転生したら『海賊狩り』に成り代わっていて、先生をする件 作:ワニノコ
おれたちは対策委員会の教室に戻ってきた。
それにしても、アイツらは宝を探しているのか・・・
「あの砂漠に何かあるのか?」
「多分、でたらめを言ってるんだと思います。石油など、お金になりそうな地下資源は何一つ残っていません・・・遥か昔に、すでにそういう調査結果が出ているんです」
「だとすると、どうして・・・」
つまり、アイツらが探している宝は金より価値があるものなのか?
まぁ、アイツらが探している宝の正体は二の次だ。
今優先するのは借金の方だ。
「いやいや、それよりも借金の方が大事でしょ!来月からの利子が9130万円とか言ってなかった!?」
「保証金も要求してきましたし・・・あと一週間で、3億円だなんて・・・」
はっきり言って無謀だな。
前払っていた利子でさえギリギリだったんだ。
これは、最悪の事態も考えていた方が良さそうだな。
おれはそんなことを考えていると、シロコが立ち上がり、教室の扉に手をかけた。
「・・・行ってくる。あそこで何をしているのか、調べないと」
そう言い、シロコは扉を開けて出ようとしたが、おれはシロコの肩を掴んで止めた。
「落ち着けシロコ。お前一人で行ったところでどうにかなるような相手じゃねぇ。それに、今は借金の話をしてんだろ」
「離して先生。・・・借金はもう、真っ当なやり方じゃ返せない。何か、別の方法を・・・」
別の方法、か・・・
学校を守りたい気持ちは分からない訳ではないが、それをやっちまったら元も子もない。
「だ、ダメですよ!それではまた・・・」
「・・・私はシロコ先輩に賛成!こうなったら、なりふり構ってられない!」
「セリカちゃん・・・!?」
「セリカちゃん待って!そんなことしたら、あの時と同じだよ!?あの時は先生とホシノ先輩が止めてくれたのに、自分から進んで犯罪者になるの!?」
「そ、そういう意味じゃない!そうじゃなくて、でも・・・わ、私は・・・」
「ほらほら、みんな落ち着いて〜。頭から湯気が出てるよ〜?」
会話がヒートアップし、止めることは難しいと思っていると、ホシノの一声で静かになった。
「はい、すみません・・・」
「・・・ごめん、こんな風にしたいわけじゃなかった」
「うん、みんな分かってるよ。とりあえず今日はこの辺にしとこう。一回頭を冷やして、また明日集まることにしようよ。これは委員長命令ってことで」
流石、ホシノだな。
伊達に長くアビドスの問題に関わっているからか、冷静だ。
「そうだな。まだ時間はあるんだ、今日は一旦休め」
そうしてノノミとアヤネ、セリカは帰宅した。
そして、教室の中にはホシノとシロコ、それとおれが残った。
「・・・」
「・・・先輩、ちょっといい?」
「何々〜?先生もシロコちゃんも怖い顔してるよー?」
ホシノはわざとらしく身震いをさせる。
そして、何の話をするか、薄々察しているようだ。
「シロコ、先に帰ってくれ。後はおれがやる」
「・・・ん、分かった」
シロコは教室から出ていった。
そして、教室の中はおれとホシノだけになった。
「一つ聞いていいか?」
「ん〜、何を?」
「これはなんだ?」
おれはシロコからもらったホシノの退部届を懐から出してホシノへ差し出す。
ホシノは一瞬だけ目を見開き、わざとらしいリアクションを取る。
「うへ〜、いつの間に・・・!これ、盗ったのはきっとシロコちゃんだよね?全くシロコちゃんったら、いくら何でも先輩のカバンを漁るのはダメでしょ〜。先生、きちんとシロコちゃんを叱っといてよ〜?あのままじゃとんでもない大悪党になっちゃってもおかしくないってー」
「あぁ、そうだな。で、これはなんだ?」
おれはもう一度、ホシノに聞くと、ホシノは逃げられないと悟ったのか、肩をすくめる。
「悪いが、答えてもらうまで帰らす気はない」
「・・・はぁ、仕方ないなぁ。面と向かってっていうのも何だし・・・先生、ちょっとその辺一緒に歩かない?」
ホシノは廊下を指差し、そう提案してきた。
おれとしても、断る理由はない。
そうしておれとホシノは廊下に出て、学校の中を歩き回った。
「けほっ、けほっ・・・うわぁ、ここも砂だらけじゃ〜ん・・・ま、仕方ないんだけどね。掃除をしようにも、人数に対して建物が大き過ぎて・・・砂嵐が減ってくれれば良いんだけど・・・」
「全くだな」
「うへ〜、せっかくの高校生活が全部砂色だなんて、ちょっとやるせないと思わない?」
「だが、お前はここが好きなんだろ?」
