──個性把握テストから数日後/1-A教室──
昼下がり。
窓から差し込む光が、教室の床をやわらかく照らしている。
数日前の“試される空気”は薄れ、代わりに少しずつ“クラス”としてのざわめきが出来始めていた。
上鳴「なあ、改めて思うけどさ」
芦戸「ん?」
上鳴「雄英って普通じゃなくね?」
芦戸「それな! 入学初日からあれだよ!?」
上鳴「除籍とか言われた時、マジで終わったと思ったんだけど!」
芦戸「分かる分かる!!」
お茶子「うち、あの時ほんまに泣きそうやったもん……」
上鳴「俺もだよ!?」
飯田「しかし結果的に我々は残った!」
飯田「つまり、それを乗り越えたという事実こそ重要だ!」
上鳴「いやポジティブすぎだろ!」
芦戸「でもさ、なんかさ」
芦戸「ちょっと楽しくなってきてない?」
お茶子「……あー、それは分かるかも」
上鳴「え、マジ? 俺まだ怖いんだけど」
お茶子「でもさ、ちゃんと“ヒーローになる感じ”してきたやん?」
飯田「その通りだ!!」
上鳴「うるせぇ!!」
笑いが起きる。
だが——
窓際。
七罪「……」
静かに外を見ている。
七罪[空気は悪くない]
七罪[雑音も、悪くないな]
七罪[あとは——実戦か]
緑谷が後ろからちらりと見る。
緑谷[やっぱり……雰囲気が違う]
緑谷[あの人、常に戦う前提で動いてる……]
ガラッ。
ドアが開く。
空気が一瞬で張り詰める。
オールマイト「私が来た!!」
上鳴「うおおおお!!」
芦戸「来た来た来た!!」
飯田「オールマイト先生!!」
お茶子「すごいタイミングやな毎回……!」
オールマイト「いい反応だ!! 若者らしい!!」
一歩前に出る。
オールマイト「本日はヒーロー基礎学!!」
オールマイト「内容は——対人戦闘訓練だ!!」
一瞬の静寂。
そして——
ざわっ!!
上鳴「対人!? マジで!?」
芦戸「もう戦うの!?」
お茶子「ちょ、ちょっと待って心の準備が……!」
緑谷「対人戦……個性の相性、戦術、心理……全部が絡む……!」
飯田「ついに来たか……実戦形式……!」
爆豪「……遅ぇんだよ」
ボソッと吐き捨てる。
爆豪「やっとかよ」
七罪[……来たな]
七罪[ようやく測れる]
オールマイトが指を立てる。
オールマイト「今回は移動教室!!」
オールマイト「屋内戦闘施設を使用する!!」
上鳴「施設まであるのかよ!?」
芦戸「本気すぎでしょ雄英!!」
お茶子「うわぁ……緊張してきた……!」
オールマイト「では行くぞ!!」
──移動/施設前──
巨大な建物。
無機質な外壁。
明らかに“戦うための場所”。
上鳴「でっか……いやデカすぎだろこれ!!」
芦戸「ちょっとしたダンジョンじゃん!!」
お茶子「なんか映画みたいやな……」
飯田「実戦環境を再現した施設だろう!」
緑谷「屋内……死角……奇襲……うわ、やれること多すぎる……!」
オールマイト「まずはコスチュームに着替える!!」
上鳴「きたぁぁぁ!!」
芦戸「待ってました!!」
──男子更衣室──
ロッカーが並ぶ。
上鳴「うおっ!! めっちゃカッコいい!!」
切島「いいなこれ!! テンション上がる!!」
爆豪は無言で着替える。
七罪もケースを開く。
中には——
重厚な鎧。
黒いローブ。
七罪[……予想通りだな]
七罪[防御重視、だが機動も確保されてる]
装着。
金属音が響く。
七罪「……問題ない」
上鳴がガン見する。
上鳴「いやいやいやそれ絶対重いだろ!?」
七罪「見た目だけだ」
七罪「可動域は確保されてる」
上鳴「いや信じらんねぇって……!」
切島「でも動きは軽そうだな!」
七罪「止まる装備に意味はない」
爆豪「……ふん」
──女子更衣室──
芦戸「きたきたきた!!」
お茶子「うわっ、軽い!」
芦戸「いいじゃんそれ!」
お茶子「うん! これなら浮かせやすい!」
八百万「機能性重視の設計ですわね」
蛙吹「動きやすいわ」
葉隠「私のもちゃんとあるよー!」
芦戸「ほんと不思議だよねそれ!」
八百万が少し考える。
八百万「……海馬さんの装備も、かなり戦術的でしょうね」
お茶子「強そうやもんなぁ……」
──再集合──
全員が揃う。
ヒーローコスチューム。
上鳴「うお……一気にそれっぽくなったな……」
芦戸「みんなヒーローだよこれ!!」
緑谷「すごい……」
七罪は全員を見る。
七罪[戦力は十分]
七罪[配置次第でどうとでもなる]
──第一戦──
ヒーロー:緑谷・お茶子
ヴィラン:爆豪・飯田
観戦。
上鳴「緑谷いけんのか!?」
芦戸「爆豪相手きつくない!?」
お茶子「大丈夫やで……デク……!」
緑谷「う、うん……!」
戦闘開始。
爆豪「来いデク!!」
ドゴォン!!
