想伝・仮面ライダーガッチャード Unstaked memory   作:ホームズの弟子見習い

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真相パートが上手くできてるか
あるキャラの口調がこんな感じだったか

そんな想いを抱えながら最新話です。




第7話:黒い想いの吐露

 

 

 

 杏那は静かにりんねと向き合っていた。グラウンドには野球部やサッカー部の掛け声、体育館越しにはバスケ部のバスケットボールがダムダムと鳴り響く音、バドミントン部のスマッシュ音が聞こえる。

 りんねは向き合っている杏那を見て、「ぷっ」と笑みをこぼした。

 

「くく……フフフ……。ご、ごめん杏那。いきなり笑っちゃって」

 

 腹を抱えて笑い出すりんねに、杏那は「別に気にしないで」と返した。

 

「傍から見れば、わたしの方が突飛なことを言ってるように思われてもおかしくないもの。でも、本気で言ってるわ」

 

 真剣に言葉を連ねる杏那にりんねは次第に笑みを抑え、口角を上げた。

 

「そこまで言うなら教えてくれる? 何故私が三件の事件を仕組んだのか」

「ええ、もちろん」

 

 促すりんねに、杏那は当然と言わんばかりに返す。

 

「まず、一件目。三年B組の佐伯壮一君が化学の授業中に突然眠ったこと。彼はとても勤勉で、前日の夜も日を跨ぐ前……夜十時にベッドに入ってそのまま眠りについたと本人が証言しているわ」

「ナルコレプシーの可能性はないの? どんなに真面目で夜ぐっすり眠れても、ナルコレプシーだと日中でも眠ってしまうらしいし……」

 

 りんねの提示した可能性に、杏那は「それはないわ」と否定する。

 

「佐伯君のクラスメイトや先生達にも訊いてみたけど、佐伯君は授業中に眠った事はこの約二年半の間になかったという話しか訊かなかったわ。もちろん、養護教諭の(あい)(かわ)先生にも訊いたけど、ナルコレプシー持ちではない事は確認済み。そんな彼が授業中に突然眠るなんて……いくら何でもおかしいと思わない?」

「そっか……それは確かにそうかもね」

 

 杏那達が調査を経て訊いた話に、りんねは納得の表情を見せた。「それで続きは?」と次の言葉を促進する。

 

「それと、授業の直前に佐伯君は女子生徒に会ったっていう証言をB組のクラスメイトから訊いたわ。でも佐伯君は妙なことに、その女子生徒と会った事を全く覚えていないらしいのよ」

「へえ……それはまた何で?」

「ここからは推察になるけど……記憶を消されたんじゃないかしら。それもピンポイントでその時だけの記憶を……」

 

 杏那の推察に、りんねが僅かに表情を歪ませた。それを見逃すような杏那の観察力ではない。

 

「記憶を消すって……どうやって? そんな神様みたいな事、とても出来るとは思えないけど?」

 

 真顔で問いかけるりんねに、杏那は顎に指を当てて考え込む仕草をとった。それを答えられないと判断したりんねは、「答えられないようならこの話はおしまいになるね?」と続いた。

 

「答えられない訳じゃないわ。話していいものかどうか迷っただけよ」

「だったら、話せる部分から話してみて? 別に急いでいないから」

 

 ゆっくり宥めるりんねに、杏那は「ありがとう」と短く返す。

 

「じゃあ今度は二人目と三人目について話しましょうか。一見すると悪戯に思えるこの二件。この二件の内容覚えてる?」

「ええ、覚えてる。二件目はFの形に貼られた複数枚のメモ用紙。そのメモ用紙に一枚一枚書かれた式“log₂64+log₂8”。三件目は貴方達が創部した推理小説研究部の部員である一年生の鞄に、未購入の小説が何故か入れられたという話だったかしら?」

 

 二件の事件を語るりんねに、杏那は首を縦に振る。

 

