BRAVE STEP ―小さなお菓子屋さんを夢見て― 作:クレナイハルハ
ジムバトル。
それはジムチャレンジに参加するチャレンジャーが、ジムを任せられたジムリーダーが用意したスタジアムの仕掛けである
ジムミッションをクリアすることで、ジムリーダーとポケモンバトルを行うという物。
ターフスタジアムでは、20匹のウールーを奥へ追い込む。
……うん。
気弱で引きこもり気質の私には、地獄だった。
ゲームと現実の違いを再確認させられるほどに。
ウールーに押し返され、ワンパチに追い立てられ、何度も転びそうになりながら。
どうにか私はヤローさんの居るスタジアムまでたどり着く事が出来た。
「やぁ、良く来たねチャレンジャー!僕のジムは最初のジムだから次々と人が来るから、少し厳しめにしてるんだけ、ど………」
そう話すのは麦わら帽子を被り首にはタオルを巻いているマッシブな草タイプのジムリーダー、ヤローさん。
彼は私の様子に段々と声が小さくなっていき、少し戸惑った様子で言葉を切り、明らかに困ったように眉を下げた。
「ぜぇ、ぜぇ……」
それもその筈だ。
普通のチャレンジャーなら、ここで啖呵を切ったりするのだろうが私の口から出るのは息だけだ。
両手を両膝に乗せ荒く肩を上下させ、汗をだらだらと垂らして深呼吸を繰り返している。
そんな、私だ。
これまでろくに運動をしていないし、引きこもり気質な私が走り、ウールーを追い込むなんて事は凄く難しい、主に体力的な意味で。
「良かったら休む?無理しなくても、バトルは休んでからで大丈夫だよ?」
「だいっ、じょぶ……です。お、お構い無く」
少しだけ整ってきた荒い呼吸をゆっくり、深い呼吸に切り替えていく。
よし、あとはポケモンバトルするだけだ。
「そ、そう?それじゃあ始めようか!」
そう言ってヤローさんがボールを構える。
頑張れ私、これはローズ委員長の私への期待を下げ見捨てさせるための1歩。
逃げるためのバトルでも、これは私が選んだ道の、最初の一歩だ。
深呼吸してからベルトに嵌められた一つのモンスターボールへと手を掛ける。
疲労からか、バトルへの苦手意識からか震える指でモンスターボールを外す。
胸元でモンスターボールの中央にあるボタンを押し、縮小されたモンスターボールを通常の大きさに戻す。
そして目を瞑り深呼吸をしてから、コルニ姉さんの言葉を思い出す。
『良いシアン、ポケモンバトルもメガシンカも大切なことは同じ!手持ちのポケモンを信じてあげること!!』
モンスターボールを強く握り、目を開いた。
『これより、ジムリーダーヤローとジムチャレンジャーシアンのポケモンバトルを開始します!』
「いけ!ヒメンカ!!」
ヤローさんがハイパーボールを投げる。
ハイパーボールが開き、スタジアムへ現れたのはヒメンカ。
よし、手持ちはゲームと同じ。
それなら、いける筈だ。
「頑張って、グレイシア」
「レシァー……」
私の投げたモンスターボールからグレイシアが現れる。
グレイシアは早く終わらせる、とでも言いたげな鳴き声をあげる。
不機嫌ではないが、低い鳴き声をあげるグレイシアにヤローさんは驚いた様子を見せる。
よし、タイプ相性的に勝っている。
でも、これは現実。
ゲームとは違う。
アニメのポケモンのように、タイプ相性で勝敗が決定打となることはない。
「うんうん!しっかりタイプ相性を分かってポケモンを出してきた、今年のチャレンジャーは豊作じゃあ!」
「グレイシア、グレイシアにタイミングは任せるよ、ヒメンカの回りを走りながら"マッドショット"!」
「シア!」
バトルが苦手な私はバトルでの瞬時の判断や、明確な指示が苦手だった。
そんな私が見つけた、私なりのポケモンバトル。
それは、技や大体の行動を指示し技を放つタイミング等をポケモンに任せるという物だ。
……本当に、これでいいのか分からない。
でも、それでも私は自分なりのこのポケモンバトルを貫く。
グレイシアを信じて、様子を見るだけ。
