──雄英入試、結果発表前──
春の風が、街路樹の葉を揺らす。
海馬七罪は、アパートの屋上にいた。
フェンスにもたれ、空を見上げる。
七罪「……静かだな」
あの試験から数日。
体の疲労は抜けている。
だが──
七罪[……手応えは、あった]
七罪[でも……評価は俺じゃ決められねぇ]
軽く拳を握る。
黒い粒子は出ない。
意識的に抑えている。
七罪[やれることはやった……あとは結果だけだ]
その時──
ポケットの中で、携帯が震える。
七罪「……来たか」
取り出す。
画面に表示された通知。
「雄英高校 合否通知」
七罪は一瞬だけ目を閉じる。
七罪[……開けるぞ]
タップ。
──合否通知──
画面を開いた瞬間──
光が弾ける。
筋肉質なシルエットがせり上がる。
オールマイト『私が来た!!』
七罪「……来たじゃねぇよ」
オールマイトがポーズを決める。
オールマイト『やあ!! 未来のヒーロー候補生よ!!』
オールマイト『雄英高校へようこそ!!』
オールマイト『では、君の結果を読み上げよう!!』
画面が切り替わる。
オールマイト『筆記試験──満点!!』
オールマイト『知識、判断ともに優秀!! 基礎は万全だ!!』
七罪[問題ねぇ]
オールマイト『実技試験──ヴィランポイント86点!!』
一拍。
オールマイトが力強く笑う。
オールマイト『そして──本試験、最高得点(1位)だ!!』
七罪の目がわずかに細まる。
オールマイト『敵の構造理解、最適打点の選択、無駄のない撃破!!』
オールマイト『さらに個性の複合運用による制圧力!!』
オールマイト『“戦闘完成度”で他を圧倒している!!』
七罪[……そりゃどうも]
オールマイト『レスキューポイント──66点!!』
声のトーンが少し落ちる。
オールマイト『戦闘中の人命把握』
オールマイト『落下者の即時救助』
オールマイト『そして戦闘後の被害処理まで完遂』
オールマイト『特に評価したのは──』
オールマイト『“戦いながら救う”という点だ』
一拍。
総合評価:合格
オールマイトがまっすぐ見据える。
オールマイト『海馬少年』
オールマイト『君はすでに“戦える力”を持っている』
オールマイト『だが──』
七罪の視線がわずかに鋭くなる。
オールマイト『すべてを一人で成立させようとする傾向がある』
オールマイト『それは強みであり、同時に限界にもなる』
七罪[……図星だな]
オールマイトが拳を突き出す。
オールマイト『海馬少年!!』
オールマイト『君は雄英高校ヒーロー科に──』
オールマイト『合格だ!!』
光が弾ける。
最後に、静かな声。
オールマイト『来い、海馬少年』
オールマイト『その“1位”に、意味を与えてみせろ』
映像が消える。
七罪は携帯を下ろす。
七罪「……1位、ね」
小さく笑う。
七罪「上等だ」
拳を握る。
七罪「そのまま一番で通るだけだ」
──別地点/合否通知──
狭い部屋。
スマホの画面が弾ける。
オールマイト『私が来た!!』
爆豪勝己「……は?」
眉が一瞬で吊り上がる。
オールマイト『やあ!! 未来のヒーロー候補生よ!!』
爆豪「うるせぇ……さっさと出せ」
苛立ちを隠さない。
オールマイト『では、結果を読み上げよう!!』
画面が切り替わる。
オールマイト『筆記試験──高得点!!』
爆豪「当たり前だろ」
オールマイト『実技試験──ヴィランポイント!!』
一瞬の間。
爆豪の目が鋭くなる。
爆豪[……ここだ]
