想伝・仮面ライダーガッチャード Unstaked memory   作:ホームズの弟子見習い

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今回の話の元ネタはこちら
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軽くウマ娘要素が入っているのでご注意を。



第10話:レッツ、富高祭!

 

 

 

 富良洲高校第一体育館。ここでは全学年・全生徒ならびに教職員が集まっていた。これから行う富良洲高校学校祭の開会式を行うためだ。

 

「皆さん、お集まりになりましたね」

 

 壇上に校長先生が立ち、喋り始める。校長先生の話が長いのは生徒間では有名であり、今回も長くなるのかと何人もの生徒が辟易していた。

 

「今回は皆さんも楽しみにしていた学校祭です。長々語るつもりはありません」

 

 いつもとは違うことを話し出した校長先生に、生徒達は面食らった。まさか本当に長話をせずに開会の宣言をするのかと思ったのだ。

 

「では、開会式のゲストとして、飛電インテリジェンス社長の()(でん)(ある)()さんにご覧いただいております。飛電社長から、開会の宣誓を(おこな)ってもらいます」

 

 校長先生の言葉を皮切りに、来賓席に座っていた飛電或人が立ち、壇上へ歩いていく。或人の服装は、普段のようなジャージ姿の上からラフなジャケットを着た姿ではなく、かっちりと高級そうなスーツを身に纏っていた。続いて、秘書型ヒューマギアのイズがついていく。

 

「この度、富良洲高校学園祭開会式に呼ばれた飛電或人です。まだ若輩者の自分が開会の宣誓を(おこな)ってよいものかと思いますが……」

 

 彼をよく知る者達から見れば、真面目な雰囲気の或人はらしくないと思うだろう。だが、真面目な雰囲気もここまでだった。

 

()苦しくいかずに、()をぶんぶん回して張り切っていきましょう! はいっ、アルトじゃ〜〜、ないと〜〜〜!!」

 

 ビシっと前方に向けて指を差し、体育館内は静寂に包まれた。居た堪れない雰囲気の中、隣にいたイズが口を開いた。

 

「今のは、“堅苦しい雰囲気にとらわれずに肩を回して学園祭を楽しんでください”という面白いギャグでして……」

「お願いだからイズ、説明しないでぇ〜〜! …………はっ、オホン。で、ではこれより富良洲高校学校祭の開幕を宣誓します。生徒の皆さんは勿論、来客する一般の方々も楽しめるようにと思っています。僕もこの後、学園祭を回る予定ですので、その時は是非よろしくお願いします。では、失礼いたしました」

 

 どんな反応をすればいいのかわからないなんとも言えない或人のギャグとイズの解説が冷たい空気を支配したが、なんとか取り繕って開会の宣言をした。そそくさと申し訳なさそうな雰囲気を出しながら、或人とイズは壇上を後にした。

 

「では、各クラスの生徒達はそれぞれ最終準備に取り掛かってください。一年A組から順番に体育館を出てください」

 

 生徒会長の催促とともに生徒達は立ち上がり、順番に体育館を出ていきそれぞれの教室へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっ!? マジかよ……!?」

 

 三年A組の教室から、驚愕の声が上がる。声を上げたのは昭兵で、彼と向かい合うのは三年A組の一員であり、昭兵と同じくモーターサイクル同好会に所属している緑川和治だ。

 

「お? どうしたどうした?」

 

 声を訊きつけた(やなぎ)()(やす)(ふみ)が、どうしたのかと二人に訊く。緑川は「同好会の件でちょっとな」と前置きして、話を始めた。

 

「同好会の部員に鳴海っていう後輩がいるんだが……そいつのバイクが、朝方になってエンストを起こしてしまったんだ」

「今日の学園祭の予定に、バイクの展示とグラウンドでの走行演技を予定していたからよ……このままだと予定が水の泡ってことになるわけよ」

 