「ヒメンカ、相手の様子を良く見て避けるんだ!」
グレイシアが低く駆ける。
そんなグレイシアを身構え見つめるヒメンカ。
そんなヒメンカの回りをグレイシアが周回する。そして、グレイシアの瞳が鋭くなった瞬間、左右へジグザグと走りながらヒメンカへと向かっていく。
そしてヒメンカの1歩手前で勢い良く地面を蹴りあげた。
足先に生成された泥の玉を、地面を蹴り上げるようにして"マッドショット"を放つ。
ヒメンカはグレイシアの様子を観察していたからか、グレイシアの放ったマッドショットが顔に当たる。
「ヒメェ!?」
「ヒメンカ!?」
ビチャりと言う音と共に視界を覆う泥に、ヒメンカは驚きからか、両手で泥が着いた目を覆う。
すると即座にグレイシアは自身の判断で、足に氷のようなエフェクトのような物を纏いながら泥に苦しむヒメンカへと迫る。
ヒメンカが少しだけど可哀想だけど、これがグレイシアの戦い方だ。
マッドショットで目潰しし、驚き反応が遅れる相手へと迫り、凍えた足で回転しながら回転蹴りトリプルアクセルを3連続で叩き込む。
これがグレイシアの経験による戦い方。
正々堂々とした物とは違う、少しグレた感じというか、こういったスタジアムで使うものとしては少しだけ反感を買ってしまいそうなものだ。
「ヒメンカ、"こうそくスピン"!距離を取るんだ!」
「ヒィ、メッ!」
ヤローさんが指示を聞いたヒメンカは、その場で高速で回転し始める。
そんなヒメンカの反応に、グレイシアは即座にトリプルアクセルを中止して体を横へ回転させ地面を転がりヒメンカの横を通りすぎる。
走り距離を取りつつ、私の目の前に戻ってくる。
そしてヒメンカは高速スピンによって、顔についた泥を散らす。
そしてスピンを終えたヒメンカは、若干汚れてはいるがしっかりと両目を開いていた。
「シッ」
そんなヒメンカにグレイシアはまるで舌打ちするように小さな声で短く鳴く。
思い通りに決まらなかったことへの苛立ち。
あるいは、まだ仕留めきれなかった不満か。
「なるほど、これまでのチャレンジャーとは一癖も二癖も違う……これは面白い戦い方じゃ!」
そう言いながら笑う、こうして評価してくれたりポケモンのタイプ相性について言及する様子が、本当に相手がジムリーダーなのだと感じる。
「ヒメンカ、“マジカルリーフ”!」
ヤローのさんの指示に、ヒメンカは自身の周囲に複数の光る葉を産み出し旋回させる。
そして旋回する大量の葉を渦巻く奔流となり、グレイシアへと迫ってくる。
瞬間、私は次に何の技を指示すべきか分からなくなった。
目の前にある木の葉の嵐、前世で考えたならあり得ない今世では当たり前の風景。
コルニ姉さんとのバトルの練習経験はある。
でも、どう次の指示をどう飛ばすのか。
グレイシアの技構成はなんだったのか、頭が真っ白になり分からない。
そんな時だった、グレイシアが姿勢を低くし木の葉へ1歩踏み込む。
「グレイシア!?」
するとグレイシアの体を、虹色の光が全身を包み混む。
そんなグレイシアへとマジカルリーフが触れた、次の瞬間より大きくなった木の葉の嵐が、グレイシアからヒメンカへと向かっていく。
「あ、ミラーコート……」
頭に浮かんだのはグレイシアの持つ技の一つ、ミラーコートだった。
ミラーコート、相手の特殊技を体で受け止めてから強化して跳ね返す技。
グレイシアがミラーコートを使ってマジカルリーフを反射したことに、今さらになって気付いた。
「ヒッヒメェ~!?」
ヒメンカは強化し反射された木の葉の嵐に体を捕らわれ、空中に投げ出された。
ヒメンカが地面に落下し、スタジアムに土煙が舞い上がる。
「ヒメンカっ!」
土煙が晴れたとき、目を回したヒメンカが倒れている姿が見えた。
『ヒメンカ、戦闘不能!』
「ヒメンカ良く頑張った、ありがとう。とても珍しい戦い方じゃ、トレーナーが導くのではなく、ポケモンに委ねる」
審判の放送を聞いたヤローさんがヒメンカをボールに戻すと新たなボールを取り出す。
