ナイトメアにレクイエムを   作:AZ

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エミリーとレオンおいたん

 

「遅いね」

 

「そうねぇ」

 

 とある日の木曜日。グレースとエミリーは、とある駅前のロータリーでベンチに並んで座っている。

 

 エミリーはお気に入りのベアーを抱えて、ワンピースに小さな麦わら帽。

 待っている間も退屈だったので、二人でタブレットの電子絵本を読んでいると、二人の目の前に一台の車が停まる。

 

 マットブラックで統一された、軍用と思わしき大型のSUV。車両の前方後方にプロテクタが装備されていて、タイヤサイズも通常より大きい。

 

 窓も全て黒塗りにされている。

 

「フルスモークは道交法上NG。要人向け……か」

 

「どうしたの? グレース」

 

 車両から黒づくめの男二人が出てくる。"DSO"の手帳を一瞬だけ見せる。

 

「アッシュクロフトさんですね? お話は伺ってます。どうぞ、後ろへ」

 

 促されるまま、車両の後部座席へ。

 内側からも、スモークで外が見えない。運転席との間にも仕切りがあり、フロントガラスからの外の景色も見られないようになっている。

 

「ヘンな車だね」

 

 エミリーがそう言う。

 

「DSOの拠点は極秘です。少々退屈でしょうが、ご理解を」

 

「まぁ、そういう事だと思った」

 

 グレースは再びパッドを取り出すが、外部通信ができず。

 絵本くらい許して貰えないかと言っても、位置情報が絡む通信機器はNGとのこと。

 

 その代わりと言い、車両備え付けのモニターでアニメを流してくれた。

 でも一回は見たことあるアニメ。エミリーは少し、詰まらなさそうだった。

 

 しばらくすると、ゲートが開く音がする。

 そこからもう5分、車両が揺れると、とある場所で停まってドアが開く。

 

「どうも、お待たせしました」

 

 降ろされた場所は、施設のガレージ。綺麗な床面に、同じような大型SUVが他にもずらり。

 外の景色を見せては貰えないらしい。地下施設なのかと訊いても、お答えできないとのこと。

 

 ガレージから扉を一枚潜ると、シックでどこか無機質な空間が彼女を迎え入れる。この光景、どこかARKを彷彿とさせるなと思った。壁にはDSOのシンボルマークが刻まれており、FBIとは全く趣きが違うなとグレースは思う。

 

 エミリーと手を握って立ち尽くしていると、グレース、と彼女を呼ぶ声。

 振り返ると、そこには"シェリー・バーキン"が居た。

 

「シェリー!」

 

「ごめんなさい、こんなところまで来てもらって。車、退屈だったでしょう?」

 

「ええ、まぁ。凄い所なのね、DSOって」

 

「じゃあ、こっちの部屋に」

 

 シェリーに促され、ソファ席に通される。

 今回のDSO訪問、それは、グレースとエミリーそれぞれへのカウンセリング。

 あの大きな事件以降、二人は定期的にDSOとの面談を実施していた。それは、心身が弱ったグレースへのサポートや、エミリーの経過観察など色々な意味を含む。

 

 普段はシェリーたちの方からグレースの下へ訪問してくれたりしていたのだが、この時ばかりは極秘情報を取り扱いながら会話をしたいとのことだった。グレースがARKで見たものなどを絡めた会話。そのため、このDSOの施設を指定されたのだ。

 

 グレースは軽い気持ちで了承したのだが、まさかこんな場所とは思っていなかった。

 合衆国直属のエージェント集団。……そういうものなのか。と圧倒と気圧されるただそれだけ。

 

 通された部屋には、お菓子とモニターとソファ。その奥にまた別の部屋があるらしい。

 

 先に奥の部屋にエミリーが呼ばれ、シェリーとの面談が始まる。

 その間、グレースはこのソファ室で待機。なんとなくお菓子を摘まんでみるけど、こんなところで食べてもあんんまりおいしくない。

 

 落ち着かないなと思っていると、エミリーが出てくる。

「次、グレースだよ」そう言うので、入れ替わるように、グレースはシェリーの待つ部屋に入った。

 

■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇

 

 エミリーは一人、ソファ室で待っていた。

 お菓子を摘まみながら、モニターで流して貰ってるアニメを見て。でも、さっきの車で流れてたアニメと一緒だからちょっとつまらない。

 

 ジュースも飲み終えてしまうと、ちょっと催してしまう。

 しかしこの部屋にはお手洗いがない。グレースもまだまだ戻ってくる気配がない。

 

 仕方がないので、エミリーはこの部屋を抜け出して、お手洗いを探す。

 だけど、複雑で目印になるものがないこの施設。一体どこに行けばいいのかが分からない。

 

 しばらく彷徨っていると、一人の男性職員に掴まってしまう。

 

「ちょっと君、どこから入ったんだい?」

 

「あ、あの、今日、シェリーお姉さんとの面談で」

 

「シェリー?……ああ、あの件か。それで、ここで何を?」

 

「おトイレに行きたいの……場所、わかんなくて」

 

「そうか」

 

 その職員、脇に色々資料を抱えたまま、あまり時間の余裕も無さそうだった。

 彼がきょろきょろと周りを見渡すと、誰かを見つけたようで手を振って声をあげる。

 

「おーい、レオン! ちょっと来てくれるか」

 

