大罪背負いしヒーローアカデミア   作:Ks5118

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第1話 ヒーローを目指すきっかけ

 ──11年前──

 

 午後の小さな公園は、子どもたちの声で賑わっていた。ブランコの軋む音、滑り台を滑る歓声。それらは春の風に乗り、木々の間を抜けていく。

 

 だが、公園の端──遊具の影や砂場の隅には、人の気配がほとんどない静かな場所が広がっていた。落ち葉が積もり、どこか取り残されたような空間。

 

 七歳の七罪は、その公園で無邪気に遊んでいた。ブランコを漕ぎ、滑り台を駆け上がり、砂を蹴る。ただ楽しいという気持ちのままに動いている。

 

 ふと、視界の端に小さな人影が映った。

 

 遊具の影に座り込む、金髪の少女。その手元に、赤いものが光っている。

 

 七罪[あの子……怪我してるのかな……? ]

 

 気になって、七罪は遊びをやめ、ゆっくりと近づいた。

 

 そして、見てしまう。

 

 少女は、小鳥を抱え、その血に指先を触れていた。

 

 赤い雫が指に伝い、光る。

 

 ヒミコ[……きれい……どうしてこんなに……好きなんでしょう……]

 

 ヒミコは無意識に、その血を唇に近づける。

 

 その瞬間──視線に気づいた。

 

 ヒミコ「……え?」

 

 顔を上げると、七罪が立っていた。

 

 ヒミコ「……あっ……み……見ないで下さい……!」

 

 慌てて頬を隠し、体を縮める。

 

 ヒミコ[また……嫌われます……怖がられます……]

 

 心臓が強く鳴る。逃げなきゃいけない。でも体が動かない。

 

 だが──

 

 七罪は、その場にしゃがみ込んだ。

 

 七罪「大丈夫だよ。痛くない?」

 

 ヒミコは固まる。

 

 ヒミコ[……え? ]

 

 予想していた反応と違う。

 

 七罪の声は、ただ心配しているだけだった。

 

 ヒミコ[怖くないの……? 気持ち悪くないの……? ]

 

 七罪は、自然に隣に座る。

 

 七罪「なぁ、どうして一人でいるの?」

 

 ヒミコは戸惑いながら、視線を逸らす。

 

 ヒミコ「……誰も……来ないから……」

 

 少し間を置いて、続ける。

 

 ヒミコ「私……普通じゃないので……」

 

 その言葉には、小さな諦めが滲んでいた。

 

 七罪は少し考える。

 

 七罪[普通じゃないって……どういうことだろ……でも……]

 

 七罪は、まっすぐ言った。

 

 七罪「そっか……でも僕は、友達になりたいよ」

 

 ヒミコの呼吸が止まる。

 

 ヒミコ[……ともだち……? ]

 

 そんな言葉、向けられたことがなかった。

 

 胸の奥が、じんわりと熱くなる。

 

 ヒミコ[なんで……この人……]

 

 七罪は立ち上がり、手を差し出す。

 

 七罪「一緒に遊ぼうよ」

 

 ヒミコはしばらくその手を見つめる。

 

 ヒミコ[触っても……いいんでしょうか……]

 

 ゆっくりと、その手を取る。

 

 温かい。

 

 ヒミコ[あったかい……]

 

 そのまま、小鳥を草むらにそっと置いた。

 

 七罪は、その手に血がついていることを気にしない。

 

 ヒミコはそれに気づく。

 

 ヒミコ[……触れてるのに……嫌がらない……]

 

 七罪「もし欲しいなら、僕の血ちょっとあげてもいいよ」

 

 ヒミコ「え……?」

 

 七罪は、自分の指先を少しだけ切る。

 

 赤い血がにじむ。

 

 ヒミコの視線が、それに吸い寄せられる。

 

 ヒミコ[……きれい……さっきより……もっと……]

 

 胸がドクドクと鳴る。

 

 ヒミコ「……いいんですか……?」

 

 七罪「うん。友達だもん」

 

 その言葉は、あまりにも自然だった。

 

 ヒミコはそっと、指先に触れる。

 

 温かい血が、指に伝う。

 

 ヒミコ[……あったかい……さっきと違う……]

 

 ヒミコはそれをじっと見つめる。

 

 ヒミコ[なんで……こんなに……落ち着くんでしょう……]

