BRAVE STEP ―小さなお菓子屋さんを夢見て―   作:クレナイハルハ

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STEP12─一歩だけ、前へ─

ターフスタジアムの盛り上がりは、最高潮となっていた。

 

「行っけーラビフット!ニトロチャージ!!」

 

ユウリの力強い声と共に、ダイマックスしたユウリのラビフットの一撃が、ターフタウンのジムリーダー。

麦わら帽子を被った男性、ヤローさんのダイマックスしたポケモン、ワタシラガを打ち倒した。

瞬間、スタジアムは地鳴りのような歓声と拍手に包まれた。

そんな観客と同じように拍手をしながら、ユウリが観客席へと手を振り、ヤローさんと握手するのを眺めていた。

やっぱり、ユウリは主人公だ。

ジムチャレンジを終えヤローさんと握手する姿を見てそう感じた。

沢山の観客が見守る中で緊張せず、プレッシャーを気にする様子もなくポケモンバトルをするその姿。

ゲームで見ていた以上の衝撃と感動が私を襲う。

 

「やっぱり、凄いなぁ」

 

そう呟きながら私は、ジムチャレンジが終わった熱気に包まれたスタジアムを後にする。 

こういうイベントは早めに会場から出ておかないと、人混みの波に呑まれてしまうだろうし。

スタジアムを出た瞬間、スマホロトムに通知があり確認するとユウリからのメッセージだった。

──────────────────────

〔ユウリ〕

『ねぇ!ねぇ!シアン!見てくれた?私の初ジムチャレンジ!スッゴかったよ!』

 

                 〔シアン〕

『うん、見てたよ。ジムチャレンジお疲れ様。くさバッジゲットおめでとう』

 

〔ユウリ〕

『エヘヘ(〃⌒ー⌒〃)ゞ、ありがとー!

シアンもジム戦頑張って!ファイトだよ!!』

 

〔シアンも〕

『うん、頑張るよ』

──────────────────────

 

メッセージを見て、チクリ。

また、罪悪感で胸の奥がチクリと痛んだ気がした。

 

「私が応援される資格なんて、ないのに」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜、ポケモンセンターに泊まることにした私は宿泊部屋に寝転び、休んでいた。

ユウリのジムバトルを見た帰りに私は、明日にジムチャレンジを申し込んできた。

まずは、一つでも良いからバッジを得ること。

せめて二つくらいはバッジを取らないと、最初から負ける気で参加しているのがバレてしまう。

溜め息を着きながら、椅子に深く腰かけて前世での記憶を掘り返す。

ジムリーダーのヤロー。

ターフタウンのジムリーダーで、草ポケモンの使い手。

ゲームではジムチャレンジでの手持ちはヒメンカとワタシラガ、トーナメントでは追加で数体のポケモンが入るが今日のユウリのジム戦を見た限り、間違いなくこの二匹で来るのだろう。

ゲームで最初のジム戦相手であり、ジムチャレンジャーの登竜門とも言えるジムとはいえゲームではそれなりに高いレベルのポケモンを繰り出してきたのだ。

 

「草ポケモンのジム………多分、一番頑張って貰うかも」

 

そう呟きながらグレイシアのモンスターボールを撫でる。

草タイプにはグレイシア持つ氷タイプの技が効果抜群だから、有利になる筈だ。

でも、これはゲームではなく現実だ。

ポケモンバトルでゲームのように6タテ等、1体のポケモンで相手のポケモンを全て倒す事が出来るのは一部のトレーナーだけだ。

実際にそれを行おうと頑張っても、ポケモンが連戦による疲労やダメージの蓄積で戦えなくなることだってある筈だ。

でも、今回の相手は二匹。

グレイシアだけでも充分に勝てる可能性がある。

 

「お願いね……」

 

モンスターボールがカタリと揺れる。

どこか、グレイシアが『任せて』と答えてくれたようにな気がした。

それと同時に、『勝ったらスイーツ一品追加ね』という声も聞こえた気がしたが……気のせいだよね?

もし、草バッジだけゲットしてジムチャレンジを終えれば、ローズさんはきっと私の弱さに呆れ手放す選択を取る筈だ。

若干の緊張のなか、ふと窓から空に浮かぶ綺麗な月が見えた。

 

「困ったときの神頼み……宗教に入ってるわけでも無いけど。ルナアーラ様、どうか安全に旅を終えられますように」

 

意味がないかもしれないけど、祈るだけなら大丈夫だよね。

月に向かって両手を重ねて祈る、緊張が少しだけ軽くなった気がした。

明日はジムバトルだし、早く寝よう。

部屋の電気を消してベッドの掛け布団を捲りその中に入る。

はぁ、なんだか……久しぶりに建物の中で眠る気がするなぁ。

これまでのキャンプ暮らしを思い出していると、気配も足音も無かったはずなのに、視界の隅に何かが映った気がした。

見るとそこには、私が以前にケーキをあげたイーブイのなりきり服を着たポケモンごっこの女の子がいた。

 

「ふぇ!?」

 

女の子と、目が合う。

驚き、口から変な声を上げてベッドから体を起こす。

するとポケモンごっこの子は悪戯が成功したのが嬉しいのか声を出さず静かに笑っている。

 

「前の子、だよね?」

 

そう聞くとポケモンごっこの子はコクりと頷いた。

 

「どうしたの?私に何か用?」

 

そう聞くとポケモンごっこの子は私の寝ているベッドを指す。

 

「えっと、ベッドに寝たい?」

 

もしかして宿泊部屋が無くてここに来た、とか?