「大体合ってるわ。正確に言えば砂西君に鞄に入ってたのは、“すべてがFになる”という小説。さあ、これで少なくとも二件の間には関係性が見えてきたわね?」

 

 ニヤリと笑みを浮かべる杏那とは対照的に、りんねは真顔で彼女と向かい合う。杏那の言いたいことを理解してきたのだろう。

 

「アルファベットのFが共通点……」

「ええ、その通り。そしてさっき九堂さんが言った式の答えは、当然わかるでしょ?」

 

 問いかける杏那に、りんねはひと単語だけ返す。

 

「……9」

「そうね。そして元素周期表で9番を表すのは……」

「……F」

「そういえば元素周期表で思い出したのだけど……元素周期表を習う授業科目って化学よね?」

 

 白々しく言葉を並べる杏那に、りんねは平静を努めて「何が言いたいの?」と次の言葉を促す。

 

「化学の授業で突然眠った佐伯君……その彼に直前会ったのはもしかして九堂さんなんじゃない?」

 

 不敵な笑みを浮かべながら杏那はりんねに言葉を投げかける。りんねは何も語らずに口を真一文字に結んでいた。

 

「佐伯君と貴方が会う理由はわからないけど、適当に作る事はできる。例えば“制服にゴミがついてる”とでも言っておけばいいしね」

「じゃあ私はその佐伯と会って、何をしたって言うの?」

 

 問いかけるりんねに、杏那は一拍置いて口を開く。これから語る事は、一般人である杏那からすれば荒唐無稽すぎる話だ。

 

「……………錬金術」

 

 ポツリと言葉を発した杏那に、りんねの小さくつぶらな瞳が大きく見開いた。まるで何故その言葉を知っているのか────。そんな風に言っているのが目に見えた。

 

「貴方は錬金術を用いて、佐伯君を化学の授業中に眠らせるように仕向けた。勿論、直前に二人が会った記憶もそのタイミングで消すように調整した……。普通に考えてありえない話だけど、可能性としては十分あり得ると思ってるわ」

「な……なんで私が錬金術を使ったなんて思ったの? 大体、錬金術なんてそんな荒唐無稽な話……!」

「いいえ、存在するわ。夏に起こった動画配信者のライブ配信で貴方と一ノ瀬君、ミナト先生が映り込んでいたわ。錬金術師の陰謀だの何だのでカチコミかけていたあの配信!」

「うっ……!」

 

 反論しようとするりんねに対して語気を徐々に強める杏那の言葉に、りんねの態度は徐々に押され始めていた。

 

「と言っても、わたしも康祐も錬金術の事は頭の中から綺麗さっぱり忘れ去られていたわ。康祐のお母さんから、夏の錬金術騒動を訊くまでは……ね」

「そうか……四月一日の両親は警察官。騒動のことは把握していてもおかしくないか……」

 

 目を瞑り、りんねは康祐の家族構成を思い出す。確かに警察官である彼の両親から訊けば、錬金術を推理の情報に入れるのは確かにおかしくない。

 

「それと二日前……八神君の近所のアパートに在住している男性に手紙が送られた。手紙の中身は二枚。一枚目に書かれていたのは、二枚目の内容を富良洲高校に通う生徒に送るようお願いするもの。二枚目の内容は、寺という文字だけ。ただ、文字の右半分が四角で囲われていたわ」

「まるで暗号みたいね……でも、それと今回の学校の件が何の関係があるの?」

 

 突然別の話を語りだした杏那に、りんねは困惑の色を見せる。杏那がこの話題へ変えたのは勿論理由がある。

 

「関係あるわ。その手紙を送ったのも、九堂さん……貴方だからよ」

「な、なんで私が手紙を送った張本人なの!? その根拠はあるの!?」

 

 根拠。そこを突かれた杏那は、一息吐くと空を見上げた。りんねからは見えないが、杏那の表情は苦笑を浮かべたものになっていた。

 

「根拠か……そこを突かれると痛いわね。あくまで明確な物証はないもの」

「だったら、この話は終わりってことでいいよね? 杏那の言うように明確な物証がないなら、これ以上話の進めようはないでしょ?」

 

