BRAVE STEP ―小さなお菓子屋さんを夢見て―   作:クレナイハルハ

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STEP15─期待の重み─

 

あれから、ユウリ達には用事があると話してバウタウンへと向かう時間をずらした。

だからか、主人公が自転車を貰えるイベントが発生するエール団とは会わなくてすんだ。

そのおかげか、バウタウンへすんなり向かう事が出来た。

水中も走れる自転車は正直羨ましいけど、引きこもり気味の私には自転車を漕ぐと数分で体力がなくなり足がプルプルと震えて動けなくなる未来が見えた。

アハハ、やっぱり少し運動した方が良いかな?

そう思いながらチラーミィやソーナンスが見える5番道路を歩く。

道沿いに5番道路を歩いていると、潮の匂いが風に乗って香ってきた。

きっとバウタウンがすぐ近くまで迫っているのだろう。

もう一踏ん張りかなと意気込み、歩くのを再開する。5番道路を抜けると、やがて海と赤い屋根のポケモンセンターが見えた。

バウタウン。

ガラル地方中東部にある港町でレストランやお香、漢方薬を売る店のある市場がある。

まずポケモンセンターへ入ろう。

バトルをしていないとはいえ、念のため回復して貰った方が良い。

そう思いながらポケモンセンターへ入ろうとした時だ、少し先に見えた白い帽子にジャージ?を着た男性を囲むように町の人達が話しているのが見えた。

 

……違う、よね?気のせいだよね?

 

ゲームだと、イベントでオフのローズさんとビートさん、オリーヴさんと主人公であるユウリが出会うシーンがある。

あり得ない、ちゃんと数日は時間をずらした筈。

そうだ、目の前の光景は現実だ。

ゲームのような定まっていない、予想外な事がいくつも起こるような現実。

時間をずらしたからと安心していた。

会わないだろう、大丈夫だろうと慢心していた。あの人……ローズさんは私に気付いていないように見える。

心臓が激しくドキドキと鼓動する。

思わず片手を胸元に当てて呼吸を繰り返す。

冷や汗が流れ止まらない。

バレてない筈だ、私が負けるためのジムチャレンジをしていることは、バレていない筈だ。

 

「あの、大丈夫ですか?」

 

女性だろうか、そんな声が近くで聞こえた。

でも動揺した私には周囲を見る余裕なんてなかった。

苦しい、何でか息がうまく吸えない。

 

「ポケモンセンターに入りましょう。付き添います」

 

誰かが私の体を支えるように抱いて、私の震える空いている方の手を握る。

震える体を動かして頷きポケモンセンターへと向かおうと足を踏み出したその時だった、ローズ委員長が振り返る。

 

目が、合った。

 

──逃げなきゃ。

 

そう思ったのに、体が動かない。

 

視線が絡みつくみたいに、離れない。

 

「……………」

 

そして、あの人の口が開いた。

 

『君には、期待しているよ』

 

聞こえはしなかった。

私の勝手な想像かもしれない。

そう思い込んでいるのかもしれない。

でも口の動きがそう言っている様に見えた。

体から力が抜けていく。

逃げられるのか、本当に私は。

 

「ポケモンセンターに入りましょう。付き添います」

 

落ち着いた、低い声が聞こえた。

焦りも、慌てもない。

ただ事実だけを告げるような声。

私は、私を支えるように抱き手を握ってくれた人の先導でポケモンセンターへと入っていく。

 

「ポケモンセンターにようっ!?どうされましたか!?それに貴方は!?」

 

ポケモンセンターに入るとジョーイさんの慌てたような声が何処か遠くに聞こえる気がする。

 

「分かりません、入り口付近で震えていたので連れて来たんです。彼女をよろしくお願いします」

 

そんなやり取りが聞こえた次の瞬間、何かがプツンと切れたような音が聞こえた。

 

──あ、だめだ。

 

そう思ったところで、意識は暗闇に沈んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目が覚めると、知らない天井が広がっていた。

 

「あれ、私…………」

 

そう呟きながら体を起こす。

私にかかっていた掛け布団がずれ落ちた。

部屋を見渡す限り、恐らくはポケモンセンターの宿泊部屋の様に見える。

確か私は……。

思い出したのは、偶然ローズさんが見えて、驚いて焦って怖くて気が動転してパニックになって。その後は確か、誰かに支えられてポケモンセンターに来たような気がする。

扉の近くから音が聞こえ其方へと顔を向ける。

聞こえて来た部屋の入り口らしき扉が開くと、ソコにはジョーイさんが立っていた。

 

「良かった、目が覚めたんですね!お体の調子は大丈夫ですか?何処か変なところはありませんか?」

 

「は、はい。大丈夫です、あの何で私はここに?」

 

「実はある方がパニックになっていた貴方をポケモンセンターに連れてきて下さったんですよ」

 

そっか、私はパニックになった後に倒れたのか。ジョーイさんの言うある方?とは誰だろうか?

