艦隊これくしょん「艦これ」―荒海の槍騎兵―2「激闘南シナ海」 作:黒瀬夜明 リベイク
「敵降爆八機、飛龍さんに向ってる!」
いち早く敵機の行動に気付いた阿武隈が叫んだ。
「逃がす訳にはいかない。浜風!」
「了解!」
阿武隈の言葉を受け、磯風と浜風が編隊から分離した八機の深海棲艦爆に目標を変えた。彼女たちが持つ長10センチ高角砲が咆哮し、上空へ直径10センチの高角砲弾を撃ち上げる。
(目標を変えた!?)
古鷹は現在、旗艦である赤城を護るべく砲撃を行っている。
古鷹をはじめとする護衛の艦娘たちの砲撃で、敵編隊は大きく分断されていた。
慌てたように急降下を仕掛けてきた深海棲艦爆だったが、放たれた敵弾は赤城に命中することはなかった。
そんな中、編隊から離れた深海棲艦爆八機が、赤城の後方に位置する飛龍へと進路を変えてきたのだ。
「高角砲目標、飛龍に向う敵機!」
古鷹は迷わなかった。
即座に目標を変更し、測的に入った。
(私のことを避ける気だ)
深海棲艦爆の動きを見て、古鷹はそう結論を出した。
分離した深海棲艦爆の編隊は、強力な防空火力を持つ古鷹が張り付いている赤城よりは、その後方にいる飛龍を狙った方が打撃を与えられると感づいたのかもしれない。そう考えている内に、「目標、左正横の敵降爆。測的よし!」「全高角砲、射撃準備よし!」と砲術科員の妖精から報告が上がった。
「だからって、逃がさないよ!撃ち方始め!」
古鷹の掛け声と共に、一旦沈黙していた長10センチ高角砲が再び火を噴いた。
急降下に入ろうとした先頭の深海棲艦爆の左側で、最初の一発が炸裂した。続いて前下方で二発目が炸裂する。
先頭の深海棲艦爆が撃墜されることはないが、それでも急降下を阻止しているのか、敵機はなかなか急降下してこない。
前後左右で炸裂する高角砲弾の渦中では、機体を安定させるだけで手一杯なのだろうか。と古鷹は思った。
直後、「敵一機撃墜!」と砲術科員の妖精が声をあげた。先頭の深海棲艦爆の後ろについていた二番機が、黒煙を引きずりながら高度を落としていく。
続いて四番機に当たる深海棲艦爆が、高角砲弾をまともに浴びたのか、バラバラとなって墜落する。
直後、先頭の深海棲艦爆が機体を翻し、残存機も纏めて一斉に急降下に入った。
「敵機、急降下!」
古鷹が叫び、注意を喚起した。
「先頭のあいつ、しぶといんだけど!」
先頭の深海棲艦爆は、なかなか撃墜できないことに毒づく衣笠。
「集中して衣笠!」
古鷹自身もその事に苛立ちを感じていたが、言葉には出さない。ひたすら、高角砲の引き金を引いて、投弾の阻止を図る。
上空では、撃ち上げられた高角砲弾がひっきりなしに炸裂している。その内の一発が、三番機に当たる深海棲艦爆に命中した。
主翼に当たる部分を破壊されたのか、錐揉み状に回転しながら墜落していく。だが――
(あの機体、何で墜ちないの!?)
古鷹はここにきて、背筋が冷たくなった。
長10センチ高角砲を二秒おきに発射する交互撃ち方で砲撃をしている古鷹だが、炸裂した10センチ砲弾は、先頭の深海棲艦爆に命中しない。爆風に煽られて機体は何度もふらついているが、黒煙を噴いて墜落することも、爆散する様子もない。
飛龍に向って逆落としのように突っ込んでくる。
「タダじゃやられないんだから!」
標的である飛龍自身も、12.7センチ連装高角砲を発射する。しかし、先頭の深海棲艦爆と、後続する四機の深海棲艦爆は、風切り音を響かせながら急速に距離を詰めてくる。
「ヤバ!」
飛龍の12.7センチ連装高角砲に続いて、25ミリ三連装機銃が射撃を開始したのだ。多数の25ミリ弾が敵機を撃墜すべく、上空へと昇っていく。
機銃座では、俯仰手兼射手を務める妖精が、目一杯仰角を掛けてペタルを踏み、装填手の妖精たちが、慌ただしく給弾箱を運んでいる。
しかし機銃弾によって撃墜される深海棲艦爆は、一機も無かった。
飛龍の上空、高度が六〇〇メートル辺りになったところで、先頭の深海棲艦爆が引き起こしを掛けた。
古鷹の目に、切り離された黒い塊が映った。
「――っ!!」
古鷹が息を呑んだ時には、後続の四機も投弾し引き起こしを掛けて離脱している最中だった。
古鷹は、なお高角砲を撃ち続けたが、それ以上の撃墜はなかった。
やがて飛龍に真っ赤な爆発の光が瞬いた。