 話を切り上げようとするりんねだが、そうは問屋が卸さなかった。

 

「明確な証拠はないけど、何故貴方がその人に手紙を送ったのかという状況証拠を並び立てる事はできる……と言ったら?」

 

 強気な態度を崩さない杏那に、話題を切り上げようとするりんねの表情が明確に歪んだ。「話を続けるわよ?」と杏那はりんねに一応の確認をとり、推理の続きを口にした。

 

「そもそもこの手紙が八神君の知り合いの男性に送られてきた事自体が、最低でも富良洲高校に在籍している生徒や職員に限られるのよ。一枚目の内容を一言一句欠かさずに述べるわ」

 

 そうして杏那はブレザーの内ポケットから、件の手紙をりんねに見せつける。りんねの表情は依然として沈黙を貫き通していた。

 

『貴方の近所に富良洲高校に通っている生徒がいれば、その者に二枚目の内容を送ってください。スマホで撮影したり、直接渡したりと方法は問いません

富良洲高校の謎の仕掛け人』

 

 一枚目の手紙の内容を正確に発した杏那。りんねは黙って聴いているだけだった。この二日間を利用し、康祐と杏那は八神経由で道長から手紙を貰った。この事をはじめ、真相を突き止めるためのことは出来うる限り(おこな)ったつもりだ。

 

「二枚目の暗号じみた手紙を送るだけなら、富良洲高校に在籍している生徒や職員を相手にしてもいいと思うわ。でもこの手紙は、八神君の近所に住む男性に送られた。これがどういう意味か、聡明な九堂さんなら解るでしょ?」

「………………その手紙の送り先の人に、近所に八神という富良洲高校に通う生徒がいる事を知っていた」

 

 一瞬の沈黙の後に口を開いたりんねに、杏那は「正解♪」と調子良く返す。

 

「でもそれだけだと、手紙の送り主はその送り先の人に身辺調査してから、その人に送ったのかもしれないんじゃない?」

「その可能性もなくはないけど……でも、それだと送る相手は何故その人になったのかという疑問も出てくる。そこで二枚目の手紙。何故八神君の近所に住む男性に手紙を送ったことそのものが、手紙の暗号の答えに繋がるのよ」

「どういうこと? 二枚目の手紙がその人に送ったことが何故暗号の答えに繋がるの?」

 

 りんねの疑問に、杏那は笑みを浮かべる。

 

「それは宛名の人物名。手紙を受け取った男性の名前は、“吾妻道長”。道長という名前で普通に思い浮かべるのは何だと思う?」

「…………藤原道長」

「そう、下の名前が一致しているのはただの偶然かもしれないけど……この一致に目をつけた貴方は、彼に手紙を送る事にしたの。今回の手紙を。わたしの言いたい事わかる?」

 

 雄弁に語り問いかける杏那に、りんねはただ彼女の推理を聴くだけだった。杏那の問いかけに、りんねは静かに口を開く。

 

「その道長さんに手紙を送る事自体が、ヒントに繋がる────。そういうことね」

 

 答えたりんねの声が小さくなっていくのがわかる。彼女の額からもわずかに脂汗が浮かび上がっているのは、真相が徐々に明らかになっているが故の焦りだろうということは、杏那も察することができた。

 

「藤原道長と暗号に書かれた寺という文字の関係。寺は仏像が安置されている“()(どう)”と同じ意味を持っているわ。そして御堂にはまた別の意味があるのよ。藤原道長の出家先である法成寺の異称。それが御堂よ」

 

 語り続ける杏那に、次第にりんねの顔が苦虫を噛み潰したようなものになっていくのがはっきりしてきていた。

 

「そして今回……道長さんに送った手紙の暗号は寺一文字に、文字の右半分が四角で囲われていた。これが意味するものは、さっき話した寺の別称である“御堂”に置き換えて読み、そしてその四角で囲った部分に注目するように強調すること。つまり答えは、御堂の右半分の文字…………“堂”だけを読むように示しているのよ」