「じゃが、それでも勝ち上がるには“越えねばならん壁”がある。ジムリーダーとして、チャレンジャーの最初の壁として。ぼく達は粘る!」
ゲーム通りならこの後に彼が起こす行動は……。
「ウォオオオ!農業は粘り腰なんじゃあ!!いけ、ワタシラガ!!」
気合いをいれるように叫んだヤローさんの繰り出したポケモンはワタシラガ。
引き続きグレイシアがタイプ相性では有利だ。
でも、ダイマックスでどう変わってくるか分からない。
「ダイマックスだ!根こそぎ刈り取ってやる!!」
そう言ってヤローさんがハイパーボールを構えるとワタシラガがボールに戻り、ヤローさんのダイマックスバンドから出てきた光でハイパーボールが巨大化する。
ヤローさんは巨大化したハイパーボールを少し撫でると後ろへと放り投げた。
すると、スタジアムの天井近くまでワタシラガが大きく巨大化していく。
ゲームの通りやっぱり、ダイマックスを使って来る。
「ワタシラガ、“ダイソウゲン”!!」
地面が盛り上がり、芝生が一瞬で森のように膨れ上がる。
逃げ場を塞ぐように広がる草の波。
ただの技じゃない、“フィールドそのものが敵になる”感覚。
スタジアムが草や木により侵食され、グレイシアへと向かっていく。
グレイシアもダイマックスしたポケモンを相手にするのは初めてなのか、目を見開いて固まっているのが見えた。
『シアン、ポケモンバトルの基本はポケモンとトレーナーが互いに信頼し合うことだよ。最初に話した事と同じ、信じることだよ!!』
コルニ姉さんの言葉を思いだし、私は胸に添えていた手でユニフォームを握りしめる。
大切なのは、手持ちのポケモンを……グレイシアを信じること。
私が信じなきゃ、グレイシアも私を信じない。
「グレイシア!回避は自身のタイミングでお願い!」
「シァッ!?」
私の声にグレイシアのは人間で例えるなら『ハァ!?』といった表情でギョッと擬音が付きそうな早さで振り返る。
「大丈夫、さっきの"こうそくスピン"を避けたときみたいにやればきっと大丈夫。私、グレイシアなら出来るって、信じてるから!」
私に出来るのは、グレイシアを信じて託すこと。
信じているという言葉を、グレイシアに届けること。
するとグレイシアは少しため息を着いた。
……本当に、仕方ない。
そう言いたげに、ほんの僅かに目を細める。
そしてダイソウゲンが迫るなか、まるで仕方ないなぁと言いたげな表情を浮かべた。
「か、勝ったら好きなおやつ好きなだけ作るから!」
────一瞬。
戦場の空気が、止まった。
「シ」
私の言葉にグレイシアは先程もより遥かに早い早さで振り向くと笑顔でも怒りでもない。
無表情のまま、ただじっと此方を見つめてくる。
まるで、嘘なら許さないというような顔だ。
「つ、作るよ!ちゃんと作るから!」
するとグレイシアは先程もヒメンカと対峙した時以上に目を鋭くさせ、まるで親の敵を見るような目でワタシラガを睨みだした。
その瞬間。
ダイマックスし、圧倒的な体躯を持つはずのワタシラガが、わずかに、後ずさった。
「……ワタシラガ?」
ヤローの声に、僅かな驚きが混じる。
ダイソウゲンが迫ってくるなか、グレイシアは僅かに後方へ後退りした瞬間、その場から消えた。
グレイシアが大地を蹴り、勢い良く地面から競り上がってくる木々やキノコを踏みつける。
一歩、二歩、三歩と。
不安定な足場をものともせず、一直線に空へと駆け上がる。
「なっ……空を――!?」
ヤローの驚きの声が響く。
その視線の先、ワタシラガのさらに上。
ダイソウゲンが届かない遥かに空へ飛び上がったグレイシアは重力すら踏み台にするように、体を反転させた。
縦に体を回転させる、そして回転するグレイシアの氷を纏う脚部。
とてつもない低温から、白い煙が上がるなかグレイシアは勢い良くダイマックスしたワタシラガへと落ちていく。
「シアァッ!!」
振り下ろされる、氷を纏った踵。
───────一撃。
空気が裂ける、だが終わらない。