オールマイト『君の得点は──非常に高い!!』
オールマイト『だが──』
わずかにトーンが変わる。
オールマイト『本試験の最高得点(1位)は、別に存在する!!』
沈黙。
爆豪「……あ?」
空気が変わる。
爆豪「誰だよ、それ」
オールマイト『名は──』
一拍。
オールマイト『海馬少年!!』
爆豪の瞳が細くなる。
試験場の記憶がフラッシュする。
空中。
同時に叩き込まれた一撃。
0ポイントロボの崩壊。
爆豪「……あの時のやつか」
低く、吐き出す。
オールマイト『戦闘における完成度、判断力、個性運用』
オールマイト『いずれも高水準だ!!』
オールマイト『君もまた素晴らしいが、今回は一歩及ばなかった!!』
爆豪は無言。
だが──
手のひらから、小さく爆ぜる火花。
バチッ。
バチッ。
爆豪「……はは」
乾いた笑い。
爆豪「上等だ」
スマホを握り潰しそうな力。
爆豪「抜く」
立ち上がる。
爆豪「入ってからだ」
爆豪「ぶっ潰して、一番取る」
画面の中で、オールマイトが最後に言う。
オールマイト『来い、爆豪少年』
オールマイト『その闘志、雄英でぶつけてみせろ!!』
画面が消える。
爆豪は空を睨む。
爆豪「海馬……だっけか」
口元が歪む。
爆豪「覚えたぞ」
──屋上/同時刻──
風が吹く。
七罪は空を見上げている。
七罪「……なんか騒がしくなりそうだな」
理由はわからない。
だが──
七罪[まぁいいか]
七罪「全部まとめて来いよ」
小さく笑う。
──教室/1-A・初対面──
ドアが開く。
ガラッ。
まだ人もまばらな教室に、海馬七罪は一歩踏み入れた。
七罪[……ここが1-Aか]
静かに視線を巡らせる。
窓際、前方、後方。
逃げ場、動線、死角。
無意識に、戦場のように把握する。
その時──
ドンッ。
横から強くぶつかる衝撃。
だが七罪は、一切ブレない。
ぶつかってきた方が、わずかに体勢を崩す。
爆豪勝己「……あ?」
低く、苛立った声。
七罪はゆっくりと顔を向ける。
七罪「……前見て歩けよ」
淡々とした一言。
爆豪の眉が跳ね上がる。
爆豪「は?」
空気が、一瞬で張り詰める。
爆豪の手のひらが、わずかに開く。
汗腺が反応し、火花が小さく弾ける。
バチッ。
七罪はそれを見ても、表情一つ変えない。
七罪[……派手な個性だな]
爆豪が一歩詰める。
爆豪「テメェ……誰に口聞いてんだ」
七罪「誰でも同じだろ」
即答。
間。
爆豪の口元が歪む。
爆豪「……いい度胸じゃねぇか」
その瞬間──
七罪の目が、わずかに鋭くなる。
七罪「そっちこそな」
互いに一歩も引かない。
空気が、軋む。
──その時。
教室の後方から、声。
「え、ちょ、ちょっと待ってよ二人とも……!」
振り向くと、緑色の髪の少年。
緑谷出久。
緑谷「入学初日から喧嘩はまずいっていうかその……!」
爆豪「うるせぇ!!」
一喝。
緑谷がビクッと止まる。
七罪は視線だけ向ける。
七罪「別に喧嘩じゃねぇよ」
七罪「ただの確認だ」
爆豪「は?」
七罪「どの程度か、な」
静かに言い切る。
爆豪の目が、細くなる。
爆豪「……面白ぇ」
ニヤリと笑う。
爆豪「なら教えてやるよ」
爆豪「俺は“頂点”だ」
七罪「違うな」
即座に否定。
爆豪「……あ?」
七罪「頂点は一つだ」
七罪「今はまだ、空いてるだけだろ」
沈黙。
一瞬の静寂のあと──
爆豪が笑う。
爆豪「ははっ……言うじゃねぇか」
手のひらで、火花が強く弾ける。
バチィッ!!
