想伝・仮面ライダーガッチャード Unstaked memory 作:ホームズの弟子見習い
「うーーーー(うまだっち)
うーーー(うまぴょい うまぴょい)
うーー(すきだっち) うまほい(うまぽい)
うまうまうみゃうみゃ 3 2 1 Fight!!」
「おおー……凄い動くなぁ……」
感慨深げに呟く宝太郎に、杏那は「そりゃそうよ」と返す。
「事前に瑠李奈からダンス練習の動画を見せてもらってたけど、結構激しい動きだったもん」
「へえー……」
思い返す杏那に、宝太郎は上の空で返す。宝太郎の視線はりんねに向けられていた。どうやら夢中になっているようだ。
「きょうの勝利の女神は
あたしだけにチュゥする」
その時だった。りんねが投げキッスのモーションを入れたのだが、その投げキッスが向けられた先は宝太郎だったのだ。
(あっ! イッチー君の方に投げキッスを!)
(今、完全に一ノ瀬の方に投げキッスしたよな……)
(絶対一ノ瀬君に向けたわね……)
横でダンスをしながら見ていた瑠李奈と、宝太郎の近くの席に座っていた康祐と杏那は察する。当の本人は彼女達が魅せるダンスパフォーマンスに夢中で、気付いてるようには思えなかったが。
「きみの愛馬が!
ずきゅんどきゅん 走り出しー(ふっふー)
ばきゅんぶきゅん かけてーゆくーよー
こんなーレースーはー はーじめてー(3 2 1 Fight!!)
ずきゅんどきゅん 胸が鳴り(ふっふー)
ばきゅんぶきゅん だいすーきーだーよー
今日もーかなでーるー
はぴはぴ だーりん 3 2 1 Go Fight
うぴうぴ はにー 3 2 1 (うーー Fight!!)」
サビのダンスが、観客をさらに盛り上がらせる。盛り上がる観客の中には、蓮華や錆丸、保乃も混ざっていた。
「優等生ちゃん凄いでー! 見事なダンスのキレやーー!」
「すごいすごい! 私こんなすごいもの見れてよかった!!」
「そいつはよかったな。もっと楽しもうぜ!」
ダンスパフォーマンスを終えてはしゃぐ蓮華、大きく拍手して喜ぶ保乃に、錆丸は手持ちのタブレット端末に内蔵されているAI“アイザック”で返す。
「凄かったな……滝達乗馬部もだけど、九堂もダンスキレッキレだったな」
「動画で撮っといてよかったわね。せっかくの思い出だから撮らなきゃ損損♪」
拍手する康祐と、自分のスマートフォンで今回のダンスパフォーマンスの動画を撮影していた杏那が御満悦の表情で頷く。
「ありがとう、ありがとう! ありがとうございましたー!! みんなも襟草ホースセンターをよろしく! 校庭ではこのあとも引き続き写真撮影を行います!! 明日もダンスみてくれよな!! それじゃあね!!」
ダンスパフォーマンスを終えて汗を一頻り流した乗馬部とりんねは、それぞれ決めポーズをとった。乗馬部の面々は自分達が着ているコスプレのモチーフにしたウマ娘の一着のポーズを。りんねはマジェードの決めポーズをとってみせた。
「みなさんありがとうございました! 投げキッスを受け取ったのは『僕だ! 私だ!』って子はいるかな? 本日のダンスはこれでおしまい! 明日のダンスもよろしく! 撮影会のほうで会おうね!!」
十秒ほどポーズを決めると瑠李奈は手を振りながらステージ上からはけていき、他の乗馬部の面々とりんねも瑠李奈に続いてステージ袖に戻っていった。
「九堂のあの投げキッス、誰に向けてやったんだろうな?」
ぞろぞろと観客達が講堂を出ていく中、宝太郎が首を傾げながらそう言った。彼の爆弾発言に、横にいた康祐と杏那はぎょっと驚きながら宝太郎の方に顔を向けた。