 

 杏那の推理に、りんねの目が大きく開いた。ここが正念場だ────。そう確信した杏那は畳み掛けることにした。

 

「そして一枚目の手紙に書かれた差出人は“富良洲高校の謎の仕掛け人”。つまり、道長さんに手紙を送った人物はわたし達が依頼を受けた三件の謎を仕組んだ人物と同一人物。そこでさっきわたしが推理立てた、内二件の謎が示す答え“9”。9と堂を合わせると、貴方の苗字になる……。“九堂”に!!」

 

 畳み掛ける杏那に、りんねは黙って目を閉じていた。目を開くと、鋭い眼差しで杏那を睨みだした。

 

「問題は、何故あの三人が狙われたのか。まず佐伯君が突然眠るだけだと気の所為かと思われてしまう。だから第二、第三の騒ぎを起こした。彼等の出席番号が三人とも九番である事に目をつけて……ね。二番目の騒動の被害に遭った設楽君の机に貼ったメモ用紙が一枚だけ固く糊付けされていたのは、最悪そのメモに書かれた内容だけでも突き止められるように。砂西君の未購入の小説タイトル”すべてがFになる“は、全ての騒動が自分の仕業であることを暗に示すため」

 

 どこか間違っているところはある? そう問いかける杏那に、りんねはパチパチと拍手を鳴らした。その返しが、これまでの推理が正解だということを察した杏那は一息吐いた。

 

「幾つか訊きたいけど、いいかな?」

「どうぞ?」

「今回の案件が私だとして、動機はなんだと思うの?」

「…………その前に、彼にここに来てもらいましょうか」

 

 その直後、一人の男子生徒の足音がグラウンドへ近づいていた。近づく足音にりんねと杏那が目を向けると、そこにいたのは一ノ瀬宝太郎だった。彼の表情はどこか沈痛な面持ちをしていた。

 

「九堂……なんでだよ! なんで九堂がこんなことを……!?」

 

 声を荒げる宝太郎に、りんねは鋭く睨みつけていた。いつもの彼女らしくない視線だった。

 

「今回の謎、わざわざ答えを提示しているのは自分が謎の仕掛け人だと誇示する為。でもそれだと、普段の九堂さんとは思えない行動をしていることになるわ」

「そこで気になるのが、ここ数日の九堂の態度だ。覚えてるか? 妙にハイテンションな日があったり、欠伸をしていてローテンションだったりっていう日があっただろう?」

 

 そこで宝太郎とは別の男子生徒の声が割り込んできた。その声の正体は、杏那とともに調査をしていた四月一日康祐だった。

 

「わ、四月一日……確かに言われてみれば、そんな日があったけど……でもそれが一体何の関係があるんだよ?」

「そうだぞ、四月一日。俺も確かに九堂のことは長く見てきたと思っているが……何故九堂はこんなことをしでかしたんだ?」

 

 直後にミナトがやってきた。背後には八神もいる。彼等もまた、康祐と宝太郎とともにグラウンドから離れた場所で杏那とりんねの対峙を見守っていた一人だ。

 

「これは錬金術以上に荒唐無稽な話だと思っているが……九堂の人格が替わっているんじゃないか? 二重人格みたいに……」

「なっ………そ、そんな馬鹿な!?」

 

 康祐の発言に、杏那とりんねを除く一同は驚いた。あの生真面目なりんねが、そんな事態に陥るとは到底考えられない。何故こんな事になったのか────。

 

「昨日、警察官である母さん経由でブルーバードの人から訊いたんだ。バイスタンプが一個行方不明になっていたって。掲示板のスレッドでもバイスタンプを拾ったっていう書き込みがなされている筈だ」

 

 康祐の言葉に八神がすぐさま自分のスマホを開き、高校掲示板を確認する。確かにそのような書き込みがされている。

 

