大罪背負いしヒーローアカデミア   作:Ks5118

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第5話 USJ襲撃事件〈前編〉

 バスの揺れに合わせて、小さく身体を預けながら海馬七罪は窓の外を眺めていた。

 

「なぁ海馬! 今日の訓練ってさ、結構ガチなやつだよな!」

 

「ガチじゃない訓練のほうが少ないだろ」

 

「いやそうなんだけどよ! なんかこう……雰囲気がさ!」

 

 切島のテンションに、七罪は小さく息を吐く。

 

「事故前提で動け。救助訓練はそういうもんだ」

 

「うわ出た、現実的なやつ!」

 

「現実で動くのがヒーローだろ」

 

 軽く返しながら、視線をクラスへ向ける。

 

「……緑谷」

 

「あ、海馬くん!」

 

「指、まだ無理だろ」

 

「え、いや、だ、大丈夫! 動くし!」

 

「“動く”と“使える”は違う」

 

「うっ……」

 

「無茶するな。次壊したら今度は戻らないかもしれないぞ」

 

「……うん」

 

 少しだけ強めに言うと、緑谷は素直に頷いた。

 

 その時。

 

「緑谷ちゃん」

 

 蛙吹の声が響く。

 

「あなたの個性、オールマイトに似てる」

 

「え!? あ、えっと……」

 

 空気が止まる。

 

 七罪は静かに口を開く。

 

「似てるってだけだろ」

 

「海馬ちゃん?」

 

「オールマイトは戦って壊れてない。そこが決定的に違う」

 

「……ケロ、それもそうね」

 

「ご、ごめん緑谷ちゃん!」

 

「ううん! 大丈夫!」

 

 緑谷がほっとした顔で七罪を見る。

 

「海馬くん、ありがと」

 

「別に庇ったわけじゃない。事実を言っただけだ」

 

「それでもだよ」

 

「……そうか」

 

 軽く視線を逸らした。

 

 バスがゆっくりと停車し、エンジン音が静かに落ちていく。

 

「着いたぞ、降りろ」

 

 相澤先生の声で、クラスが一斉に立ち上がった。

 

「よっしゃああああ!!」

 

「テンション高いわね上鳴!」

 

「いやだって見ろよ外!!」

 

「怪我すんなよ」

 

 七罪は淡々と一言。

 

「それ毎回言ってね?」

 

 切島が笑う。

 

「毎回必要だから言ってる」

 

「雑!」

 

 外へ出た瞬間──

 

「うおおおおおおお!!」

 

 歓声が上がる。

 

 目の前に広がるのは、巨大なドーム型施設。

 

 水が渦巻くエリア、瓦礫の山、燃え続ける炎、降り続く雨。

 

「すっご……!」

 

「これ全部災害再現!?」

 

「やば、テーマパークじゃん!」

 

「……よく出来てるな」

 

 七罪は静かに全体を見渡す。

 

「もう分析してんのかよ」

 

 上鳴が呆れる。

 

「構造把握は基本だ」

 

「いやまず感動しろよ!」

 

「必要ない」

 

「ブレねぇな!」

 

 その時。

 

「皆さん、ようこそ」

 

 穏やかな声が響く。

 

 視線を向けると、宇宙服のようなスーツの人物が立っていた。

 

「おおお!!」

 

「13号先生だ!!」

 

「本物!?」

 

 緑谷と麗日が前に出る。

 

 13号が軽く頭を下げる。

 

「私は13号です。本日は救助訓練に来てくれてありがとうございます」

 

「よろしくお願いします!!」

 

「13号先生! 質問いいですか!?」

 

「ええ、どうぞ」

 

「個性ってブラックホールですよね!? どれくらい──」

 

「緑谷、近い」

 

「え!? あ、ごめん!」

 

 七罪の一言で緑谷が下がる。

 

 13号は少し笑った。

 

「私の個性は“ブラックホール”。触れたものを吸い込み、分解する力です」

 

「分解って……やばくないか?」

 

 切島が言う。

 

「ええ、とても危険です」

 

 空気が少し引き締まる。

 

「ヒーローの力は、一歩間違えれば人を傷つけ、命を奪います」

 

「……」

 

 クラスが静かになる。

 

「だからこそ、皆さんには“使い方”を学んでほしいのです」

 

「はい!」

 

 緑谷が頷く。

 

「……いい話だな」

 

 七罪が小さく呟く。

 

「お、珍しく素直」

 

「聞くべき話は聞く」

 

「はいはい優等生」

 