 困り果てた表情で事情を話す緑川と立花に、靖文は「なるほどな」と頷いた。

 

「せめてバイクが一台補充できればいいんだが、そんな虫のいい話……ある訳ないしな。八方塞がりだよ」

「いや、そんなことはないぞ」

 

 落胆する緑川に、靖文がスッパリと否定する。靖文の否定の答えを訊いた二人は「え?」と大きく目を見開いた。

 

「確認なんだが、同好会の部員達が乗るバイクは固定されているのか? 大型……は流石にないだろうから普通と小型を乗り分けたりすることはあるか?」

「あ、ああ。搭乗者とバイクの組み合わせが固定されて癖が染みつくのはあるからな。各部員の持っているバイクを、それぞれ軽く乗り回すこともある」

 

 確認してくる靖文に、緑川は戸惑いながらも答える。それを訊いた靖文は「ならいけるかもな……」と小声で呟く。

 

「もし良ければ、俺の所属している組織からバイクを調達してきてもらうか?」

「そうか! そういやぁ、柳谷のいる組織ってあの“猛士”なんだっけか!」

 

 靖文の出す案に、立花が喜色をあらわにする。少なくとも、猛士の許可さえ貰えれば学園祭の一日目はやり過ごせそうだ。

 

「だがいいのか? 許可を貰ったとしても、バイクの数が足りないと支障が出るんじゃないか?」

「基本、()()は本部から支給されるから問題はねえ。それに予備の分も最低五台は支給されてるから、体制としては盤石だ」

 

 安心感の籠った靖文に、立花と緑川は彼の背後から後光が見えた気がした。それくらい靖文の存在が有り難かった。

 

「とはいえ、まずは許可取りからだ。ちょっと出るから、先生や他の奴らには言っといてくれ」

「あーん、待ってヤマくーん!」

 

 教室から出ようとした靖文を、瑠李奈が止める。瑠李奈もまた、どこか切羽詰まった雰囲気を漂わせていた。

 

「実は乗馬部の方も、一頭調子が悪いみたいなの……。お願い! “猛士”って馬も所有してるんでしょ? 一頭だけでいいから連れてきてもらえる? 何卒……」

 

 ひーん、と泣きながら懇願する瑠李奈に、靖文は「馬か……」と考え込む。

 

「馬の種類は問わないのか?」

「うん……あと、人に対して威嚇しなかったり慣れてたりする子がいいかな……人前に出るから迷惑かけるわけにはいかないじゃん?」

「わかった、これからバイクと馬の補充を頼んでくる。なーに、すぐに終わらせるさ」

「おお〜〜……ありがとね〜〜!!」

 

 一旦教室を出る靖文に、瑠李奈は拝むように感謝の意を見せる。緑川と立花も、同じような仕草をとっていた。

 

「なんか、乗馬部もモーターサイクル同好会も大変だね……」

 

 靖文を見送ったりんねが、しみじみと呟く。そんなりんねを見た瑠李奈は、ぱあっと顔を輝かせる。

 

「あっ! りんりんちゃん! 体調は大丈夫そう?」

「うん。包帯も取れたし、今日は大丈夫。それより後ろに隠してるのは何?」

 

 りんねの指摘に、瑠李奈は「ふっふっふ……」と不敵に微笑む。直後、勢いよく「じゃーん!」と背中に隠していたものをりんねに見せた。

 

「ほらこれ! ユニコーンをイメージしたメイド服!! これを着て踊って、イッチーくんのハートを射止めちゃおうね!!」

「い、射止めるってそんな……一ノ瀬とは、そんなんじゃ……」

 

 次第に恥ずかしそうにモゴモゴと口ごもるりんねに、瑠李奈はにんまり笑みを浮かべた。

 

