想伝・仮面ライダーガッチャード Unstaked memory 作:ホームズの弟子見習い
日曜日、午前八時。富良洲高校学校祭二日目を迎えた今日。三年A組の教室内にて担任のミナトが生徒達に確認をとっていた。
「八神は今日もかき氷の売り子か。たまには家族と一緒に回ってきたらどうだ?」
「午後から兄と姉が来る予定ですから、その時に一緒に回ろうと思います。心配しなくても大丈夫ですよ」
心配そうに声をかけるミナトに、心配無用と明るく振る舞う八神。大丈夫だと判断したのか、ミナトは他の生徒を見やる。
「四月一日と穂積は、午前は推理小説研究部の催し物として小劇場をお披露目するんだな。楽しみにしてるぞ」
「ありがとうございます、午後は和戸君と写家さんが役を担当しますので、どっちの時間でも観に来てください」
「部室前に昨日も売った特集雑誌も売ってますので、そちらも宜しくお願いしまーす!」
にこやかに返す杏那と宣伝するように応じる康祐に、ミナトは思わず微笑んだ。
「一ノ瀬はモーターサイクル同好会のショーに出るんだったな。お前の腕前、見せてもらうぞ」
「ガッチャ! 楽しみにしててよミナト先生!」
元気そうに受け応える宝太郎に、隣に立つりんねは微笑ましげに見守っていた。
「九堂もお昼前に、乗馬部のみんなとダンスパフォーマンスを行うと聞いた。滝、九堂。お客さんを楽しませてくれよ」
「モチのロンです! 今日も頑張ろうね、りんりんちゃん!」
「うん、頑張ろうね瑠李奈」
女子二人がぐっと拳を可愛らしく構える姿に、一部の男子は恥ずかしそうに目を背けた。それを見ていた瑠李奈の彼女である和治は、嫉妬心が出たのかムスッとした表情を一瞬見せた。
「彼氏としては面白くないって顔してんな〜?」
「うるせー、俺だって多少は寛容になりてえけどよ……」
そんな和治を見た親友の昭兵は茶化す。和治も認めたのか、思わず頭を掻いた。
「よし、もうすぐ一般客もやってくる。今日も楽しんでいくぞ!」
だらしのない雰囲気とは裏腹に、はっきりとした声色で掛け声を上げる。生徒達もそれに応じて「おおーーーーっ!!」と大きく声を上げたのだった。
●
午前九時十一分。ぞろぞろと一般客が来場し、様々な催し物を楽しんでいた。どれも客の入りが多く、学校祭は大成功を収めたと言えるだろう。
推理小説研究部部室。いつもは設置されてある机やホワイトボードはどかされ、教壇を舞台の壇上代わりに、推理小説研究部の部員達は小芝居が行われていた。
「渾身の出来のはずの歴史小説の売れ行きがイマイチだなぁ……金も欲しいし、大衆向けの小説でも書くか〜……」
コナン・ドイル役になりきった康祐が、台詞を連ねる。その次に発せられたのはナレーションの成堂竜介だ。成堂は壇上から降りて、左端の位置に立ってマイクを持っている。
「こうしてコナン・ドイルが書いたのは、シャーロック・ホームズシリーズ第一作“緋色の研究”。当時は推理小説もとい探偵小説の扱いは、現在でいうライトノベルのようなものだったのです。時代の変化とともに、世間の小説の見る目は変わっていったのです」
左手に台本を持ち、スタンドマイク越しにナレーションを行う。竜介のナレーションに、十数人の観客が「へえ〜」という声が上がった。
「“緋色の研究”は瞬く間に売れて、出版社から続編を頼み込む程のものでした」
「先生ー! うちの誌面から是非とも続編を書いてください!」
編集者役の杏那が、ドイル役の康祐にグイグイと迫る。康祐は鬱陶しそうな態度を見せるも、話を訊こうと向き直る。
「うちのストランドマガジンで短編連載を六話程お願いします! 原稿料は〜、三十五ポンドで!」
「ちなみに、当時の一ポンドを現在の日本円に換算すると、三万円程になります」
竜介のナレーションを聴いた観客が、少しざわめき立つ。だがここで逸話は終わらない。
「短編六話で三十五ポンドか……」
「いえ、一話三十五ポンドです!」
「ふぁ!? てことは……合計二百十ポンドか!?」
編集者役の杏那が提示する相場に、ドイル役の康祐はコントのように転げ落ちる。何人かは「ワハハ」と笑い声が出て、その他の観客はスマホで計算し始めた。
