想伝・仮面ライダーガッチャード Unstaked memory 作:ホームズの弟子見習い
バイクや車を乗り回す描写は力量不足かもしれねえ……。
音楽と共に、二台のバイクがグラウンド内を駆け回る。メロディに合わせてバイクを駆る光景は、見事なものだった。
「凄い凄い、お兄ちゃん最高!」
現在バイクを乗り回っている鳴海の妹である悠姫が、きゃあきゃあとはしゃぐ。
「昨日も観たけど、やっぱり迫力があるなぁ」
「高校生のクオリティにしては、圧巻だね……」
八神と妃花が、頷きながら感心する。妃花と将吾はモーターショーを見るのは初めてだが、ここまでのクオリティだとは思わなかった。
「でもa-haって何なんだろ? 何となくバンド名なのはわかるけど……」
伴奏曲に使われた“Take On Me”を歌うa-haがどんな存在なのかわからなかったりんねが、誰に訊くわけでもなく呟く。それに反応したのは杏那だった。
「ノルウェー出身の三人が組んだバンドよ。今流れてる曲のMVは、当時としては斬新で世界的なヒットになったらしいわ」
「年代を考えると、一ノ瀬が好きそうなバンドだと思うぜ? 八十年代の曲だしな」
杏那と康祐の解説に、りんねは「へえ〜」と食いついた。
「そういや今年は、富良高祭が終わった後の後夜祭はあるのかい?」
ふと思い出したように、将吾が皆に訊ねる。
「後夜祭か……見える、見えるぞ! 八神にこぞってフォークダンスのお誘いをする女子達の姿が……!」
真面目なトーンでボケをかます康祐に、八神は思わず苦虫を噛み潰した表情を見せる。それを見た兄姉二人は、苦笑いするしかなかった。
「後夜祭ってどんな内容なの?」
「ああそっか。りんりんちゃん、毎年後夜祭に参加してなかったもんね」
ここで後夜祭に詳しくなかったりんねが、瑠李奈に内容を訊く。瑠李奈はそういえばそうだったと思い出し、りんねに内容を話し出す。
「後夜祭はざっくり言えば、打ち上げみたいなもの! 学校祭の片付けをして、グラウンドに設置されたキャンプファイヤーの周りでフォークダンスを男女ペアで踊ろう〜! ……というのが後夜祭なんだけど、大体わかった?」
瑠李奈の解説に、りんねは「なるほど……」と唸った。
「参加自体自由だから、りんりんちゃんは今まで知らなかったのも無理ないって。でも参加するなら、イッチー君を誘って一緒にフォークダンスやるのもありかもよ?」
「べ、別に一ノ瀬を誘うって決めたわけじゃないから!」
瑠李奈の揶揄いに、りんねは声を上擦らせて否定する。
そんな会話をしているうちに、一曲目のパフォーマンスが終わった。ダイナミックなパフォーマンスの成功の可否は、観客の出す歓声と拍手が証明していた。
「はぁ……はぁ……ありがとう!」
走行演技を終え、ヘルメットを脱いだ昭兵が様々な方向に手を振り返す。手を振り終えると、後輩部員から差し出されたペットボトルの水を受け取り、ゴクゴクと一気に飲む。飲み終えると、昭兵はマイクに持ち替えた。
「続きまして、自動車による走行演技!! こちらでは、九十年代をテーマにした演技をお見せします!! 九十年代…………バブルが崩壊し日本が大混乱に陥った時代…………。男たちは心の不安を紛らわすために自分の愛車に類稀なるカスタムを施し、ドライブや公道レースに興じていました。タバコの煙、ドライブインの明かり、そして響くエンジン音…光景が脳裏に浮かぶ方もいらっしゃいますでしょう!!そして、そんな時代の中を駆け抜けた傑作の一つがこちら!! そう!トヨタAE86型カローラレビン、スプリンタートレノ!! 通称、ハチロク!! 緑川くんによる演技です!! 曲はもちろんこれです!!
