想伝・仮面ライダーガッチャード Unstaked memory 作:ホームズの弟子見習い
ちなみに仮題は「富良洲高校学園祭準備編」でした。言うほど準備してないのは御愛嬌。
「はああああああああっっっっっ!!!」
「うおおおおおおおおおおっっっっっ!!!」
ガッチャードとマジェードの拳がぶつかり合った瞬間、彼等を中心に風圧がかかった。襲いかかってくる風圧に、思わずミナト達は顔を覆う。
「な、なんつう勢いだよ!!」
「す、凄い……! 仮面ライダーの戦いって、こんなにスケールが半端ないの!?」
「や、やべえぞこいつぁ……!!」
康祐、杏那、八神が三者三様に今の状況に対して感想を漏らす。ミナトも剣を地面に刺して、その場に
「Oh! これはなかなかヘビーだね!」
「ファイヤーガッチャードへフォームチェンジしたことで、勢いは一ノ瀬の方に傾いている……! だが、このまま上手くいくとは思えない……!」
ガッチャードが蹴り回そうとすれば、マジェードがそれを腕で防ぐ。反対にマジェードが拳を突き出せば、ガッチャードが掌でそれを受け止める。
瞬間的に繰り出される攻防に、普段のライダーの戦いを見慣れていない康祐達は思わず戦慄した。
「お、おいおい……二人のパンチやキックが全然見えないぞ……」
「うん……まるで漫画とかアニメを観てるみたい……」
「安心しろ、俺もここまでの攻防を繰り出すとは思わなかった……。俺もお前達と同じだ」
思わず顔を引き攣らせる康祐達高校生組に、ミナトも同じ気持ちだと励ます。ジョージは変わらず、目を輝かせて観戦していた。
一分にも満たない百を越える攻防が経つと、二人は同時に後方転回で距離を取る。二人は十数秒互いを見やると、同時に駆け出す。だが瞬間的な速度は、ガッチャードに分があった。直線的な速度で駆け出したガッチャードの右ストレートは、マジェードの頬に見事突き刺さった。顔面にパンチを喰らったマジェードは思いきり吹き飛び、地面を擦り減らす程のものだった。
「あ………ぐ………うう……。はあ、はあ、はあ……」
顔面に喰らった右ストレートのおかげで、頭がクラクラする。なんとか立ち上がるも、ファイヤーガッチャードに変身した宝太郎の力は、今の自分ではくらいつくのが精一杯だと、マジェードは冷静に分析する。
フラフラと体を揺らしながらも、眼前にいるガッチャードに目を背けることはない。この逆境の中、戦局をどう切り抜けるかが今の自分の脳内を埋め尽くしていた。
「九堂……まだ続けるのかよ……!」
苦虫を噛み潰すように、ガッチャードは吐き捨てる。そんな彼に対し、マジェードはフッ、と仮面の下で笑みを浮かべ「当然でしょ」と短く返す。
「私はまだ戦えるんだよ……? それとも、一ノ瀬はそんなに意気地なしだったの?」
その言葉を訊いたミナトは、自分の頭の中に違和感が生じた。直後、考え込む仕草をとりだした。
「おや? どうしたんだいTeacherミナト? 何か考えてるみたいだけど……」
ミナトが考え込んだのを見たジョージが確認するように問いかける。ミナトは「いや、ちょっと……」と濁したような回答をとる。
「九堂には、最初に変身したサンユニコーンと、今戦っているフォームのムーンケルベロスの他にも戦闘フォームがあるんだ。その名もトワイライトマジェード。我々が戦った冥黒の三姉妹の長女、アトロポスの魂が合わさった闇の錬金術と我々の使う錬金術を融合させたもので、九堂が変身するマジェードの中では最強の力を持つ。何故九堂はトワイライトマジェードに変身しないんだ……?」
「なるほど、そんなフォームが……」
ミナトからトワイライトマジェードの話を訊いたジョージは、互いに対面しているガッチャードとマジェードへ視線を向け、考える。そして至った結論を口にする。
