時はSNS戦国時代。
マグルが開発した超絶便利で超絶有能な神具、「スマートフォン(以下スマホ)」は魔法界にまで新たな革命を巻き起こしていた。
というのも、魔法界でも屈指の実力者達や魔法省のトップ達がこぞってその神具を手にし……まぁ、省略すると彼らは皆ネット依存症に陥ったわけなのだ。
ご覧の通り、魔法界でも社会問題となったわけだが、このネットの影響力を流石に無視出来ぬと重い腰をあげ携帯ショップでスマホを買ってきた老いぼれがここにも一人。
いわゆる悪の組織の頂点たるお方、通称「我が君」だ。
色々あってマグル嫌いの我が君は当初、マグル製品も同様にいけ好かなかった。
どれぐらい嫌いかと言うと、上司に隠れて購入していた部下のスマホを奪い取りバキバキに破壊するほど。
だが、既にネットに侵されている部下達もとい僕達は何度へし折っても涼しい顔で買い換えてくる。
挙句、一々上司の呼び出しで招集されるのがめんどいと、その時間があれば配信一本見れると、様々な難癖をつけて勝手に抜けていくけしからん僕達が後を絶たなくなってきた。
むしろ、バキバキに折られたのは我が君の繊細な心の方だった。
そんな我が君を見かねたある忠実なる僕が、新たな僕を集めるのにSNSというものを活用してはどうか? と提案したのが事の経緯である。
スマホを買ってきた我が君は、早速、スマホやネットに詳しい若めの僕にSNSの使い方を伝授してもらっていた。
その様子はまるで、おじいちゃんのスマホデビューをサポートする孫とのほのぼのワンショット。
まず、某アルファベット一文字の大手SNSに登録し、アカウントを開設させた。
これにはマグル大嫌いおじいちゃんも大歓喜。
「おぉ、俺様の為にようやった……」と部下を褒めるのを忘れない上司の鑑。
だが、我が君は次のステップで躓く。
そう、皆を惹かせるようなアカウントには欠かせないものがある。
アカウント名・ユーザー名・bio欄にヘッダー、アイコン……まだまだ前途多難だ。
ユーザー名bio欄は後回し、ヘッダーは僕達との集合写真、アイコンは自撮りにしたとして、一番肝心のアカウント名が思いつかぬ。
自身が学生の頃に徹夜で捻りだしたセンスがピカリと光るペンネーム「ヴォルデモート」は、呼ぶのは恐れ多いと僕でさえ誰も呼んでいなかった。
あんなに必死で考えた渾身の作を呼んでくれないという寂しい思い出しかないので、ヴォルデモートは却下した。
では、他に何か親しみやすくて、邪悪でカッコよくて響きの良いアカウント名となると……。
3日後。
我が君は遂にアカウント名を忠実なる僕達に発表した。
それは……「例のあの人ヴォルちゃん」。
ヴォルちゃんという響きが良く親しみやすいあだ名、皆が恐れる邪悪でカッコよい例のあの人という呼び名。完璧だった。
そして、これを機に僕達、集団名にも相応しい名を与える事にした。というか、名が無いと呼びにくかった。個人名などほぼ覚えていなかったし。
という事で決定した、その名は「死喰い人」。
褒められ待ちの上司に死喰い人達の誰も本音を言えなかった。
死喰い人はまぁ良しとして、流石にアカウント名に威厳が無さ過ぎると……。
ユーザー名登録、bio欄に「死喰い人を統べし者。入会、大歓迎! DMでお気軽にご相談を!」と書き終えると、ようやっと我が君の長いスマホデビューの道のりにゴールが見えた。
慣れないタイピングや老眼との死闘の数々。
しかし、これは始まりに過ぎない。
我が君、もとい例のあの人ヴォルちゃんの次なる試練は……配信者デビューだった。