 その時。

 

 ぴょん、と芦戸が前に出る。

 

「ねぇ13号先生!」

 

「はい?」

 

「相澤先生と付き合ったりしないんですか!?」

 

「「……は?」」

 

 一瞬で空気が凍る。

 

「お前急に何言ってんだ!?」

 

 上鳴がツッコむ。

 

「いやだって雰囲気あるじゃん!」

 

「どこに!?」

 

 一方で。

 

 13号と相澤は完全に固まっていた。

 

「…………」

 

「…………」

 

「……そ、そういうのは」

 

 13号が視線を逸らす。

 

「同僚だ」

 

 相澤もぶっきらぼうに言う。

 

 だが。

 

 二人とも、ほんのり顔が赤い。

 

「えー絶対なんかあるって!」

 

「ない」

 

「即答!?」

 

「即答だ」

 

「怪しい〜!」

 

「やめろ芦戸」

 

「海馬もそう思うでしょ!?」

 

 急に振られる。

 

「……」

 

 七罪は一瞬二人を見る。

 

 状況、空気、周囲の視線。

 

 そして。

 

「……その話は後にしろ」

 

「えー」

 

「今は訓練前だ」

 

 淡々と、だが少しだけ強めに言う。

 

「空気が緩みすぎてる」

 

「……」

 

 クラスが少し静かになる。

 

「切り替えろ」

 

「……はい」

 

 芦戸も少しだけ真面目な顔になる。

 

 その沈黙の中。

 

「……」

 

 13号がちらりと相澤を見る。

 

 相澤も一瞬だけ視線を返す。

 

 ほんの短い間。

 

「……その」

 

 13号が小さく口を開く。

 

「今回の訓練が終わったら……その、少し時間を」

 

「……」

 

 クラスが一斉に静かになる。

 

 相澤は少しだけ間を置いて──

 

「……ああ」

 

 短く答えた。

 

「え!?!?」

 

「マジ!?」

 

「今のそういう流れ!?」

 

 上鳴が叫ぶ。

 

「やっぱりじゃん!!」

 

 芦戸がガッツポーズ。

 

「お前のせいだぞ」

 

 相澤がぼそっと言う。

 

「え、私のおかげじゃないですか!?」

 

「違う」

 

「違くないでしょ!?」

 

「……」

 

 13号は少しだけ顔を赤くしたまま、軽く咳払いする。

 

「で、では訓練の説明に戻りますね」

 

「はい!!」

 

 クラスが妙に元気よく返事をする。

 

 七罪はその様子を見て、小さく息を吐いた。

 

「……余計なノイズが増えたな」

 

「いやイベント発生したぞ今!?」

 

「関係ない」

 

「冷てぇ!」

 

 その時。

 

 七罪の視線が中央へ向く。

 

「……?」

 

 違和感。

 

 ほんの僅かな“ズレ”。

 

「海馬?」

 

 切島が気づく。

 

「どうした?」

 

 七罪は答えない。

 

 目を細める。

 

 一点を見据える。

 

「おいどうしたって」

 

「なんかあんのか?」

 

「……」

 

 沈黙。

 

 次の瞬間。

 

 ズズズッ……

 

 中央に、黒い霧が滲むように現れ始めた。

 

「お、おお?」

 

「なにあれ?」

 

「演出じゃね!?」

 

 上鳴が笑う。

 

「そうそう、こういうサプライズ的な!」

 

「リアルだなー!」

 

「最初から始まってるパターンか?」

 

 クラスの数人がざわつく。

 

 だが──

 

「……違う」

 

 低い声。

 

 全員の空気が一瞬で変わる。

 

 相澤先生が前に出る。

 

 その目は完全に戦闘のそれだった。

 

「動くな」

 

「え?」

 

「先生?」

 

「訓練じゃない」

 

 一言で、場の空気が凍る。

 

「は……?」

 

「え、マジで?」

 

「冗談だろ……?」

 

 七罪が一歩前に出る。

 

「……ああ」

 

 短く肯定する。

 

「ヴィランだ」

 

「は!?」

 

「ここに!?」

 

「なんでだよ!?」

 

 黒霧がゆっくりと広がる。

 

 中から現れる人影。

 

 明確な“敵意”。

 

「……確定だ」

 

 七罪が静かに言う。

 

「空気が違う」

 

「え、ちょ、ちょっと待てよ!」

 

 上鳴が声を荒げる。

 

「これマジのやつ!?」

 

「マジだ」

 

 相澤が即答する。

 

