艦隊これくしょん「艦これ」―荒海の槍騎兵―2「激闘南シナ海」 作:黒瀬夜明 リベイク
霧島からの報告で古鷹が上空へ顔を上げた時、「M.B機」を先頭に編隊を組んだ八機の深海棲艦爆は、四五〇〇メートルの高空から身を躍らせていた。
艦娘艦隊に発見されないよう、雲に隠れつつ高めの高度から接近してきたのだ。
この高度に「
ましてや、対空砲火による歓迎もなかった。
眼下の敵空母は、先程までの雷撃回避の為に反時計回りに回避運動を行っていたが、今では直進に戻っていて、急降下爆撃の格好の的と化していた。
敵空母を中心に添えた輪形陣の中には、先程の攻撃で深海棲艦爆を次々に叩き墜とした防空巡洋艦の艦娘も見えるが、「M.B機」を含めた八機の深海棲艦爆の標的はあくまでも空母だった。
当初、深海珊瑚海水鬼と深海海月姫、そして空母ヲ級の三空母は、空母の艦娘たちの飛行甲板を急降下爆撃で破壊し、発着艦能力を奪った後で雷撃機を突入させ、止めを刺す予定だった。
しかし、敵機動部隊への攻撃は多数のシークや対空砲火による妨害を受け、不首尾に終わってしまった。
母艦である深海海月姫に戻った「M.B機」は、補給を終えた後、深海棲艦攻の部隊と共に再度出撃した。
深海海月姫は敵空母に対して、急降下爆撃と雷撃の同時攻撃――それも奇襲を狙っていた。
深海棲艦爆が八機の小規模編隊であることがそれを物語っていた。
先の攻撃を仕掛けた深海棲艦攻部隊は雷撃を成功させることはできなかったが、八機の深海棲艦爆は、何物にも遮られることなく降下位置まで辿り着けたのだ。
高度が四〇〇〇、三五〇〇と下がるに従って眼下の敵空母の姿が拡大していく。
狙うのは、戦艦の艦娘に護られた最後尾に陣取る空母の艦娘だ。一見手ごわそうに見えるが、「M.B機」が真に警戒している防空艦の艦娘に比べれば、幾分かは組みやすい相手だ。
深海棲艦爆の現在高度は、三〇〇〇メートルを切っていたが未だに対空砲火は来ない。
敵機動部隊は、上空から迫る脅威に気付いていないかのように沈黙を保っていた。
このまま行けば全弾命中も夢ではなかったが、高度が二八〇〇を切った瞬間、眼下の艦娘たちが対空砲火を撃ち上げ始めたらしく、海上に幾つもの発射炎が瞬いた。
深海棲艦爆の周囲で敵弾が炸裂するが、弾量が多いだけで精度はあまり褒められたものではない。
先に攻撃してきたあの防空艦の艦娘に比べれば、雲泥の差とも言えた。
そして「M.B機」は、輪形陣後方に見える空母の艦娘を、照準器の中にハッキリと捉えていた。
既に高度が二〇〇〇メートルを切っていた。
その空母の艦娘に外見も見え始めていた。海風に流れる真っ白な長髪は、「M.B機」の母艦である深海海月姫とよく似ており、艦娘としての体躯も大きい。
正規空母の艦娘と見て間違いはなかった。
更に高度が下がり、一五〇〇メートルを切ったのと同時に、目標とする空母の艦娘が対空射撃に踏み切った。
真っ赤な火箭が、深海棲艦爆に向って突き上がってくる。
突き上がる火箭の一つ一つは、シークの機銃弾よりも太い印象を受ける。
何発もの火箭が「M.B機」の至近を飛び上がり、その内の一発が「M.B機」の胴体をかすめた。
しかし「M.B機」の外板を貫通することはなかった。
下から上へ向かって撃ち上げているからか、それとも口径が大きい割りには威力が低いのか。
どちらにしても、「M.B機」はこれまでと変わることなく急降下を続けていた。
高度は一四〇〇、一三〇〇と下がり、やがて一〇〇〇メートルを下回った。
目標の艦娘からは依然として真っ赤な火箭が向かってくるが、被弾した深海棲艦爆は一機もいない。
そして高度六〇〇メートルまで降下した深海棲艦爆は、その瞬間に胴体下に抱えてきた爆弾を投下し、引き起こしにかかった。
だがそれと同時に、目標の艦娘が面舵を切った。
今の投弾は目標が直進すると狙い、放ったものだ。
投弾の直後に回頭に入られては、命中は望めないかもしれない。ましてや、後続の深海棲艦爆は「M.B機」の投弾に続いている。全弾命中どころか、全弾が外れてしまうかもしれなかった。
引き起こしを掛ける「M.B機」の照準器から空母の艦娘が消え、次の瞬間には蒼空が広がっていた。
急降下爆撃機が最も危険な状態に晒されるのが、この引き起こしを掛けている間だ。こんな所をシークに襲われればひとたまりもないが、幸いにも恐れていたことは起こらず、「M.B機」は空母の艦娘の艦尾方向へ抜けた。
二番機以下も続いて上昇してくる。
しかし、「M.B機」の投弾した爆弾は、空母の艦娘の左舷側に水柱を奔騰させるだけに終わった。
続く二番機、三番機の投弾も同様で、それぞれが左舷側に水柱を突き上げるだけに終わった。
だが直後、真っ赤な爆発が敵空母の上に瞬いた。
四番機が投弾した爆弾が、空母の艦娘に命中した瞬間だった。
更に爆発は二度続き、八機の深海棲艦爆は最終的に三発の命中弾を得た。
轟沈には至らないだろうが、三発もの爆弾が命中したのでは発着艦能力は失われているだろう。
「M.B機」以下八機の深海棲艦爆は、海面すれすれの低空を輪形陣の外側を目指して離脱していく。
輪形陣の殿軍を護っていた戦艦の艦娘からも、真っ赤な火箭が噴き伸びてくるがそれらは全て後方へと流れていく。
一機の被撃墜もなく離脱していく深海棲艦爆に、シークが襲いかかってきたのはそんな時だった。
シークは両翼に発射炎を閃かせ、深海棲艦爆に襲いかかってくる。
「M.B機」を含めて八機の深海棲艦爆は、高度を上げることなく海面すれすれの低空を突き進むが、軽快な運動性能を誇り、速力に勝るシークから何機が無事に離脱できるのかは、まだ分からなかった。