艦隊これくしょん「艦これ」―荒海の槍騎兵―2「激闘南シナ海」 作:黒瀬夜明 リベイク
左前方から迫ってくる敵機の編隊を目にした古鷹は、目を右往左往させて機数を数えた。
「二十機くらいの梯団が二つ。か」
古鷹は今度、自身の後方や左右に首を回して周囲を確認した。どうやら他に敵機はいないようだ。
「戦闘が始まる前には、全方位を確認し、目標を選定するように」
横須賀での訓練期間中に、桂木からそう教わっていた古鷹は、それを実践し周囲の確認を行ったのだ。目標が分散した場合、前部と後部の高角砲を別個に照準しなければならないからだ。
「古鷹より一航艦全艦へ!接近する敵機は前方の梯団のみ!」
古鷹は一航艦の全艦娘に注意を喚起した。
既に一航艦の全員が知っているとは思ったが、それでも警告を送らないよりは良いと思ったからだった。
前方の上空で零戦隊が敵編隊に取り付いた。二つある梯団の内、一航艦に近い左側の梯団を攻撃している。
零戦の群れが右に左に飛び回り、敵機に食らいついては20ミリの射弾を叩きこんでいる。
零戦の得意とする旋回格闘戦は、まるで狼の群れが次々に獲物に襲いかかるような、そんな印象を古鷹は感じていた。
だが、全機の阻止は出来ていない。零戦の追撃を振り切った、深海棲艦爆が不気味な風切り音を響かせながら、一航艦の上空へと迫ってくる。
「六戦隊目標、左方の梯団!敵機の標的は恐らく赤城と推測できるから、引きつけてから射撃を開始するよ!」
「衣笠、了解!」
古鷹は、僚艦衣笠と砲術科員の妖精に向けて告げた。衣笠も同様に測的に入ったと思われるが、古鷹からは細かい動きは見えない。
砲術科員の妖精は「目標、左方の梯団。引き付けてから射撃します!」と復唱し、目標の測的に入った。
古鷹は大きく頷くと、凛とした声を張り上げた。
「全高角砲、射撃準備!交互撃ち方!」
「一水戦、射撃開始!」
前方に展開する一水戦の阿武隈、第十七駆逐隊の陽炎型駆逐艦の艦娘「磯風」「浜風」「浦風」「谷風」*1が対空射撃を開始した。
他の駆逐艦たちも、遅れてはならじと対空射撃を開始する。
「おどりゃー!」
「谷風にお任せだよ!」
浦風と谷風は、対潜水艦戦を主眼にした改二相当の改装「丁改」への改装を受けている為、装備するの主砲は対空射撃に不向きな12.7センチ連装砲C型改二だが――
「撃って撃って、撃ちまくれ!」
「護り抜きます!」
磯風と浜風は、榛名と同様に対空戦闘強化を主眼にした改二相当の改装「乙改」という改装を受けている。装備している主砲は古鷹たちと同じ、長10センチ高角砲だ。
心なしか、磯風と浜風は浦風と谷風よりも対空射撃の要領が良いように思えた。
艦隊の前方と左右で、炸裂した砲弾の黒煙が乱れ咲くように沸き上がり始めた。
同士討ちを避けるため、零戦隊は機体を翻して離脱していく。
「六戦隊、まだなの!?」
艦隊の後方から、瑞鶴の焦った様子の声が届いた。未だに発砲しない古鷹と衣笠を見て、急かしてきたようだ。
「引き付けてからだよ」
古鷹は一言だけ返し、距離を詰めてくる敵機を見上げた。
「三次元的な動きをする航空機に対して、遠距離から撃っても命中は望めない」
というのは、呉で行われた座学の際に、桃園が発した言葉だ。
(砲撃戦と同じ、引き付けてから撃つんだ!)
上空へと向けられた右腕とアームで懸架された長10センチ高角砲が仰角をかけ、旋回していく。敵機は対空砲火をものともせずに、距離を詰めてくる。時折上空に火焔が踊り、火を噴いた深海棲艦爆が墜落しているが、数は一機か二機だ。
編隊が崩れ、二列の斜め単横陣が形成されていく。
「やっぱり赤城さんを狙ってる!」
「ッ――」
飛龍がそんな声をあげ、空母の艦娘たちの間に緊迫した空気が流れた。しかし古鷹は動じない。
予想通りだ。と口内で一言呟くだけだった。
そして、「測的よし!」「方位盤よし!」「全高角砲、射撃準備よし!」と、砲術科員の妖精たちが声を張り上げた。それを待っていたかのように、古鷹は声をあげた。
「主砲狙って…そう!撃てぇー!」
深海棲艦爆が機体を翻したのと同時に、六基ある長10センチ高角砲の一番砲が一斉に火を噴いた。
六発の10センチ砲弾が、秒速一〇〇〇メートルの速度で上空へと撃ち上げられる。
「ほら、もう一発!」
二秒後、衣笠の声に合わせるように、二番砲六門が火を噴く。その二秒後には、一番砲が第三射を放ち、さらに第四射、第五射、第六射と10センチ砲弾を撃ち上げていく。
やがて第一射弾が、先頭の深海棲艦爆一番機の真下で炸裂した。機体が一瞬持ち上がったように見えた瞬間、深海棲艦爆は黒煙を引きずりながら墜落していった。
続いて二番機の近くで10センチ砲弾が炸裂し、横向きの爆風を喰らって一番機と同様に墜落していく。
後続していた三番機は、至近距離で10センチ砲弾を受け、閃光と共にバラバラになって墜落し、四番機は主翼に当たる部分を破壊されたのか、錐揉み状になって墜落していく。
続く五番機も、一番機と同様、黒煙を引きずりながら真っ逆さまに墜落していく。
まるで深海棲艦爆の目の前に見えない壁が出現し、それにぶつかった深海棲艦爆が勝手に落ちていくようにも見える光景だ。
「す、凄い…」
先程まで急かしてきた瑞鶴が、茫然としてその光景を見ていた。