緑谷「くっ……!」
お茶子「デク!!」
飯田「冷静に動け!」
爆豪「甘ぇんだよ!!」
七罪[……実力差は明確だな]
結果——ヴィラン勝利。
爆豪「こんなもんか」
──第二戦──
ヒーロー:轟・八百万
ヴィラン:上鳴・耳郎
上鳴「いくぞ耳郎!!」
耳郎「無理すんなよ!」
轟「来るか」
氷展開。
上鳴「うわっ!?」
耳郎「速っ……!」
八百万「こちらです!」
完全連携。
七罪[完成度が高い]
──複数戦──
切島「正面から行くぞ!!」
芦戸「捕まえた!!」
蛙吹「甘いわよ」
戦闘が続く。
七罪は静かに観察。
七罪[全員の癖は把握した]
七罪[出力も十分見えた]
──最終戦前──
オールマイト「次で最後だ!!」
ざわめき。
七罪が前に出る。
七罪「待ってくれ」
全員が振り向く。
上鳴「え?」
芦戸「どうしたの?」
七罪「提案がある」
静かに言う。
七罪「チーム戦、やめないか」
空気が止まる。
七罪「俺一人でいい」
完全な沈黙。
上鳴「は……?」
芦戸「え、ちょっと待って!?」
お茶子「一人って……!?」
爆豪が笑う。
爆豪「……やっと言ったな」
爆豪「最初からそれで来いよ」
轟「本気か」
七罪「本気だ」
八百万「それでは訓練の意義が——」
七罪「成立する」
七罪「“勝てるかどうか”を見るなら十分だ」
切島「いいじゃねぇか!!」
爆豪「四人で潰す」
七罪「そうしてくれ」
オールマイトが腕を組む。
オールマイト「……いいだろう」
オールマイト「条件付きで認める!!」
上鳴「マジかよ!?」
緑谷「四対一……!」
──最終戦/開始直前──
建物内部。
静寂。
七罪「……」
一人、立つ。
七罪[四人]
七罪[正面から捌く意味はない]
七罪[なら——最初に終わらせる]
ゆっくり目を閉じる。
開く。
左目が紫に染まる。
《傲慢》
黒い粒子が——滲む。
──外部──
オールマイト「スタート!!」
爆豪「行くぞォ!!」
ドンッッ!!
爆発で突撃。
轟「……やはり単独か」
八百万「追いますわ!」
切島「置いてかれるな!!」
四人が建物へ向かう。
──建物内部──
七罪「……閉じる」
黒い粒子が一気に拡散。
壁。
床。
天井。
空間そのものを侵食する。
バチッ——
完全封鎖。
その瞬間——
左目が黒に変わる。
《傲慢》《嫉妬》《怠惰》同時発動。
以降、維持。
黒い粒子が常に漂う。
七罪[これでいい]
──入口──
轟たちが入る。
次の瞬間——
上鳴[外から]「うわ!? 閉じた!?」
芦戸「何あれ!?」
轟が壁に触れる。
轟「……抜けられない」
八百万「空間封鎖……!」
切島「マジかよ……!」
──内部全域──
空気が重い。
鈍い。
意識が引きずられる。
轟「……体が重い」
八百万「行動意欲の低下……」
切島「気合が……乗らねぇ……!」
同時に——
轟「個性も弱まっている」
八百万「出力低下……!」
──別通路──
爆豪が進む。
爆豪「……チッ」
火花。
小さい。
爆豪「弱体化か」
爆豪[関係あるか]
爆豪「ぶっ潰す!!」
ドンッ!!