「一万二千回転キッチリ回すぜー!!」
昭兵の前説に和治が吠えて、自らのハチロクを乗り回す。将吾は思わず「定番だよなぁ」と呟いた。
「確か主人公が乗る車が、今緑川が乗ってるヤツなんだっけ?」
兄の呟きを訊いた八神が、確認するように訊き返す。将吾は「ああ」と頷く。
「確か主人公は豆腐屋の息子で、中学生の時点で峠を走り回っていたんだったかな……」
「倫理観もクソもないっすね……」
眉間に人差し指をあてながら思い出すようにあらすじを話す将吾に、康祐は思わず内容にツッコミを入れてしまう。
「九堂さんは読む前から遠ざけそうね……」
「なんか私がそういう潔癖な性格だと思われてる……。でも否定できないのが……」
杏那がりんねに視線を向けながら言うと、りんねは否定しようにもしきれなかった。
話をしている間にも、和治のドライビングは止まらない。彼のドライビングテクニックは、高校生にしてはハイレベルなものだった。
「こうして見ると、砂埃が結構舞うな」
「事前にゴーグルとマスクが支給されてよかったね。これだと車の様子もよくわかる」
将吾の感想に、妃花が乗っかる。彼女としては車は移動手段の一環でしかないが、今回のような魅せる車のドライビングもいいものだと思う。
やがて曲が終わり、ドリフトでハチロクのパフォーマンスが〆られた。
「緑川くんありがとう! ナウいぜ!!」
拍手や歓声と共に、「立花それは古いぞー!」や「もっと最近の言葉使えー!」と言った野次も飛んできていた。そんな野次に対して昭兵は「ほっとけー!」と調子よく返した。
「次は…もうひとつの90年代のお話。これは決して夢物語ではありません。何か1つでも条件が違えば、ありえたかもしれない世界の話です。199X年、世界は核の炎に包まれました!! 海は枯れ、地は裂け、あらゆる生命体が絶命したかにみえた!! だが…人類は死滅していなかったのです!!
人類は略奪や殺戮を繰り返す強者と、残酷に痛めつけられる弱者に分かれました。ここは暴力が支配する狂った世界…………弱き者たちが絶望の淵に立たされ希望を捨てかけた時、ぼろ布を纏った一人の男が現れます!! 水平二連ソードオフショットガンを携えた、流浪の戦士マッド・マックス!! 彼の愛車は…そう!! V8インターセプター!! 今まさに、世紀末救世主伝説が始まります!!*2」
昭兵の前振りに一区切りがつくと、スパナが乗るマッドウィールがドリフトしながら颯爽と現れた。
「じゃあスパナさん、お願いします」
「ああ、わかった。行くぞ、マッドウィール」
スパナの呼びかけにマッドウィールは車内で「ウィール!!」と元気に応え、スパナの運転に身を任せた。
直後に曲が流れだし、緊張感溢れるメロディが流れ出した。
「マッドマックスか……映画好きなんだよなー」
「男はこういうの、大好物だもんね〜」
八神の呟きに、瑠李奈はうんうんと頷きながら理解を示す。りんねも「一ノ瀬もこういうの好きそう……」と呟いていた。
「これ、確か“北斗の拳”がこの映画に影響受けてるんだっけ」
「へえ〜、確かに荒野を旅する流浪の男って訊くとどっちも思い浮かべるかも。箇条書きマジックってヤツ?」
思い返す康祐に、杏那が納得の言葉を出す。
「父さんが子供の頃にハマってたって言ってたなぁ」
「四月一日先輩のお父さん、何歳くらいなんですか?」
懐かしむように話す康祐に、悠姫が彼の父の年齢を訊く。康祐は「うーん」と思い出すように考えると、「確か……」と前置きして口を開いた。
「四十四くらいだったかな?」
「じゃあワタくんのお父さんの生まれ年はちょうど80年頃なんだね」
「ああ、そうだそうだ。ちょうどその年に生まれたから覚えやすいぞって父さん言ってたな」
瑠李奈の補足に、康祐は「そうそう」と同意する。
「それにしても……張り切ってるのかな? 結構砂埃が舞ってるね」
ゴーグルを付けたまま、レンズを拭きながら妃花は苦笑いをする。実際に張り切ってるのはスパナではなくマッドウィールなのだが、りんね以外に誰もそれを知る由もない。
「それにしても黒鋼先輩のドライビングテク、さっきの緑川の比じゃないくらいに凄い……」
「まあ和治の方は免許を取って日が浅いからしゃーないって。彼女としては否定したい気持ちもちょっとあるけど……」
「あっ…………ご、ごめん瑠李奈!」
苦笑いしながら和治のフォローをする瑠李奈に、りんねは思わず謝る。とはいえ、瑠李奈の発言も事実なので「いいっていいって」と軽く手を振る。
「そういえば瑠李奈って、よく緑川君とドライブデートするの?」
杏那の問いに、瑠李奈は「もち!」とサムズアップしながら答えた。
「同好会の活動の時はたまに近くのレース場の許可もらって走り回るけど、アタシとデートする時は安全運転で走るんだよね〜」
瑠李奈によると、たまにモーターサイクル同好会の面々に差し入れをしているようだ。和治と瑠李奈の仲の良さを知る者からすれば、さもありなんといったところか。
やがてスパナの乗るマッドウィールはジャンプ台を飛び越え、ドリフトをしながら着地した。大迫力の光景に、観客から黄色い歓声が起こった。