「・・・今の話の流れで、本当にそう思う?」
「少なくとも、おれは思うな」
「やっぱ先生は変な人だね」
そんな感じで、おれとホシノは学校の中を歩き続ける。
「・・・砂漠化が進む前、アビドスはかなり大きくて力のある学校だったって言われてるけど・・・そんな記憶も実感も、おじさんには全く無いんだよね〜。最初から全部めちゃくちゃで、ちゃんとしたものなんて何一つない学校だった」
「・・・」
おれはホシノの独白のようなものを黙って聞く。
「おじさんが入学した時のアビドス本館は、今はもう砂漠の中に埋もれちゃったし。当時の先輩たちだって、もうみんないなくなった。今いるここは、砂漠化を避けて何回も引越した結果に辿り着いた、ただの別館。・・・ま、でもここに来てシロコちゃんやノノミちゃん、アヤネちゃんにセリカちゃんと会えたから・・・うへ、やっぱり好きなのかもしれないな〜」
「・・・そうだろうな」
ホシノはそう言い、微笑む。
その微笑みは、後輩には見せないような弱々しい微笑みだった。
「・・・先生、正直に話すよ」
決心がついたのだろう。
ホシノはおれの目を見て話し始めた。
「私は2年前から、変な奴らから提案を受けてた」
「提案?」
おれがそう聞くと、ホシノは一つ一つ教えてくれた。
なんでも、カイザーコーポレーションから、提案紛いのスカウトを入学直後から受けていたらしい。
それも、数え切れないほど。
そして、柴関ラーメンが爆破された日。
あの時遅れたのは、提案を受けていたからだそうだ。
その提案の内容は、アビドス高校を退学して提案した者の企業に所属する・・・そうすれば、アビドスの借金を半分近く負担する。
一見、破格の条件に見える。
だが、世の中はそんなに上手くはできていない。
何か裏があるな。
「それは誰から見たって破格の条件だった。でも、当時は私がいなくなったらアビドス高校が崩壊するって思ってたからこそ、ずっと断ってたけど・・・」
そう言いかけて、ホシノは口を噤んだ。
一体、何を言いかけようとしたんだ?
「・・・あいつら、PMCで使える人材を集めているみたい」
「そうか。・・・で、提案したのは誰なんだ?」
「私も、あいつの正体は知らない・・・ただ、私は『黒服』って呼んでる」
「『黒服』・・・」
「何となくゾッとする奴で・・・キヴォトス広しといえども、あぁいうタイプの奴は見たこと無かった。怪しい奴だけど、別に特段問題を起こしたりはしなかった・・・」
『黒服』か・・・言葉通り、黒い服を着た奴なのか?
そして、ホシノの言葉から察するに柴大将のような動物でも、ガラクタ野郎のような機械でもない。
そして、おれや生徒みたいな人類でも無い。
下手したら、生物かも怪しい。
色んな意味で、とんでもない存在だな。
「何なんだろうね。あのカイザーの理事ですら、黒服のことは恐れているように見えたけど・・・」
「あのガラクタ野郎がか・・・じゃあ、その退部届は・・・」
「・・・うへ」
ホシノは気まずそうにおれから目を逸らす。
「・・・まぁ、1ミリも悩んでなかったって言ったら嘘だし。ちょっとの気の迷いっていうか。・・・うん、もう捨てちゃおっか」
そうして、ホシノは退部届をビリビリに破く。
「うへ〜、スッキリした。余計な誤解を招いてごめんね。ただ、こんな話をみんなにしたところで、心配させるだけで良いことも何も無さそうだったからさ。でもまぁ、可愛い後輩たちにいつまでも隠しごとをしたままっていうのも良くないし・・・明日、みんなにちゃんと話すよ」
「・・・そうか」
「聞かされたところで困らせちゃうだけだろうけど、隠しごとなんて無いに越したことはないだろうし。実際のところ、今はあの提案を受ける以外、他の方法は思いつかないんだけどね・・・」
「そうだな。まぁ、まだ負けた訳じゃねぇんだ。この状況を打開する方法はあるはずだ」
「・・・そうだね、奇跡でも起きてくれれば良いんだけど・・・奇跡、かぁ。・・・さ〜てと、この話はこれでおしまい。じゃあ、また明日。先生。さよなら」
そう言って、ホシノは自分の荷物が置いてある対策委員会の教室に戻ろうと、おれに背を向けて歩き出した。
だがおれは、ホシノを呼び止めた。
「ホシノ!」
「な、なに・・・?」
「あんま、一人で背負い過ぎるなよ。お前はもう、一人じゃねぇんだからな」
「・・・うへへ。私、そんなふうに見られてたの?」
それから少しの沈黙の後、ホシノは笑顔になった。
「うん。ありがとう、先生」