「おそらく、変身できないんじゃないかな?」
「変身できない……? 一体それはどういう……?」
ジョージの立てた結論に、隣で聞き耳を立てていた八神が訊く。ジョージは人差し指をたて、「つまりだね……」と説明を始める。
「そのトワイライトマジェードに変身するためには、そのアトロポスとやらの魂が宿った錬金術の力と、自身が使う錬金術の力を合わせるんだろう? その魂は今、悪魔化している彼女を拒んでいるんだと思うよ」
「魂が、拒んでいる?」
ジョージの推測に、ミナトが困惑する。ジョージはさも当然かのような表情で、「別におかしなことと思わないじゃないでしょう?」と逆に訊き返す。
「君達が使う錬金術なんて、私から見ても充分超常現象の類ですよ。勿論、我々ブルーバードが取り締まっているバイスタンプも、一般人から見れば同じだ。寧ろ魂の存在がそばにあるという錬金術の方が、まだオカルトながらも身近に感じられるでしょうね」
「…………確かに、そうかもしれないな」
ジョージの立てた推測に、ミナトも納得する。実際、りんねから話を訊いた時はケミーという存在は勿論、アトロポスの出生経緯を踏まえればむべなるかなと思ったものだ。
横で話を訊いていた三人も、少々頭を混乱した状態ながらも事情は飲み込めたような顔を見せている。
「つまり九堂さんは本気で戦っているけど、悪魔化しているから全力で戦えてない……そういうことですね」
今のりんねを一言で杏那が纏めると、ジョージはにっこりと笑みを浮かべ「Correct! そういうことさ!」と返した。
本気と全力は似て非なるものだ。“本気”が今自分が使える力を出すもので、“全力”は自分が持っている力全てを使うことだ。九堂りんねが全力なら、トワイライトマジェードに変身してもおかしくないはずだ。だが今はそれができない。故に彼女は今持っている力を本気で使っているというわけである。
「もし彼女が現状を脱するには、今持っている力を超えたものを使わなければならないでしょうね。尤も、そんな状況にならなければいいが……」
さすがのジョージもマジェードが状況を切り抜けて欲しくないと思っているのか、神妙な顔で見守る。ミナトも頷き、口を結んで見守る。
そんな時、再びガッチャードが超高速でマジェードに接近する。接近に気付いたマジェードはすぐさまファイティングポーズを取り、ガッチャードのパンチを防ぐが、僅かに仰け反ってしまった。ガッチャードはそのままデンプシーロールの要領で殴り続ける。このままいけばマジェードの防御も崩れて、ダメージを与えられるはずだ。
だがそうはいかなかった。
「くっ…………はぁっ!」
「がっ……!?」
マジェードが苦し紛れに放った三連パンチが、殴り続けていたガッチャードにヒットし、仰け反らせることに成功した。まさかの形勢逆転に、観戦していたミナト達は驚く。
一旦ガッチャードは後方に下がると、足を踏み込み再度接近した。その直後のことだった。
「ガハッ………………!!!」
思わず仮面の下で血反吐を吐き、ガッチャードは大きく後方へ吹っ飛んだ。何が起きたのか理解できない八神達は、口をあんぐりと開けて呆然としていた。
「い、今……なんで一ノ瀬が吹き飛んだんだ?」
「九堂が何かしたのは間違いない……間違いないが……一体、どういうことだ?」
困惑する康祐と八神をよそに、杏那のスマホに電話の着信音が鳴り響いた。「こんな時に誰よ……」とぶつくさ言いながらも出てみると、相手は千秋俊だった。
「もしもし、千秋君? 一体どうしたのよ?」
「ごめん穂積さん! その、さ。僕が前話した、地球みたいなイラストが描かれたカードを拾ったっていう件なんだけど……」