「一ノ瀬君……貴方本気で言ってるの?」
「どう考えてもお前に向けられたものだと思うんだが……え? 俺の目が節穴だったか?」
「ええ、俺ぇ? まっさかー」
思わず憐憫の眼差しを向けた二人に、宝太郎はそれはないと一蹴する。
ここまでくると鈍感にも程がある。りんねは少なくとも宝太郎に対して、恋慕かどうかは判別出来ないが一般的な情とは違うものを抱いているように見えた。
「一ノ瀬……」
康祐はぽんと宝太郎の肩に手を置くと、真剣な表情で口を開いた。
「お前は一回九堂にビンタされろ」
「ええぇーーっ!? なんでだよ、ノーガッチャ!」
告げる康祐に、宝太郎は訳もわからずに自身の口癖を叫ぶのだった。
「みんなおつかれ!! いやーみんなすごいよコレ!! りんりんちゃんなんか、この衣装で踊るの初めてだよね? モー最高!!」
「確かに、リハーサルで合わせで踊ることはあったけど、これを着ながら踊るのは初めてだったからドキドキした……。コスプレの丈もちょっと短かったから……お、お客さんそういうところ見てないよね?」
ステージの袖で褒め称える瑠李奈に、りんねは少し息切れしながらも返す。りんねの不安に、乗馬部員の一人である剣崎真菜佳が「大丈夫でしょう」となんてことのないように返した。
「だって見せパンで踊ったんですよね? なら問題ないと思います」
「そ、そうだけど……やっぱり見られると色々恥ずかしくなるというか……」
用意されたペットボトルの水を飲みながら理由を話す真菜佳に、りんねはもじもじと顔を赤くする。妙なところで
「ファッションには見せブラだってあるんだし、いちいち恥ずかしがってたらキリがないよ? そんなんじゃイッチー君とまたデートする時に、向こうから堅苦しく思われちゃうよー?」
にしし、と笑いながら後押しする瑠李奈にりんねは「べ、別に一ノ瀬とはデートする関係じゃ……!」と頬を膨らませる。
「ていうかなんで瑠李奈、私と一ノ瀬が一緒に出かけたこと知ってるの!?」
「え!? そ、そりゃあ掲示板に出てたから……ね?」
りんねの指摘に取り繕う瑠李奈に、一応納得の表情を見せる。
「ねえねえそれよりさ、結局みんな誰に投げキッスしたの?」
瑠李奈は話題を切り替え、他の三人はその時のことを思い返す。
「私は兄に投げキッスをしました。お兄ちゃん、この後はモーターサイクル同好会の走行ショーを行いますから験担ぎも込めて」
「あー! 2-Aの彼? 和治が話題に出してた後輩君か!」
一年生の鳴海悠姫は、兄を思い浮かべながら語る。瑠李奈はすぐに関係性を結びつけ、なるほどと納得した。
「私は、橘先輩に……」
「えっ!? 立花君!? ウッソでしょ!?」
「あ、あの先輩! 多分、思い浮かべてる
わたわたと掌を前に出して取り繕う真菜佳に、瑠李奈は「え、そーなの?」と目を瞬く。
「私が投げキッスしたのは3-Bの橘先輩ですから! うう……なんでこんな形でバラさないといけないんですかぁ……」
意図せずして想い人を明かす羽目になった真菜佳に、瑠李奈は「ご、ごめんごめん!」と手を合わせて謝った。
「別にいいですよ……クラスメイトの何人かには既に周知の事実ですし」
わざとらしく頬を膨らませる真菜佳に、瑠李奈はただ乾いた笑い声を出すしかなかった。
「よっし、こうなったらアタシも言わなきゃ気が済まないね!! アタシが投げキッスをした相手はね……」
「どうせ緑川先輩でしょう? わかりますよ?」
「御二方がお付き合いされているのは割と有名ですからね……」
宣言しようとしたらあっさりと当てられてしまい、瑠李奈は体が思わず固まる。次第に顔が真っ赤になっていくのはあからさまだ。