「あの、滝……悪いんだけどさ。今日俺が出る出店の時間と乗馬部のダンスパフォーマンスの時間が被ってるみたいなんだ……ごめん!」

「えっ!? そうだったの!? ん〜〜……まあしょうがないよね……」

「俺が出店に出るのが、乗馬部のダンスパフォーマンスが終わるタイミングなんだよな……」

 

 申し訳なさそうに告げる宝太郎に、瑠李奈は「じゃあ仕方ないか……」と落ち込むが、その直後に「そうだ!」声を上げる。

 

「ね、りんりんちゃん! ダンスの方終わったらそのままイッチーくんと一緒に回ってきなよ!」

「で、でもいいの? せっかくの衣装を汚しちゃったりしたら大変なんじゃ……」

 

 不安そうな表情を見せるりんねに、瑠李奈は「ダイジョーブ!」とサムズアップする。

 

「衣装は一日目と二日目で二着あるから問題ナッシング! それにこういう衣装のまま回るのも学園祭の醍醐味だしね!!」

「じゃあ……一ノ瀬、ダンスのお披露目が終わったら一緒に回ってくれる?」

「ガッチャ! 九堂と一緒に回りたかったから助かるよ! ありがとうな滝!」

 

 礼を言う宝太郎に、瑠李奈はウィンクで返した。

 

「よう、バイクと馬の補充許可貰ってきたぜ。これで走行演技と馬の展示も出来るぞ」

「やったー! ありがとヤマくん!!」

「俺からもありがとうな。これでバイクの展示も間に合いそうだ」

 

 戻ってきた靖文に、滝と緑川と立花が諸手をあげて喜んだ。

 

「何かあったみたいだけど、解決したみたいだな」

「みたいね。わたし達で作ったミステリ特集雑誌、このテーブルに置かせてもらうわね」

 

 推理小説研究部の部室から戻ってきた康祐と杏那が部員達で作った雑誌を抱えながら戻ってきて、余ったテーブルの上に置いた。

 その直後のこと。教室のスピーカーからチャイム音が鳴り出した。

 

「午前九時になりました。これより、一般のお客様の入場されます」

「お、時間だな。かき氷の準備も出来たぜ」

「綿飴も出来たよ。なんか他にも味が欲しいな……」

 

 放送のアナウンスを訊いた八神が、気を引き締める。一方で綿飴の出店を担当する十津は、綿飴の味のレパートリーに未だ物足りなさを感じていた。

 

「まだ言ってるのね……じゃあ甘いものに甘いものを合わせたトッピングをしたらどう? 今からコンビニに行けば、多少は彩り加えられるんじゃない?」

 

 味を足そうとしている十津の様子に呆れながら、杏那が適当気味に案を出す。その杏那の提案に、十津は「それだ!」と閃く。

 

「折角だから、綿飴にグミを混ぜたトッピングをしてみるか! ありがとう穂積!!」

「あ、十津君……行っちゃった……」

 

 勢いよく教室を出て行った十津に、杏那は手を伸ばしかけたがそのまま見送る羽目になった。数秒程沈黙が流れ、八神が「どうすんだよ穂積……」と呆れた視線を杏那に送った。

 

「はあ……戻ってくるまではわたしが店番するわよ……雑誌の方は康祐一人でも何とかなるでしょ?」

「まあいいぞ。多く見積もっても一時間くらいはどうってことないしな」

 

 うんと背伸びをしながら康祐も了承し、そのまま推理研雑誌の店番についた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「結構ビックリしちゃったねー」

「一年生の出し物にしてはクオリティ高いんじゃない?」

 

 午前十時二分。一年A組の教室では何人かの生徒が教室から出て行き、感想を話し合っていた。出て行った生徒は全員上級生で、クオリティの高さに感嘆の声を上げていた。

 

「評判良いみたいだな」

 

 受付兼ミステリ特集雑誌の売り子を担当していた砂西が、してやったりと言わんばかりの顔を見せる。同じく受付を任されていた望実も、得意気に頷いていた。

 

