なんで私⁉ 野球知識皆無のJKが戦国時代で野球を広め、信長の恋女房になってしまう件~   作:ハムえっぐ

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第92話 長谷川真昼、孫一引き抜きに向かう

 天王寺に布陣した織田軍本陣からは、中州に浮かぶ野田・福島の両城がよく見えた。

 無数の旗指物が翻り、鐘や太鼓の音がビリビリと空気を震わせている。

 さて、軍議だ。村重さん以外揃ってる。

 

「敵の数、想定以上ですね……。三好三人衆に浪人衆、さらには本願寺の門徒兵まで」

 

 秀吉さんが顔をしかめると、半兵衛君がモリミチボールを回しながら決定事項を告げてくる。

 

「ご心配なく、敵の頭数は多いですが、恐るるに足りません。三好三人衆など、すでに過去の遺物。今の彼らに独自の戦略などありません。我々が警戒すべきは、たった三点です」

 

「三点?」

 

「一つは本願寺の武闘派司令官・下間頼廉。二つは絶好調男と化した斎藤龍興。三つは雑賀の鉄砲大将・鈴木孫一」

 

 半兵衛君は地図の上に駒を置き、パチンと指を鳴らした。

 すると手の中のモリミチが華麗な回転を見せ、青い光の残像を描く。

 

『要はクリーンナップ以外、スッカスカってことよ。そいつらが機能しなければ勝てる!』

 

『3、4、5番を退場させれば試合終了ってことか! 乱闘なら任せい。血湧き肉躍ってきたぞ!』

 

 センイチ? ボールなんだから血も肉もないでしょ。

 

「まず、先鋒を務める荒木村重殿は、このまま三好三人衆にぶつけます」

 

「大丈夫ですかね。三好どもも、裏切りに裏切った村重に憤っていると思われますが」

 

 恒興さんが懸念するけど、半兵衛君は涼しい顔だ。

 

「村重殿には堤防の破壊と排水工事を命じました。あの男なら、敵の足場を泥沼に変えることなど喜々としてやるでしょう」

 

 なるほど、汚れ仕事は汚れた男にってことか。

 

「次に下間頼廉。奴は名将ですが、本願寺の本隊はまだ到着していません。彼は慎重居士。寡兵での突出は避けるはず」

 

 半兵衛君は松永久秀さんと池田恒興さんの駒を、頼廉の陣の前に置いた。

 

「よって、久秀殿と恒興殿には徹底無視を命じます」

 

「無視?」

 

「はい。戦わず、挑発に乗らず、ただ目の前で茶でも飲んでいてください。追ってきたら逃げればいい。頼廉は深追いを恐れてすぐに撤退するでしょう」

 

「クックック、頼廉殿のようなツルツル頭を茶器にしたいと、ずっと思っていました。深追いしてきたら始末しましょう」

 

 ……久秀さん。それってこっち側が悪の軍勢っぽいセリフじゃね?

 

「前田利家殿と佐々成政殿は斎藤龍興を。任務は罵倒です」

 

「ば、罵倒?」

「罵れってか」

 

「はい。龍興は感情で動く男。因縁深い2人が煽りに煽れば、数日で我慢の限界を超えて突出してくるでしょう。そこを叩いてください」

 

「「おう、任せろ」」

 

 そこまで聞いて、私はゴクリと唾を飲み込んだ。

 残るは一番の脅威、鈴木孫一だ。

 

「鈴木孫一には木下秀吉殿と、長谷川真昼殿。お二人に向かっていただきます」

 

 やっぱりやりやがったよ、このドS軍師。

 

「あの~。ただ向かっていったら蜂の巣になると思うんですが!」

 

 私が右手を挙手して質問すると、信長様がドカッと椅子に座ったまま、ニヤリと笑った。

 

「安心しろ真昼。鈴木孫一とは戦いをしに行くのではない。……商談だ」

 

「商談?」

 

「そうです。孫一殿は義理信条ある男ですが利もある男。そこを刺激してください」

 

 半兵衛君が言い終わると、信長様は懐から一枚の書状を取り出し、秀吉さんに手渡した。

 そこに、私のお母さんがお父さんにプロポーズした時以上の破格の条件が記されていた。

 

『一、紀伊国より西、四国・九州は切り取り次第、好きにしてよい。二、近江の国友善兵衛との取引にかかる費用は全て織田家が負担する。三、最新の鉄砲、および最新のバットが完成次第、その技術情報を即座に共有する』

 

 ん? 私のお母さんがお父さんに出した破格の条件?

 ベッドの中では……あっ、これ18禁だった。これ喋るとお母さん雷を呼ぶから、お口にチャックっと。

 

「ちょっ、信長様! 鉄砲はわかるけど、バットって、織田軍じゃあるまいし」

 

 私がツッコミを入れると、信長様は真顔で返してきた。

 

「火縄銃を日々扱ってるんだ。道具の良し悪しは勝手知ったるはずよ。ほれ」

 

「重っ! このバットをプレゼントすんの? 受け取ってくれるかなあ?」

 

「真昼、とにかくやってみよう。承知いたしました、信長様。この秀吉、必ずや孫一殿の心、撃ち抜いてみせましょう」

 

「ウキキッ! ウキー!」

 

 と、そこで秀吉さんの足元で、弟の秀長が「自分も自分も!」と飛び跳ねた。

 手にバットを持ってやる気満々だ。

 

 でも半兵衛君が冷徹に告げる。

 

「駄目ですよ、秀長殿。貴方は僕と一緒に本陣待機です」

 

「ウキッ⁉」

 

「貴方は控えです。戦線のどこかが崩れた時、即座に交代に走る遊撃部隊。……地味ですが、負けないためには最も重要な役目です」

 

「ウキー……」

 

 ガックリと項垂れる秀長を置いて、私と秀吉さんは地獄の最前線へと向かうことになった。

 

「うう~。そう簡単に寝返ってくれるかなあ? 孫一さんって雑賀の頭領なんでしょ?」

 

「そこだ、真昼。信長様も半兵衛殿も雑賀衆をと言わず、孫一殿をと告げた。……雑賀衆は本願寺の信仰厚いが、それは年寄り衆。孫一殿本人は信仰心ないと聞いている」

 

「孫一さんだけを寝返らせるってこと? それもまた無理ゲーなんじゃ?」

 

『監督の意見に下が付いてくるかどうかじゃな。オニヘイの説得は任せい』

 

 センイチ? オニヘイのこと苦手にしてなかったっけ?

 

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