電話に出てみると、どこか焦りを孕んだ声色の俊が話しかけてきた。カードの件と訊くと他愛もない話に思えるが、一応そのまま電話を繋ぐことにした。ミナトに視線を向けると、ジェスチャーで「スピーカーにしてくれ」と指示を出してきたので、言われるがまま電話をスピーカー音声に変えた。
「ああ……そういえば康祐や八神君にそんな話していたわね。それがどうかしたの?」
「今日一ノ瀬君に見せようと思って持ってきたはずなんだけど、何処にもないんだ! 何処かで見かけなかった?」
俊の言葉を訊いたミナトは、顔を真っ青にしながらマジェードの方へ視線を変える。視線の先にいるマジェードはいつの間にか基本形態であるサンユニコーンに戻っており、膝をついた状態で立つ事すら困難な状況に見えた。
「穂積、一旦電話を切れ!」
「は、はい! ごめん千秋君、後で確認するから! じゃ!」
俊に有無を言わさず電話を切ると、杏那はマジェードとミナトの二人へ交互に視線を向ける。「まさかあの手を使うとは……」と呟くミナトに、ジョージも神妙な顔で訊ねざるをえなかった。
「Teacherミナト。九堂りんねは今、自身の体に負担がかかる形態を
「ああ、おそらく……」
ジョージの確信とも言える問いに、ミナトは肯いた。ミナトから肯定の言葉を訊いたジョージは思わず舌打ちをする。前例を考えれば当然のことだった。
五十嵐一輝と彼の悪魔であるバイスが一体化し、変身に至った“仮面ライダージャックリバイス”。最悪の事態は免れたが、一歩間違えれば一輝の父である元太が死にかねなかった経緯から産まれたバイスタンプを使用した、“仮面ライダーアルティメットリバイ”と“仮面ライダーアルティメットバイス”。
後から訊いた話だが、神山飛羽真が変身する仮面ライダーセイバーも、デメリットを孕んだ形態もあったとのことだ。どうにも仮面ライダーへの変身には、デメリットが伴うものがあるのは定石なのだろうかと勘繰ってしまう。
「じゃ、じゃあ今九堂さんの体は……!」
思わず顔を青褪めてしまう杏那。ミナトも歯軋りをし、「ああ」と短く返す。
「尋常じゃないくらいに負担がかかっているはずだ……。一瞬だけとはいえ、あの形態に変身するのは相当な体力や精神力がいるはずだ」
「じゃ、じゃあこの戦いが終わったら病院に行かないと駄目なんじゃ……」
「いや……幸か不幸か、即時治療すれば体の方は治せるはずだ。だが精神の方は……」
「あのボーイが彼女を倒さなければ、話は始まらない……か」
ジョージとミナトの説明に、三人は今にも倒れそうなマジェードに視線を向ける。これ以上は見ていられなくなる。
「もうやめろ九堂! これ以上は体がヤバくなるぞ!!」
「もう充分戦ったでしょ! それでもまだ戦うの!?」
八神と杏那が堪らず声を荒げる。マジェードは彼等に一瞬だけ顔を向けると、すぐにガッチャードへ向き直る。ガッチャードは大きく息を吐きながらも立ち上がる。だが、つい先程まで変身していたファイヤーガッチャードではなく、通常のスチームホッパーに戻っていた。手を震わせながら、ガッチャードはベルトのレバー部分にあたる〈アルトヴォーク〉を押し込んだ。マジェードもまた、ハイアルケミストリングをアルケミスドライバーにかざす。
ミナトは二人の一連の動作を見て、見守っていた一同は確信した。次の一撃が、最後だと────。
「あの二人の戦いも、終わりが近づいている……」
「…………今の俺達に出来る事は見守る事だけ、ですか…………」
ミナトの呟いた言葉に、康祐の言葉が添えられる。ミナトは頷くしか出来なかった。八神は冷や汗をかき、杏那は祈るように両手を握りながら見守っている。ジョージもまた、過去の経験を踏まえてか何も言わずにじっと二人の様子を見守っていた。
