艦隊これくしょん「艦これ」―荒海の槍騎兵―2「激闘南シナ海」 作:黒瀬夜明 リベイク
「牧原」の九九艦爆が突入を開始した時、「牧原」の眼前には先に降下を始めた赤城の艦爆隊が見え、その奥に禍々しいオーラを発する深海棲艦が見える。
その後方には白い航跡が弧状に伸びている。対空砲火での阻止は出来ないと見て回避運動に入ったのだろう。
これまでの戦いで戦ってきた空母ヲ級のような、頭を覆うような物体は見受けられない。
代わりに見えたのは、双頭の深海魚を思わせる飛行甲板と、巨大な煙突のような物体。
「牧原」は相対している深海棲艦が「深海珊瑚海水鬼」だとあたりを付けた。
「珊瑚海」と呼ばれる南方の海域で発見されて以来、日本連合艦隊――ひいても、一航戦の赤城と加賀とは何度か刃を交えてきた空母タイプの鬼級深海棲艦だ。
加賀艦爆隊は、いま再び母艦のライバルと呼ぶべき深海棲艦に、投弾を敢行しようとしていたのだ。
「
「牧原」は深海珊瑚海水鬼の回頭に合わせて進路を微調整する。
機体の降下角は六〇度、六五度、七〇度と深まっていく。殆ど垂直に等しい降下角だ。
真下からは多数の曳痕が突き上がり、高角砲弾と思われる砲弾が炸裂、黒煙が艦爆搭乗員妖精たちの視界を遮ってくる。
「牧原」はひたすら深海珊瑚海水鬼を見据え続けている。深海珊瑚海水鬼だけではなく、護衛の深海棲艦も対空砲火を撃ち上げてくるが、気にしている余裕はない。
「牧原」は操縦桿を操り、照準器の環の中に深海珊瑚海水鬼を捉え続けた。
不意に前方で爆発が二度連続して起こった。巨大な火焔に呑まれた九九艦爆が、バラバラになり、白煙を引きずりながら墜ちていく。
「牧原」機の近くにも、敵弾が炸裂するが「牧原」は構うことなく後続の九九艦爆を先導していく。
指揮官機である「牧原」機の投弾を見て、後続の艦爆隊は投弾位置を修正する。
ゆえに「牧原」は、部隊全体の戦果を左右する立ち場にいるのだ。「一発でも多く当てる為にも!」と「牧原」は口内で独り言ちた。
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直後、深海珊瑚海水鬼の左舷側至近距離に、弾着の水柱が奔騰した。「牧原」は「原がしくじるとは…」と、呟いた。
真珠湾作戦の為に、赤城艦爆隊も加賀艦爆隊も猛訓練を積んだとの自負が「牧原」にはあった。
しかし真珠湾作戦で相手となるのは、静止目標である地上型の深海棲艦だ。
「高速で回避行動を行う目標に命中させるのは、艦爆隊の隊長でも至難の業なのか」と「牧原」は思った。
続いて二番機、三番機が引き起こしを掛けた。二番機の投弾は、先程と同様に深海珊瑚海水鬼の至近距離に水柱を突き上げるだけだったが、その水柱が崩れ落ちた直後、深海珊瑚海水鬼に赤黒い爆煙が踊った。
「牧原」が「やった!」と歓声を上げた直後、今度は双頭の深海魚を思わせる飛行甲板の中央に二度目の閃光が瞬いた。
続けて三発目が再び飛行甲板の中央部に、四発目が人の姿をした深海珊瑚海水鬼の本体に命中した。
二五番*3が命中し、炸裂する度に深海珊瑚海水鬼を覆う黒煙と火災煙は増え、その体を覆っていく。
その後も赤城艦爆隊の命中弾は続き、全機が離脱するまでに六発の命中弾が確認された。
「今度は加賀隊の番だ!」と「牧原」は声をあげた。
既に高度は一〇〇〇メートルを切っている。
目標である深海珊瑚海水鬼は、分厚い黒煙に覆われて視認が困難だ。先の赤城隊の攻撃が、煙幕となって加賀隊の視界を遮ってしまっていたのだ。
しかし「牧原」は構うことなく、深海珊瑚海水鬼に向って突入していく。
黒煙に遮られているが、その向こう側に深海珊瑚海水鬼がいると見て投弾するだけだ。
「
「牧原」の視界が火災煙で一杯になった直後――「
「てぇっ!」と「牧原」が叫び、投下レバーを引いた。
「牧原」の足元から作動音が響き、九九艦爆が母艦から運んできた二五番が投下された。
「牧原」は同時に操縦桿を目一杯手前に引き、離脱にかかった。強烈な遠心力が掛かり、全身が鉛のように重くなる。
ともすれば、操縦桿から手を離したくなるが、「牧原」は操縦桿を手前に引き続けた。
やがて九九艦爆の機首が上向き、上昇を開始した。
「命中!本機の投弾です!」と「鋤谷」の報告が重なり、九九艦爆は上昇していく。心なしか「鋤谷」の声は弾んでいるように感じられた。
更に「鋤谷」の報告は続いた。「二発目…三発目を確認!続けて四発目!」と声が更に弾んでいる。
「牧原」の正確な投弾が奏功し、後続機も火災煙を物ともせずに次々と直撃弾を得たのだ。最終的に「鋤谷」は「命中弾五発を確認!」と報告した。
「牧原」機の周囲には投弾を終えて離脱した加賀隊の九九艦爆が集まってきていた。
「赤城隊と合わせて十一発か」と「牧原」は呟いた。
九九艦爆が搭載する二五番は、五〇番*5に比べて破壊力は小さいが、十一発も命中すれば、いくら鬼級の深海珊瑚海水鬼でもタダでは済まない。発着艦能力は失われたに違いないだろう。と「牧原」は考えていた。
そんな時、「鋤谷」が「敵一番艦、速力低下!」と報告してきた。
「牧原」は首を捻じ曲げて眼下の深海珊瑚海水鬼を見下ろした。
「鋤谷」の報告通り、深海珊瑚海水鬼の動きは大きく鈍っている。
尾を引く航跡はごく短くなり、ゆっくりと後方へと流れていた。深海珊瑚海水鬼を覆う黒煙はその場に滞留し始めている。
深海珊瑚海水鬼は行き足が止まりつつある。
「機関部をやられたのかもな」と「牧原」が深海珊瑚海水鬼の状況を推察していると、多数の友軍機が、海面すれすれの低高度を突き進んでいるのが見えた。
五航戦の九七艦攻が、突撃を始めた瞬間だった。