「そのバイスタンプがどういう経緯で道端に落ちていたのかはわからないけど……母さんが訊いたら答えてくれたよ。そのバイスタンプは自分の中の悪魔が表面化する性能を持っているって」

「あ、悪魔……!?」

 

 “悪魔”と訊いて、宝太郎達はよくイメージされるおどろおどろしい悪魔を思い浮かべた。康祐もそれを察していたのか、「ああいや、ブルーバードが言う悪魔って別のものらしいからな?」とすかさず訂正した。

 

「ブルーバードが言う悪魔ってのは、“人間誰しも心に宿し、体内に潜んでいる”らしい。要は嫉妬や僻みが大きく前面に出た状態をブルーバード内では悪魔化って言うんだと」

「そ、そうなのか……てっきり俺ぁ、漫画やゲームみたいに九堂が人外化しちまったのかと思ったぜ……」

 

 康祐の解説に、八神がほっと胸を撫で下ろす。しかし康祐の解説を聴いていたミナトは解せない部分があった。

 

「だが四月一日……だとすると、九堂はどういった感情でその……悪魔化したんだ?」

「それは…………本人に訊いたらいいんじゃないんですか?」

 

 ミナトの疑問に康祐は、りんねに視線を向けた。ここから先は、彼女自身の口から語った方が早い。そう思ったが故だ。

 

「…………………その答えは簡単だよ。ねえ一ノ瀬……?」

 

 数瞬の沈黙の後、りんねが妙に艶めかしい声色で宝太郎に突如話しかけた。普段とは違うりんねの雰囲気に宝太郎は呑まれそうになりながらも、「な、なんだよ……?」と返した。

 

「私と……戦ってくれる?」

 

 そう言う彼女の右手の指輪は変化し、腰部にはアルケミスドライバーが装着されていた。その態度からして、彼女は本気で言っているようだ。

 

「ど……どうして戦わなくちゃならないんだよ!」

「いつしか思っていたの。一ノ瀬と本気で戦い合いたいって……。でもそれを思ってはいけなかった。だって一ノ瀬は大切な仲間で、友達なんだから」

 

 目を閉じて語るりんねに、宝太郎やミナトは息を呑む。康祐達もなんとなしに、様子を見守っていた。

 

「でも気持ちを抑える度に、逆に一ノ瀬と戦いたい気持ちが強くなっていくの……! 気持ちを抑えれば抑える程、寧ろ逆に一ノ瀬と戦いたい欲が湧いてくる!!」

 

 鬼気迫る勢いで語るりんねの声色は、次第に強くなっていった。そんなりんねの雰囲気に、宝太郎は何も言えなくなっていた。

 

「自らが抑圧した想いが、却って自分の悪魔を生み出したってところか」

「普通なら思わないことを思った結果が……相談しようにもしづらいわね、これ……」

 

 康祐と杏那の推測に、ミナトは内心納得していた。りんねは宝太郎とこの一年、濃い密度の関わりを持ってきた。そんな彼女の悩みが、宝太郎と戦いたいというものになると、そう簡単に口に出せるものではない。だがせめて────。

 

「せめて、教師である俺には教えて欲しかった。そんなに俺は頼りなかったのか?」

「先生……」

 

 ミナトの悲痛な声が、グラウンドに静かに響いた。その表情も、悔しげなものになっていた。

 

「相談しても、真摯に受け止めてくれましたか? ただただ一ノ瀬と戦いたい……そんないけない欲望が今の私を突き動かしているんですよ?」

「いけない欲望なものか! 俺は九堂の力を思う存分受け止めたいし、俺も前にスパナと戦った時、自分の全力を出して戦いたいと思った!! 手合わせくらい、いつだって受け付けた!!」

 

 自嘲的に笑みを浮かべるりんねに、宝太郎は否定の叫びを放った。そういう男だ、一ノ瀬宝太郎は。太陽のように悩みを明るみにし、その悩みを一緒に寄り添って解決しようとする。そんな彼だからこそ、りんねは宝太郎に相談できなかったのかもしれない。

