艦隊これくしょん「艦これ」―荒海の槍騎兵―2「激闘南シナ海」 作:黒瀬夜明 リベイク
第二航空戦隊「飛龍」の飛行隊長と艦攻隊長を兼任する妖精は、九七式艦上攻撃機、通称「九七艦攻」のコックピットの操縦席から、深海棲艦の水上偵察機が身を翻して遠ざかっていく光景をハッキリと認めた。
九七艦攻を操る飛行服を纏った操縦員妖精の胸元には、妖精のみが理解できる言語で「友永」と書かれている。妖精たちが会話をする時には、この名前を呼び合って意思疎通をするらしい。
「友永」は次いで海面を見下ろした。
南遣艦隊残存部隊の後方に、一隻の戦艦ル級と二隻の駆逐ロ級が見える。「友永」は九七艦攻の電信員席に座る妖精「福沢」に「福沢、全機当て発信『敵発見。
同時に、第二航空戦隊の九七艦攻全機が、左右に分かれる。
飛龍の僚艦である蒼龍から飛び立った艦攻隊――「阿部」が指揮する九七艦攻、二三機が戦艦ル級の右舷側へと舞い降りていく。
「友永」も南遣艦隊残存部隊の上空を通り過ぎた所で、指揮下の二四機の九七艦攻を率いて降下に入った。
「永久に足止めしてやる!」と、口元に笑みを浮かべる「友永」は一瞬だけ、これまでのことを思い出していた。
日本連合艦隊主力である第一艦隊と合流した第一航空艦隊はこの日、台湾の高雄と、海南島の三亜港の中間海域まで到達していた。未明から索敵機が飛び立ち、敵艦隊の捜索にあたったが、索敵機から「敵発見」の報告が入る前に、南遣艦隊旗艦の鳥海から「我、敵ノ追撃ヲ受ク。敵ハ戦艦一、駆逐艦二。位置、『三亜港』寄リノ方位七五度、二〇〇浬。
一航艦の旗艦である赤城は、全艦上攻撃機を以って南遣艦隊の救援を考えていたが、僚艦である加賀が、「深海太平洋艦隊が現れるかもしれない」と指摘した。
赤城は加賀の意見を容れ、急遽二航戦の蒼龍と飛龍のみに艦攻隊の出撃を命じたのだ。
出撃前、飛龍からは「目的は南遣艦隊の救援だから、足止めできれば充分だ」と言われたが、「友永」は最初から「足止め」で終わらせる気はない。二航戦の艦攻隊、四七機が一斉に雷撃を仕掛ければ、いくら戦艦ル級でも撃沈は出来ると踏んだからだ。
海面へ向かって降下を続ける「友永」に、偵察員席に座る「後藤」が「敵戦艦、面舵!」と注意を喚起した。「後藤」の言う通り、戦艦ル級が面舵を切って右に回頭している。こちらの動きを見て回避運動に入ったのだろうが、「友永」は「逃がしはしない!」と敵に向って投げかける。
深海棲艦の戦艦ル級と、九七艦攻では速度差は圧倒的に九七艦攻が上だ。ギリギリまで接近して、一撃必殺の魚雷を叩きこんでやる。と「友永」は口内で呟いた。
海面ギリギリの低高度まで舞い降りた飛龍の九七艦攻が、一個中隊六機ずつ、四隊に分かれて、横一閃に展開する。
これまでに何度も訓練し、深海棲艦の艦隊に向って繰り出してきた四段構えの雷撃だ。第一中隊が失敗しても、第二、第三、第四中隊が連続して雷撃を刊行するのだ。
「友永」隊が突入を開始した時点で、戦艦ル級の進路は先程と逆向きになっている。飛龍艦攻隊は、左舷側からの雷撃となる。
直後、「後藤」が「敵艦、発砲!」と叫んだ。「友永」が正面を見据えるが、お世辞にも弾量が多いとは言えない。
戦艦ル級は、数多くの対空砲を装備していると認識していたが、今回の戦艦ル級からはそれを感じ取れない。だが「友永」は、「
白い照準器の輪の中で、戦艦ル級が膨れ上がっていく。現在の距離は
「友永」は操縦桿を絶妙に操作し、狙いを定める。自分に言い聞かせるよう「ちょい右」と呟き、進路を僅かに右へ修正する。
戦艦ル級から発射炎が瞬き、細長い真っ赤な火線が吹き伸びてくる。対空機銃が射撃に加わったのだ。「友永」は操縦桿を前方へ押し込み、九七艦攻が波頭に接触しそうな高度を下げ、戦艦ル級に迫っていく。
戦艦ル級からの機銃の射弾が「友永」の頭上をかすめ、後方へと消えていく。弾量は少ないが、油断はしない。やがて目標との距離が一〇〇〇メートルを切った。
「友永」は操縦桿を操り、戦艦ル級の未来位置へ照準を合わせる。「
そして、四〇〇メートルを切った時「てぇっ!」と一声叫び、レバーを引いた。
下から機械音が響くと、一瞬九七艦攻が上へヒョイと摘まみ上げられるように上昇した。だが「友永」は操縦桿を前へ押し込み、上昇高度を最小限に留める。
「一中隊、全機発射!」と「後藤」が興奮した声をあげた。「友永」はそのまま戦艦ル級の前方を横切って、右舷側へと離脱する。高度は変わらず、海面ギリギリの超低空飛行だ。
戦艦ル級から離脱を図る瞬間、「友永」は戦艦ル級の対空砲火が少なかった理由を悟った。遠方からでは分からなかったが、中、小口径の砲弾を多数浴びたのであろう弾跡が無数にあった。昨夜の夜戦で被弾し、対空火器を多数破壊されていたのだろう。
右舷側へ「友永」の九七艦攻が飛び出した時、戦艦ル級の後方に九七艦攻の編隊が見えた。「阿部」が率いる蒼龍艦攻隊だ。どうやら向こうも離脱にかかったようだ。
「友永」は内心で、「何本当たる?」と独り言ちた。やがて――「水柱一本……二本……三本確認!…続いて四本目!五本目確認!」と「後藤」が歓声交じりに声をあげた。
更に「福沢」が「右舷側にも、水柱確認!」と歓声を上げた。魚雷の命中は続き、九本目まで確認した時点で、「友永」は操縦桿を手前に引き、九七艦攻を上昇させた。「友永」の視界の隅にある高度計の針が、どんどん上がっていき、高度二〇〇〇メートルまで上がった所で、「友永」は海面を見下ろした。
どす黒い黒煙が海面から伸び上がり、戦艦ル級の姿は殆ど見えない。黒煙の中で小規模の爆発が起こり、黒煙が一瞬だけ吹き飛ぶが、それもすぐに新たな黒煙が覆い隠す。
雷雲が海面近くまで降りてきた。とでも言えるような、そんな光景だった。「友永」は「後藤」に「司令部当て打電。『我、戦艦一ヲ雷撃ス。魚雷九本ノ命中ヲ確認ス。