爆豪「その席、座れると思ってんなら──」
一歩、さらに詰める。
爆豪「力で奪ってみろよ」
七罪も、わずかに笑う。
七罪「最初からそのつもりだ」
視線がぶつかる。
火花と、静寂。
正反対の圧が、教室を満たす。
その時──
ガラッ。
ドアが再び開く。
無精髭の教師が、寝袋を引きずって入ってくる。
相澤消太。
相澤「……うるさい」
一言。
それだけで空気が変わる。
相澤「ホームルーム始めるぞ、問題児ども」
爆豪「チッ……」
七罪は肩をすくめる。
だが──
互いに視線は外さない。
席に向かいながら、爆豪が低く言う。
爆豪「名前」
七罪「海馬七罪」
爆豪「……覚えた」
七罪「そりゃどうも」
七罪も歩きながら返す。
七罪「爆豪勝己」
爆豪の口元が、わずかに吊り上がる。
爆豪「最初に潰す」
七罪「順番待ちだな」
静かな火花が散る。
──その日、1-Aにて──
二つの“1位候補”が、初めて真正面からぶつかった。
──グラウンド/個性把握テスト開始──
校舎の扉を出た瞬間、空気が変わった。
さっきまでのざわつきが、どこか引いていく。
広いグラウンド。
風の音だけがやけに耳につく。
その中心に立つのは、相澤消太。
相澤「時間が無い」
相澤「今から“個性把握テスト”をやる」
ざわっ。
上鳴「え、もう? 早くね?」
芦戸「準備運動とかないの!?」
一拍。
相澤「合理性のない奴は切る」
空気が凍る。
お茶子「えっ!? ちょっと待ってや! 除籍ってどういうこと!?」
上鳴「いやいやいや怖ぇって!!」
芦戸「入学初日だよ!?」
飯田が前に出る。
飯田「相澤先生! それはいささか急すぎるのではありませんか!」
飯田「我々はまだ環境にも慣れておらず──」
相澤「入試は終わってる」
一言で切る。
飯田が言葉を詰まらせる。
飯田「……っ」
少し俯いてから、顔を上げる。
飯田「……つまり、ここからが本当の評価ということですか」
相澤「そういうことだ」
空気が重く沈む。
七罪は静かに周囲を見た。
七罪(……全員、緊張してるな)
小さく息を吐く。
七罪(ま、やることは同じか)
──ソフトボール投げ──
爆豪が前に出る。
爆豪「どけ」
上鳴「うわっ」
芦戸「ちょ、押さないでよ!」
爆豪は構える。
掌から汗が滲む。
爆豪「見てろ」
ドゴォン!!!
──705.2m
上鳴「は!? 何今の!?」
芦戸「音ヤバすぎ!!」
お茶子「す、すご……!」
爆豪は振り返らない。
ただ一言。
爆豪「次」
その視線が、七罪に刺さる。
七罪「……はいはい」
軽く肩を回しながら前に出る。
上鳴(小声)
「なんか余裕じゃね? あいつ……」
芦戸「逆に怖いってそれ……」
ボールを受け取る。
少しだけ重さを確かめる。
七罪(まあ、こんなもんか)
左目が赤く染まる。
緑谷が息を呑む。
緑谷「色が……変わった……!」
七罪「とりあえず、軽くな」
振り抜く。
シュンッ。
──729m
芦戸「え!? ちょっと待って今ので!?」
上鳴「爆豪より飛んでんだけど!?」
お茶子「軽くって言ったよね今!?」
七罪「ん? ああ、まあ」
七罪「こんなもんだろ」
その瞬間。
相澤「……おい」
空気が止まる。
相澤「本気じゃないな」
上鳴「え、いや今ので!?」
芦戸「十分すぎるでしょ!?」
七罪は少しだけ視線を逸らす。
七罪「……まあ、全力ではないけど」
相澤「ここはテストだ」
相澤「測る場所だ」
一歩近づく。
相澤「“本気でやれ”」
沈黙。
七罪は少しだけ考えてから、肩の力を抜く。
七罪「……了解」
構え直す。
左目の赤が、さっきより濃くなる。
爆豪が低く呟く。
爆豪「……来るぞ」
七罪「さっきよりは飛ぶと思うぞ」
振り抜く。
ドンッッ!!!