「はああああああああっっっっっ!!!!!」
「やああああああああっっっっっ!!!!!」
二人のドライバーから音声が鳴り響くと、同時にジャンプしライダーキックの体勢を作る。そして彼等は蹴りを放ち、互いの右脚がぶつかり合った。二人のキックは風を作り、その勢いは見守っていた五人が地面に耐えられるかどうかという程だった。
「くっ……………!!」
「Oh……!!」
「うおおお………っ!」
「きゃあああああ!!」
「ぐっ……ま、前が見えねえ!」
ミナトは思わず目を覆い隠し、八神も地面を立っていられる余裕がない程に手に地面をつけて堪えている。康祐も何とか踏ん張っており、杏那も思わず康祐にしがみついているくらいだ。
キックの拮抗は三十秒ほど続き、次第に変化が訪れた。ガッチャードのキックが、マジェードのキックに競り勝ち始めたのだ。競り負け始めたのがわかったマジェードは、もう一度押し出そうとする。しかし一度訪れた変化は、そう簡単に戻らない。ガッチャードのキックがそのまま押し勝ち、マジェードを貫いた。
「ガッ……………チャーーーーーーーーー!!!!!」
マジェードを貫いたガッチャードは地面に着地しガッツポーズを取り、彼の口癖とも言える雄叫びを上げる。直後、彼の背後で大きな爆発が発生した。この瞬間をもって、仮面ライダーガッチャードと仮面ライダーマジェードの勝負に決着がついたのは明白だった。
「一ノ瀬! 九堂!」
すぐさまミナト達が駆け寄る。ガッチャードは変身が解除され、地面に倒れそうになる宝太郎を八神が支える。うつ伏せに倒れた状態のりんねを杏那が抱える。どちらの勝ち負けも関係なく、両者はボロボロだ。すぐに治療しなければいけない状態なのは明らかだ。
「Hey, girl! このバイスタンプを彼女の額に押し込むんだ!」
「は、はい!」
すぐさまジョージは自分が着込んでいるミリタリーロングコートのポケットからバイスタンプを取り出し、杏那に向けて放り投げる。杏那はキャッチに成功し、りんねの前髪を広げて彼女の額にバイスタンプを押印する。するとりんねの体は淡く光り輝き、すうすうと寝息を立て始めた。一連の様子を見ていたジョージは「ふう」と息を吐き、いつの間にか自身に流れていた汗を拭った。これでりんねの悪魔は無事に封印されたと見ていいだろう。
「Hey, Teacherミナト! ボーイの治療は終わったかい? 早いうちにこちらもお願いしますよ!」
「ああ、わかった! ケアリー、すまないが今度は九堂を頼む!!」
「ケア〜!」
穏やかながらも勇ましい鳴き声が、ミナトが所持しているカードから聴こえる。ミナトはりんねのもとへ駆け寄ると、彼女へ向けてカードをかざした。するとカードから、妖精のような不思議な生命体が現れた。これが一時期噂されていたケミーなのだろう。
ケアリーはりんねに向けて自分の両手を添えると、徐々にりんねの体の傷がなくなっていった。その光景を見ていた高校生三人は、感嘆の声を上げた。
「…………ケア〜……」
治療を終えたのか、ケアリーが一汗拭った。りんねの体とケアリーの様子を交互に見たミナトは、「よし、お疲れ様」と言いながら、ケアリーをライドケミーカードに収納した。
「はあ………これで終わったの?」
「だ、だと思うが……」
「終わったならいいが……。これ、どうするよ?」
決着がついたことを確認した杏那に、康祐が同意する。八神も頷いたが、グラウンドの惨状を見てげんなりとした表情を見せる。グラウンドはガッチャードとマジェードの戦いによって悲惨な状態になっており、人力で直すには相当の労力が要るのは間違いない。