「り、りんりんちゃんは………やっぱり、イッチー君に?」
ぎりぎりと錆びた歯車のようにりんねに顔を向けながら、瑠李奈は問いかける。りんねは顔を逸らし、黙秘を貫き通した。だがりんねの耳が赤くなっているのは明らかだ。
「い、一ノ瀬がちゃんと気付いてくれてるかどうかはわかんないし……」
「ダイジョーブだって。近くの席に座ってたワタくんとほづみんも気付いてたみたいだし、きっと届くと思うよ!」
瑠李奈の励ましに、りんねはぼそっと「あの二人にも気付かれてたんだ……」と呟いた。
「さ、気を取り直してみんなでグラウンドまでダッシュしよ! 次はモーターサイクル同好会のショーがあるからね! もし一着が取れれば、想いが通じまーす! それじゃあみんな位置について……よーい、ドン!!」
気を取り直して瑠李奈が前傾姿勢をとり、そのまま走り出した。遅れてりんね、真菜佳、悠姫の順に後に続く。
四人はグラウンドまで走り切り、最終的に一着をもぎ取ったのはりんねだった。
「ぜぇ……ぜぇ……まじ? りんりんちゃん一着!?」
若くして様々な死線を潜り抜けてきたりんねが一着をとったことで、息を吐きながらもドヤ顔で瑠李奈が先程見せたポーズを見せた。
「あっ! そのポーズアタシの!! ドヤ顔すんなー!! 取らないでー!!」
「はいはい、みんなお疲れ様。これ、お昼の焼きそばと飲み物よ」
ぶー、と頬を膨らませて腕を振る瑠李奈に、杏那と康祐が複数分の焼きそばと飲み物を持ってきた。
「おー、ありがと〜!」
「ありがとうございます、四月一日先輩、穂積先輩」
真っ先に瑠李奈と悠姫が受け取るが、二人から受け取っていないりんねと真菜佳は「私達の分は?」と訊く。
「ああ、それなら……」
康祐がそこまで言いかけると、りんねの左頬にひんやりとした冷たい感覚が走った。振り向くと、宝太郎がイタズラ成功と言わんばかりの笑みを浮かべていた。
「へへ! ほら九堂、お昼と飲み物!」
「あ、ありがとう……」
若干顔を赤くしながらも、りんねは受け取る。二人のやり取りを見ていた真菜佳が「いいなぁ……」と小さく呟いたその時だった。彼女の頭頂部に何かを置かれたような気がした。
「え? え?」
「お疲れ様、剣崎。よく頑張ったな」
真菜佳の頭頂部にペットボトルを置いたのは、真菜佳が想いを寄せる先輩の橘であった。想い人から労いの言葉を貰うとは思わなかった真菜佳はわたわたと慌てながらも、焼きそばと飲み物を受け取った。
「もしかして、ワタくんとほづみんが根回ししたの?」
「いや、俺達は買い終えた途中でばったり会ったんだよ」
「剣崎さんに自分で渡したいって言うから、一人分を預けたのよ」
もしやと察する瑠李奈に、康祐と杏那は野次馬根性を垣間見せる笑みを浮かべて否定する。康祐達の話す理由に、瑠李奈はもしかしたら脈ありかも……と思い始めていた。
「は〜あ。アタシは和治に投げキッスしたけど、気付いてくれてるかどうか……」
「あのな……気付いていないわけがないだろ?」
周囲が放つ熱々の空気にあてられた瑠李奈がぼやくと、背後から和治が瑠李奈に声をかける。
和治の声に気付いた瑠李奈はすぐさま彼の方に振り向いた。当の和治は恥ずかしげな顔をし、目線を泳がせていた。
「想いはちゃんと、通じたからさ。だから、今はその……お疲れ様」
「…………うん、ありがと。和治」
一瞬にして甘酸っぱい空気を醸し出し、思わず康祐と杏那は冷えた缶コーヒーをぐびぐびと一気飲みした。
今はこの苦さがちょうどいいと感じていたその時だった。
「ところで九堂、あの投げキッスは誰に向けてやってたの?」