無理やり突破。
──中央通路──
七罪が立つ。
左目は黒。
空間全体に粒子が漂う。
七罪[来る]
盾を生成。
《傲慢》
七罪[迎撃準備完了]
──接敵──
爆豪「見つけたぞォ!!」
煙を裂いて突撃。
爆豪「テメェ!!」
七罪「遅いな」
爆豪「ぶっ飛べ!!」
ドンッ!!
爆発直撃。
だが——
完全防御。
爆豪「……は?」
七罪「軽い」
爆豪「んだとォ!!?」
七罪「その状態で来るなよ」
爆豪「関係あるか!!」
踏み込む。
──瞬間──
七罪が前へ出る。
爆豪の腕を掴む。
七罪「触れた」
左目——黒のまま。
だが内部で切り替わる。
《強欲》
コピー成立。
爆豪「なっ……!?」
七罪[これが爆破か]
七罪「単純だな」
──即カウンター──
七罪、掌を向ける。
バチッ。
爆豪の目が見開く。
爆豪「は?」
ドンッッ!!!
至近距離爆発。
爆豪「ぐっ……!!」
吹き飛ぶ。
壁に激突。
──追撃なし──
七罪は動かない。
七罪[これで理解しただろ]
爆豪が立ち上がる。
爆豪「……はは」
爆豪「面白ぇ」
爆豪「なら——」
爆豪「本気で行く」
──再突撃──
だが——
遅い。
重い。
七罪は冷静。
七罪[怠惰が効いてる]
七罪[嫉妬で出力も落ちてる]
七罪が先に動く。
爆発で加速。
ドンッ!!
爆豪の横へ。
爆豪「!?」
七罪「遅い」
ドンッ!!
再度爆発。
爆豪を吹き飛ばす。
──その時──
轟「そこか」
氷が走る。
八百万「援護します!」
切島「間に合った!!」
三人合流。
──対峙──
四人 vs 一人。
だが——
空間は黒。
支配下。
七罪「遅かったな」
轟「……随分やるな」
八百万「この環境……厄介ですわ」
切島「でも関係ねぇ!!」
爆豪「……最初から全員で潰す」
七罪「来い」
左目は黒のまま。
粒子が揺らぐ。
七罪「ここはもう——俺の戦場だ」
──中央フロア/交戦継続──
爆発の残煙が揺れる。
黒い粒子が、空間に満ちている。
重い。
鈍い。
だが——
その中で、さらに異質な光。
バチッ。
七罪の掌から、火花が散る。
轟「……待て」
轟の目が細くなる。
轟「その爆発……」
八百万「……え?」
切島「どうした?」
七罪が、何気なく掌を振る。
ドンッ!!
小規模な爆発。
だが、その“質”が——
完全に同じ。
轟「……爆豪の個性だ」
沈黙。
八百万「……そんな、まさか……」
切島「は? いやいや待てって」
切島「なんでだよ!?」
爆豪「……気づいたか」
低く笑う。
爆豪「コイツ、触れてコピーしやがる」
八百万「コピー……!?」
轟「……個性複製型か」
轟の視線が鋭くなる。
轟「だが——」
轟「さっきまで使っていなかった」
轟「つまり、条件付きだ」
七罪「正解だ」
平然と答える。
七罪「触れた相手の個性を使う」
七罪「今はこいつのだ」
軽く顎で爆豪を示す。
八百万「……そんな……」
八百万「それでは戦術の前提が崩れますわ……!」
切島「やべぇだろそれ!!」
切島「どうすりゃいいんだよ!?」
轟「……いや」
轟が冷静に言う。
轟「無制限ではないはずだ」
轟「でなければ、最初から使っている」
一拍。
轟「何か制約がある」
七罪「あるな」
あっさり認める。
七罪「一人だけだ」
七罪「コピーは一つ」
七罪「時間制限もある」
八百万「……!」
轟の目がさらに鋭くなる。
轟「つまり——」
轟「今は爆豪の個性しか使えない」
七罪「そういうことだ」
爆豪が笑う。
爆豪「ははっ!!」
爆豪「なら話は早ぇな!!」
爆豪「俺の土俵だろ!!」
七罪「違うな」
即答。
七罪「ここは俺の戦場だ」
黒い粒子が、さらに濃くなる。
怠惰と嫉妬が、じわりと削る。
切島「くそ……!」
切島「体が重ぇ……!」
八百万「思考も鈍っています……!」
轟「……厄介だ」
轟「領域内での戦闘は不利」
爆豪「関係ねぇ!!」
ドンッ!!