「椎奈が狙い通りにお客さんの首元に水を垂らしているのが、評価を貰っているみたいだ。お客さんの驚く声も椎奈の時は他と違うしな」

 

 驚かし役の志朗が、砂西のスマホ越しに伝える。志朗から見ても、椎奈の水滴垂らしは見事なものと思ったようだ。

 

推理研(うち)らが作ったミステリ特集雑誌も、既に四部売れてるしね〜」

「この分だと午前中に半分以上は売れそうだな」

 

 順調に推理小説研究部で作ったミステリ特集雑誌も売れていき、部員の砂西と望実は御満悦状態だった。

 

 

 

 

 

 午前十時二十一分。二年B組。ラーメンの出店をしていた彼等も、なかなかの盛況ぶりを見せていた。だが、それ以上の盛り上がりを隣のクラスのA組は見せていた。

 

「隣のA組、何の出し物をしてるんだろうね?」

「フフフ……俺が見てきたところ、向こうは自作映画を上映しているようだ」

 

 A組の大盛況に麻衣が疑問に思うと、義木須が答える。答えた義木須に思わず麻衣は呆れの表情を出していた。何故なら、本来彼は午前中は宣伝用のプラカードを持って学校中を回る予定の筈だったのだ。

 

「君、何でいるのさ……ちゃんとプラカードは持ってるの?」

「フ、無論だ。問題はない………む?」

 

 不敵に笑う義木須だが、プラカードを持っていないことに気付いた。次第に青ざめたような表情へ変化し、辺りを見回し探す彼に、麻衣は助け舟を出すことにした。

 

「義木須君、最後に行った場所ってどこなのさ? さっきの発言からすると、2-Aの教室に行ったみたいだけど……」

「うむ。最後に行ったのはそこだ。そこでは十分程のショートムービーが流れていた。上映料三百円だったぞ」

 

 麻衣の問いに、義木須は満足気に答える。どうやら内容的にも満足できるものだったようだ。

 

「その時までプラカードは持ってたのは間違いないんだね?」

「ああ、間違いない。上映料を渡した時に、プラカードを抱えながら渡したのを覚えている」

「プラカードを持って最後に2-Aに行ったんなら、プラカードのある場所はそこなんじゃないかな?」

「なるほど……感謝する。早速確認しに行くとしよう」

「その必要はありませんよ」

 

 二年A組の教室に行こうとする義木須に、麻衣とは違う女子生徒の声が彼を止めた。教室の入口には、生真面目そうな雰囲気の女子生徒がプラカードを持って立っていた。

 

「きーちゃん、来てくれたんだね〜」

「そりゃ来ますよ……っていうか、いい加減その渾名辞めてください! 恥ずかしいじゃないですか……」

「それで、その必要はないとは?」

 

 “きーちゃん”と呼ばれた女子生徒、天海葉月は恥ずかしそうに麻衣に応じた。そんな二人のやり取りを気にすることなく、義木須はどういうことかと訊く。

 

「ああ、そのことですか。はいこれ、プラカードです。忘れちゃいけませんよ?」

「おお、感謝するぞ天海。これで宣伝を再開できる。では、我は宣伝に回ろう」

 

 葉月からプラカードを受け取ると、義木須は改めて宣伝しに廊下に出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 富良洲高校講堂前。ここでは乗馬部によるパフォーマンスが行われていた。ちなみに実物の馬については、来客の歓声で騒ぎが起こらないように学校の入口前にて待機している。

 

「はい、マーガリン! ……なんつって。ありがとうなー!」

「ねえ……その口調どうしたの?」

 

 いつものギャル風の口調とは違う瑠李奈に、りんねが戸惑いながら訊く。瑠李奈は「ああこれ?」と応える。

 

「この口調はね、馬を擬人化したアニメの女の子の真似をしてるの! このコスプレもあーしが真似したそのアニメの女の子をモチーフにしてるの!」

「擬人化したアニメの女の子……?」

 