「13号、生徒を守れ」

 

「はい!」

 

「先生一人で!?」

 

 緑谷が叫ぶ。

 

「問題ない」

 

「でも相手多いですよ!?」

 

「数は関係ない」

 

 その言葉と同時に。

 

 ゴーグルを装着する。

 

「プロを舐めるな」

 

 空気が完全に戦闘へ切り替わる。

 

「……」

 

 七罪は霧を見据える。

 

「厄介だな」

 

「海馬……どうする?」

 

 切島が聞く。

 

「まずは散らされる」

 

「は?」

 

「ワープ系だ」

 

「マジかよ!?」

 

「来るぞ」

 

 その瞬間。

 

 黒霧が一気に膨張する。

 

「させませんよ」

 

 低く、静かな声。

 

「私の役目は──貴方達を散らすこと」

 

 足元が消えた。

 

「え?」

 

「な、なんだこれ!?」

 

「引っ張られる!!」

 

 地面に立っている感覚がなくなる。

 

 身体が、下に沈む。

 

 いや、どこに落ちているのかも分からない。

 

「ちょっと待てって!!」

 

「うわああああ!!」

 

 視界が歪む。

 

 音が遠のく。

 

 上下も距離も、全部壊れる。

 

「海馬!!」

 

 誰かの声がした。

 

 だが、七罪はその時すでに理解していた。

 

「……来たか」

 

 左目に、青い粒子が灯る。

 

「──『暴食』」

 

 空間に触れる。

 

 正確には、“空間の繋がり”に触れる。

 

「……これだな」

 

 黒い流れ。

 

 ワープの“通り道”。

 

 それを──

 

 喰らう。

 

 ズンッ──

 

「っ!?」

 

「え……?」

 

「止まった……!?」

 

 七罪の周囲。

 

 ほんの数メートルの範囲だけ。

 

 沈み込みが、止まる。

 

「なに……これ……?」

 

 尾白が戸惑う。

 

「足が……抜けた……?」

 

 飯田が驚く。

 

「海馬君……まさか……!」

 

 障子も気づく。

 

 七罪は一歩踏み出す。

 

「動くな」

 

 低く言う。

 

「今、無理に動くと引きずられる」

 

「は、はい!」

 

「了解だ!」

 

「……」

 

 七罪はさらに集中する。

 

「範囲を維持……」

 

 青い粒子が強く揺れる。

 

 その時。

 

 近くで。

 

「……すみません……!」

 

 13号が膝をつく。

 

 スーツが破損し、動きが鈍い。

 

「13号先生!」

 

「まずい……このままだと……!」

 

 再び、引きずられる力。

 

「くっ……!」

 

 七罪が舌打ちする。

 

「……範囲、拡張」

 

 左目の青が一段強くなる。

 

「入れ」

 

 短く言う。

 

「この中に寄れ」

 

 飯田が即座に反応する。

 

「全員、海馬君の近くへ!」

 

「了解!」

 

「急げ!」

 

 尾白と障子が13号を支える。

 

 ズズッ──

 

 その瞬間。

 

 他のクラスメイト達が一斉に沈む。

 

「うわああああ!!」

 

「助けて──!!」

 

「切島あああ!!」

 

 声が消える。

 

 次々と、姿が消える。

 

 完全に、別エリアへと飛ばされていく。

 

 だが。

 

 七罪の周囲だけ。

 

 空間が歪みながらも──

 

 耐えている。

 

「……なるほど」

 

 黒霧の声が変わる。

 

 明確な驚き。

 

「私のワープに……干渉している?」

 

 霧がわずかに揺れる。

 

「複数人を同時に……?」

 

 七罪は答えない。

 

 ただ集中する。

 

「……維持……」

 

 足元の黒を削るように、喰らい続ける。

 

「化け物か……?」

 

 尾白が思わず呟く。

 

「集中しろ」

 

 七罪が短く言う。

 

「まだ終わってない」

 

 その瞬間。

 

 黒霧の圧が変わる。

 

「対象を……固定」

 

 ズンッ──

 

「っ!!」

 

 今度は、強制的な力。

 

 完全な転移ではない。

 

「……なるほど」

 

 七罪が呟く。

 

「無理に飛ばさないか」

 

「え……?」

 

 飯田が聞く。

 

 次の瞬間。

 

 ドンッ!! 

