艦隊これくしょん「艦これ」―荒海の槍騎兵―2「激闘南シナ海」 作:黒瀬夜明 リベイク
深海太平洋艦隊の上空に、手遅れとも言える「深海棲艦戦」が現れた頃、戦闘が起こっている海域から遠く離れた横須賀鎮守府。
そこにある第六戦隊専用の作戦室*1で、机を挟んで座っている第一種軍装姿の二人の男性がいた。
一人は六戦隊の砲術参謀、
「おい桃園、少しは落ち着いたらどうだ?」
その向かい側に座る桃園よりも背が高く、がたいがいい男性が、何処か落ち着きのない様子で座っている桃園に、落ち着くように言い聞かせていた。
第六戦隊の砲術長を務めている海軍少佐だ。
海軍における砲術長は、砲術参謀の不在時などに訓練計画を纏め、訓練を実施する役職だ。
一昔前であれば、射撃指揮所で砲術全般の指揮を執る役職だったが、深海棲艦との戦争が始まってからは、その役割もがらりと変わった。
六戦隊の砲術参謀である桃園は、普段は呉に勤めている。
横須賀鎮守府の籍を置いている古鷹と衣笠は、そうそう簡単に呉へは来れない。呉で行われた六戦隊全体での訓練の後は、桂木が桃園が作成した物を基にした訓練計画に乗っ取って古鷹と衣笠を訓練した。
「すみません桂木先輩。南遣艦隊のことを考えると、どうしても落ち着きませんでした」
「…まあいいだろう」
桂木は桃園の言葉に、何処かよそよそしい口調で答え、そっぽを向いた。
桂木にとって桃園は、海軍兵学校での二期先輩に当たる。在学中は何かと、「海軍兵学校的指導」で何度も指導したことがある。
六戦隊で再会した後も、兵学校時代の話し方で話してください。と桃園が言ったたため、二人の会話は砲術参謀と砲術長の会話に見えない。とよく言われている。
そんな桂木は、桃園に先んじて六戦隊の砲術長として着任していた。だが後に、桃園が砲術参謀として着任したのだ。
桂木の専門は桃園と同じ砲術だが、桃園が対空射撃を専攻したのに対して、桂木は砲術の中でも主流の、敵艦隊に対しての砲術が専門だった。
しかし、桃園が着任してくる数ヵ月前に、それまで重巡だった青葉たちは防巡へと改装され、主砲も20.3センチ連装砲から、長10センチ高角砲へと換装された。
重巡だった青葉たちが、防巡へと改装された時は激しく憤ったものだ。
(それに加えて…)
桂木はちらと桃園の丸顔を見た。
桃園が六戦隊の砲術参謀として横須賀を訪れ、古鷹と衣笠の訓練についての打ち合わせをした時、桂木は強い反発を抱いた。
「どうして俺が、三号生徒の
当時は表面上の反発を隠して、桃園の訓練計画を聞き入ったものだ。
桃園の作成した訓練計画はとても理にかなったものだったから、尚のこと癪だったが、それでも認めざるを得なかった。
桃園は「艦隊全体の空襲被害を、如何に小さくするか」の骨子を主軸に、護衛対象が戦艦の場合、空母の場合、更には輸送船の場合と、幅広く考えていた。
桃園の目には、六戦隊だけではなく日本連合艦隊全体が映っていたのだ。
(悔しいが、俺の
悔しさを覚えながら、桂木は桃園の顔を見た。
後輩に自分との差を追い抜かれた中で、訓練計画の手を抜き、古鷹と衣笠の実力を高めることが出来なければ、砲術長として、そして兵学校の先輩として
また桂木には夢があった。
戦艦の艦娘の砲術長、もしくは戦艦の所属する戦隊の砲術参謀になることだ。
戦艦の艦娘の隣に立ち、彼女たちを育て、そして戦場で活躍する姿を見たい。と思い海軍兵学校に入学したのだ。
六戦隊、その砲術長に着任した時から、「六戦隊の砲術長は自分にとって通過点に過ぎない」と思っていた。
「戦艦の隣に立つためにも、ここで足踏みはできない…」
桂木がボソッと口を開いた。
「桂木先輩、どうかしましたか?」
「なんでもない」
そう桂木が返した時、室内の電話が鳴った。桃園が立ち上がり、受話器を取った。二度三度会話の受け応えがあったのち、桃園は受話器を置いた。
「一航艦が、敵偵察機の触接を受けたそうです」
「…いよいよか」
桃園の言葉に、桂木は一航艦の護衛に付いている、古鷹と衣笠の顔を思い浮かべていた。