艦隊これくしょん「艦これ」―荒海の槍騎兵―2「激闘南シナ海」 作:黒瀬夜明 リベイク
「敵第二波、撤退を確認!」
輪形陣の後方を固める霧島が、上空から飛び去る僅か数機の深海棲艦爆を見ながら声をあげた。
一航艦に対する空襲第二波は、一二時五〇分*1から始まった。
しかし一航艦上空に現れた深海棲艦爆は、味方の編隊とはぐれたのか護衛の深海棲艦戦を伴っていなかった。
空襲が始まった直後から、上空直掩に就いていた零戦隊は、護衛のいない深海棲艦爆に次々と取り付いては20ミリ機銃を撃ちかけ、殆どの深海棲艦爆を艦隊の手前で撃墜した。
僅かに残った七機の深海棲艦爆が、赤城を狙って急降下爆撃を仕掛けてきたが、六戦隊の古鷹、衣笠の猛射を浴びせて撃退をした。
「被弾者ゼロ。まさに鉄壁と言えるわね」
これまでの戦闘を受けて、赤城がそんな感想をこぼした。
事実、空襲第二波で被弾した艦娘は、第一波同様一人もいない。
第二波が収束した直後、赤城の砲術科員の妖精が「これじゃあ出番がない」と呟くほど、古鷹と衣笠の対空戦闘は目を見張るものがあった。
「あの二人の努力もそうでしょうけど。六戦隊の砲術参謀、桃園幹夫少佐との熱心な研究と、砲術長の桂木光少佐の訓練による所があるのでしょう」
「そんなに凄いんだ、その二人!私たちも会ってみたいな!」
加賀の言葉を受けて、飛龍が目を輝かせるようにして言った。
その直後、飛行長妖精が赤城の肩に身を乗り出し耳打ちをした。どうやら直掩の零戦が、着艦を求めているようだ。
同じ光景が加賀、飛龍、蒼龍、翔鶴、瑞鶴でも起こっていた。
「燃料切れかしら?」
「弾切れじゃない?ほら、零戦の20ミリ機銃って、装弾数が少ないから」
赤城の疑問に蒼龍が答えた。
零戦の兵装は7.7ミリ機銃と20ミリ機銃がそれぞれ二丁ずつだ。7.7ミリ機銃は装弾数が多いが、20ミリ機銃の装弾数は六〇発程度だ。
第一波、第二波と、二度の空戦で20ミリ機銃の弾丸を撃ち尽くしてしまったのだろう。
「直掩隊を収容します!収容後は直ちに補給を行ってください!」
赤城の言葉に六人の空母たちが一斉に風上に向って突進し、飛行甲板を装着した腕を前へと向け始めた。
空母たちの「風に立て」を受けて、直掩の零戦が次々に飛行甲板に滑り込んできては、光となって矢へと変わり、矢筒に収まっていく。
「これ、ちょっとまずいんじゃない?」
収容作業をしていた瑞鶴が空を見上げながら呟いた。
現在艦隊の上空には戦闘空中哨戒をする零戦が十数機しか残っていない。
「こんな状況で第三波が来たら――」
「瑞鶴、今は少しでも早く補給を終わらせるのが先決よ。焦っては事を仕損じるわ、落ち着いて」
「うん…」
翔鶴が瑞鶴をたしなめながら、その後も着艦作業は進み、やがて全ての零戦の収容が終わった。
「赤城さん。補給終了後は、この子達をすぐに直掩任務に戻す必要があるわ」
「そうね。何とかして、攻撃の機会を掴みたいけど…今の状況では無理ね」
赤城は少しだけ俯いてもどかしそうに呟いた。
一航艦は既に敵機動部隊の位置と数を把握している。一時間ほど前の、一二時三分*2。
一航艦から飛び立った索敵機が、海南島三亜港の東方三〇〇浬の地点に展開していることを伝えてきたのだ。敵空母の数は三隻で、それぞれ二隻と一隻ずつ、二群に分かれて行動している。
敵空母の所在が分かった時点で、第二次攻撃隊の発進準備は着々と進んでいたが、敵の空襲第一波が近づいていたこともあり、赤城は攻撃隊から零戦全機を直掩に上げることにしたのだ。
「やっぱり、一次の子たちを戦艦に向けたのは失敗だったのかな?」
飛龍が口を開き、赤城と加賀が飛龍に振り返って顔を見やった。
第一次攻撃隊の準備中、飛龍は真っ先に空母への攻撃を優先すべきだと進言した。
飛龍の言葉に蒼龍も同調し、いると分かっている敵空母が見つかるまでは、攻撃隊の出撃は待つ方が良い。と進言した。
だが赤城は、戦艦も十分な脅威となるし、主力撃滅の好機だ。と判断したため、第一次攻撃隊は敵戦艦部隊へ向けられた。
果たして一航艦は、敵機動部隊の所在を知りながら、敵艦載機の空襲を受けることとなり、現在に至るまで攻撃の機会を得られずにいたのだ。
「赤城さん、今空襲は止んでいるわ!今なら第二次攻撃隊を出しても――」
「それは駄目よ、五航戦」
「っ!」
瑞鶴の提案を加賀が、押し被せるように静止した。
「今のままじゃ、護衛の戦闘機を付けれないわ。あなたは、この自分の艦載機たちを無駄死にさせる気?」
「そ、それは――」
加賀の言葉に瑞鶴は思わず口をつぐんだ。加賀の言っていることは至極真っ当だったから、言い返せなかったのだ。
ややあって瑞鶴の口から、ごめんなさい。と弱々しい声が漏れた。そんな瑞鶴を励まそうと赤城が言った。
「きっとチャンスは回ってくるわ。もう少し様子を見てみましょう」
やがて補給作業を終えた零戦の矢が淡く光を発した。
「今はこの空襲を乗り切るのが先決ですね。頑張りましょう、瑞鶴」
翔鶴も気を引き締めた様子で答え、和弓に矢をつがえ始めた。やがて瑞鶴も顔を上げ、そうだね!と、矢筒から零戦の矢を抜き、弓につがえた。
風上に向って突進する六人の空母たちが再び零戦を発艦させていく。
しばらくして、上空へと上がっていた零戦が速力を上げ、艦隊前方へと向かい始めた。
敵の第三波が来襲したのだ。