BRAVE STEP ―小さなお菓子屋さんを夢見て― 作:クレナイハルハ
開会式から数日、テントの中で目を覚ました私は軽く伸びをしてからモソモソと寝袋から這い出てテントの入り口を開ける。
「ふぁ~あ、おはようございますー………」
私は今、エンジンシティの入り口近くのワイルドエリアにてキャンプし過ごしていた。
あぁ、朝の日差しがゆっくりと昇って────いや降りていく。
「うん、夕方……」
そう思いながら、何故こうなったのかを考える。
開会式が終わり早々にメンタルが限界となった私は、次の日の朝にホテルスボーミインをチェックアウトし、この後に起こるであろうイベントを思い出した。
ゲームで言う次に向かうジムのある町、ターフタウン。草タイプのジムリーダーであるヤローさんの最初のジムへの道のりをビートが通せんぼして、邪魔をしているのだ。
ゲームでは主人公がビートを倒すことで、ようやく通れるようになる。
いつユウリとビートが戦うのか分からないし、ビートがいる場所へユウリが辿り着くであろう時間やバトルする時間などを考えた私は、ビートが退いて通れるであろう時まで、ワイルドエリアでキャンプして過ごす事にしたのだ。
そうしてビートが退くまでの間は、という理由で好きな時に寝てごはんを食べる。
そんなキャンプ生活を続けていた結果、私の生活リズムは狂いに狂ったのである。
バトルもせず、ポケモンと一緒に木の実を拾ったり、野生のポケモン達を眺めたり、家から持ってきたポケモンの食べられる料理について書かれた本に目を通したりと、ひたすらのんびりと1日を過ごしてしまっていた。
「そろそろ、大丈夫だよね……」
夕飯を作るための鍋や食材を取り出しながら、そんなことを呟いた。
流石にもうユウリもビートとのポケモンバトルに勝って、ターフタウンに着いている頃だろう。
そう予測しながら、スマホロトムのナビを使いターフタウンへと向かう予定を立てる。
スマホロトムの計算だと明日の朝から買い物も含めてお昼までには到着できるみたいだし、今日は早く寝ないとね。
そう思い意気込む私を、いつの間にかボールから出ていたグレイシアがジト目で見つめ。
アブソルはなんだいつも通りかと伏せて目を閉じた。
朝、グレイシアにしばかれてようやく起きた私は、二度寝の魅力に負けずテントを片付け、ワイルドエリアからエンジンシティに戻って来ていた。
久しぶりに沢山の人がいる場所にいる気がする……。
行き交う人たちを遠巻きに眺めながら、出来るだけ道の端っこを通るようにして無くなってきていた食料を買い足す。
「オレンの実とポケモンフーズは買った……後は──」
スマホロトムのメモアプリで買った物と必要な物について確認していると、メッセージアプリのアイコンに数字が表示された。
早速スマホロトムを確認する。
ユウリからのメッセージで、この後に初のジムチャレンジをするらしい。
今からターフタウンに行けばジムチャレンジの時間には間に合いそうだ。
応援するって、約束したしね。
──────────────────────
〔ユウリ〕
『今日、午後からターフタウンでジムチャレンジするんだ!これたら見に来てよ!!』
〔シアン〕
『今からターフタウンに向かうよ、たぶんジムチャレンジに間に合うと思う。応援してるから、ジムチャレンジ頑張ってね』
──────────────────────
スマホロトムでそう返事を返しエンジンシティの橋へ向かう。
大きな橋だからか、揺れることはないが橋から下を覗き込むような勇気はない。
橋を抜けて、三番道路からガラル鉱山に入る。
ここから先は何故か脇の道とか沢山あって複雑な道のりだ。
まあ、ゲームだと道なりにまっすぐ進むだけなんだけど目の前に広がるガラル鉱山はゲームでなく現実。
もし事故が起きたり、迷ったりとか嫌なのでゲームの知識を信じつつ以前にみた地図を見た通り、道なりに真っ直ぐ進む。
スマホロトムで調べた限りだと脇道にさえそれなければ迷うことはないらしいから。
「それにしても」
ゲームでも少し暗い鉱山を壁からはみ出ている鉱石が、キラキラと輝いていて凄く幻想的だ。
スマホロトムで風景の写真をいくつか撮る。
こういう写真も後々の旅の思い出になる、元から負けるつもりの旅なのだ。
少しでも楽しんで行かないとね。
自分以外に人がいなくて、暗い場所。
何故か、こんな場所で落ち着くことが出来てしまうのは何故だろう。