 

 全員の身体が地面に叩きつけられる。

 

「ぐっ……!」

 

「ここは……!」

 

 視界が戻る。

 

 そこは──中央広場。

 

 最初の地点。

 

「……配置変更」

 

 黒霧が静かに言う。

 

「飛ばせないなら……残す」

 

 その先。

 

 無数のヴィラン。

 

 その中心に。

 

 死柄木弔。

 

 そして──

 

「くっ……!」

 

 単独で戦っている相澤先生。

 

 すでに何人も倒しているが、数が多い。

 

「先生……!」

 

 飯田が叫ぶ。

 

「……やはりか」

 

 七罪が立ち上がる。

 

 黒霧が言う。

 

「予想外です」

 

 明確な驚き。

 

「学生が、ここまで私の個性を防ぐとは」

 

 七罪は視線を向ける。

 

「完全じゃない」

 

 淡々と返す。

 

「だが、止められる」

 

 死柄木が笑う。

 

「はは……」

 

 首を掻きむしる。

 

「マジでムカつくな」

 

 ゆっくりと手を上げる。

 

「じゃあさ」

 

 視線が七罪に刺さる。

 

「お前から壊す」

 

 空気が一変する。

 

 七罪は構える。

 

 左目の青が揺れる。

 

「……来るぞ」

 

 七罪の一言と同時に。

 

「潰せ」

 

 死柄木弔が軽く手を振る。

 

 その合図で──

 

 ヴィラン達が一斉に動いた。

 

「うおおおおお!!」

 

「行くぞォ!!」

 

「囲め!!」

 

「っ……!」

 

「数が多すぎる!」

 

 尾白が構える。

 

「どうする海馬!?」

 

「前に出るな」

 

 即答だった。

 

「は?」

 

「無駄に消耗する」

 

 七罪が一歩前へ出る。

 

 左目に青い粒子。

 

「まず削る」

 

「削るって……どうやって!?」

 

「見てろ」

 

 静かに言う。

 

 次の瞬間。

 

 七罪の足元に黒い粒子が広がる。

 

「──『傲慢』」

 

 紫の粒子が混ざる。

 

 左目が黒に染まる。

 

 複数使用。

 

 空間が歪む。

 

「なっ……!」

 

 尾白が息を呑む。

 

 七罪の手に、黒い剣が生成される。

 

 さらに──

 

 背中から黒い翼が展開。

 

「飛ぶのか!?」

 

「いや」

 

 七罪が低く言う。

 

「制圧する」

 

 ダンッ!! 

 

 地面を蹴る。

 

 一瞬で距離を詰める。

 

「はっや!?」

 

 尾白の声が遅れる。

 

 ドゴォッ!! 

 

 最前列のヴィランが吹き飛ぶ。

 

「ぐあっ!?」

 

「なんだこいつ!?」

 

「学生じゃねぇのかよ!」

 

 七罪は止まらない。

 

「──邪魔だ」

 

 ブンッ!! 

 

 黒剣が振るわれる。

 

 だが斬撃ではない。

 

 衝撃で吹き飛ばす。

 

「殺さない……!」

 

 飯田が気づく。

 

「制圧に徹しているのか!」

 

「当然だ」

 

 七罪が言う。

 

「ここは“訓練場”だ」

 

 その言葉と同時に。

 

 背後から攻撃。

 

「死ねぇ!!」

 

 鉄パイプが振り下ろされる。

 

 だが──

 

「遅い」

 

 ガシッ。

 

 七罪が片手で受け止める。

 

「なっ!?」

 

「力の差、理解しろ」

 

 ドンッ!! 

 

 腹に一撃。

 

 ヴィランが沈む。

 

「す、すげぇ……!」

 

 尾白が思わず呟く。

 

「今のうちだ!」

 

 飯田が動く。

 

「障子君、13号先生を!」

 

「任せろ!」

 

 障子が即座に動く。

 

「尾白君は援護を!」

 

「おう!」

 

 連携が回り始める。

 

 その様子を見て。

 

 黒霧が静かに言う。

 

「……統率まで取れるとは」

 

「厄介ですね」

 

 死柄木が苛立つ。

 

「うるせぇな……」

 

 首を掻きむしる。

 

「だったらさ」

 

 一歩前に出る。

 

「俺が直接やる」

 

 空気が変わる。

 

「……来るぞ」

 

 七罪が呟く。

 

 視線がぶつかる。

 

 死柄木と、七罪。

 

「お前」

 

 死柄木が笑う。

 

「さっきからムカつくんだよ」

 

「そうか」

 

 七罪は淡々と返す。

 

「俺もだ」

 

 一瞬の沈黙。

 

 次の瞬間──

 

 ドンッ!! 