宝太郎とりんねを中心とした半径七メートル以内の空気が冷え固まった気がした。
康祐と杏那はこそこそと「本当に言いやがったよこいつ」だの「とんだノンデリ野郎ね」と話していた。乗馬部の面々は口を窄めたり、口を引き攣らせたりしていた。
「え? え? あれ? 俺なんか変なこと言った?」
「別に一ノ瀬のせいじゃないし……あの投げキッスも誰に向けてやってたわけじゃないし、ただの振り付けだから」
空気の読めない宝太郎の発言に、りんねは拗ねてしまう。
「なんで不機嫌なんだよ、九堂〜……」
「別に……一ノ瀬に関係ないから」
「俺、九堂にしちゃったか?」
つーん、と頬を膨らませてそっぽを向くりんねに宝太郎は困惑を隠せず、頭を掻いた。
「はーい、お二人とも喧嘩ストップな。おい一ノ瀬、お前ウチのユニコン泣かしたらただじゃおかねーからな?」
自分が着ているコスプレのモチーフになりきった瑠李奈が、二人を諌める。直後、瑠李奈は宝太郎に耳打ちをする。
「あとりんりんちゃんは、耳と首の裏と腋が弱いからせめるならそこだよ」
「へ? なんでそんな事俺に話すんだよ?」
「隙あり! ほら二人とも! 一緒に肩並べて!!」
小声でりんねの弱点を話す瑠李奈に宝太郎は困惑すると、彼女の意図を理解した康祐と杏那が宝太郎とりんねを密着させた。
「はい、ハート!」
写真撮影の定番の呼びかけではなく、一風変わった呼びかけで瑠李奈は宝太郎とりんねのツーショットをスマホで撮った。宝太郎とりんねはいきなり「ハート」と言われ、思わず二人でピースハートを形作ったポーズをとった。
「ぐはっ……! やべぇ〜、アタシ尊死する! こんなの見せられたらマジで昇天しちゃうって!」
「おい瑠李奈……今のお前、すごくだらしない顔になってるぞ?」
写真撮影をした瑠李奈の表情に、彼氏としては思わずツッコミを入れざるをえなかった和治。和治のツッコミに、「いやだって……ねえ?」と変わらずニヤニヤとした笑みを浮かべている。
「咄嗟の反応でこんなポーズを作れるのは、もはや以心伝心を超えてるっしょ!」
「そ、それは瑠李奈がいきなり『はい、ハート!』なんて言うから、思わず静奈とプリクラ撮った時のポーズをそのまま使っただけで……!」
「俺はこのポーズ取るの初めてだったけど、前に加治木が聖さんとプリクラ撮影した写真を見せてもらったから、それを使った感じかな……」
興奮する瑠李奈に、りんねと宝太郎はそれぞれの釈明をする。とはいえ、咄嗟に鏡合わせで同じポーズを取れるのは、瑠李奈の言いたい事もわかる。宝太郎とりんねの周囲にいた者達は、内心頷いた。
「周囲の空気の暑さも戻ってきたみたいだな。一ノ瀬、発言には気をつけるこったな。ほら、みんなにかき氷だ」
周りの雰囲気がよくなったタイミングで、八神がかき氷を五人分持参してきた。後ろには十津もおり、さらに五人分持ってきていた。
「宝太郎達程良い雰囲気のものじゃないけど、こっちも凄いもの見ちゃったよ……」
「凄いもの?」
感慨深く呟く十津に、和治はなんなのかと訊く。
「ちょうど乗馬部のダンスパフォーマンスの頃だったかな? 体育館前でゲリラ的なノリでミナト先生がチャンバラやってたんだよ」
「チャンバラ? 誰と?」
あのミナトがと困惑する宝太郎とりんねに、八神が「ああ、あれか」と思い返す。
「なんか『貴様グリオンか!? 何を企んでいる!』だったり、『人違いです〜!』って返したりしてたぞ」
上を見上げてミナトと件の人物のやり取りを思い出す。それを訊いた宝太郎は驚愕の表情を見せた。
「ぐ、グリオン!? ま、まさか……」