不思議な感覚に戸惑いつつもガラル鉱山を進んでいくとやがて出口と思われる場所が見えた。
洞窟を出ると外には沢山の岩があり、沢山の草むらが生えた通路、四番道路が広がっていた。
少し先にはターフタウンのジムとスタジアムが見える。
そういえば、ここってゲームだとみんな大好きであろうピカチュウやイーブイが出現する場所だ。
しかし、私はこれ以上手持ちのポケモンを増やさないつもりだ。
グレイシアとアブソル、そしてもう一匹。
ゲームみたいに沢山捕まえても、私じゃ面倒なんて見れないし三匹で丁度良いかな。
「ふふ、イーブイとかイーブイの色違いを捕まえる為にここで引きこもった人が沢山いたんだよね」
剣と盾によって、ポケモンの出現確率が大きく変化していて、ソードを選んだ私はイーブイを捕まえる為に沢山の時間を使ったっけ?
さて、ジムチャレンジの応援に行くって約束もしたし早めに移動しよう。
そう思いながら四番道路を歩きターフタウンへと向かう。
見ればディグダが地面から出ていたり、イーブイやピカチュウの着ぐるみを着たポケモンごっこの子どもが、草むらでイーブイやピカチュウと遊んでいたり、ラクライが岩の上で眠っているのが見えた。
そんな穏やかな光景の広がっている道のりを進んでいくと、やがてポケモンセンターが見えた。
「ここが、ターフタウン」
ガラル地方中部に位置する小さな町。
すり鉢状の窪地の地形になっていて、低地になっている所にターフスタジアムがある。
町の各所には石碑が立っていて、ゲームではお宝が隠されていたんだっけ?
そして西の方にはネット上で、様々な考察が行われたブラックナイトの地上絵がある。
「せっかくだし、ちょっとくらい良いよね……」
スマホロトムで時計を確認するとまだ10時を少し過ぎたぐらいだった。
ユウリのジムチャレンジは午後から、それなら時間的にも問題はない。
さっそく奥にある地上絵を見に向かう、遠目でも分かる程にゲームで見た物と同じ地上絵が広がっている。
大きな何かの存在と渦らしきもの。
────ブラックナイト。
それは3000年前のガラル地方で発生したと伝えられている大災害。
黒い渦が発生し、巨大化したポケモンが暴れたことでガラル地方を滅ぼしかけたとされる物。
そしてその災害は
だがこの英雄の存在は嘘であり、今のガラル地方には伝えられていない伝説ポケモンである『ザシアン』と『ザマゼンタ』そして二人の人間によって鎮められた。
それは過去に自身の立場が危ういと考えた貴族により事実を隠蔽、改竄されたからだ。
そんな改竄された事実が、ベンチの近くに置かれたブラックナイトについて記述している閲覧板に記されている。
「やっぱり、隠されてるんだね」
以前にホテルスボミーインに置かれた剣と盾を持った像を見たときと同じように呟いてしまう。
その時、風が吹いて黒いキャスケットからはみ出た後ろ髪が風で揺れた。
でも仕方ないのだ。
それが人間と言う生き物の黒い部分。
どんな人でも必ず、そんな黒い部分を持っている。
必ず誰しも、そんな黒いところを抱えて生きている。
探せば、アニメの主人公、サトシのように純粋にポケモンを愛する者もいるかもしれない。
そんな存在、人たちこそが光なのだろう。
でもこの世界にはポケモンハンターのように自分の欲を満たそうとする者達が当たり前のようにいる。
そんな人たちはきっと闇なのだろう。
光が強くなる分、生まれた闇は深く大きくなっていく。
何か、変なことを考えちゃったな。
そろそろ戻ろう。
そう思いながら地上絵を後にしようとして踵を返した。
「あら?君って確かホップとユウリの友達の」
地上絵の見れる場所、私を見て少し驚いた様子の女性がいた。
髪はサイドテールにしていて、全体的に明るい色の服を着ている、服装からして私とは真逆のタイプだと感じる。
そんな彼女は、ポケモン剣盾の博士の助手をしているソニアさんだ。
後に、ガラル地方に伝わる伝承を解き明かし本編クリア後には正しいガラルの歴史についての本を執筆する人。
「あの、貴方は?」
「初めまして、私はソニア。確か貴方はユウリとホップの話していた友達?確かシアン……で、合ってるかしら?」
「は、はい。そう、です。」
頬を掻きながら少し不安そうに話すソニアさんの言葉に頷いて返すと、ソニアさんは安堵したようすで息を吐くと微笑んだ。
「ふふ、ユウリの言ってた通りの子ね。ところで」
ちょっと待って、ユウリの言ってた通りって何?