 男性に呼ばれ、通路の奥から現れてくる、どこか草臥れたような不精髭。装備を一式外してあるからか、身体の鍛えた骨格稜線がはっきりと浮き上がって見える。

 

「なんだアルダス。嫁さんに引っ掛かれた話なら昨日聞いただろ……」

 

 レオンは途中で言葉を止める。同僚男性の横に居る少女――。忘れもしない、あの少女。

 

「エミリーか……?」

 

「あ、レオン!」

 

「おっと、知り合いだったか。じゃあ話が早い。いいかいお嬢さん、あとはこいつとヨロシクってことで」

 

 その同僚男性はエミリーをレオンに預け、そのまま小走りで去っていった。

 

「どうしたこんなところで」

 

「うん、あのね、今日、面談の日で。それでね、おトイレ行きたくて」

 

「そういうことか、そら、こっちだ」

 

 レオンが手洗い場までエミリーを先導する。エミリーは中に入っていく前に「帰りわかんなくなっちゃうから、ここにいてくれる?」と言った。そこからレオンの返答を待つことなく、お手洗いの中へ。

 

 レオンは仕方なく、壁に背を預け、腕を組んで指をトントン。

 通りすがりの女性職員から「あなた、女子トイレの前で何してるの?」と言われても、首を掻くことしかできない。

 

 しばらくしてエミリーが戻ってきたので、レオンはエミリーを連れて応対室へと連れ戻そうとするが

 

「ねぇねえ、レオンってここで働いてるの?」道中、そうエミリーが訊いてくる。

 

「そりゃあな、じゃなきゃこんなところ居ないさ」

 

「へー、レオンもお仕事ってしてるんだ」

 

「……俺がフータローにでも見えてるのか?」

 

 先を行くレオンの裾を、エミリーがくいくいと引っ張る。

 

「ねぇ、じゃあレオンのお部屋もここにあるの?」

 

「まぁな」

 

「本当に! 私ちょっと見てみたいな!」

 

「留守番じゃなかったのか?」

 

「だってあのお部屋詰まんないんだもん。ねぇねぇお願い、ちょっとだけ!」

 

「……面白いもんは何もないぞ」

 

■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇

 

 結局、レオンはエミリーお嬢様に絆されるかたちで、自分の執務室へと案内する。

 

 レオンの執務室。部屋の奥にこちらを向く形で机が置いてあり、手前側には応対用の対面ソファ。

 いわゆる、「偉い人の部屋」というエミリーの印象そのままだった。

 

 レオンは機密書類や武器が表に出ていないことをざっと確認すると、奥の自分の席へ。

 

「わぁ、すごいすごい! レオンって偉い人なの?」

 

 壁の棚には、トロフィーや賞状。そして数々の難事件を解決へと導いた功績を称えられた勲章など、数えきれない程の、彼への賞賛。

 

「気は済んだかい、お嬢さん」

 

 レオンが自席の背凭れに背を預けていると、エミリーはある得物を見つける。

 訓練用の、模擬ナイフ。刃にあたる部分がゴム製でできており、あたっても怪我しない、そんな武器。

 

「こういうので訓練するの?」

 

「ん? ああ、出しっぱなしだったか。悪い、片付けておく……」

 

 レオンが席から立って、模擬ナイフを回収しようと手を差し出した時、エミリーは両手で模擬ナイフを握って、レオンへ向ける。

 

「出たな! この化け物め! やっつけてやる!」

 

 エミリーは模擬ナイフを握ってキリっとした表情。

 対するレオンは、肩を落として乾いた笑い。

 

「俺が化け物だって? よく言われるよ」そう呟く。

 

 エミリーが、模擬ナイフをゆっくり動かしレオンへ切りかかる。

「ずばあ!」と口で効果音。すると、レオン。

 

「ぐあああああああああ! やられちまったぁ! この俺が……こんな子供に……!」

 

 そう言いながら、どさっとソファへ倒れる。

 

「とどめた!」

 

 エミリーはそう言って、ソファに倒れたレオンの上に。

 

「ずば、ずば!」と声に出しながら、レオンと言う名のBOW退治。

 

「ぐあ、ぐおおお! やるじゃないか……!」

 

 なんて続けていると――

 

 

 

 

 

「レオン! エミリーを見なかった!? あの子ここで迷子……に……?」

 

 

 ノックもそこそこに入ってきたシェリー。

 見たものは、模擬ナイフを手にした少女にやられる、DSO屈指のエージェント。

 

「なに……してるの……?」

 

「……さぁな」

 

 

 

 

 

■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇

 

 

「随分とお楽しみだったみたいじゃない」

 

 グレースとエミリーが帰った後、DSO内の休憩室でシェリーに揶揄われるレオン。

 少しバツが悪そうに、手帳を取り出す。

 

「あの子が帰った後に、手帳にこんなものが貼られてたんだが」

 

 そこにはキャラクターものの、ハート形に象られたボンボンドロップシール。

 

「あら、よかったじゃない。仲良くなった証拠よ。私も貼ってもらってるのよ」

 

 そういってシェリーも自分の手帳を見せる。

 星形のドロップシールだ。

 

「ハート形が貰えるなんて、そうとう気に入ってもらえたんじゃないの?」

 

「……光栄だな」

 

 レオンは再び、満更でもない乾いた溜息を漏らした。

 

 

 





「大きくなったら、レオンと結婚してあげてもいいよ♡」って言って周りの大人たちを困惑させるエミリーちゃんを求めてます。
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