そうして、ホシノは帰宅した。
それからおれも、シャーレに戻るのだった。
翌日。
おれはアビドス高校に来ると、対策委員会の教室が、何やら騒がしかった。
「ったく、朝から何の騒ぎだ?」
「先生、これ・・・」
おれは教室の扉を開けると、シロコが紙を渡してきた。
「・・・は?」
手渡された紙を見て、おれは思わず、声が漏れてしまった。
その紙は、ホシノが破り捨てた筈の退部届と手紙だった。
「ど、どういうことだ・・・?」
おれは2通の手紙を開封した。
『アビドス対策委員会のみんなへ
まずは、こうやって手紙でお別れの挨拶をすることになったこと、許してほしい。古いやり方が性に合っててさ。みんなには、ずっと話してなかったことがあって。実は私、昔からずっとスカウトを受けてたんだ。カイザーPMCの傭兵として働く、その代わりにアビドスが背負っている借金の大半を肩代わりする・・・そういう話でね。・・・うへ、中々良い条件だと思わない?おじさんこう見えて、実は結構能力を買われててさ〜。借金のことは、私がどうにかする。すぐに全部を解決はできないけど、まずはこれでそれなりに負担が減ると思う。ブラックマーケットでは急に生意気なこと言っちゃったけど、あの言葉を私が守れなくてごめんね。これで対策委員会も、少しは楽になる筈。アビドス高校からも、キヴォトスからも離れることになったけど、私のことは気にしないで。勝手なことをしてごめんね。でもこれは全部、私が責任を取るべきこと。私は、アビドスの最後の生徒会だから。だから、ここでお別れ。じゃあね』
『先生へ
先生は気づいていたかもしれないけど、実は私、大人が嫌いだった。あんまり信じてなかった。シロコちゃんが先生を連れてきたあの時だって、「なんか信用できない大人が来たな」って思ったくらいだし?でも、先生みたいな大人と最後に出会えて、私は・・・いや、照れくさい言葉はもういいよね。先生。最後に我儘を言って悪いんだけど、お願い。シロコちゃんは良い子だけど、横で誰かが支えないと、どうなっちゃうか分からない子で。悪い道に逸れちゃったりしないように、支えてあげてほしい。先生なら、きっと大丈夫だと思うから。シロコちゃん、ノノミちゃん、セリカちゃん、アヤネちゃん、お願い、私たちの学校を守ってほしい。砂だらけのこんな場所だけど・・・私に残された、唯一の意味のある場所だから。それから、もしこの先どこかで万が一、敵として相対することになったら・・・その時は、私のヘイローを「壊して」。よろしくね』
「あのバカが・・・!」
(ドンッ!)
(バキバキバキバキッ!)
おれは拳を作り、壁を殴った。
そして、壁に亀裂が走る。
それを見た対策委員会のメンバーは、顔が青ざめており、一周回って冷静になったようだ。
「・・・悪かった。後で弁償する」
「あっ、はい・・・」
「それよりも、助けないと。私が行く。対策委員会に迷惑がかかるし、私一人で・・・」
「落ち着いてください。今はまず足並みを揃えないと・・・」
(ドカアァァァァン!!!)
その時、爆発音がアビドス高校を襲った。
ホシノの行方を案じる暇すらもなく。
「爆発音・・・!?」
「近いです、場所は・・・!?・・・そんな、市内・・・!?」
教室の中のモニターを見ると、市街地が火の海に包まれていた。
市街地で暴れているのはカイザーPMCか・・・色々と、タイミングが良すぎるな。
「こちらに向かって、数百近いPMCの兵力が侵攻中!同時に、市街地に無差別攻撃をしています!」
「お、応戦しないとです!何はともあれ、アビドスが攻撃されているのを見過ごすわけには・・・!」
「考えてる時間が惜しい、すぐに行こう!」
「待てシロコ!」
おれは扉に手をかけようとするシロコの襟元を掴み、『和道一文字』を鞘から抜いて、扉を斬る。
「ぐあっ!?」
おれは待ち構えていたカイザーPMCを扉ごと斬った。
「斥候が、もうこんなところにまで・・・」
「アビドス高校周辺に、カイザーPMCの兵を多数確認!すでに校内にかなり侵入されています!」
「とりあえず、学校に侵入した奴からやっつけよう!アヤネちゃん、先生、お願い!」
「はい!これより学校に侵入した敵を撃退します!構内の安全を確保した後は、市民の皆さんの避難を!」
それからおれたちは、学校に入ってきたカイザーPMCの連中を始末する。
数は多いが、脅威とはあまり思わない。
それは、あの四人も同じだろう。
そうして、おれたちは学校内の敵を掃討し、市街地に向かうのだった。