艦隊これくしょん「艦これ」―荒海の槍騎兵―2「激闘南シナ海」 作:黒瀬夜明 リベイク
第二次攻撃隊総指揮官妖精「
加賀艦爆隊隊長の妖精「
艦隊の進路は九十度、東へ向かって航行していた。
現在の時刻は一五時二一分。*1
太陽が西の空に傾き始めているが、海面は比較的明るい。
「真ん中の二隻が空母だな」と、「牧原」は呟いた。
「牧原」の言葉の通り、東へ向かう深海棲艦艦隊の中央に、他の深海棲艦とは一線を画す様な人型の深海棲艦が見える。
上空からでも分かるような禍々しいオーラを溢れ出しているその二隻。分けても一隻は、明らかな姫級か鬼級と呼ばれる深海棲艦だ。
「指揮官機より入電。『突撃隊形作レ』です!」と告げたのは、「牧原」とペアを組む妖精「
「牧原」は機体をバンクさせて後続機に合図を送った。
加賀の艦爆隊は「牧原」機を含めて二個中隊、二〇機。「牧原」の合図を受けて、二〇機の九九艦爆が二隊に分かれ、斜め単横陣を形成していく。
右前方を飛ぶ赤城の艦爆隊や、前方の
一方で、「島崎」が率いる
「艦爆隊指揮官機より受信。『一航戦目標、敵一番艦。二航戦目標、敵二番艦』」と「鋤谷」が告げた。
第二次攻撃隊の艦爆隊全機を指揮する蒼龍艦爆隊隊長の妖精「
自分たち一航戦の目標は、どうやら件の姫級か鬼級のようだ。赤城艦爆隊の二一機と加賀隊の二〇機でどれだけ打撃を与えられるかは分からなかったが――
「だからこそ、一航戦艦爆隊の腕の見せ所だ」と、「牧原」は両手で頬を叩いて気合を入れなおした。
「攻撃の際は、陽光に注意してください!」偵察員席に座る「鋤谷」が注意を喚起した。
敵艦隊が東に向っている場合、九九艦爆は西に向って降下する形を取る。
そうなった場合、陽光が視界を遮って命中率が低下する場合があるのだ。
深海棲艦はその効果を狙って進路を東に向けているのかは分からないが、「牧原」にとっては、今の注意喚起はありがたく思えた。
前方で「江草」が乗る九九艦爆がバンクした。
それを合図にして、一航戦と二航戦の艦爆隊が左右に分かれる。
「牧原」たち一航戦は右へと進路を取る。禍々しいオーラを纏う姫級か鬼級の深海棲艦が近づいてきた。
「一方的な戦いは終わったんだよ、深海棲艦。今度はこっちの番だ!」と「牧原」が声をあげたとき、「右前方、敵機!」と「鋤谷」が叫んだ。
「牧原」は右前方に目を向けると、黒い機体がこちらに向って突っ込んでくる。
深海棲艦の現在の主力艦上戦闘機、深海棲艦戦だ。
敵機の出現に合わせ、制空隊の零戦が増槽を落とし、右旋回をかけて深海棲艦戦に向っていく。
「牧原」は制空隊の零戦から目を離し、前方を向き直った直後、右前方で空中戦が始まった。
零戦が右に左にと得意の小回り転回で深海棲艦戦の突進をかわし、側面や後方から20ミリ弾を撃ち込んでいく。
零戦の攻撃を受けて、数機の深海棲艦戦が黒煙を噴きながら海面へと落ちていく。
急降下によって離脱を図る深海棲艦戦もあれば、急角度の旋回をかけて零戦に格闘戦を挑む深海棲艦戦もある。
全体的に零戦が有利に戦いを進めているが、それでも完全な阻止には至らない。
乱戦の巷から抜け出してきた二機の深海棲艦戦が、赤城艦爆隊に向ってくる。
だが後方から追いすがった零戦二機が、深海棲艦戦の二番機に20ミリ弾を放った。
深海棲艦戦二番機は、主翼に当たる部分を破壊されたのか、錐揉み状に回転しながら墜落していき、深海棲艦戦の一番機は敵わぬと見てか、機体を横転させて零戦の前から消える。
零戦の一番機がバンクをして後続の二番機に合図を送ると、二機の零戦は乱戦の只中へと取って返していった。どうやら、深追いはしないようだ。
それ以降、艦爆隊に襲いかかってくる深海棲艦戦はいなかった。
「牧原」は「鬼の居ぬ間に洗濯だな」と、呟いた。「それ、少し意味が違いませんか?」と「鋤谷」が冗談っぽく返した。
「牧原」は、こんな状況でも冗談を飛ばせる「鋤谷」の存在がこの上なく頼もしく思えた。
そしてそれを合図にしたように、空中に火焔が踊り、黒煙が湧き始めた。
輪形陣の外郭を固める巡洋艦や駆逐艦が発射炎を閃かせ、対空射撃を開始したのだ。
前を行く赤城艦爆隊は、指揮官機を先頭に臆することなく敵艦隊へと向かっていく。
だが、被弾なしとはいかない。
前方に火焔がしぶき、赤城隊の九九艦爆一機が黒煙を噴いて隊列から落伍していく。
かと思えば、別の一機が閃光を瞬かせて消える。
砲弾の直撃を受けたのか、その九九艦爆は細かい破片をまき散らしながら、白煙を噴いて墜ちていく。
「牧原」は速度を緩めることなく、対空砲火の中を輪形陣の内側へ突き進んでいく。
「回避なんてほぼ出来ないからな」と「牧原」は独り言ちた。
敵弾が炸裂し、爆風が右から左から襲いかかってくる。時折、敵弾の破片が九九艦爆の外板を不気味な音を立てて叩いてくる。しかし「牧原」は動じない。
爆風に煽られた機体を操り、確実に敵空母へと近づいて行った。
不意に後方で光が瞬いた。「
先に被弾したのは、今回が初陣となる搭乗員妖精の「柴崎」と「
二機目に被弾したのは、ベテラン搭乗員妖精の「大室」と「
「新人もベテランも関係ない。死神は平等に襲ってくる」と「牧原」は内心で呟いた。だが同時に、「爆弾落とすまでは、襲ってこないでくれよ」とも思った。
今こうしている間にも、敵弾を浴びて斃れるかもしれないが、爆弾を抱えたまま墜とされたのでは、斃れても斃れきれない。「牧原」はそう思っていた。
前方で赤城隊が動いた。艦爆隊隊長の妖精の「
二番機以下も、「原」機を追随するように突っ込んでいき、敵空母の真上から身を躍らせていく。
その間にも被弾機は出る。第二中隊の三番機「
「鋤谷」は被害状況を報告するが、「牧原」は「了解。」とのみ返す。
「ここまで来たら、あとは投弾するだけだ」と「牧原」は自分に言い聞かせ、主翼の前縁と敵空母が重なるのを待った。
主翼の前縁と、敵空母が重なったところで急降下を掛けるところだが、陽光の反射光に遮られて判別は難しい。しかし、このあたりだな――と辺りを付けた「牧原」は――
「突入するぞ、鋤谷!」と叫び、エンジンスロットルをしぼって、操縦桿を左に倒した。
九九艦爆の機首が真下を向き、眼下の敵空母に向って突入していった。