 擬人化というコンテンツが身近なものではないりんねは、頭にハテナマークを浮かべながら首を傾げる。

 

「りんりんちゃんもさ、ユニコンちゃんが女の子になったらどんな感じになるのかをイメージしてみなよ! それが擬人化ってヤツだからさ!」

「ユニコンが女の子……」

 

 言われるがままに、ユニコンの擬人化をりんねは思い浮かべる。ユニコン自体、モデルがユニコーンなこともあって高貴なイメージを思い浮かべやすかった。

 

(高貴なイメージ、高貴なイメージ……)

「あの、すいません……一緒に写真お願いしていいですか?」

 

 念じるように思い浮かべながらどんな風に接しようかと考えていると、気弱そうな女子生徒が写真撮影を頼み込んできた。

 

「あ、あら。写真撮影ね……よろしくてよ?」

「はい! お願いします!」

 

 突発的な演技ながら応じるが、お願いしてきた女子生徒の反応を見る限り大丈夫のようだ。

 

「おおー、りんりんちゃんいいね! 真面目なお姫様って感じで堂に入ってるよ!」

「あ、ありがとう……。でもぶっつけ本番での演技だから、もうちょっとアレンジしてみようかな?」

 

 ツーショットの写真撮影を終えると、瑠李奈から演技を褒められて、りんねは少し照れた。直後の演技プランを思案する熱心さには、瑠李奈も内心苦笑いしたが。

 

「迷子のお知らせです。御名前は……(あと)(みち)(やす)()ちゃん。御親戚の九堂りんねさんをお探しです。九堂さん、実行委員会スペースまでお越しください」

「親戚か……従姉妹かな? まだダンスパフォーマンスまでは時間あるから、行ってきていいよ?」

 

 直後に響いた迷子のお知らせのアナウンスに、瑠李奈は行くよう促すが、りんねは首を傾げていた。そんな彼女に瑠李奈は「どうかしたの?」と訊ねる。

 

「ちょっとね……親戚にそんな名前の子いたかなって思って」

「覚えのない親戚か〜……でももしかしたら小っちゃい子なんじゃない? 昔に会ったきりで覚えてないとかあるじゃん?」

「それもそうだね。一応その子も連れて戻ってくるから!」

 

 駆け足で去っていくりんねに、瑠李奈は「いってら〜!」と軽い調子で手を振った。

 

 

 

 

 

「あのー、お知らせを訊いてきたんですけど……」

「あ、九堂さん。じゃあ連れてくるね。保乃ちゃーん」

 

 実行委員会のスペースにりんねがやってきたのを確認した実行委員の生徒が確認すると、件の女の子を呼んだ。名前を呼ばれた女の子は元気に「はーーい!」と応じると、りんねの前にやってきた。

 りんねは思わず息を呑んだ。保乃と呼ばれた女の子は、かつて自分が敵として対峙し最終的に和解したホムンクルス、“冥黒の三姉妹”の長女であるアトロポスに瓜二つだったからだ。

 

「あ、貴方……」

「初めまして! 後路保乃です! りんねお姉ちゃんとは従姉妹の従姉妹同士だってお父さんが言ってました!」

 

 保乃の自己紹介に、りんねは深く考える。従姉妹の従姉妹同士。つまりこの子と自分の関係は血縁上、再従姉妹(はとこ)にあたることになる。

 

「お父さん、昔の家族関係話してくれないからなぁ……。ねえ保乃ちゃん、学校には一人で来たの?」

 

 思わずぼやきが出てしまうが、それはそれ、これはこれだ。まずは一人で学園祭に来たのかどうかを確認する。

 

「ううん。叔父さんと親戚のお姉さん二人と一緒に来たの。自由に回っていいって言われたからお小遣いを貰ってたら、迷っちゃって……」

 

