BRAVE STEP ―小さなお菓子屋さんを夢見て―   作:クレナイハルハ

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STEP1─始まりのメガシンカ─

 

 

草の匂いがする風が、丘の上を吹き抜けていく。

 

「まってー!」

 

少女は笑いながら丘を駆け下りた。

少し前を、白い体毛のポケモンが軽やかに走っている。

大きく弧を描いた角。

風に揺れる長い毛並み。

そのポケモンの名前はアブソル。

ポケモン図鑑では危険を察知する能力を持つがゆえに、人からは災いをもたらす存在だと誤解されるポケモンだと書かれているけれど、少女にとってはただの大切な友達だった。

 

「ソル!」

 

振り返ったアブソルが、笑顔で小さく鳴いた。

そのまま少女をからかうように少しだけ距離を取る。

 

「もう、まってよー!」

 

少女は笑いながら手を伸ばす。

するとアブソルはぴたりと止まり、こちらを振り返った。

そして、まるで仕方ないと言うように歩いて戻ってくる。

私は勢いよくその白い体毛に抱きついた。

 

「つかまえた!」

 

少女は捕まえたアブソルの柔らかな毛並みに顔を埋める、するとアブソルは少しだけ困ったように鳴いた。

 

「……ソル♪」

 

それでも逃げることはなく、静かに少女の隣に座る。丘の向こうにはマサラタウンの家々が見えていた。

暖かい風が吹き、遠くでポケモン達の鳴き声が聞こえる。

 

ずっとこんな日が続けばいい。

 

そう思った、その時だった。

 

「へぇ……珍しいポケモンじゃないか」

 

知らない声が聞こえた。

振り向くと、そこには黒い服を着た男が立っていた。

胸元の大きな赤い『R』のマークが特徴的な男が一人、此方を見て笑っていた。

正確にはアブソルを見て、笑っていた。

 

「そのポケモン、俺が貰っていこうか」

 

アブソルの体がぴくりと動いた。

 

「ソル?」

 

首をかしげる、まるで意味が分からないと言うように、困ったような声を出す。

人間に向けられるその手が、どういう意味なのか理解できていないようだった。

 

「大人しく渡せば痛い目は見なくて済むぜ」

 

その手がアブソルへと迫る。

少女はアブソルを奪われないよう、その両手でアブソルを強く抱き締める。

 

「だめ!このこは、わたしのたいせつなかぞくだもん!」

 

少女の腕が、ぎゅっと体に回される。

 

「……ソル?」

 

アブソルは小さく困ったように鳴いた。

どうして少女が震えているのか、まだ理解できない。彼女を悲しませるようなことをしただろうか?

アブソルは、少女の反応にもだがこれまで数度しか感じたことのない感覚に戸惑っていた。

体にゾクリと、庭で昼寝をしていた際に背中をキャタピーが這っていた時のような、嫌な何かを感じていた。

これまで生きてきた短い生の中で感じた小さなソレとは比較にならない程に、強く感じる暗く体が硬直するような感覚。

迫ってくる大きな大人の手が、少女の肩へと触れる。

先程まで笑っていた少女が、男に肩を掴まれ痛みから顔を歪めていた。

苦しそうな表情をする少女に、アブソルはただ困惑していた。

どうしてこんなことをするの?

今までみんな優しくしてくれたのに。

おやつをくれたり、笑ったりしていたのに。

苦しそうだよ、止めてよ。

どうして、どうして、やめないの?

そんなアブソルの思いとは反対に、アブソルの肉体は硬直して動かない。

少女がアブソルの体を抱き込み、離すまいと抵抗するが大人と子供には大きな力の差がある。

 

「こんのっ!ガキが、いい加減離れろ!!」

 

「ぅあっ!?」

 

少女の体が、アブソルの感じていた温もりが離れる。

勢いよくアブソルから引き離された少女はその勢いから大きく吹き飛ぶ。

少女が必死に手を向けてくる様子が、アブソルには何故か非常にゆっくり見えた。

そして次の瞬間、少女が何かとぶつかる鈍い音がアブソルの耳に強く響いた。

アブソルの体を今まで感じたことがない冷たさが襲う。

地面に倒れ、頭から血を流す少女。

アブソルと同じ白い肌と白い髪が特徴的な少女が、ぐったりと倒れている姿だった。

少女がアブソルへと手を伸ばす。

だが伸ばされたその手は小さなトスという音と共に地に落ちる。

赤い液体が流れる顔、いつも笑顔を浮かべてていた筈のその顔が、苦悶の表情を浮かべ目蓋を閉じている。

そんな少女を見て気にすることもない様子の顔をする男を見たアブソルは─────。

 

「ルァ……ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ア゙ア゙ッ!!」

 

「な、なんだっ!?」

 