「二百十ポンドを今の日本円に換算したら……六百三十万円だ……」
唖然としながら計算結果を呟く観客の男性。隣で訊いていた連れの女性は「嘘!?」と声は小さいながらも、表情は大きく驚きを見せていた。
●
午前十時八分。宝太郎と八神と加治木は共に校内を散策していた。
「そういえばさ、今朝九堂から個人トークが来たんだけど……」
廊下を散策しながら、宝太郎は突然呟く。一緒に歩いていた加治木と八神は「ん?」と反応する。
「『今日はちゃんと受け取ってね?』って言ってたんだけど、何のことだと思う?」
「あ……あぁ〜〜……」
「くっ…………。このクソボケがぁ〜〜〜……」
滲み出るような声を出す加治木と八神に、宝太郎は「え? え?」と狼狽える。
「いや、俺の勘違いならいいんだけどさ……もしかしたら昨日のダンスパフォーマンスの時、九堂が誰に投げキッスをしたのかわかんなかったから今朝伝えてきたのかなーって……そんなわけないか……」
「ああ、うん……まあお前が思う通りに思えばいいんじゃないかな?」
ほぼ正解と言っていい宝太郎の発言に、加治木は苦笑いでやり過ごすことにした。
「いいのかよ加治木? 一ノ瀬に正解だって伝えなくて……」
「いや、でもさ……横から入るような真似は出来ないだろ?」
八神が加治木に小声で進言しなくていいのかと訊くも、恋愛に先達のある加治木は敢えて見過ごすことにした。
「ゴーン、宝太郎はりんねのことになると鈍感になるゴン!」
「わっ、バカ……!」
突如聞こえてきた声変わり始めの幼い声に、八神は「え?」と辺りを見回す。他の生徒は気にした様子はなさそうだった。宝太郎が背中を見せて、こそこそと話し込んでいたのが八神には見えた。
「何やってるんだ一ノ瀬の奴?」
「あ、いや……気にするなよ!」
「あ、ああ……」
宝太郎の動向が気になった八神だが、加治木がすかさず誤魔化すのだった。
しばらく歩いていると、ある教室の方から「ひえーっ!」や「うわああ!」といった悲鳴が聴こえてきた。思わず宝太郎と八神は身構えてしまうが、加治木は「おお」と唸った。
「推理研の小芝居か。四月一日達がホームズ製作の流れを劇にしたやつ」
「なんで悲鳴みたいなのが上がってるんだ?」
八神の挙げた疑問に、加治木は「台本、見せてもらったんだけどさ」と前置きして語り始める。
「多分もう、終盤ごろになってると思うんだけど、その展開にお客さんが吃驚したんじゃないか?」
「展開にびっくりって、どんな展開なんだよ加治木? ……あ、二部ください」
「二部ですね、一冊五百円です」
加治木に問いかけながら、部室の入口前で雑誌の売り子を担当している砂西に購入の手続きをとる宝太郎。砂西は袋に雑誌を入れ、宝太郎が差し出した五百円玉と百円玉五枚を受け取る。
「ホームズって一回死んだ事になってたけど、読者と編集部の要望で復活する事になったんだよ。で、その時に提示された原稿料がな……短編一話につき四千ドルなんだと」
「…………おい、ちょっと待てよ。今スマホで調べたら、当時の一ドルは日本円で三千百円って出たんだが?」
「えっと……それに
「ちなみに復活後に書かれた短編は全部で十二作って穂積が言ってたから、それに十二倍してみると………」
加治木の補足に、八神と宝太郎はスマホで出した計算結果に脂汗を流す。
「い、一億四千八百八十万円……?」
「原稿料だけでこの金額は……さすがに金欲には勝てなかったか……いや、後世のことを考えるとこれで良かったんだろうが……」
歴史の分岐点はどこで起きるのかわからないな、と八神は締めた。ふと宝太郎は部室の出入口に視線を向けると、ぞろぞろと一般客が部室から出て行くのが見えた。
どうやら部室内の劇は一区切りついたようだ。
「お、一ノ瀬と八神と加治木じゃん」
「もうわたし達の劇は一区切りついたわよ」
部室の手前入口から、康祐と杏那がひょっこりと顔を出した。二人は衣装に身を包んだままだ。
「ようお前ら、加治木に見せた台本の流れってマジなのか?」
「マジもマジ。大マジよ」