 

「でもね、一ノ瀬……。私も本気で一ノ瀬と戦いたいの。命を奪り合う程の戦いを! この気持ちは止められないの!!」

 

〈アルケミスドライバー! アルケミスリンク!〉

〈〈UNICON! THE SUN! As above, so below…〉〉

 

 アルケミスドライバーから音声が流れる。りんねは右手のハイアルケミストリングに口付けをすると、そのまま両手で三角の形を突き出す形で作り出した。

 

「変身」

 

 普段の勇ましい声とはまた違う、どこか艶めかしい声色がりんねの口から発した。

 

〈〈ガガガガッチャーンコ! プロミネンスホーン! サンユニコーン!〉〉

 

 直後に流れた変身音声と共に、りんねの姿は仮面ライダーマジェード・サンユニコーンへ変身した。だが、共に戦い抜いた宝太郎とミナトはりんねが変身したマジェードに対して若干ながら違いがあることに気付いた。

 本来のマジェードは色合いが白の装甲を基調に、オレンジやネイビーブルーが差し色として四肢や胸部にある結晶体に使われている。だが、今彼女が変身したマジェードはどこか色合いが全体的に暗めになっていた。

 

「くっ……まさかこれも悪魔化の影響なのか……!?」

 

 りんねの現状の懸念に、思わずミナトは歯噛みする。宝太郎はじっとマジェードを見つめ、長く息を吐いた。息吐きを終えると、どこか決心したような顔つきを見せた。

 

「わかったよ、九堂……。それが九堂の望みだって言うなら、俺はそれを全力で受け止めるだけだ」

 

 静かに言い放つと、宝太郎は懐からガッチャードライバーを取り出し、それを腰部に装着した。

 

「ありがとうな四月一日、穂積。謎を解いてくれて。このまま放ったらかしになってたら、多分九堂は大変なことになってたと思う」

「…………俺達はミナト先生から依頼を受けただけだよ。仕組んだのが九堂だって思わなかったしな」

 

 礼を言う宝太郎に、康祐は肩をすくめる。杏那も気にするなと言わんばかりに微笑んだ。

 

「本当にこれでいいのかよ……。俺、どこか納得できないぞ……」

 

 友達同士が命を奪り合うレベルの戦いを繰り広げようとする実態に、八神は悔しげな表情を作り出す。ミナトはそんな彼の肩をポンと軽く叩いた。

 

「確かに納得できないのもわかる。俺もこれでいいのかわからないさ。でもな……教師として……いや、大人として言えば、あいつらの想いはどんなものであれ汲んでやりたいのさ。わかってくれとは言わないが……見守ってやってくれ」

「ミナト先生……わかりました。これ以上は、俺も何も言いません」

 

 ミナトの言葉に対して胸を打たれた八神は、宝太郎とマジェードの二人へ視線を向けた。八神の視線に気付いたのか、マジェードが八神達へ向けて何かを投げ込み、その何かへガッチャージガンで撃ち込んだ。その何かはガッチャージガンから放たれたエネルギー弾に命中し、割れ砕けた。

 

「ウオォォオォォォオ……………」

 

 その何かから、包帯を巻いた異形の人体が現れ出てきた。それを見たミナトは、思わず驚愕し目を見開いた。

 

「馬鹿な、屑ヤミーだと!? じゃあ今九堂が投げ込んだのは、セルメダルか!?」

「せ、セルメダル? ミナト先生、それって何?」

 

 訊いたことのない単語に、宝太郎が思わずそれが何なのか訊ねる。

 

「八百年前の錬金術師が作ったと言われているメダルだ! (こう)(がみ)ファウンデーションから支援を受けて数十枚程貰い受けていたが……何故九堂が持っている!?」

「Hey, Teacherミナト! 勿論悪魔化の影響さ!」

 

 驚きながらも説明するミナトに、どこからともなく陽気な男性の声が響いた。空を見上げると、ヘリコプターが飛んでおり、そこから白衣を着た男性がグラウンドに見事着地した。