「もしかしてその人、私の親戚かも……」
宝太郎はもしやと考えたが、りんねは別の考えに至っていた。それを訊いた宝太郎は「え?」とりんねに振り向く。りんねは宝太郎にヒソヒソと耳打ちする。
「実はさっき、アトロポスに瓜二つな女の子を乗馬部のダンスパフォーマンスに連れて行ったの。今は銀杏先輩と鶴原先輩が一緒にいるんだけど……」
「その子、普通の女の子なのか?」
「私から見たらそう思う。その子は叔父さんと親戚のお姉さん二人で来てるらしいから、多分その叔父さんが……」
「グリオンにそっくりな見た目な可能性が高い、ってことか……」
らしくなく、宝太郎は思わず頭を抱えてしまった。ミナトにしては頭に血が上る程の事態だったのかもしれないが、学校側からすればいい迷惑だろう。
「たまたま居合わせた九堂のお父さんと先生の恋人さんが、ミナト先生の矛を収めてたけど……まあ、事態を考えると自業自得かもな」
「そ、そうなんだ……」
話が終わったのを察したのか、八神が事の顛末を語った。話を訊いた宝太郎とりんねは呆れを隠さず、溜息を吐いた。
「当然かもね……」
「先生にしてはらしくないノーガッチャだな……」
ミナトに対して二人は珍しく、辛辣な評価を下したのだった。彼等の周囲の人物達は、どういうことかさっぱりわからず困惑していた。
「そういえば瑠李奈……さっき一ノ瀬に私の弱点教えてたけど……なんで知ってるのかな……?」
はた、と思い出すようにりんねが瑠李奈に顔を向ける。そんな彼女の表情は、さながら幽霊を思い起こさせるものだった。
「えー、だってホントじゃん。採寸の時、めっちゃアレな声出てたぜ?」
「アレな声?」
「一ノ瀬は知らなくていいの!! もう……今度やったら、次は参加しないからね!」
「だー! ごめんごめん! アタシが悪かったからさ、もう許して〜〜!!」
ぷいっとそっぽ向くりんねと両手を合わせて謝る瑠李奈に、和やかな雰囲気が戻ってきたのを周囲の人物達は感じた。
「ダッハッハッハ。暴れ馬もユニコーンには形無しだな。……グミと綿飴の組み合わせもイケるな」
そんな二人を見て昭兵が、綿飴を頬張りながらやってきた。横には加治木と聖が恋人繋ぎをしながら歩いていた。
「おいおい、カップルがどんどん増えてくな……」
「本当、こうして見ると結構恋人同士が多いのねー……」
徐々に集まっていく男女ペアもといカップル達に、康祐と杏那は思わず食傷気味に感じてしまう。そんな二人の会話を訊いた八神が「冗談だろ……?」と驚愕の声を出してしまう。
「お前ら、結局付き合っていないのか……」
「アタシとしてはいつもほづみんと話す時の話題がワタくんばかりだから、言ってないだけで恋人同士なんだと思ってた……」
「別に付き合ってないわよ〜」
「
呆れる八神と瑠李奈に、康祐と杏那はなんてことないように返した。康祐の返答に、何人かの生徒は口を噤んでしまう。確かに宝太郎とりんねのデートを尾けていたこともある過去からして、そうなるのも無理はなかった。
「おい昭兵、そろそろ準備しておくぞ。少しでも不備があれば同好会の存続に関わるぞ」
「おー、早速準備してくるぜ!」
空気を変えるように、和治が昭兵に準備をするように促す。昭兵は棒付きキャンディを咥えながら、この場を退散し、モーターサイクル同好会の部員が集まる準備場所へ走っていった。
「モーターショー頑張れよ、楽しみにしてるからな!」
「おう、ありがとな!」
「貴方達には幸運の女神がついてるから、成功は間違いなしよ!」
準備場所へ走っていく和治と昭兵に、康祐と杏那はエールを送った。そんな彼等をよそに、宝太郎は考え込んだ表情を見せていた。
