一応ねねちゃんも誘おっと。

 

「皆の者、よく集まった! これより我が織田軍野球チームの初練習を行う!」

 

 信長様の号令と共に、職人さんたちが手作りしたグローブやバットが配られる。

 ん? 職人さん、私にも渡すなよ。

 クンクン、おお、革の匂いがする! ちゃんと縫い目もあるし、戦国テクノロジー侮りがたし。

 ……バット重っ! 何キロあるんだよこれ。全部金属製か、もしかして?

 

『軽く5キロはあるわい。普通のバットは900グラムじゃがな。金砕棒を作る技術を転用するとはさすが信長よ、本来は木製バットじゃが、まずは遠くを飛ばすことで野球の楽しさを知ってもらうとするか』

 

 さらっとセンイチが言ってるけど、このバット、普通に歴史のオーパーツじゃね?

 これ振り回したら、剣と槍どころか甲冑も砕け散りそう。

 桃太郎一行を全滅させる、鬼の軍団を想像しちゃったよ。

 

『グローブは牛の皮よ。形を再現させる案を出したのは儂じゃ。敵兵の刀や槍を弾く鉄入りよ!』

 

 最高級の籠手じゃあっ、て部員たちみんな喜んでる。

 籠手って防具だよね? あっ、グローブは防具だから合ってるか。じゃあ、これはよし。

 

『ボールが難題じゃったわ。反発係数をどうするか、コルクもゴムもないのが痛恨。じゃがこれよ、これが合ったぞ。毬杖(ぎっちょう)の鞠が使えたわ。ムクロジの種子を芯にしたのよ』

 

「センイチと同じ素材のボールの再現は無理だったが、ムクロジの上に着古した着物の布や、馬の尻尾の毛を固く巻き付け硬く頑丈なのが作れたわ」

 

 信長様に見せられたのは、羽根突きで使ってた玉に似てた。

 毬杖ってなんだろ? ってずっと思ってたけど羽根突きのことだったんだ。

 お姉ちゃんに、顔を墨まみれにされた記憶しかないけど。

 

『小娘、毬杖とは鞠を打つ遊びじゃぞ』

 

 ……まあいいや、みんなの練習風景見てこ。

 あれ? 一益さん、なんで火縄銃構えてるの?

 

 ゴオオオオン! カキーン!

 

「おお、種子島の弾を弾くか。お館様! これは種子島より画期的でござりまする!」

 

 権六さんがバットを握りしめて感激してる。

 えっと、あっちは成政さんが遠投を披露中か。

 

 グシャアアアアア!

 

「案山子が木っ端微塵か。これは使える!」

 

 おお、さすがの肩だね。成政さん。

 

 カキーン! ボキッ!

 

「このグローブなる籠手、槍を掴んで折ることもできる柔軟性! これは戦場を一変できますよ!」

 

 勝三郎さん、グローブ姿、似合ってますよ!

 

「いいかお前ら! 織田家の一員として、野球道具を使いこなせ! わかったな!」

 

「「「はい!」」」

 

 信長様の声に、みんな元気よく返事する。

 なんか殺戮兵器が大量生産された気がするの、私だけかな?

 ん~。そういや子供の頃、お母さんが倒した魔王の軍勢の話、寝る前にされたっけ。

 強靭な肉体で重たい武器を振り回し、正確無比に飛び道具を使い、銃弾もミサイルも効かない存在たち。

 復活してあっという間に世界を支配して、お母さんとお父さんのパーティーに倒されるまで、世界は魔王のものだったとか。

 

 練習風景、噂で聞いた魔王軍に似てるなあ。……本物だったりして。

 まあいいや。深く考えるのは精神衛生上よろしくない。

 気のせいってことにして大きな桶に水を張り、柄杓を持ってスタンバイ。

 

「みんな~、水分補給大事だよ~! 休憩の時は言ってね~!」

 

 ふふん。私はか弱い女子高生だし、野蛮なプレイは男たちに任せて、甲斐甲斐しく応援に徹するもんね!

 汗を流すイケメンたちに「お疲れ様」ってタオルを渡す係、最高じゃん?

 マンガのヒロインって、こういう役するのが正解だもんね♪ 

 

「野球の基本はキャッチボールだ! 全員、俺の球を受けてみろ!」

 

 信長様がマウンドに立ち、センイチボールを握る。

 まず権六さんが、自信満々にキャッチャーミットを構えた。

 

「ガハハ! お館様の剛速球、この権六が全て受け止めてみせましょう!」

 

「行くぞ権六!」

 

 信長様が振りかぶる。

 全身のバネを使った、しなやかで力強いフォーム。

 指から離れた瞬間、空気が震えた気がした。

 

 ヒュンッ!

 白い閃光が走る。

 

「ぬんっ!」

 

 ドガァッ!

 鈍い音がして、権六さんの巨体が後ろに吹っ飛んだ。

 

「ぐわぁっ……! お、重い……!」

 

「情けないぞ権六! 次、内蔵助!」

 

 権六さんが脱落し、次は佐々成政さんが前に出る。

 

「ふん、俺の動体視力なら……!」

 

 ビュンッ! ズドォン!