表示。
──1295m
数秒、誰も喋らない。
上鳴「……は?」
芦戸「いやいやいや待って無理!!」
お茶子「倍近くなってるやん!!」
七罪「……やりすぎたか?」
軽く苦笑する。
緑谷が震えながら言う。
緑谷「同じ強化で……ここまで差が出るなんて……!」
その横で──
爆豪が黙っている。
ギリッ。
歯が鳴る。
掌で火花が弾ける。
爆豪(……なんだ今のは)
爆豪(俺より上……?)
七罪がちらっと見る。
七罪「……なんだよ、その顔」
爆豪「……最初からそれやれや」
七罪「いや、測るだけだろ?」
七罪「最初から全力出す必要あるか?」
爆豪「あるに決まってんだろ!!」
一歩踏み込む。
地面が弾ける。
爆豪「全部で叩き潰して一番取るんだよ!!」
七罪は一瞬だけ黙る。
七罪「……そっか」
少しだけ笑う。
七罪「お前、分かりやすくていいな」
爆豪「褒めてんじゃねぇ!!」
相澤「そこまでだ」
空気が切り替わる。
相澤「次行くぞ」
──50メートル走──
移動しながらもざわめきは止まらない。
上鳴「いやマジで何なんだあいつ……」
芦戸「強すぎでしょ……」
お茶子「同じ一年生やんな……?」
飯田が真剣な顔で言う。
飯田「……確かに突出している」
飯田「だが、同じクラスである以上」
拳を握る。
飯田「追いつくべき目標でもある」
お茶子「前向きやなぁ……」
七罪はそれを横で聞いて、小さく息を吐く。
七罪(真面目だな、あいつ)
スタートライン。
七罪「じゃ、行ってくる」
軽く言う。
スタート。
地面が沈む。
加速。
──2.84秒
上鳴「速すぎだろ!!」
芦戸「さっきより衝撃きてない!?」
飯田「なっ……!? エンジン無しでこの速度……!」
七罪「まあ、こんなもんだな」
爆豪、無言。
爆豪(……ふざけんな)
視線は、ずっと七罪に向いたまま。
──握力測定──
測定器が配られる。
まだざわつきは収まらない。
上鳴「いやでもさ、さっきのあれマジでどうなってんの?」
芦戸「ね! 途中で急に伸びすぎでしょ!」
お茶子「同じ個性であんな差出るもんなん……?」
緑谷がぶつぶつ呟く。
緑谷「出力制御……いや、違う……あれは……」
七罪は順番が来て前に出る。
測定器を手に取る。
七罪「これ、壊れないよな?」
上鳴「いやフラグ立てんなって!!」
芦戸「ほんとに壊しそうなんだけど!!」
相澤「壊すなよ」
七罪「善処する」
左目が赤く染まる。
《憤怒》
ギリッ……
ミシ……
ギギギギ……
表示。
──625kg
沈黙。
お茶子「えっ……」
上鳴「いやもうダメだろこれ!!」
芦戸「規格外すぎるって!!」
七罪、手を離す。
七罪「……この辺で止めといた」
相澤「正解だ」
爆豪が横から睨む。
爆豪「まだ出せんだろ」
七罪「まあな」
軽く答える。
爆豪「……チッ」
──立ち幅跳び──
ラインの前に立つ。
上鳴「次あいつ何やるんだよ……」
芦戸「もう普通に跳ぶ気しないんだけど……」
七罪が軽く首を回す。
七罪「これはちょっとズルいかもな」
左目が紫に変わる。
《傲慢》
黒い粒子が一瞬だけ滲む。
お茶子「え、なにあれ……」
翼が形成される。
芦戸「いやいやいや待って!!」
上鳴「跳びじゃねぇだろそれ!!」
七罪「一応、前には進んでるからセーフだろ」
軽く地面を蹴る。
“跳ぶ”
というより──飛ぶ。
そのまま遥か先へ。
表示。
──∞
完全な沈黙。
上鳴「……もう意味分かんねぇよ」
芦戸「競技壊れてるって……」
お茶子「これありなん……?」
飯田が真剣な顔で言う。
飯田「ルール上は“前進距離”の測定だ……」
一拍。
飯田「……成立はしている」
上鳴「納得いかねぇ!!」
七罪が戻ってくる。
七罪「文句あるか?」
上鳴「あります!!」
七罪「だろうな」
少し笑う。
──反復横跳び──
ラインに立つ爆豪。
爆豪「……これは俺だ」
スタート。
バチッ!!