「ん? どうしたんだよ宝太郎?」
加治木が宝太郎の様子に気付くと、宝太郎は口を開いた。
「九堂、まだ不機嫌なんだ。さっきツーショットを撮った時は笑ってたんだけど……。俺、どうすればいいんだろう?」
変わらずの鈍感ぶりに、この場にいた一同は呆れてしまった。
「後、滝が写真を撮ってくれる時に九堂の『耳と首裏とワキ弱いから攻めるならそこだぞ』って言ってたけど、みんな意味分かる?」
その後に続いた宝太郎の言葉に、今度は瑠李奈に視線が向けられた。瑠李奈は気不味そうに苦笑いをしながら、頭を掻いていた。
「オイオイ、そういうのは自分で調べるのがオメーの言う“ガッチャ”じゃねえのかい?」
「滝の言う通りだぞ、一ノ瀬。調べる方法はいくらでもあるんだからな」
「まあ俺から言えることは……その滝が言ってた攻めるなら、ってやつ。それをやるなら絶対に二人きりのタイミングでやれよ?」
「が、ガッチャ……」
凄む瑠李奈と八神に宝太郎は気圧されてしまい、康祐の与えたヒントが伝わったのかどうか、自身の口癖を返すだけだった。
「ねえ、それよりも早くしないとモーターショーの見物が見づらくなっちゃうよ?」
「あと三十分か……まだお腹も腹八分ならぬ五分ってところだから……。康祐、お願いね♪」
りんねがふとスマホで時間を確認すると、杏那も続いた。慣れているのか「ハイハイ、何かリクエストはあるか?」とさながら日常会話のように康祐は訊き返す。
「麦茶、焼き鳥、豚串合わせて十本! あと綿飴も!」
「よく食うなコイツ……滝の分は俺が買ってきてやるか? 何か買ってきて欲しいものはあるか?」
小さく驚く八神に、杏那は「焼き鳥と豚串は康祐と分けて食べるもん」とあざとく返した。それを見た康祐は口角が僅かに上がっていたが、誰にも指摘されなかった。
瑠李奈は「うーん、そうだなぁ……」と人差し指を顎に当てて考える仕草をとっていた。
「じゃあスポドリと塩ラーメンお願いね! はいこれ、アタシの分の代金」
瑠李奈のリクエストに八神は頷き、彼女から千円札を二枚受け取った。
「九堂さんも一ノ瀬君を顎で使っていいのよ? その間は女性陣で場所取りすればいいんだし」
「でもそれだと、一ノ瀬に申し訳ない気が……」
渋るりんねに、瑠李奈が「わかってないね〜」と差し挟んだ。
「これはイッチー君が乙女心を無自覚に弄んだ罰! 男子達がアタシらの分も買ってきてくれるんだから、ここは男どもに任せればいいの!」
「うん、俺も九堂の分買って来るよ。何かリクエストあったら言ってくれるか?」
「うーん、そういう事なら……。じゃあ適当な飲み物と、アメリカンドッグお願い。飲み物は一ノ瀬に任せるね」
瑠李奈の理論にりんね以外の女性陣は頷き、ならばとりんねは宝太郎にリクエストを出す。宝太郎は「ガッチャ! 任せて九堂!!」と言い残して走り去って行った。
「おお、嵐のように走って行ったな宝太郎の奴。あ、聖さんも何か要りますか?」
「お茶とホットドッグで十分よぉ。加治木君これ、代金ねぇ」
既にいなくなっている宝太郎を見送ると、加治木は聖へ向き直り何が欲しいのか訊く。聖はバッグから財布を取り出すと、千円札を取り出し加治木に渡した。
「男、加治木涼! 行って参ります!! 四月一日も八神も早く行くぞ〜〜〜!!!」
「おい加治木、そんな急ぐと転ぶぞ!」
「んじゃ、女性陣は場所取りよろしく。おーい、待ってくれ八神〜、加治木〜!」
ビシッと聖に敬礼をすると、八神と康祐を促し自身もダッシュで縁日コーナーへ向かって行った。遅れて八神と康祐も後に続いて行った。