 

 そして、小さく口をつける。

 

 ほんの少しだけ。

 

 ヒミコ[……好き……かもしれません……]

 

 その感覚の正体は、まだ分からない。

 

 でも確かに、胸の奥が満たされていく。

 

 ヒミコはそっと顔を上げる。

 

 七罪は、変わらずそこにいる。

 

 嫌な顔も、怖がる様子もない。

 

 ただ、当たり前のように隣にいる。

 

 ヒミコ[この人……怖くないだけじゃなくて……]

 

 ヒミコ[……安心します……]

 

 小さく、笑みがこぼれた。

 

 ヒミコ「……七罪君は……優しいですね……」

 

 ヒミコ[この人は……特別です……]

 

 ヒミコ[もっと……一緒にいたいです……]

 

 その感情はまだ言葉にならない。

 

 だが確かに、芽生えていた。

 

 歪み始めた“好き”の形が──静かに

 

 ──別れの日──

 

 春の風が、いつもより少し冷たく感じる午後。

 

 公園の端。あの日と同じ場所に、七罪とヒミコは並んでいた。

 

 どちらも、あまり言葉を発さない。

 

 七罪[どうしてだろ……いつもなら楽しいのに……]

 

 七罪[今日は……うまく笑えない……]

 

 ヒミコは俯いたまま、手をぎゅっと握っている。

 

 ヒミコ[行ってしまいます……七罪君が……]

 

 ヒミコ[嫌です……でも……言えません……]

 

 沈黙の中、風だけが通り過ぎる。

 

 やがて七罪が、ゆっくり口を開いた。

 

 七罪「ヒミコ……僕、今日引っ越すんだ」

 

 ヒミコの肩が小さく震える。

 

 ヒミコ「……はい……知ってます……」

 

 七罪「遠いところだけど……また会えるように、頑張るよ」

 

 ヒミコは顔を上げる。目にはうっすらと涙が浮かんでいた。

 

 ヒミコ「……本当に……会えますか……?」

 

 七罪は少しだけ考えてから、頷く。

 

 七罪「うん。絶対」

 

 その言葉に、ヒミコの胸が強く締め付けられる。

 

 ヒミコ[“絶対”……]

 

 ヒミコ[信じたいです……信じたいのに……怖いです……]

 

 七罪はポケットから、小さな包みを取り出す。

 

 七罪「これ……よかったら」

 

 中には、不格好に折られた小さな紙と、拾った綺麗な石が入っている。

 

 ヒミコはそれを受け取る。

 

 ヒミコ「……ありがとうございます……」

 

 ヒミコ[宝物です……絶対に……なくしません……]

 

 少しの沈黙。

 

 そして、別れの時間が来る。

 

 遠くから、車のクラクションが鳴る。

 

 七罪「……呼ばれてる」

 

 ヒミコの手が、ほんの少しだけ動く。

 

 でも、引き止めることはできない。

 

 ヒミコ「……身体に気をつけて下さい……」

 

 七罪は、少しだけ笑う。

 

 七罪「ヒミコもね」

 

 七罪は背を向ける。

 

 一歩、また一歩と離れていく。

 

 ヒミコは、その背中を見つめ続ける。

 

 ヒミコ[行かないで……]

 

 ヒミコ[でも……言ったら……困らせます……]

 

 声には出せない。

 

 ただ、見送ることしかできない。

 

 七罪は振り返り、手を振る。

 

 七罪「じゃあね!」

 

 ヒミコも、小さく手を振る。

 

 ヒミコ「……はい……」

 

 その姿は、どんどん小さくなっていく。

 

 やがて見えなくなった時、ヒミコの視界は滲んでいた。

 

 ヒミコ[……行ってしまいました……]

 

 握りしめた手の中には、まだ温もりが残っている気がした。

 

 ──移動中──

 

 車は静かに町を離れていく。

 

 窓の外には、見慣れた景色が流れていた。

 

 七罪は後部座席で、ぼんやりと外を見ている。

 

 七罪[ヒミコ……泣いてなかったかな……]

 

 七罪[また……遊べるかな……]

 

 胸の奥が、少しだけ苦しい。

 

 父親が前の席で声をかける。

 

 父親「寂しいか?」

 

 七罪は少し考えてから、頷く。

 