「いや……このグラウンドの状態なら、俺やスパナ、錬金アカデミーの教師達が動けば何とかなるだろう。別の問題として………」
そこまでミナトが言うと、康祐達三人に視線を向ける。その目はどこか品定めをしているようなものを感じた。
「み、ミナト先生……何か、ついてますか?」
「いや、この目線は……まさか……」
八神が顔をぺたぺた触るが、康祐は別の考えに至った。杏那に目線を向けると、彼女は苦笑いしていた。杏那もまた、康祐と同じ考えに至っていたようだ。
「あくまで仮面ライダー同士の戦いだからな……マルガムが被害を及ぼしたわけでもない。だが……」
「この戦いの激突音を訊きつけた生徒や先生達がここに来るはず。一応、私がブルーバードのバイスタンプの取り締まりの関係で遠ざけるように部下に話してあるから、戦いの最中にここに来る一般人はいなかったのは幸い……と言ったところですかね」
「感謝します。ですが……窓の向こうから見ていてもおかしくない。…………なら、この方法しかないか」
ジョージの気遣いにミナトが礼を述べると、もしもの場合の対処法を考える。十数秒程考えて、一つの方法が思い浮かんだ。
「何かいい方法でも?」
「ああ、八神、四月一日、穂積の三人は今回の戦いを強く目に焼き付けているから記憶封印はされないだろうが……呼出音声に錬金術の記憶封印術を添える。そうすれば、音声を聴いた人達は今日の事を忘れるはずだ」
ミナトの方法を訊いた高校生三人は、頭から湯気が出そうな雰囲気を醸し出しながら何とか情報を処理しようとしていた。さすがにわからないだろうなと思ったミナトは、「ま、後は上手くやっておくさ」と丸め込めた。
「ミナト君! お気楽ボーイとりんねちゃんが戦ったって訊いたけど……!」
遅れて、
「鏡花、スパナ。来てくれたか。下校時刻のお知らせ音声に記憶封印の錬金術を載せて流そうと思う。この三人は事件に深く関わったから、記憶封印はできないが……」
「はあ……またですか。最近甘いんじゃないんですか?」
ミナトの対応に、スパナは呆れを全く隠さない。鏡花は「まあまあ」と宥めると、康祐と八神を交互に見比べる。ふむふむと言いながら見比べる鏡花の雰囲気は、どこか人物評価を内心で下しているようにも見えた。
「えーっと……四月一日君は、どっちかな?」
「ん、それなら俺ですけど……」
鏡花の確認に、康祐が手を上げた。
「おっ、君がそうか! はあ〜〜……うん、ミナト君の言う通り、記憶はそのままの方がいいだろうね」
一人納得する鏡花に、スパナは複雑そうな顔を見せる。「この人もミナトさんと同じ事を……」と考えているのが、ミナトにはわかった。
「いやぁ……正直言って、後が怖いよ? もしかしたらさ、将来の芽を潰す事になるかもしれないから……ここはひとつ、私の顔に免じて……ね?」
「俺からも頼む。今回の件は錬金アカデミーだけじゃなく、ブルーバードが取り締まるバイスタンプも影響があったからな。今回の件で、様々な組織との連携も強めた方がいいと思うんだ」
「はあ………仕方ないですね。確かに今回の件、後でブルーバードの方にも話さなければならないでしょうから記憶封印はしないでおきます」
手を合わせてお願いする鏡花に、スパナは溜息を吐いた。ミナトからも強く願われ、スパナはようやく承諾の意を出した。
「そういうことだ。お前達はもう帰っていいぞ。ただし、一ノ瀬と九堂が戦った事については他言無用だ。勿論、身内にもな」
「わ、わかりました……」
「じゃ、じゃあわたし達……お先に失礼しますね……?」
「そ、それじゃあまた明日です……」