私知らないよ?
私、ソニアさんにどんな人だと思われてるの???
「ユウリ達にも聞いたんだけど、あの地上絵。何だと思う?」
「その、ダイマックスしたポケモン、でしょうか?すいません、あの……引っ越してきたのが最近なので、まだあまり詳しくなくて」
「いいのよ、引っ越したてなら仕方ないし。さて、じゃあせっかくだしお姉さんがブラックナイトについて少しだけ教えて上げる!」
そう言って私には笑いかけながらソニアさんはブラックナイトの説明をしてくれた。
「───それで、そのブラックナイトを鎮めた英雄がホテルスボーミインに置いてある像なの」
やっぱり、そう言う風に伝わってるんだね。
「でも、私はこのブラックナイトについて違和感を感じるの。何か、大事な事が抜けてるんじゃないかって……確かシアンは別の地方に住んでたんだよね?なんか思ったこととか無い?」
うーん、ザシアンやザマゼンタについて知っているような発言をするのは変だし。
なんだったら他の地方と比べて思ったことをそのまま言ってしまえば、良いのかな?
ザシアンとザマゼンタに触れないように頭の中
で文章をつくり、口を開いた。
「えっと、その………ソニアさんは伝説のポケモンや幻のポケモンって信じてますか?」
「伝説ポケモンに幻ポケモン、か。とかそう言うのは聞いたことがあるし、伝説ポケモンもまぁ、知ってるけど。いるんじゃない?」
「その、違和感があるんです」
「違和感?」
「私は両親の仕事の関係で引っ越してガラルに来ました。でも、それより前にお母さんと良くいろんな地方には行ってました。そのどの地方にも必ず、伝説のポケモンや幻のポケモンが伝承に残されてるんです」
「なるほど、例えば?」
「か、カントー地方なら氷を操る『フリーザー』、雷を操る『サンダー』、最後が、火の鳥伝説の『ファイヤー』とか」
「ふむふむ」
「ホウエン地方ならを海を作ったとして神話に出てくる『カイオーガ』。陸を生み出した『グラードン』、そしてその2匹の争いを治めた何億年もオゾン層の中で生き続けていると言われているポケモン『レックウザ』とか、シンオウ地方なら感謝ポケモンの、シェイミとか………」
「なるほどね、それでシアンが感じた違和感ってのは?」
「は、はい。どの地方にも伝説ポケモンやそれらに近い幻のポケモンの伝承が残されているんです。でもガラル地方では伝説ポケモンに関する伝承が何もないのは、流石に可笑しいかなって……それに、何処か人間の英雄を強調してるような感じが………」
「なるほど、ガラル地方にはいない伝説のポケモンや幻のポケモンの伝承か………ありがとう!凄く貴重な意見だったよ!」
私なんかの言葉をメモすると、ソニアさんは嬉しそうにメモ帳をパチリと閉じて笑った。
「そういえばね……私、変な文献を見つけたの」
そう言いながらソニアさんが取り出したのは、見るからに古いと感じる本だった。
タイトルも擦れに擦れて、ギリギリ読めそうで読めないラインの何か。
「手に入れた場所が場所だから、正直怪しいんだけどね?恐らくブラックナイトを鎮めた英雄が存在した時代に記されたものみたいなの。ブラックナイトっぽい記述もあってね」
そんなの、原作には……いや原作で描写されなかっただけで資料にはそんなものもあった筈だろうし。
「ほとんど掠れて読めなかったんだけど、読み取れた所もあるんだ。凄く断片的になっちゃうんだけどさ、『祈り』『変化』『光』単語だとこれくらいかな。あと唯一読めた文はこう書かれてたの…『白き獣、祈りに応え、光を纏いて姿を変えん』って」
「……え?」
思わず、声が漏れた。
なに、それ?