蹴り着けた時の勢いでさらに跳躍したグレイシアが先程同様に体を回転させワタシラガへと落ちる。
───────二撃。
ダイマックスし、巨大化したワタシラガの巨体が揺れる。
だが、終わらない。
先程同様にグレイシアがワタシラガを蹴り着けた勢いでもう一度、跳躍したグレイシアが先程同様に体を回転させワタシラガへ迫る。
「――っ、耐えろワタシラガ!」
───────三撃。
叩きつけるように、ダイマックスしたワタシラガの真上から振り下ろされる“トリプルアクセル”。
轟音。
巨体が、地面へと叩き落とされる。
スタジアム全体が揺れ、土煙が舞い上がった。
「……決まった、の?」
思わず、零れた声。
ここでこんな発言をすれば、間違いなく相手がまだ立ち上がれるフラグだ。
でも、それを気にする余裕はなかった。
心臓の音が聞こえる程に鼓動しているのを感じる
やがて、煙が晴れる。
スタジアムに出来た巨大なクレーター、その中央にいたのはダイマックスが解除され目を回して動けなくなった、ワタシラガ。
そしてそんなワタシラガを踏みつけているグレイシアだった。
『ワタシラガ、戦闘不能!よって勝者、チャレンジャー・シアン!』
「……え」
しばらく、誰も声を出せなかった。
勝っ、た?勝った、はず。
指示なんて、ほとんど出していない。
グレイシアに任せるただ、信じるって言っただけで――
気がつけば、終わっていた。
グレイシア使ったあの技、多分だけど“トリプルアクセル”だ。
私のグレイシアが技は『トリプルアクセル』『マッドショット』『ミラーコート』『フリーズドライ』の四つ。
捕まえた時から、この技構成だった筈だし特に訓練していた訳でもない。
家では私の作ったおやつを食べ、満足した様子で昼寝していたグレイシアから放たれたとは思えないほどに、その威力が高過ぎる。
いくら3回連続で攻撃する毎に威力が上がる技なのだとしても、こおりタイプの技でタイプ相性に有利だったとしても。
威力が高すぎるのだと、そう感じて仕方がない。
そういえば、この子が居た場所の主のような存在だったような。
「まさか、“ダイソウゲン”をあんな形で防がれるとは思わなかったよ」
そんな声が聞こえ、見ればヒメンカをボールに戻しながら此方へと歩いてくるヤローさんがいた。
「ぇ……は、はい」
「ポケモンを信頼し、全てを委ねる。とても珍しい戦い方でビックリしたんだな!」
そう言いながら笑い駆けてくる、そんなヤローさんの言葉になんとか返事を返す。
「さて、ジムチャレンジャーにはジムチャレンジで勝った証として、このくさバッジをお渡しするんだな!」
そう言ってヤローさんから差し出されたジムバッジを恐る恐る受け取る。
じ、ジムバッジゲットだぜ!なんちゃって。
そんな事を考えていると、とてとてと軽い足音が近づいてきた。
「……?」
振り向けば、そこにはさっきまでダイマックスしていたポケモンと戦っていたとは思えないほど、
いつも通りの顔をしたグレイシアがいた。
「シァ♪」
軽やかにステップを踏みながら、機嫌良さそうにこちらへ歩いてくる。
その仕草と表情はまるで『はい、約束通りおやつね』そう言っているかのようで。
「……あ」
さっきの会話を思い出して、思わず苦笑いしてしまう。
「……作るね、美味しいおやつ。マカロン、で良いかな?」
「シッ♪」
満足げに頷くグレイシア。
さっきのバトルでの激闘は、一体なんだったんだろう。
「えっと、その……ヤローさん。ジム戦、ありがとうございました」
「此方こそ!凄く驚いたバトルだったんだな!」
そう言ってヤローさんと握手する、すると会場に沢山の人の拍手と歓声が響き渡った。
少し耳がキーンとするけど、あんまり嫌な感じはしないかな。
こうして私にとって初めてのジム戦を勝利で終えることが出来たのだった。
ご愛読ありがとうございました
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