バチッ!!
爆発的な加速。
左右へ弾ける。
上鳴「速っ!!」
芦戸「リズムえぐ!!」
結果。
爆豪:1位
爆豪が数字を見る。
爆豪(……当然だ)
その後、七罪。
左目:赤
高速で動く。
だが爆豪には届かない。
結果。
七罪:2位
上鳴「おお!! 初めて勝った!!」
芦戸「爆豪すごっ!」
爆豪が振り返る。
爆豪「どうした1位」
七罪、肩をすくめる。
七罪「いや、あれは無理だろ」
爆豪「は?」
七罪「横移動で爆発はズルいって」
上鳴「それな!!」
爆豪「うるせぇ!!」
七罪「まあでも」
一拍。
七罪「そこはちゃんとお前の勝ちだな」
爆豪が一瞬だけ黙る。
だがすぐに顔を歪める。
爆豪「……一個だけだろうが」
低い声。
──総合発表前──
全員が集められる。
お茶子「なんかもう感覚おかしくなってきた……」
芦戸「だよね……」
上鳴「俺ら普通にヤバくね?」
飯田が腕を組む。
飯田「……いや」
飯田「現実を見よう」
全員を見る。
飯田「我々はまだ未熟だ」
飯田「だが、それを認識できたこと自体が成果だ」
上鳴「真面目すぎるだろ……」
七罪はそのやり取りを聞いて、少しだけ笑う。
七罪(ちゃんとしてるな、ほんと)
その横で──
爆豪は、ずっと黙っていた。
視線は一点。
七罪。
爆豪(……なんだコイツは)
爆豪(俺より上にいる前提で動いてやがる)
拳が震える。
火花が散る。
爆豪(認めねぇ)
爆豪(絶対に認めねぇ)
ゆっくりと一歩踏み出す。
爆豪「……おい」
七罪が振り向く。
七罪「ん?」
爆豪「次は全部出せ」
低い声。
爆豪「その余裕、全部潰してやる」
七罪は一瞬だけ考える。
七罪「……授業次第だな」
爆豪「関係ねぇ」
爆豪「俺がやらせる」
沈黙。
七罪が少しだけ笑う。
七罪「面倒くさいやつだな、お前」
爆豪「うるせぇ」
七罪「でもまあ」
一歩近づく。
七罪「そういうの、嫌いじゃない」
爆豪の目が細くなる。
爆豪(モブじゃねぇ)
一拍。
爆豪(だから潰す)
相澤がため息をつく。
相澤「……問題児ばっかだな」
──総合評価──
全員が整列する。
グラウンドに、重い沈黙が落ちる。
相澤消太が端末を見る。
相澤「結果を出す」
誰も動かない。
上鳴(小声)
「頼む……下だけはやめてくれ……」
芦戸(小声)
「ほんとそれ……」
お茶子が不安そうに呟く。
お茶子「大丈夫やんな……?」
飯田は背筋を伸ばしたまま。
飯田(どんな結果でも受け止める……!)