知らない、聞いたことがない。
「これね、たぶんだけど“詩”として扱われてる文献なの。昔の人って、事実をそのまま書くんじゃなくて、こういう風に曖昧に残すことがあるのよ」
そう言いながら、ソニアさんは指で先ほどの一文が記されているのであろう一行をなぞる。
こんなの、ゲームに無かった。
意味が分からない。
どうして?なんで?
「恐らく、ブラックナイトが起きたこと関連の詩かなって思ってるの。もちろん、確証はないわよ?」
くすっと笑いながら、ソニアさんは肩をすくめる。
「ただの詩かもしれないし、誰かの創作かもしれない。でもね?これを読み解いた時、ブラックナイトに関する何かが分かるとしたら……隠された真実が、もしあったとしたら」
静かに、でも楽しそうにソニアさんは笑った。
「ちょっとロマンあると思わない?これを解き明かすのが、今の私の仕事!貴重な意見も聞けたし……そうだ!今度さ、何か研究で行き詰まったら、また意見聞いても良い?」
「うぇ!?は、はい!?」
「いいの!ありがとう!あなた色んな地方のことを知ってるみたいだし色々と興味深い話が聞けそうで嬉しいわ!」
うぅ、驚いた言葉がそのまま了承したという事で伝わってしまった。
私の知ってることなんて前世に見たポケモン都市伝説まとめ動画程度の知識しかないよぉ……。
そんな訳で私はソニアさんともメッセージアプリで連絡先を交換することになってしまった。
「じゃあね、シアンちゃん。ジムチャレンジ頑張って!貴方ならきっとファイナルまで進めるわよ」
「アハハ…その、が、頑張りますぅ」
そう言いながら手を振って去っていくソニアさんに小さく手を振り返す。
私、原作壊すような発言してないと良いんだけど。
あと元々、ジムチャレンジに負けるために旅している私にとってソニアさんの応援は少しだけ、罪悪感を感じる。
負けるつもりなのに、頑張っていると思われて応援までされている。
その期待に添えない現実が、事実が少しだけ胸を苦しくした。
そして気になるのは、最後にソニアさんが取り出した本に載っていた内容だ。
あんなもの、原作には無かった。
ブラックナイトが起きた時代で、英雄でもブラックナイトでもない何かを記したもの。
私が転生する前も、ポケモンの世界の過去はかなり謎が秘められ分かっていない事も多かった。
だからこそ、その内容に少しだけ後ろ髪を引かれながらふと時計を見る。
まだ、ジムチャレンジの時間までは余裕があるしお昼でも、食べながらゆっくりと……?
突如としてスマホロトムがポケットから飛び出してきた。
画面を見るとユウリからのメッセージだった。
──────────────────────
〔ユウリ〕
『今日、午後からジムチャレンジする予定だったんだけど、お昼からになりそう。前の人が体調を崩したみたい。あと三十分したら私の番みたい!』
──────────────────────
あと三十分でユウリのジムチャレンジが始まる事を知らせるユウリからのメッセージだった。
「うぇ!?急がないと!?」
席の確保等を考えた私は大急ぎでターフジムのスタジアムへと走った。
ご愛読ありがとうございます。
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