 七罪「……うん」

 

 父親「大丈夫だ。新しい場所でも、きっと友達はできる」

 

 七罪は小さく「うん」と返す。

 

 だが、心の中では別のことを思っていた。

 

 七罪[でも……ヒミコは……一人になる……]

 

 その時だった。

 

 ドンッ、と鈍い衝撃音が響く。

 

 車が大きく揺れる。

 

 母親「きゃっ……!」

 

 父親「くっ……!」

 

 車が急停止する。

 

 外から、重い足音が近づいてくる。

 

 七罪[……なに……? ]

 

 父親がゆっくりとドアを開ける。

 

 父親「ここで待ってろ」

 

 七罪「……うん」

 

 ドアが閉まる音。

 

 車内は、急に静かになる。

 

 外から怒鳴り声と、衝撃音が響く。

 

 ヴィラン「ヒーロー気取りが……邪魔なんだよ!!」

 

 父親「子どもがいるんだ……下がれ!」

 

 激しい衝突音。

 

 何かが壊れる音。

 

 七罪は、震える手でシートを掴む。

 

 七罪[やめて……]

 

 七罪[父さん……]

 

 再び、大きな音。

 

 そして──静寂。

 

 七罪「……父さん?」

 

 返事はない。

 

 恐る恐る、ドアを開ける。

 

 外に出た瞬間、目に入ったのは──倒れている父親の姿だった。

 

 七罪「……え……?」

 

 足が動かない。

 

 理解が追いつかない。

 

 七罪「父さん……?」

 

 近づく。

 

 返事はない。

 

 動かない。

 

 七罪の視界が揺れる。

 

 七罪[なんで……]

 

 七罪[さっきまで……話してたのに……]

 

 ヴィランはすでに去っていた。

 

 ただ、壊れた地面と、静寂だけが残っている。

 

 七罪はその場に膝をつく。

 

 七罪「……いやだ……」

 

 手が震える。

 

 涙が止まらない。

 

 七罪[守れなかった……]

 

 七罪[何もできなかった……]

 

 その瞬間、ヒミコの顔が浮かぶ。

 

 一人で、怯えていた少女。

 

 七罪[ヒミコみたいな子が……]

 

 七罪[また……こんな目に遭ったら……]

 

 拳を強く握る。

 

 七罪[嫌だ……]

 

 涙を拭う。

 

 七罪[助けたい……]

 

 七罪[守れる人になりたい……]

 

 小さな体に、強い意志が宿る。

 

 七罪[誰も……一人にしない……]

 

 七罪[絶対に……守る……]

 

 夕日が、静かに沈んでいく。

 

 その光の中で──

 

 幼い少年は、初めて“決意”を手にした。

 

 ──それから2年後──

 

 春の午後。柔らかな日差しが、公園の端を照らしていた。

 

 あの日とよく似た景色。

 

 だが、七罪の中身はもう違っていた。

 

 七罪[あれから……何も守れてない……]

 

 七罪[でも……今度は……]

 

 買い物袋を片手に、公園の前を通りかかる。

 

 その時──

 

 かすかな泣き声が聞こえた。

 

 七罪[……泣いてる? ]

 

 足を止め、耳を澄ます。

 

 確かに聞こえる。

 

 七罪はゆっくりと、公園の奥へと歩いていく。

 

 ブランコの陰。

 

 そこに、一人の少年がしゃがみ込んでいた。

 

 肩を震わせ、顔は涙で濡れている。

 

 志村転弧。

 

 七罪はその姿を見た瞬間、胸が強く締め付けられた。

 

 七罪[……ヒミコと同じだ……]

 

 七罪[一人で……誰もいない場所にいる……]

 

 ゆっくりと近づく。

 

 驚かせないように、静かに。

 

 七罪「……大丈夫?」

 

 転弧はびくりと体を震わせる。

 

 ゆっくりと顔を上げるが、涙で視界が滲んでいる。

 

 転弧「……うえっ……ひっ……」

 

 言葉にならない。

 

 ただ、怖さと不安だけが伝わってくる。

 

 七罪はその場にしゃがみ、目線を合わせる。

 

 七罪「無理に話さなくていいよ」

 

 転弧の呼吸が少しずつ乱れる。

 

 七罪は何も急かさない。

 