 

「えっと……確か……ジョージさん!」

「That's right!! 私の名はジョージ・狩崎。ブルーバードの科学者さ!」

 

 辿々しげに思い出しながら、杏那は降り立った男性の名を言い当てると、ジョージはウィンクをしながら自己紹介をする。

 

「ブルーバードの……あなたが。それで、九堂の悪魔化の影響とは一体?」

「彼女の悪魔化は所謂人格の入れ替わりに近いものでね……。悪魔化の時と通常時で、意識は共有されないんだよ。多分、セルメダルを掠め取ったのは悪魔化の時限定。メダル自体は元の人格が知らない箇所に隠しておいたんじゃないかな? バッグのポケットに普段物を入れない所とかあるだろ? アレと同じさ」

「それで、どうやったら九堂は元に戻るんですか!?」

「Calm down. 答えは簡単さ。君が彼女と全力で戦い、そして勝てばいい。彼女の悪魔化は、自身の欲望が表面化した状態だ。全力で行きたまえ。君が勝てば、ここの学校の生徒が拾ってきたバイスタンプを彼女に押印し、彼女の悪魔を封印する。手筈としてはこんな感じだ」

 

 興奮する宝太郎をジョージが宥めると、冷静に手順を説明する。ジョージのアドバイスを訊いた宝太郎は、改めてマジェードと向き合う。

 

「ホッパー!!」

〈HOPPER1!〉

「スチィーーム!!」

〈STEAMLINER!〉

 

 ホッパー1とスチームライナーのライドケミーカードをガッチャードライバーに装填すると、りんねと同じポーズを構え、自らを鼓舞するように先程のりんねと同じ言葉を言い放った。

 

「変身!」

 

〈ガッチャーンコ! スチームホッパー!〉

 

 その言葉と共に、宝太郎は変身する。仮面ライダーガッチャード・スチームホッパーへと。二人の戦いの結末を見守りたいミナトだったが、ゆっくりとこちらに歩み進める屑ヤミーの対処に、集中しなければならなかった。

 

「屑ヤミーの数は二十……いや、三十は超えてる。対処しようにも人数が俺とジョージ氏では……」

「いやいや、戦力ならいるじゃないか。後ろにいる君の生徒達、やる気満々みたいだよ?」

 

 戦力差に悩むミナトに、ジョージが背後にいる康祐と杏那と八神の三人を親指立てて指し示す。三人を見たミナトは、苦々しい表情をする。

 

「一般人のお前らにこれ以上立ち合わせるわけにはいかないんだが……」

「そうは言うけどミナト先生、今回の件を依頼したのはミナト先生ですよ?」

「ここまで来たら、わたし達も最後まで見届けます!」

「乗りかかった船です。あの挙動なら俺達でも多少は追い払えます」

 

 梃子でも動こうとしない三人に、ミナトは呆れ笑いが出てしまった。

 

「全く……一ノ瀬だけじゃなく、お前らもとんだ問題児だな。いいか、決して無理はするなよ!」

 

 ミナトの許可を貰ったことで、康祐と杏那と八神もミナトとジョージの横に並び立つ。お膳立てが整ったと言わんばかりに、マジェードはガッチャードとミナト達を交互に見る。

 

「これで邪魔者は入らないね…………さあ一ノ瀬! 思いっきりやろう!! 本気で!!!」

「ああ……行くぞ!! 九堂!!!」

 

 ガッチャードの宣言を皮切りに、二人の戦士が互いに向かってダッシュし、直後に衝撃音が鳴り響く。ガッチャードとマジェード、両者の腕がぶつかり合う音だ。

 この瞬間、仮面ライダーガッチャードと仮面ライダーマジェードの、命をかけた全力の戦いが始まったのであった────。

 

 

 




次回、仮面ライダーガッチャード!

宝太郎とりんねが激突!

勝者はどちらに……!?

二人の全力が今、ぶつかる!!

「心の夜明け」




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