 保乃の答えに、りんねは考えを巡らせる。保護者にあたる叔父さんはどうやら、よく言えば自由にさせる。悪く言えば放任主義になるのかもしれない。

 

「ううーん……もし良かったらこれから乗馬部のイベントをするんだけど、観ていかない?」

「いいんですか! ぜひお願いします!!」

 

 両手をバンザイして喜ぶ保乃に、りんねは思った。この子はアトロポスとは違う、ただの女の子なのだと。

 

「じゃあ一緒に行こっか。保護者さんがここに来たら、講堂にいるって伝えてください」

「じゃあねーー!」

 

 りんねは保乃の手を繋ぎ、講堂へ歩を進めていった。保乃もまた、手を振って実行委員の生徒と別れていった。

 

 

 

 

 

 りんねが保乃を連れて戻ってきたのが見えた瑠李奈は、りんねに向けて手を振った。それに気付いたりんねも手を振り返す。

 

「りんりんちゃんおかえりー! その子が保乃ちゃん?」

「うん、実際に会ったのはさっきが初めてなんだけどね」

「そっか〜……でももうすぐダンスパフォーマンスの時間だよ? 流石に誰か一緒の方がいいんじゃない?」

「そうだよね……誰か頼める人いないかな……」

 

 瑠李奈の提案に、りんねも同意する。どうしようか考えていた矢先に、「おーい!」というりんねにとって聴き馴染みのある声が聞こえてきた。

 

「優等生ちゃーん! 来たでーー!!」

「話は、訊かせてもらったよ………」

「銀杏先輩、鶴原先輩!」

 

 やって来たのは、りんねと宝太郎が錬金術を学ぶ錬金アカデミーの先輩である銀杏(いちょう)(れん)()(つる)(はら)(さび)(まる)だった。

 

「こうして見てみると、ホンマにそっくりやな……」

「普段の彼女が所謂、ゴスロリ的な感じだからね……メイクしたら、本当にそっくりかも……」

 

 まじまじと保乃を見つめる蓮華と錆丸に、保乃は満面の笑顔で見つめ返す。そんな彼女に、蓮華は「見た目はそっくりでも年相応やなぁ」と頭を撫でる。

 

「じゃあ保乃ちゃん、これからりんねちゃんがダンスを御披露目するから一緒に観ようか?」

「はい! よろしくお願いします!」

「ほんなら、逸れんように手を繋ごうか。ホラ!」

「はーい! じゃありんねお姉ちゃん、頑張ってください!!」

 

 錆丸が出した案に、保乃は元気に頷く。保乃は蓮華の手を繋ぐと、講堂の座席へ向かっていった。手を振って別れた保乃に、りんねも手を振り返した。

 

「ヤバッ! もうダンスパフォーマンスの時間じゃん!? 早く行かないと!」

 

 懐からスマホを取り出すと、焦りの表情を見せる瑠李奈。乗馬部のメインイベントであるダンスパフォーマンスの時間が刻一刻と迫っていたのだ。

 

「ほら行くよりんりんちゃん!」

「わ、わかったから押さないでぇ〜〜!」

 

 急かすようにりんねの背中を押しながら進む瑠李奈に、りんねにしては珍しく「ひーん!」と馬のような鳴き声をあげた。

 

 

 

 

 

 午前十一時二十七分。富良洲高校講堂。乗馬部のメインイベントであるダンスパフォーマンスが行われるこの場所は、席は満員状態だった。観客の中には、先程やってきた蓮華と錆丸。二人の間に保乃が座って今か今かと待ち侘びていた。

 

「よーし、間に合ったぁ!」

「瑠李奈と九堂さんのダンスパフォーマンス、見逃せないもんね」

 

 別の席では、推理研が作ったミステリ特集雑誌を売り終えた康祐と杏那がギリギリのタイミングで講堂に入り、空いている席に座り込んだ。

 ぞろぞろと観客が席に座り始める中、講堂のステージ袖では乗馬部の面々とりんねが待機していた。瑠李奈は観客の入りにうんうんと上機嫌に頷く。

 