突撃。
七罪も同時に動く。
ドンッ!!
爆発と爆発がぶつかる。
──衝突──
爆豪「落ちろォ!!」
七罪「無理だな」
爆豪「なんでだよ!!」
七罪「出力が違う」
爆豪「は!?」
七罪「お前は弱体化してる」
七罪「俺はしてない」
一拍。
七罪「同じ個性でもな」
爆豪の顔が歪む。
爆豪「……チッ!!」
──後方──
八百万「……つまり、彼は環境で優位を作り」
八百万「その上で個性を奪い、さらに同等以上の出力で使用している……」
八百万「……最悪ですわね」
切島「でもよ!!」
切島「やるしかねぇだろ!!」
切島「止まってたら終わりだ!!」
轟「……ああ」
轟が構える。
轟「条件は見えた」
轟「なら——崩せる」
七罪がそれを聞く。
七罪「やってみろ」
七罪「できるならな」
──再編成──
轟「役割を分ける」
轟「爆豪が前」
轟「切島が盾」
轟「八百万が支援」
轟「俺が制圧」
八百万「了解ですわ!」
切島「任せろ!!」
爆豪「言われなくても行く!!」
──七罪──
黒い粒子の中心。
静かに構える。
七罪[いいな]
七罪[ようやく“戦い”になってきた]
七罪「来いよ」
──四対一、本格戦術戦へ。
──中央フロア/最終局面──
黒い粒子に覆われた空間。
重い。
鈍い。
だが——
轟「……目的を切り替える」
低く言う。
轟「敵じゃない」
轟「爆弾だ」
爆豪「はっ、最初からそうだろ」
切島「一直線だな!!」
八百万「なら——ルートを作ります!」
──即時再編──
轟が手を振る。
氷が走る。
床を凍らせ、一直線の道を形成。
八百万「滑走補助、入れます!」
小型のグリップ装置を生成、足元に装着。
切島「前は任せろォ!!」
硬化、先頭へ。
爆豪「遅れんなよ!!」
ドンッ!!
爆発加速。
四人、一直線に突っ込む。
──七罪──
爆弾の前。
動かない。
七罪[狙いは変わった]
七罪[なら、処理も単純だ]
一歩、位置をずらす。
爆弾と——自分を一直線に重ねる。
七罪「来い」
──突入──
境界を越えた瞬間——
ズンッ……
空気が落ちる。
切島「ぐっ……!!」
爆豪「チッ……重ぃ!!」
八百万「思考が……遅い……!」
轟「……止まるな」
だが、進む。
──迎撃──
七罪、動く。
最小動作。
ドンッ!!
爆破。
先頭の切島へ直撃。
切島「があっ!!」
吹き飛び——だが踏みとどまる。
切島「まだ行ける!!」
爆豪が横を抜く。
爆豪「どけェ!!」
ドンッ!!
最大加速。
七罪、盾。
ガキィィン!!
受ける。
爆豪「抜ける!!」
押し込む。
だが——
七罪「無理だ」
角度をずらす。
爆豪の軌道が逸れる。
──同時──
轟「止める」
氷壁、展開。
左右から挟み込む。
七罪の動線を制限。
八百万「今です!!」
ワイヤー射出。
バシュッ!!
拘束を狙う。
──一瞬の好機──
爆豪が、爆弾へ一直線。
あと数メートル。
爆豪「届く……!!」
──七罪──
七罪[一手遅い]
踏み込む。
最短距離。
ドンッ!!
爆発で加速。
爆豪の“内側”へ潜り込む。
爆豪「なっ——!?」
至近。
七罪「触らせない」
ドンッッ!!