「コミカルに噛み砕いた内容だけど、殆ど実話だぞ。事実は小説よりも奇なりを地で行く人生だよホント……」
砕けた口調で杏那が肯定し、康祐もそれに続く。宝太郎は「はぁ〜〜………」と感嘆のため息を上げることしかできなかった。
「ん? 兵助じゃねえか。それに宝太郎も……」
ふと一人の男性が、宝太郎と八神に声をかけた。呼ばれた二人は声のする方に振り向くと、二人にとって見知った人物が、少年を連れて立っていた。
「道長さん、来てたんですか」
「道長じゃん! まさか学校祭に来るなんて……って、あれ?」
ほぼ同時に件の人物、吾妻道長の名を呼ぶと、宝太郎と八神は互いの顔を向き合う。
「一ノ瀬、お前道長さん知ってたのか?」
「それを言うなら八神も。道長と知り合いだったんだな」
互いに意外な人間関係が築かれていたことを知った二人が唸る。
「どこで知り合ったんですか?」
すかさず加治木が、道長に訊ねる。
「兵助は俺の近所に住んでてな。八神の姉貴と兄貴が時々、春樹……コイツの面倒を見てくれたりもしてくれるんだ」
道長の御近所事情を話しながら、連れてきていた少年である春樹の頭をくしゃっと撫でる。
「へえ……八神君、
「お、おお。まさか難しい読み方で変換するとは思わなかったな……んで、宝太郎とは一度だけだが一緒に共闘した仲……ってやつだな」
杏那の読み方に道長は思わず少し引きながらも、宝太郎との関係について続いて話した。それを訊いた加治木達は、仮面ライダーの戦い関係なのだなと察した。
「そういえば、八神の兄さん姉さんは来てないんですか?」
「一緒に来たが、別行動だ。後で合流する予定だ」
「ふーん、なるほど……あ、そうだ。わたし達で作った特集雑誌、買っていかれます? わたし達なりにミステリの歴史を纏めたんですよ」
入口前のテーブルに置かれた雑誌を手に取り、道長に見せつける。
「そうだな……春樹、どうする?」
「うーん……折角なので一冊ください」
道長の確認に春樹は数瞬悩む様子を見せたが、購入することにした。
「はい、一冊五百円です。お金は持ってきてる?」
「うん、小銭沢山持ってきました」
杏那が目線を合わせて春樹に訊くと、彼は胸に掲げていた子供向けのがま口財布を見せる。財布はジャラジャラと音が鳴り、この日の為に用意してきたのがよくわかる。
春樹は財布を開けて五百円玉を取り出すと、杏那の差し出す右手に置いた。
「はい、五百円受け取りました。じゃあはいこれ、帰ったら読んでみてね?」
「ありがとうございます」
五百円玉を受け取り、杏那は春樹に雑誌を渡した。春樹は抑揚のない声で礼を言い、雑誌を受け取った。
「良かったな、春樹」
道長が笑いかけると、春樹は小さく微笑みながら頷いた。
「この後はどうするかな……」
「じゃあ折角だし、一緒に見て回ります? 九堂がウマ娘のコスプレをして、ダンスをするんですよ」
八神の提案に、道長は「九堂って、あの女の子か? 宝太郎?」と確かめる。宝太郎は頷き、「あの九堂だよ」と悪戯っ子のように笑顔を見せた。
「確か十一時半にダンスパフォーマンスをやるんだったっけ?」
「ああ、四月一日達も合流するのか?」
康祐が確認のために訊くと、加治木が頷き訊き返す。
「十一時頃に終わる予定だからな。折角だし、この衣装のまま合流するよ」
「いちいち着替えるのも面倒だしね」
カイゼル型のつけ髭を撫でながら、杏那は面倒そうに肩を回す。
現在、康祐と杏那の着ている衣装は、演劇部の協力により当時の年代風に合わせたデザインがなされたものだ。幸いにも部費が潤っていた為、康祐と杏那が着用している分と、午後から役を演じる麻衣と尊の分が用意されていた。
「部長、副部長ー。ドーラン塗りますから戻ってきてください」
部室内から、望実が康祐と杏那に声をかける。呼ばれた杏那と康祐は「今行くね」と返した。
「じゃあみんな、後でね」
「
二人はそう言い残すと、部室に戻っていった。宝太郎達は二人を見送ると、どうしようかと顔を見合わせた。
「春樹はどうする?」
「色々見て回りたい。UFOの展示もあるって訊いたから、そこに行ってみたいな」