「よーし! 鳴海ちゃん、剣崎ちゃん、りんりんちゃん! 準備はいい?」

「緊張はしますけど……でもそれ以上に楽しみです!」

「はい、準備万端です!」

「うん、いつでもガッチャできるよ」

 

 瑠李奈の確認に、三者三様の返事をする。瑠李奈はりんねの返事に、悪戯っ子のような笑みを浮かべた。

 

「うんうん、りんりんちゃんはイッチー君の分まで頑張らないとね! じゃあ行くよーー!!!」

「これより、乗馬部のダンスパフォーマンスを始めます。それでは乗馬部の皆さん、どうぞ!」

 

 瑠李奈の揶揄いにりんねは思わず反論しようとしたが、そんな暇もなく放送部のアナウンスとともに乗馬部はステージ上へ駆け出していく。一拍遅れてりんねもステージへ現れた。

 

「皆さんこんにちわ! 襟草ホースセンター乗馬部です!!」

 

 瑠李奈の第一声に、観客からは歓声が上がる。掴みは上々と感じた瑠李奈は、さらに言葉を紡ぐ。

 

「襟草ホースセンターは、日本古来から行われてきた馬の文化を学ぶ研究施設です! そして、私達は現役JKで馬術家!! 未来を担う一番星なのです!!」

 

 ワアアアアア、と歓声がさらに上がる。周りの盛り上がり具合に、康祐と杏那は思わず辺りを見回す。そんな時だった。宝太郎が講堂にそっと入って来たのが見えたのだ。

 

「おーい、一ノ瀬……」

「こっちこっち。一席空いてるわよ」

「あ、四月一日。穂積。サンキュー……」

 

 ヒソヒソと呼びかける康祐と杏那に気付いた宝太郎が、二人のもとへ駆け寄っていく。そのまま宝太郎は杏那の左隣の座席に座った。

 

「お前よく観れることが出来たな……」

「ああ、オカルト研究部員が手を回してくれたんだ。加治木達のおかげでこっちに来れたよ」

「オカルト研究部に感謝ね。その加治木君はどうしたの?」

「聖さん……彼女さんと一緒にいるよ。お互いオカルト好きだから、今頃一緒に展示品を見せているんじゃないかな?」

 

 講堂に来れた理由を話す宝太郎に、話を訊いていた康祐と杏那はなるほどと納得した。

 

「……で、このカッコでダンスするなら本来、あーしゴルシちゃんがセンターなんだけどよ。今回はスペシャルゲスト………そう! 九堂りんねちゃん!! ユニコンちゃんでーす!!」

「九堂りんねです! ほ、本日はよろしくお願いします!!」

 

 ひらひらとりんねに手を振ると、りんねが緊張した面持ちで前に出る。彼女を知る者から見れば、乗馬部のダンスパフォーマンスに出るなんて思いもしなかっただろう。それを示すかのように、観客の中の三年生は口笛を吹いたり拍手をしたりと良い反応を見せた。

 

「ほらー、そこの童心ボーイ! よかったな間に合って! 大好きなあの子のダンス、間に合ったぞー♥」

 

 宝太郎が来ていることに気付いていたのか、瑠李奈は宝太郎に視線を向けてトークを続ける。宝太郎は自分が指されていると思わなかったのか、キョロキョロと辺りを見回して自分を指差した。

 

「他に誰がいるんだよー! ……っと、ここからが本番だぜ! 曲はもちろん、“うまぴょい伝説”!」

 

 所定位置に四人が着くと、瑠李奈が「ミュージック……スタート!!」と幕を切った。

 

「位置について………………よーーーい……ドンっっっっ!!」

 

 

 




次回は歌って踊ってファンサするりんねちゃんが見れます
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