スパナは運転を終えると、ニヒルに笑みを浮かべて手を振った。それを見た女性陣の観客達が、きゃあきゃあと悲鳴をあげるかの如く騒いでいた。
「ハハ……やっぱイケメンはやることなすこと全てが様になるねぇ」
クールに決めるスパナに、八神は乾いた笑みをこぼす。そんな八神に、康祐は「人のこと言えねえだろ」とボソッと呟いたのだった。
「やっぱりハチロクもV8インターセプターもいいですねぇ! お次はいよいよお待ちかね!! スペシャルゲスト一ノ瀬くんのソロ走行です!! 彼のバイクはホンダのアフリカツイン。しかもゴールドに塗装され、自動走行カスタムが施されたオリジナルカスタムのスーパーマシン!! 言うなれば!! ゴールデンオートダッシュカスタム!! 通称?」
「ゴルドダッシュ!!」
昭兵による宝太郎のバイクの説明に一区切りつけると、宝太郎に彼の乗るバイクの名称を求めた。宝太郎は元気に答え、優しくゴルドダッシュのサドルを撫でた。
「ゴルドダッシュ、いい名前!! 九堂さんの次にお似合いかも!?」
「うん! 九堂は大切な仲間だよ!」
茶化す昭兵だったが、宝太郎の純真な返答に「うんうん……まあ……」と苦笑いするしかなかった。
当のりんねはというと、大きく溜息を吐いて「一ノ瀬のバカ……」と呟いた。思わず瑠李奈と杏那は両隣からりんねの肩にそっと手を添えた。
「さあ! 曲はRising Fighter*3! さあ一ノ瀬君、演技の前に一言!」
「見ててください! 俺のガッチャ!」
「OK、いいね!! 行くぜガッチャー!!」
直後、楽曲がスピーカーから流れ出し、観客はリズムに合わせて合いの手を取り出した。
「I was born into this world for a reason
When you're alive, you can get the good and the bad
昨日を超えていけ 世界を変えていけ
Ready ココロ突き動かせ」
自然と「Yeah〜!」と観客から合いの手が入る。
「Stand up 立ち上がれ
Move on 前を向け
燃え尽きるまで going on
行こうぜ
Don't stop 終わりじゃない
No one ひとりじゃない
今こそ 戦え」
徐々にサビへ向けて盛り上がっていく曲に、観客達も気持ちも盛り上がっていった。勿論、りんね達も気持ちは同じだ。
「Get it on Gotchard, Gotchard
Gotchard, Burning Fire
Gotchard, Gotchard
Gotchard, Shining Future」
「ウッヒョー! イッチー君カッコいいぜーー!! ね、りんりんちゃんもそう思うでしょ!?」
「う、うん……そうだね!」
興奮のあまり、いつの間にか用意したペンライトを振り回す瑠李奈に、りんねも思わず頷き返す。
「僕らのジャスティス」
「ジャスティース!」
「飛び込め 輝け
明日のサクセス」
「サクセース!」
「駆け抜けて Gotta go!」
宝太郎とゴルドダッシュのダイナミックなバイクテクニックに、観客達から「わああ」と大きく歓声が巻き起こった。
「凄い……一ノ瀬……」
ぽつりと呟くりんねに、瑠李奈も「でしょー!」と同意する。
「やっぱりここぞという時は決めるのがイッチー君だよねぇ〜! どうよ、やっぱ惚れ直したんじゃない?」
「べっ、別に一ノ瀬に惚れてるとかそういうんじゃないから!!」
茶化す瑠李奈に、りんねは顔を真っ赤にして否定する。態度だけ見れば、宝太郎に友人関係とは違う特別な感情を抱いてるのは確実だが、当の宝太郎は気付いていないのが瑕だ。
「すごいぜ一ノ瀬君! まさに人馬一体!! あれはバイクを運転しているんじゃない、まさしく君とゴルドダッシュが走っていたんだ!」
「へへ、ありがとうー!!」
昭兵の賞賛に、宝太郎は子供のように無垢な笑みを浮かべて返す。だがショーはまだまだ終わらない。
「さあ、ラストは本日のメンバー総入り乱れてのイルミネーション走行!! バイクと自動車による完全調和ケミストリーを見逃すな!! では参ります!! 曲はCHEMY×STORY*4!!」
昭兵が宣言すると、スパナの乗るマッドウィールを始めとした車輌が次々と横に並び立った。詳しい者からすれば、壮観の光景だろう。
そして全ての四輪車、オートバイの車輌が並び終わると、スピーカーから音楽が流れ出した。
「Yeah-e-e-e-eh!!! Yeah-e-e-e-eh!!!」
「わからない答え探すより
挑戦してみるのがHOMEWORK」
「“出来ない”の呪縛 根拠のない ハジき返してやれば
途方もない 夢を見つけるかも」
「表向きは大優勝してても 裏返せばWho's that? 別の顔
見極めだいじ個性(Indivisuallty) 揃えば天に昇りMath」
「変身!! …………ってあれ?」
気付けば観客達はいつの間にか、本来曲にはない合いの手を入れていた。観客の一人が「ウィ〜ッヒッヒッヒ」と悪戯を仕掛けたような笑みをこぼしていたことには、誰も気付かなかった。
「You ready?