爆豪、弾き飛ばされる。
壁へ激突。
──崩れ──
切島「爆豪ォ!!」
足が止まる。
その瞬間——
ドンッ!!
切島にも追撃。
吹き飛び、床に転がる。
八百万「……っ!」
判断が遅れる。
ワイヤーのタイミングがズレる。
七罪が一歩引く。
すべて回避。
轟、最後に残る。
氷を構える。
轟「……まだだ」
七罪「来るか」
轟、踏み出す。
だが——
ズンッ……
足が、重い。
一瞬の遅れ。
七罪、接近。
盾で氷を弾き——
懐へ。
轟「……!」
動けない。
ピタッ。
手が、胸元で止まる。
テープ圏内。
完全に入っている。
七罪「終わりだ」
──静寂──
四人、倒れる。
動けない。
爆弾は——そのまま。
──外部──
オールマイトが腕を組む。
オールマイト「……決着だ」
──内部──
黒い粒子が、ゆっくり薄れていく。
七罪が一人、立つ。
七罪「……30分もいらないな」
一言。
──結果──
ヴィラン側勝利。
──観戦室──
モニターに映る、静まり返った中央フロア。
黒い粒子が消え、七罪だけが立っている。
沈黙。
上鳴「……マジかよ」
芦戸「四人で……勝てないの……?」
お茶子「……強すぎるやろ……」
緑谷「……違う」
小さく、だがはっきりと。
全員が振り向く。
緑谷は画面を見たまま、言う。
緑谷「あの人は……強いんじゃない」
緑谷「“勝つ配置しか取ってない”んだ」
一同「……?」
緑谷「まず、戦う場所を限定した」
緑谷「逃げられない、距離も取れない」
緑谷「それだけで相手の選択肢を削ってる」
緑谷「その上で——」
緑谷「近づいたら弱くなる」
緑谷「動きも鈍る」
緑谷「つまり」
緑谷「“勝つための条件”を先に作ってから戦ってる」
芦戸「なにそれ……ずるくない?」
緑谷「ううん」
首を振る。
緑谷「それが一番合理的なんだと思う」
緑谷「しかも——」
緑谷の目が鋭くなる。
緑谷「攻めてない」
上鳴「は?」
緑谷「爆弾の前から、ほとんど動いてない」
緑谷「迎撃だけで全部処理してる」
緑谷「……つまり」
一拍。
緑谷「“相手に戦わせてる”」
静寂。
オールマイト「その通りだ」
低く、しかしはっきりと。
オールマイトが前に出る。
オールマイト「彼の戦い方は極めて理にかなっている」
オールマイト「ヒーローは“動く側”だ」
オールマイト「救助、制圧、突破——」
オールマイト「必ず“目的のために動く”」
オールマイト「だが彼は違う」
モニターを見る。
七罪が、静かに立っている。
オールマイト「動かない」
オールマイト「動かずに、相手を動かす」
オールマイト「その結果——」
オールマイト「相手が“崩れる”」
飯田「……なんという戦術だ……」
オールマイト「そしてもう一つ」
少しだけ、声が低くなる。
オールマイト「彼は——“最適解を迷わない”」
緑谷「……!」
オールマイト「普通は躊躇する」
オールマイト「攻めるか、防ぐか、助けるか」
オールマイト「判断が遅れる」
オールマイト「だが彼は違う」
オールマイト「最初から最後まで」
オールマイト「“守る”という一点に最適化している」
静寂。
お茶子「……ヒーローと、真逆やね……」
オールマイト「……ああ」
小さく頷く。
オールマイト「だが——」
一拍。
オールマイト「それが“ヴィランとして最適”だ」
緑谷の手が、無意識に握られる。
緑谷[あの人は……]
緑谷[状況を作って、選択肢を奪って、勝つ]
緑谷[正面からじゃない]
緑谷[でも——]
緑谷[負けない戦い方だ]
モニターの中。
七罪がゆっくりと歩き出す。
その背中を見ながら——
オールマイト「覚えておけ、少年少女たち」
オールマイト「“強さ”とは、力だけではない」
オールマイト「状況を支配する者こそ——」
オールマイト「戦場を制する」
──静かに、次の授業へと繋がっていく。