 ただ、そこにいる。

 

 七罪[大丈夫……焦るな……]

 

 七罪[この子は……怖がってるだけだ……]

 

 ゆっくりと、肩に手を置く。

 

 転弧は一瞬だけびくっとするが、振り払わない。

 

 七罪「泣きたいなら、泣いていいんだよ」

 

 その一言で、転弧の涙がまた溢れる。

 

 転弧「……怖い……」

 

 七罪は静かに頷く。

 

 七罪「うん」

 

 転弧「誰も……助けてくれない……」

 

 その言葉に、七罪の胸が痛む。

 

 七罪[……同じだ……]

 

 七罪[あの時の僕と……]

 

 少しだけ、息を吸う。

 

 そして、はっきりと言う。

 

 七罪「大丈夫。僕がそばにいる」

 

 転弧は顔を上げる。

 

 涙で濡れた目で、七罪を見つめる。

 

 転弧[……この人……怒らない……]

 

 転弧[怖くない……]

 

 七罪の手は、温かかった。

 

 ヒミコの時と同じように。

 

 だが今回は、少しだけ違う。

 

 七罪[今度は……絶対に……]

 

 その意志が、確かに込められていた。

 

 少しずつ、転弧の呼吸が落ち着いていく。

 

 七罪は、無理に笑わせようとはしない。

 

 ただ、隣に座る。

 

 同じ時間を共有する。

 

 七罪「……少し、遊ぶ?」

 

 転弧は迷うように視線を泳がせる。

 

 だが、やがて小さく頷く。

 

 転弧「……うん……」

 

 七罪はゆっくり立ち上がる。

 

 七罪「じゃあ、ゆっくりでいいから」

 

 滑り台、ブランコ。

 

 七罪は転弧のペースに合わせる。

 

 急がせない。押し付けない。

 

 転弧は最初、ぎこちなく動いていたが──

 

 少しずつ、表情が緩んでいく。

 

 転弧[……楽しい……? ]

 

 転弧[こんなの……久しぶり……]

 

 七罪はそれを見て、少しだけ安心する。

 

 七罪[よかった……]

 

 ひと通り遊び終えると、二人はまた座る。

 

 少しだけ、沈黙。

 

 だがそれは、苦しいものではなかった。

 

 七罪「……明日も来る?」

 

 転弧は驚いたように顔を上げる。

 

 転弧「……いいの?」

 

 七罪は頷く。

 

 七罪「うん。友達だもん」

 

 その言葉に、転弧の目がわずかに揺れる。

 

 転弧[……ともだち……]

 

 七罪は袋からお菓子を取り出す。

 

 七罪「これ、よかったら」

 

 転弧は恐る恐る受け取る。

 

 転弧「……ありがとう……」

 

 転弧[あったかい……]

 

 転弧[この人……いなくならないで……]

 

 小さな依存が、芽生え始める。

 

 七罪はそれに気づかない。

 

 ただ、優しくすることしかできない。

 

 七罪[この子は……守らなきゃいけない……]

 

 夕日が、公園の端を赤く染める。

 

 二人の影が、長く伸びる。

 

 まだ何も知らない、子ども同士の時間。

 

 だが確かにそこには──

 

「救われかけた心」と

 

「守ろうとする意志」があった。

 

 ──数日後──

 

 夕方の公園。

 

 空は茜色に染まり、影が長く伸びている。

 

 七罪は、いつもの場所に立っていた。

 

 七罪[今日は少し遅いな……]

 

 ブランコの近く。転弧とよく座っていた場所。

 

 だが──

 

 どこにも姿がない。

 

 七罪は周囲を見渡す。

 

 七罪「……転弧?」

 

 返事はない。

 

 砂場、滑り台の裏、遊具の影。

 

 探しても、いない。

 

 七罪[……おかしい……]

 

 七罪[いつもなら……もう来てるのに……]

 

 少しずつ、胸の奥にざわつきが広がる。

 

 七罪「……転弧!」

 

 声を上げる。

 

 だが、返ってくるのは風の音だけ。

 

 七罪は走り出す。

 

 公園の外へ。

 

 路地へ、通りへ、近くの店の前へ。

 

 七罪「転弧!!」

 

 誰も振り向かない。

 

 誰も知らない。

 

 誰も、気にしていない。

 