七罪は軽く息を吐く。
七罪(まあ、なるようになるか)
その横で──
爆豪はただ一点を見据えていた。
爆豪(1位は俺だ)
相澤が口を開く。
相澤「最下位は──」
一瞬、時間が止まる。
相澤「緑谷出久」
空気が固まる。
お茶子「えっ……」
緑谷出久
緑谷「……っ」
上鳴「マジか……」
芦戸「でも……ちょっと分かるかも……」
緑谷は拳を握る。
緑谷(分かってた……)
一拍。
緑谷(でも……やっぱり悔しい)
歯を食いしばる。
緑谷(僕はまだ……全然足りてない……!)
飯田が一歩前に出る。
飯田「相澤先生!」
相澤「安心しろ」
即座に遮る。
相澤「除籍は合理的な嘘だ」
数秒の沈黙。
上鳴「……は?」
芦戸「え、ちょっと待って」
お茶子「えええええ!?」
緑谷「……え?」
相澤「テストの結果で即切るほど、教育機関は短絡的じゃない」
上鳴「マジで心臓に悪いって!!」
芦戸「ほんとそれ!!」
お茶子「よ、よかったぁ……!」
緑谷はその場で力が抜ける。
緑谷(助かった……)
一拍。
緑谷(でも……最下位は変わらない)
ゆっくり拳を握る。
緑谷(ここからだ)
緑谷(僕はここから上がる……!)
相澤が続ける。
相澤「で、1位だが」
空気が再び張り詰める。
爆豪の視線が鋭くなる。
爆豪(来い)
一拍。
相澤「1位──海馬七罪」
ざわっ。
上鳴「やっぱりかよ!!」
芦戸「そりゃそうだけどさ!!」
お茶子「うん……納得やわ……」
飯田が静かに頷く。
飯田「……当然の結果だ」
七罪は軽く息を吐く。
七罪「まあ、そんなもんだな」
その横で──
爆豪の拳が震える。
バチッ。
爆豪「……チッ」
緑谷が七罪を見る。
緑谷(すごい……)
緑谷(あの動き、あの判断……)
一拍。
緑谷(でも……)
拳を強く握る。
緑谷(僕もあそこに行く)
相澤が淡々と続ける。
相澤「特徴は単純だ」
相澤「一つ一つの能力が高水準」
相澤「それを状況ごとに使い分けている」
緑谷「やっぱり……!」
相澤「しかも──」
一拍。
相澤「複合使用はしていない」
沈黙。
上鳴「……え?」
芦戸「まだ上があるってこと!?」
お茶子「強すぎやろ……」
飯田「単一でも完成度が高い上に」
飯田「複合運用が可能……」
一拍。
飯田「戦術的に見ても、突出している」
七罪は頭をかく。
七罪「なんか言われすぎじゃね?」
上鳴「いや足りねぇよ!!」
芦戸「むしろ怖い!!」
その中で──
爆豪が前に出る。
爆豪「……おい」
七罪が振り向く。
七罪「ん?」
爆豪「テメェ」
低い声。
爆豪「それで終わりだと思ってんじゃねぇぞ」
七罪「終わり?」
爆豪「順位なんざ関係ねぇ」
一歩踏み込む。
地面が弾ける。
爆豪「俺の上にいるって事実がムカつくんだよ」
静まり返るクラス。
七罪は少し考えてから答える。
七罪「……まあ、分かる」
爆豪「は?」
七罪「俺も負けるの嫌いだし」
一拍。
七罪「だから、上にいるだけだ」
爆豪の目が細くなる。
爆豪「ナメてんのか」
七罪「ナメてねぇよ」
七罪「抜けるなら抜いてみろって言ってるだけだ」
沈黙。
爆豪「ぶっ潰す」
七罪が少し笑う。
七罪「来いよ」
視線がぶつかる。
緑谷がそれを見つめる。
緑谷(あの二人……)
一拍。
緑谷(僕も……あそこに並ぶ)
相澤がため息をつく。
相澤「終わりだ」
相澤「次の授業に移る」
──締め──
頂点に立つ者。
それを引きずり下ろそうとする者。
そして──
そこへ這い上がろうとする者。
1-Aの競争は、今この瞬間から本格的に始まった。