 

 成政さんが反応するよりも早く、センイチボールは顔の横を通過し、背後の木の幹をへし折った。

 

「なっ……見えん……!」

 

 成政さんが顔面蒼白でへたり込む。

 その後も勝三郎さんが「骨が……」と悶絶し、長秀さんが「これは無理ですね」と早々に諦め、誰もまともに捕球できない。

 信長様の球威が強すぎて、キャッチボールすら成立しないのだ。

 

「なんだ、誰も俺の球を受けられぬのか! 軟弱者め!」

 

 信長様が不機嫌そうにボールを地面に叩きつける。

 空気は最悪。これじゃ野球どころか、練習初日でチーム崩壊の危機だよ。

 

『ええい、情けない! どいつもこいつも腰が引けとるわ!』

 

 見かねたセンイチが呆れ果てた声を上げた。

 そして目もないのに視線が、切り株に座って呑気に麦茶を飲んでいた私に向けられる。

 

『おい小娘! お前、座れ!』

 

「ぶふっ! ……え? 私? 無理無理! 私、か弱い女子高生だよ!」

 

『つべこべ言わずに座らんか! 戦国の世にか弱い女子高生なんぞおらん! ミットを構えろ! 使えない者に居場所があると思うな!』

 

 酷い! そりゃ学校に通ってない私は、厳密には女子高生じゃないかもしんないけどさ。

 居場所か。たしかに料理洗濯掃除礼儀作法のできない私だ。

 ここを追われたら、足軽から成り上がるしかなくなっちゃう。

 

 私は渋々ミットを構える。

 うう、嫌だなぁ。顔に当たったら整形が必要になるレベルだよ、これ。

 

『腰を落とせ! 両足を曲げて座れ! 尻を地面に付けるな!』

 

「へいへい、こうかな?」

 

 これ、スカート大丈夫? パンツ見えてない?

 まあ、この姿勢なら、1日地雷源をほふく前進した時より楽かな?

 

「ほう、真昼か。手加減はせぬぞ」

 

 信長様がニヤリと笑う。目がマジだ。殺す気か。

 

「信長様、お手柔らかに! 私はか弱い女の子です!」

 

「たわけが。誰も真昼をか弱いと思っておらぬぞ」

 

 失礼な。その認識を拳で変えていくぞ、野郎ども。 

 信長様が大きく振りかぶった。

 殺気にも似たプレッシャーが肌を刺す。

 

 来る!

 ビュンッ!

 

 空気を切り裂く音と共に、白い塊が私に向かって突っ込んでくる。

 怖い! 目を瞑りたい!

 でも、なぜだろう。

 ボールの縫い目まで、くっきりと見える気がする。

 あれ? 意外とゆっくり? これ、お姉ちゃんが運動会の玉入れ競争で、敵チームを全滅させていたスピードだ!

 

 私は無心で、ボールの軌道にミットを差し出した。

 

 バシィィィィン!

 

 強烈に重い乾いた捕球音がグラウンドに響き渡る。

 私の手の中で、ボールが白煙を上げて回転を止めた。

 

「……痛っ。ちょっとセンイチ、私に何かしたでしょ? 捕れたんだけど?」

 

『儂は何もしとらんぞ。他の連中相手と同じ球速と球威じゃ』

 

 ホントかなあ? 私、普通の女子高生なんだけど?

 

「ちょっと信長様、手が痺れるんですけど!」

 

 私はセンイチを、信長様に投げ返して抗議するけど返事がない。

 周りを見渡すと、全員が口をポカンと開けて固まっていた。

 

「信長様の剛速球を……微動だにせず……?」

「化け物か……あのアマ……」

「……信長様、恐ろしいお方を拾ってしまいましたね」

 

 何この空気。

 みんな練習足りないだけでしょ。みんな捕れるようになるっての。

 

「……フッ、ハハハハ!」

 

 信長様が突然笑い出した。

 

「いい音だ。……気に入ったぞ、真昼。俺の球を受けるのは貴様だ」

 

『やはりな。この小娘の動体視力と反射神経は異常じゃ。信長よ、キャッチャーのことをピッチャーはこう呼ぶのだ。恋女房、と』

 

「恋女房……ふむ。であるか」

 

 恋女房⁉ そんな言葉、お父さんがお母さんに土下座しながら「頼む! 許してくれ! 俺の恋女房!」って叫んでいるぐらいでしか聞いたことないよ。

 

 ていうか、私はマネージャー希望なんですけど!

 

 ……あっ! そうだ、ここで吉乃さんを利用させてもらおう。

 いや、利用じゃなくって、ガチの事実にする気だけど。

 

「やっば! もうこんな時間⁉ ごめんなさい信長様! 私、吉乃さんとお話するって約束してたんです! 吉乃さんも楽しみにしてくれてるので、お先に失礼します!」

 

 私はミットをその場に放り出し、脱兎のごとく駆け出した。

 

「吉乃? ……たしかに俺が真昼の話題をしたら喜んでいたが」

 

『クックック、小娘、信長の妻もたぶらかしているのか。政治力もありそうだな』

 

 センイチ、なにその含み笑い。

 

「ますます面白い。俺の恋女房は」

 

 なんて言う信長様の声に、私はどっちにどういう意味で言ってんだよと心の中でツッコむのだった。

 

 ***

 

「ほう、うつけが毬杖に嵌まっておるとな? クックック、これぞ攻め滅ぼす好機よ」

 

 駿河国の駿府城にて、海道一の弓取りが的に向かって正確無比に矢を放った。

 

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