アブソルを眩い光が、繭のように覆う。

繭の光がビキビキと音を立ててひび割れていき、大きな音と共に光で出来た繭が割れる。

そして繭の中から姿を表したアブソルの姿に、男は驚きながらも、嬉しそうにニタリと笑みを浮かべる。

 

「し、進化したのか?ククッ最高だなコイツは!このポケモンを連れ帰ればサカキ様もきっとお喜びになる───」

 

瞬間、生まれて始めて感じた大きな敵意と殺意に呑まれたアブソルは自身の身に起きた事に違和感を感じることもせず、ただ目の前の男へと迫るため足に力を込め、地面を蹴る。

瞬間、アブソルの体と振り上げた爪が男の真横を通り抜けアブソルの爪が振り抜かれた大地が大きく没落する。

男は自身が襲われた事に驚きながらも、アブソルのその強さにますます興奮する。

 

「この素早さに力、最高だ。このポケモンを捕まえれば俺は幹部にっ!」

 

アブソルは自身の体が以前とは違う自身の早さ、そして力に戸惑っていた。

今まで少女とポケモンバトルの練習と称して行っていた指示で動いていた時の動きとはまるで違う、身体のスピード。

身体中で蠢く、今まで感じたこともないエネルギーの本流に体が蝕まれる。

何度も、何度も男へ向けて腕を振り上げ走ってもアブソルは変化した体に振り回される。

少女を傷付けた、目の前の男一人すら傷付けることが叶わない歯痒さ。

自身の無力感、全てがアブソルの怒りを加速していく。

だが、アブソルの体は未知の姿に慣れておらずアブソルの体の動きが鈍っていく。

そして、ついに限界がきたのかアブソルはその動きを止めた。

 

戻らないでくれ、まだアイツに攻撃を当てることすら出来てない。

 

少女を傷付けたアイツに、何も出来ないままなんてそんなの、許せない。

 

「こんな珍しいポケモン、絶対に連れて───」

 

そのときだった、その場に存在しない新たな人間の声がした。

 

()()()()()

 

瞬間、男の腹部に瞬く間に一筋の光がぶつかり男を吹き飛ばしそのまま昏倒させた。

現れたのは、黄色くギザギザとした尻尾を持つアブソルより小さなポケモンだった。

そして走ってくる赤い帽子を被った少年に対して、アブソルは残った力を振り絞り意識が消えそうな、残っていない僅かな力で、アブソルは少年を睨みながら倒れている少女の元へと向かう。

覚束ない4本の足でアブソルは、一歩また一歩と少女の元に向かう。

 

「………」

 

その様子に赤い帽子を被った少年は、黙ったままアブソルの動きを見守る。

だがただ見ているだけ出なく、少年の相棒であるポケモンとアイコンタクトを交わし、アブソルが少女に対してどのような行動を取るのか警戒していた。

荒く呼吸しながら少女の元へと向かうアブソルの体が、淡い光を放ちながら黒い体毛が変化していく。

黒く、鉤爪のような翼を持つ姿から元の白いアブソルへ。

元の姿に戻ったアブソルは倒れた少女と少年の間に立つようにして少年を睨み付ける。

まるで倒れている少女を、守るように。

だが、アブソルの体は先程の姿の変化に身体のエネルギーが全て使われほとんど残っていなかった。

故に、アブソルがその鋭い瞳を目蓋で覆いバタりと倒れた。

 

「っ!?」

 

「ピカァ!?」

 

その後、男は少年によってジュンサーへと引き渡され、少女は近くにある町の集中治療室へ。

アブソルもまた病院の近くにあるポケモンセンターへと送られた。

少女の母親と父親は、即座に病院へと駆け付けた頃には手術が無事に完了し少女は無事、頭についた大きな傷の治療を終えた。

ジュンサーさんと赤い帽子の少年から少女がどういった事件に巻き込まれたのか知り、母親は少女の額の傷に涙を流し、父親は拳を強く握り少女を怪我させた男への怒りを押さえ込む。

入院室に眠る少女の目覚めを願う両親の祈りを嘲笑うように、少女の意識は戻らなかった。

 

更に少女は高熱を出したのだ。

 

手術後の高熱は、少女の命を奪うのに十分な物だった。

 

深夜、高熱により少女のバイタルは低下し、もうダメかと思われた瞬間。

少女のバイタルが大きく変化した。

死ではなく、生へと。

 

そうして死を乗り越えた少女は次の日、目を覚ました。

ベッドから体を起こした少女は、窓の外から聞き慣れない鳴き声が聞こえぼんやりと窓を見つめる。

外に生えた木の枝に留まっていた一匹の鳥ポケモン、ポッポを見た少女は口をポカーンと開けた後、呟いた。

 

「うそ…………もしかして、フラグだった?」






ご愛読ありがとうございます。

本作品は以前に書いていたポケモン作品のリメイク作品となっています。元作品は非公開に致しました。

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