およそ十分後、グラウンドの周りには親子連れの観客やバイクに精通していそうな中年の男性など、様々な年齢層の一般人が来客していた。
りんね達はちょうど見やすい席を見つけると、そこに座ることにした。
「おーい、九堂ー!」
「一ノ瀬ー、こっちだよ!」
各女性陣から注文された品々を持ち込んだ宝太郎達がやってきた。りんねは手を振って応える。
「はい九堂、アメリカンドッグ、飲み物はオレンジジュースにしたよ」
「ありがとう一ノ瀬、これ代金ね」
宝太郎はアメリカンドッグとオレンジジュースを渡し、その代わりにと千円札を差し出した。宝太郎は素直に受け取り、自分用に買ってきたメロンソーダとアメリカンドッグを両手に持った。
「ほら杏那。麦茶と焼き鳥と豚串、綿飴は後で食うだろうから持っておく」
「ありがと康祐。焼き鳥と豚串は分けて食べましょ」
「だと思った。一本貰うな」
阿吽のやり取りを見せる康祐と杏那に、それを見た八神は「もはや熟年夫婦の域じゃねえか……?」と小さく呟いた。
「ああそうだ、滝の分。塩ラーメンは最後の一杯だったからギリギリセーフだったぜ……」
「え、マジ? ありがとねー!」
瑠李奈は八神から塩ラーメンを受け取り、早速啜り始めた。
「聖さん、ホットドッグとお茶です!」
「ありがとなぁ加治木君。隣、空いてるで?」
「ありがとうございます!」
まるで忠犬のようだと内心思ってしまった聖は、隣の空いた椅子をポンポンと軽く叩き、座るよう促す。加治木は満面の笑みで座り、二人の間には和やかな雰囲気が流れていた。
「えー本日は富高祭へお越しいただき、誠に、誠にありがとうございます。本日このあと十三時からグラウンドにて、我々モータースポーツ同好会による走行演技を行います。危ないのでコース内には立ち入らぬようお願いします。また、写真撮影や動画撮影に関しては大歓迎であります。周りの人に注意してお楽しみください」
緑川のアナウンスがスピーカーから発せられ、既に待機している見物客は何人かは今か今かと待ち侘びているのがわかる。そんな時だった。康祐が「そういえば」とふと呟いた。
「一ノ瀬、今日はモーターショーの走行演技は参加しないのか?」
「四月一日。うん、俺が参加するのは二日目だけでいいって。今日はゴルドダッシュをみんなに見せてもらうだけで十分だってさ」
思い出したように訊く康祐に、宝太郎は返答する。「じゃあ一ノ瀬の走行演技は二日目なんだね……」とりんねが小さく呟いた。
「でも大丈夫なの? もし悪意のある人がゴルドダッシュに触れたら……」
「それがさ、鏡花さんとアカデミー専門教師の久保山先生が最近の新地球調査に赴いてケミーの具合を調べたら、悪意に耐性がついてるって言ってたんだ」
りんねの懸念に、宝太郎は以前鏡花から耳に挟んだ推測を話す。
「え? そうなの?」
「鏡花さんが言うには、俺達と一緒にマルガムを相手に戦ってきたからなんじゃないかって」
「そっか……錬金術の掟も、徐々に変わってくのかなぁ……」
感慨深げに呟くりんねの表情はどこか儚げで、宝太郎も思わず見惚れてしまった。
「よーし皆んな、行くぞーー!! 安全第一でな!!」
そんな時、昭兵が部員を鼓舞するように声を張り上げ、宝太郎達は彼等の方に思わず顔を向けた。
スマホを見ると十三時ちょうどを指し示していた。いよいよショーが始まる時間だ。
「みなさんこんにちは!! ようこそ富高祭へ!! 僕達はモータースポーツ同好会です!!」
昭兵の威勢のいい声が、マイクを通して響いた。
次回、魔法騒動!
ズキュンパイア「ちなみに僕は全くの無関係だよ」