 

 再び正面から激突する。

 

 死柄木弔の手が一直線に七罪の胸元へ伸びる。

 

「今度こそ──終わりだ」

 

 ガシッ。

 

 確実に触れる。

 

 五本の指が、完全に。

 

 だが。

 

 何も起きない。

 

 黒い粒子の装甲が、静かにそれを受け止めている。

 

「……は?」

 

 死柄木の動きが止まる。

 

「だから言っただろ」

 

 七罪が低く言う。

 

「届かない」

 

 ドンッ!! 

 

 至近距離からのカウンター。

 

「ぐっ……!」

 

 死柄木が弾き飛ばされる。

 

 地面を滑りながら距離を取る。

 

「……クソが」

 

 立ち上がる。

 

 首を掻きむしる。

 

「なんだよそれ……」

 

 視線が七罪に突き刺さる。

 

「チートかよ……」

 

 七罪は一瞬、間を置く。

 

 そして。

 

「ああ」

 

 あっさりと肯定する。

 

「チートだな」

 

「……は?」

 

 死柄木が固まる。

 

「否定しねぇのかよ」

 

「事実だからな」

 

 淡々と返す。

 

「強い個性は、それだけで理不尽だ」

 

「使えるなら使う、それだけだ」

 

 沈黙。

 

 一瞬の静寂。

 

 そのあと──

 

「……はは」

 

 死柄木が笑う。

 

 だが、その笑いは明らかに歪んでいる。

 

「いいじゃん」

 

 首を掻きむしる。

 

「そういうの、好きだわ」

 

 ゆっくりと後ろへ手を振る。

 

「黒霧」

 

「はい」

 

「アレ出せ」

 

 黒霧が一瞬だけ沈黙する。

 

「……よろしいのですか」

 

「いいから」

 

「コイツ、普通じゃねぇ」

 

 七罪がわずかに目を細める。

 

「……何を出す気だ」

 

 黒霧の霧が、ゆっくりと開く。

 

「──来なさい」

 

 その奥から。

 

 ズズッ……

 

 重い足音。

 

 空気が変わる。

 

 圧が、違う。

 

「……なんだ、あれ」

 

 尾白が思わず呟く。

 

「人……なのか……?」

 

 飯田も言葉を失う。

 

 現れたのは。

 

 露出した脳。

 

 異様に膨れ上がった筋肉。

 

 感情のない目。

 

「────」

 

 声にならない声。

 

「……なるほど」

 

 七罪が呟く。

 

「それが切り札か」

 

 死柄木が笑う。

 

「そうだよ」

 

「オールマイトを殺すために用意したやつだ」

 

「脳無」

 

 その名前が落ちる。

 

「っ……!」

 

 飯田の表情が変わる。

 

「対オールマイト用……!?」

 

「そんなものを……!」

 

 死柄木が指を差す。

 

「潰せ」

 

 瞬間。

 

 ドンッ!! 

 

 地面が砕ける。

 

 脳無が消える。

 

「っ……!」

 

 七罪の視界から、一瞬で消失。

 

 次の瞬間。

 

 ゴォッ!! 

 

 目の前。

 

「──速いな」

 

 七罪が呟く。

 

 ドゴォンッ!! 

 

 拳が叩き込まれる。

 

 だが──

 

 ガキンッ!! 

 

 黒い装甲がそれを受け止める。

 

 衝撃が地面に流れる。

 

「……ほう」

 

 七罪の足元がめり込む。

 

 だが、崩れない。

 

「それでも、届かない」

 

 脳無は止まらない。

 

 連続で拳を叩き込む。

 

 ドガガガガガ!! 

 

「くっ……!」

 

 尾白が叫ぶ。

 

「押されてる!?」

 

「いや……違う!」

 

 障子が見抜く。

 

「耐えている……!」

 

 七罪は一歩も引かない。

 

「……硬いな」

 

 低く呟く。

 

「だが──」

 

 左目の黒が強く揺れる。

 

「壊せないわけじゃない」

 

 脳無の拳を掴む。

 

 ギリッ……

 

「──捕まえた」

 

 死柄木が笑う。

 

「いいねぇ」

 

「そのままやり合えよ」

 

 七罪が一言。

 

「望むところだ」

 

 そのまま。

 

 力と力が、真正面からぶつかり合う。

七罪の第一ヒロイン

  • 渡我 被身子
  • 芦戸 三奈
  • 葉隠 透
  • 八百万 百
  • 耳郎 響香
  • 蛙吹 梅雨
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