でもそれならジョーイさんとかが来て、相部屋で良いですか?と説明してくれるだろうし。

そんなことを考えていると、女の子は首を横に振り、私を指差した。

女の子は私とベッドを交互に指差す。

 

「えっと、もしかして……私と一緒に寝たい、とか?」

 

まさかと思いながらそう言うとポケモンごっこの女の子は嬉しそうに頷き、ベッドへと潜り込んで来た。

 

「うぇ!?でも、まぁ大丈夫……なのかな?電気消すよ?」

 

そう言って部屋の電気を消して布団を被る。

もう外は暗く、今からこの子を家に帰すのも危ない時間だ。

それに明日はジムチャレンジだし、早く休みたい。

明日にこの子の親とかに怒られないといいな。

 

そんな事を考えながらポケモンごっこの女の子の頭を撫でながら目蓋を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝、起きると一緒に寝たはずのポケモンごっこの子が居なかった。

私より先に起きて、何処かに行っちゃったのだろうか?

そんなことを頭の片隅で考えつつ、身支度を整えて部屋を出る。

私のジムチャレンジは今日の最初だ。

昨日のユウリのジムバトルの後に受付したからか、かなり早めだ。

朝の時間帯の方が、ジムバトルを見るために誰も来ない。

見に来るとしても午後かお昼からだろうと考えたからこその選択だった。

ポケモンセンターで朝御飯を食べたあと、すぐにターフスタジアムへと向かう。

朝、少し肌寒く感じる風に体を震わせつつ、ターフスタジアムへと向かう。

朝早い時間、あまり人の通りは無いと思っていたけど農家の方が多いこの街だからか畑を耕す人や木の実を収穫する人が多い。

これ、考えてなかったなぁ。

 

そんなことを考えながらターフスタジアムに入る、建物内は風が吹かない事と更には暖房も着いているからか、外より凄く温かく感じた。

この気温が昼頃には丁度よくなるから不思議だ。

 

「あ、あの……ジム戦、お願いします」

 

「はい。ジムチャレンジに挑戦なさるのでしたら、ユニフォームに着替えてからお願いしますね」

 

受付のお姉さんの言葉に従って受付の横にある更衣室に移動しユニフォームに着替える。

私の背番号は少し考えた結果『46』にした。

私の髪は白、アブソルも白だから、背番号を46(しろ)にした。

他に良い数字が思い浮かばなかったのは内緒である。

 

はぁ、緊張してきたぁ……。

 

ドクドクと早く鼓動する心臓の所に手を添えてゆっくりと深呼吸する。

普通に聞こえる程に大きな心臓の音。

落ち着かせようと深呼吸していた時だった、スマホロトムから通知音が鳴る。

スマホロトムを確認するとユウリやホップ、そしてマリィさんと一緒にご飯を食べた時に、ユウリが年も近いジムチャレンジ仲間だからと言う訳で作った三人のメッセージグループだった。

 

──────────────────────

 

〔ユウリ〕

『皆と一緒にスタジアムにいるよ!シアンの事を応援してるからね!』

 

〔ホップ〕

〔シアン、ファイトだぞ!あのアブソルならきっと、勝てる!応援してるぞ!〕

 

〔マリィ〕

『うちもユウリもホップもクリアできたけん、きっとシアンも勝てると』

 

──────────────────────

 

なんでだろう、負けるために挑んでいる筈なのに。

なんだろう、ここのジムには勝ちたいと感じた。

いや、元からこのジムとあと1個ぐらいのジムは勝ちたいと思っている。

ここのジムには勝つ前提で、そうなったら良いと考えているけど、なんだろう。

凄く、胸が温かくなって固くなっていたはずの体が緊張がほどけていくような気がした。

みんなから応援。

こんなの貰ったの、いつぶりかな。

前世を考えても、こういうメッセージを貰ったのは随分前のような気がする。

……勇気貰っちゃったな。

そう思いながら返事のメッセージを入力する。

 

──────────────────────

 

                 〔シアン〕

『みんなありがとう。良かったら応援のお礼に、お菓子作ってみんなにあげるね』

 

──────────────────────

 

そうメッセージを送り、スマホロトムのメッセージアプリを閉じて更衣室を出る。

勇気を出して前へ、1歩だけ進もう。

モンスターボールを固定するベルトを身に付け、深呼吸してから更衣室を出た。

 

 




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