「おお、君もUFO好きなのか? オカルト研究部の展示、楽しみにしてくれよな!」
同志を見つけたと言わんばかりに喜びの顔を見せながら、加治木は春樹に近づく。春樹は「うん」と短く頷き微笑んだ。
「ありがとな、宝太郎。お前の友達のおかげで、春樹も繋がりが増えた。色々
「礼を言われる程じゃないよ。共通の趣味が見つかって加治木も嬉しいだろうし。俺も加治木の親友なのは胸を張って言えるけど、オカルトに関しては詳しくないからさ……」
礼を言う道長に、宝太郎は気にするなと言わんばかりに手のひらで抑える。
「それより八神、この後はどうする?」
「昼は乗馬部のダンスパフォーマンスを観に行くのは確定として、今の時間にやっているのは確か……」
「それなら体育館で、軽音部のイベントやってるぞ。見てみるか?」
どうするかと思案していた八神に、春樹と話していた加治木が応える。
「じゃあ道すがら、何か買いながらそこに行くか道長さん達はどうしますか。」
「俺と春樹は他のところを見に行ってみる。じゃあなお前ら」
「またね、加治木のお兄ちゃん」
一旦宝太郎達と別れることにした道長と春樹は、軽く手を振り廊下を歩いていった。春樹と親交を深めた加治木も、にこやかに手を振り返した。
●
午前十一時二十七分。富良洲高校講堂。講堂内には生徒はもちろん一般客も今か今かと待ち侘びた様子を見せていた。これからここで、乗馬部によるダンスパフォーマンスのショーが行われるのだ。
「もうすぐ始まるな。昨日は観れなかったから楽しみだ」
真ん中の列にある席に座した八神が、楽しみそうにステージに視線を向ける。右隣には道長と春樹が。左隣には宝太郎と加治木がいる。宝太郎の後ろの席にはアトロポスそっくりな少女である保乃と、その保護者であるグリオンにそっくりな男性や、クロトーやラケシスにそっくりな女性がそれぞれ男性の隣に座っていた。
「おーい、一ノ瀬、加治木、八神」
「四月一日、穂積。間に合ったんだな」
「お前らの席はとっといてあるぜ」
ダンスパフォーマンスまであと一分というところで、康祐と杏那がやってきた。二人の服装は先程遭遇した際の衣装を着崩した状態だった。
「なんとか間に合った〜……」
「あっついな……この時期にこの衣装で走るのはやっぱり堪えるぜ……」
勢いよく空いた席にどかっと座り、手のひらを団扇代わりに仰ぎながら愚痴をこぼす。確かに二人の衣装は今の季節を考えると厚着なので、ラフな状態に着崩すのも仕方ない。
「結構ウケてたか?」
「ああ、そりゃ勿論。午後は後輩達が役を担当してるから見て来てくれよ」
反応を訊く和治に、康祐はサムズアップで応えながらちゃっかり宣伝も入れる。
そんな彼らの様子を、ステージの袖から瑠李奈達は見ていた。
「お、和治も来てくれてる! 観に来てくれなかったらアタシのアッパーが炸裂するところだったよ、うん」
「アッパーって……何気に瑠李奈も格闘の心得あるの?」
「え? オシオキにはアッパーじゃない? アタシだけ?」
軽くシャドーボクシングをする瑠李奈に、りんねが訊ねる。瑠李奈はそういうものだと思っていた為、キョトンとした反応で返した。
「まあとにかくさ! ゆうちゃん、まなちゃん、りんりんちゃん! 準備はいい!? 泣いても笑ってもこれがラストチャンス!! 気合い入れていくぞ!!」
瑠李奈の激励に、三人は「おおーーーーっ!!」と掛け声を上げる。
直後、放送部員のナレーションがスピーカー越しに響いた。
「これより、襟草ホースセンター乗馬部によるダンスパフォーマンスが始まります。それでは乗馬部の皆さん、どうぞ!!」
観客の歓声と共に、乗馬部とりんねの四人がステージに立った。
設定・小ネタ・登場人物解説コーナー
【推理小説研究部の小演劇】
推理小説研究部の二日目の出し物は、小演劇と彼等で作った雑誌の販売。
演劇の内容は、コナン・ドイルがシャーロック・ホームズを生み出した経緯。
ちなみにこの経緯はかなり噛み砕いているがほぼ事実。
ざっくりと知りたいのであれば「コナン・ドイル なんJ」で検索してみよう。
ぜひお気に入り登録、感想。評価よろしくお願いします´ω`)ノ