 七罪の呼吸が荒くなる。

 

 七罪[どこだ……どこにいる……]

 

 七罪[一人で……また……]

 

 足が止まる。

 

 公園の入り口。

 

 七罪は、そこで立ち尽くす。

 

 七罪[……まさか……]

 

 七罪[また……守れなかったのか……? ]

 

 その瞬間──

 

 胸の奥で、何かが弾けた。

 

 ドクン、と大きく脈打つ。

 

 七罪「……っ!?」

 

 全身に、熱が走る。

 

 七罪[なに……これ……]

 

 背中に違和感。

 

 重く、広がる感覚。

 

 次の瞬間──

 

 黒い翼が、背中から大きく広がった。

 

 七罪「……え……?」

 

 思わず後ずさる。

 

 だが、翼は消えない。

 

 七罪[これ……僕の……? ]

 

 ゆっくりと動かす。

 

 羽ばたく。

 

 ──ふわり、と体が浮いた。

 

 七罪「……浮いてる……?」

 

 驚きと同時に、理解する。

 

 七罪[……探せる……]

 

 七罪[上からなら……見つけられる……! ]

 

 迷いはなかった。

 

 七罪は大きく羽ばたく。

 

 体が一気に空へと持ち上がる。

 

 ──空中──

 

 町が一望できる高さ。

 

 屋根、道路、細い路地。

 

 すべてが見える。

 

 七罪は必死に目を凝らす。

 

 七罪「転弧……どこだ……!」

 

 旋回する。

 

 何度も、何度も。

 

 同じ場所を見直す。

 

 七罪[見逃すな……]

 

 七罪[絶対に……いるはずだ……]

 

 だが──

 

 いない。

 

 泣いている子も。

 

 倒れている子も。

 

 助けを求める影すら。

 

 何も、見えない。

 

 七罪の呼吸が乱れる。

 

 七罪[なんでだよ……]

 

 七罪[さっきまで……一緒にいたのに……]

 

 さらに高度を上げる。

 

 視界を広げる。

 

 それでも──

 

 見つからない。

 

 七罪「転弧ぁぁぁ!!」

 

 叫びが、空に消える。

 

 返事はない。

 

 ただ、風だけが通り過ぎる。

 

 ──夕暮れ──

 

 空はすでに暗くなり始めていた。

 

 七罪の羽ばたきが鈍くなる。

 

 七罪[……力が……]

 

 高度が下がる。

 

 ゆっくりと、地面へと降りていく。

 

 公園の端。

 

 最初に出会った場所。

 

 七罪は、そこに降り立つ。

 

 膝が崩れる。

 

 七罪「……はぁ……っ……」

 

 息が荒い。

 

 体が重い。

 

 だが、それ以上に──

 

 胸が苦しい。

 

 七罪[……いない……]

 

 七罪[どこにも……]

 

 拳を握る。

 

 震えている。

 

 七罪「……なんでだよ……」

 

 声が漏れる。

 

 七罪「……なんで……いなくなるんだよ……」

 

 ヒミコの顔が浮かぶ。

 

 一人でいた少女。

 

 転弧の顔が浮かぶ。

 

 泣いていた少年。

 

 七罪[どっちも……守れてない……]

 

 地面を叩く。

 

 七罪「くそっ……!」

 

 悔しさと無力感が、胸を締め付ける。

 

 七罪[僕が……守るって言ったのに……]

 

 七罪[そばにいるって……言ったのに……]

 

 その言葉が、自分を刺す。

 

 七罪は顔を伏せる。

 

 しばらく動かない。

 

 やがて、ゆっくりと顔を上げる。

 

 目は、まだ幼い。

 

 だが、その奥にある光は変わっていた。

 

 七罪[……探す……]

 

 立ち上がる。

 

 七罪[今日見つからなくても……]

 

 七罪[明日も……その次も……]

 

 翼に触れる。

 

 まだ少し震えている。

 

 七罪[この力で……]

 

 空を見上げる。

 

 七罪[絶対に……見つける……]

 

 拳を握る。

 

 七罪[もう……二度と……]

 

 七罪[見失わない……]

 

 夕日が完全に沈む。

 

 夜が訪れる。

 

 だが──

 

 七罪の中の決意は、消えなかった。

 

 むしろ、強く、深く、根を張っていく。

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