出会うたびにCHEMY×STORY 未来へつながってく
Gotcha Gotcha ドアを開けて
課題をクリアしてこう
奇跡のパワーはMystery 違いこそ化学反応
Gotcha Gotcha 重ね合えば
願いはもっと Growing up」
その後も曲は流れ、大盛況の中で走行演技が終了した。観客達は一斉に歓声を挙げ、隙間なく拍手が鳴り響いた。
「ありがとう、ありがとう! 以上をもちまして、実技走行演技を終了いたします!! 引き続き展示は
昭兵の言葉と共に、集合していた車輌がぞろぞろと待機場所へ戻っていく。観客達は拍手をしながら見送っていった。
「いや〜最後の凄かったね! 圧巻の一言だよ!」
「うん、みんな迫力あって最高だった!」
興奮冷めやらぬ瑠李奈とりんねに、妃花は微笑ましげに見守っていた。
「さあ、早速イッチー君にこの想いの丈を伝えに行かなくちゃ!!」
「えっ? で、でも迷惑じゃないかな……?」
この興奮をいち早く伝えようと瑠李奈は立ち上がるが、りんねは逆に尻込みしてしまう。しかし瑠李奈はそんなことで止まるような女ではなかった。
「何言ってんの! 今伝えないでいつ伝えるのさ!! それにアタシ達乗馬部のパフォーマンスの感想もまだ訊いてないんだし、訊くなら早い方がいいっしょ!!」
「確かに、一理ありますね……。私もお兄ちゃんから感想を訊きたかったですから、今のうちに行きましょう」
横で瑠李奈とりんねの会話を訊いていた後輩の悠姫が、瑠李奈に理解を示す。
「じゃあ多数決で決めよ! 今すぐに和治達のトコに行って感想を伝えたい人!」
瑠李奈の出す意見に、発案者の瑠李奈は勿論のこと、先程賛成の意を見せた悠姫も手を挙げていた。
真菜佳は手を挙げていなかったが、彼女の背後から杏那がちゃっかり手を上げた。
「俺もせっかくだから行きたいな。もし行くなら、一緒についていっていいか?」
「もちろんオッケーだよ! ワタくんとほづみんも賛成ね!」
「あ、バレちゃってた?」
「わっ、穂積先輩……。もう、しれっと私の後ろに立たないでくださいよー!」
後ろに立った杏那に気付いた真菜佳が、杏那に対してポカポカと胸を叩く。そんな真菜佳に杏那は頭を撫でて機嫌を抑えた。
「じゃあ、みんなで行こっか! この格好でナンパされたらたまったもんじゃないしね〜!」
「ン、俺と姉貴もいいのかい? 俺達は部外者だけど……」
確認するように将吾は訊ねる。瑠李奈は「いいですいいです!」と承諾した。
「やがみんのお兄さんお姉さんがいるだけで、十分ナンパ避けになりますって!」
「ちゃっかりしてるね。それじゃあ御相伴に預かろうかな」
瑠李奈の打算込みの案に、妃花は思わず笑みをこぼしながらそれを受けることにした。
「さありんりんちゃん、どうする!?」
「わ、わかったから! 私も一緒に行くから!」
ぐいっと迫る瑠李奈にりんねはたじたじになり、思わず押し負けてしまうのだった。
「よーし、善は急げ!!早速和治達のもとへ行くよ!!」
「あっ、待って瑠李奈! 走ると転んじゃうよ!!」
思い立ったが吉日と言わんばかりに、瑠李奈は駆け出す。後を追うようにりんねも駆け出し、走っていく瑠李奈にペースを抑えるよう声をかけた。
設定・小ネタ・登場人物解説コーナー
【モーターサイクル同好会】
宝太郎達三年生時から四年前に結成された同好会。身近にバイクを触れる機会が無くなってきた事に危惧した当時の同好会部長が一念発起して立ち上げた。
一時は部員三人だけで、学校祭の出し物は自分達の乗るバイクの展示だけという有様だったが、宝太郎が錬金アカデミーに通い始めて以降、積極的にバイクを乗り回すようになったことで部員は十倍に増えた。ただし、この部員数は他校の生徒も含まれた場合。富良洲高校内に限れば八人程。
活動内容は主にツーリングや、近隣のレース場を利用したレースなど。
次回はあの隻眼の男が未来からやってきます。
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