シー、と口元に人差し指を当てる仕草をとるミナトに康祐達は呆気に取られながらも、承諾した。普段気怠げな態度で生徒と接する教師が、こんな茶目っ気溢れる挙動を見せるとは思わなかったのだ。そのまま行っていいのか躊躇いを見せながらも、三人は恐る恐るグラウンドを後にした。
『下校時刻の時間です。生徒の皆さんは速やかに帰る準備を済ませて、下校してください』
戦いからおよそ十分後、下校時刻を報せるアナウンスが流れ、学校にいた生徒や教員はグラウンドで起きた戦いのことは綺麗さっぱり忘れていた。
●
翌日。富良洲高校内の雰囲気は、いつもとさして変わりのないものを迎えていた。生徒達が話している内容も、他愛のない世間話を主にしており、昨夕の出来事を話す者は誰もいなかった。
ただ、富良洲高校三年A組の教室内はどこかいつもと雰囲気が違っていた。一ノ瀬宝太郎が額に包帯を巻きながら登校してきていたのだ。クラスメイトが驚くのも無理はない。所々絆創膏やガーゼも貼っており、何か大きな怪我を負ったのかと不安になる。九堂りんねもまた額にガーゼが当てられていたり、頬に湿布が貼られていたりと、怪我をしたのは明らかだ。
「一ノ瀬君、大丈夫か? 今日はリハーサルとして軽く走行演技の通しをするんだが……怪我が酷いようなら今日は一ノ瀬君抜きで進めようか?」
「立花。まあ頭に包帯巻いてるけど、放課後には取れるから心配しなくていいよ」
心配そうに話しかける
「ねえりんね、大丈夫? 顔中絆創膏やガーゼだらけだよ?」
「うん。一応大事をとってこの状態だけど、夜寝る頃には取っても問題ないって医者が言ってたから」
りんねの方もまた、静奈が心配そうに声をかけたが、りんねもまた気丈に返す。そんな彼女の様子に、康祐と杏那と八神はひそひそと話し合っていた。
「やっぱり、覚えてないみたいね……」
「普通なら、あんな事があったんだから記憶に残っていると思うが……」
「ま、ミナト先生とジョージさん様様だな。これでようやっと学園祭の準備に集中できるってもんだ」
ミナトの対処に、三人は内心感謝する。三人が話に一区切りをつけると、ミナトが教室にやってきた。その雰囲気は、学校でよく見るどこか気怠げなものだった。
「全員揃ったかー? 今日は一日、土日に開催される学園祭の準備に費やすぞ。午前はクラスの出店の準備、午後は部活動や同好会に所属する生徒達はそちらの方に準備をかけてくれ。部活や同好会に参加していない生徒は、引き続きクラスの出店準備だ」
ミナトが報せる今日の予定に、生徒達は歓喜の声が上がった。おおかた、授業を受けなくて済むと思っているのが大半なのだろう。
「全く……その分、水曜日からは授業は厳しくしていくからな! これは他の先生も同意見だ。気分を変えたくば、早く学園祭の準備を進めることだな?」
柄にもなく厳しく言い放つミナトに、生徒からは落胆の声が上がる。学生というのはどうにも、テンションの浮き沈みが激しいものだ。
「さっ、ミナト先生もこう言ってることだし、学園祭の準備進めよう! ほらほら、早く!」
そんな中、クラス一の真面目な生徒であるりんねが、ハイテンションで仕切り始めていく。いつもと違うりんねの様子に、事情を知る康祐達は面食らった。宝太郎の近くの席に座っていた康祐が、小声で訊いてみる。
「なあ一ノ瀬……九堂のあの様子ってまさか……」
「あー……いや、単純に学園祭が楽しみになっているだけだと思う」
苦笑いする宝太郎に、「そ、そうか……」と返すしかなかった。
そうして学園祭の準備を進めていき、土曜日────。富良洲高校学園祭一日目が開幕を迎えた。
次回は楽しい楽しい学園祭。
富良洲高生達の日常をお楽しみあれ!
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