 

「ちょうど今、貴方の様子を見に戻ってきたんです。お呼びしますね」

 

そう言ってジョーイさんが出ていくのを見届けつつ、壁にかけられた時計をみて今の時刻を確認する。

倒れてから2時間ぐらい眠っていたみたいだ。

リュックの中身の荷物を確認し、ベッドに腰かける。

それにしてもあんな状態の私を助けてくれた上に、こうして様子を見に戻ってくるなんて。

そんな優しい人に感謝だ。

迷惑をかけてしまったし、何かしらお礼をしないと。

そういえば私が倒れたことがユウリやホップ、お母さん達に伝わっていないと良いけど。

そんな事を考えていると扉が開く音が聞こえ、顔を上げるとそこには先ほどのジョーイさん。

そして白いシャツに短パンにバッグを斜めに掛けた学生服のようなファッションをした褐色の肌に灰色の髪、頭には大きなリボンのカチューシャを着けた薄い青色の瞳の少女。

格闘タイプのジムリーダー、サイトウさんが立っていた。

 

「………ぅえ?」

 

「良かった、どうやら大丈夫のようですね。安心しました」

 

そう言って穏やかな笑みを浮かべたサイトウさん。

そんな反応に思わず顔が赤くなりそうになる。

ユウリ達と触れあって慣れてるつもりだけど、ソードシールドで特に好きな容姿をしている、言わば推しキャラにあんな風に微笑まれたら、恥ずかしくてヤバイよぉ。

 

「あ、その……助けてくれてありがとうございます」

 

そう言ってベッドに座ったままお辞儀する。

 

「いえ、大丈夫です。一人のポケモントレーナーとして、ジムリーダーとして当然の事です。」

 

凄いなぁ、私とほぼ同年代なのにまるで大人みたいな雰囲気だ。

そんなことを考えていたとき、自分が名乗っていないことに遅れながら気付いた。

 

「あ、私……シアンと言います。一応、ジムチャレンジに参加しています」

 

「私はサイトウ、ご存知だと思いますが格闘タイプのジムリーダーです……ん?その、もう一度お伺いしますがあなたは、シアンさんですか?」

 

「は、はい。そうですけど……」

 

サイトウさんが私の名前を確認する状況に少しだけ脳内にハテナマークが浮かぶ。

もしかして、ローズさんから何かしら伝えられているのだろうか?

そんなことを思っていると、サイトウさんは思い出した様子で頷いた。

 

「あなたがコルニが話していた子だったとは」

 

「ぅえ?コルニ姉さんのこと、知ってるんですか?」

 

「はい、私は彼女を親友……のように思っていますから。」

 

そう言いながら微笑むサイトウさんの言葉に私は驚愕していた。

サイトウさんとコルニさんが親友、アニメのポケモンで描写されていたソレが目の前で事実だとわかった。

 

「彼女は以前に言っていました、自分より幼い少女がメガストーン無しで()()()()()させた将来有望なトレーナー。一時とはいえ、妹のような存在ができて嬉しかった。お礼にとても美味しいお菓子を貰ったと話していました」

 

穏やかな笑みを浮かべて私を見つめるサイトウさんの目線に、何処か前世の叔父や叔母のようなものを感じるのは何故だろう。

 

「コルニ姉さん……」

 

「サイトウさん、改めて助けて下さり本当にありがとうございます。あの良ければですけど助けて頂いたお礼を」

 

助けて貰ったお礼もあるが、せっかくの機会だから推しと少しだけでも仲良くなりたいな。

折角このポケモン世界で生きているのだから。

ちょっぴりだけ、欲を出てしまいそんな言葉が口から出た。

 

「そんな、別に当たり前の事をしただけですし……」

 

ど、どうしよう。

どうすればサイトウさんにお礼を渡せるのだろうか?

サイトウさんが好きなもの、サイトウさんが貰って嬉しそうなもの。

頭を巡らせていたとき、思い出した。

サイトウさんは、隠れスイーツ好き。

そんな情報を。

 

「そのお礼になるか分からないですけど、良ければお菓子をご馳走します。その、ポケモンや友達も……みんな美味しいと言ってくれますから、それなりに自信はあります」

 

な、何を言ってるの私!?

お菓子を作る自信があるのは少しだし、店で出すようなものなんて今の私には到底無理!

サイトウさんだって、私なんかが作るお菓子なんかよりお店で売ってる奴の方が良いに決まってる!

そっちをご馳走した方が喜ばれるに決まってるどしょ私ーッ!!

 

「良いのですか!?」

 

その声は、今までで一番感情が乗っていた。

私の後悔を他所に、サイトウさんの反応は明るく期待をその瞳に宿していた。

 

「うぇ、あ、あの?」

 

「あ、こほん。もし、よろしければお願いします。ふふ、あのグレイシアがあそこまでの力を発揮する理由です。コルニも自慢していましたし、きっとおいしいはず」

 

「そ、そのすいません。お菓子の素材が無いので買い物に行きたくて。良ければ、サイトウさんも一緒に行って選びませんか?好きな木の実で作ればきっと美味しいと思い───」

 

「分かりました、ではさっそく行きましょう!善は急げ、です」

 

そう言って歩き出すサイトウさんの後ろを、私は慌てて追いかける。リュックの片方にはすぐ手が通ったがもう片方には中々手が通らず少しゴタゴタしつつ、なんとかサイトウさんになんとか追い付いた。

 

「その、好きなお菓子とかってありますか?」

 

「あります」

 

即答だった。

 

「甘いもの全般、好みです」

 

その返答に一切の迷いがなかった。

 

「……そ、そうなんですね」

 

「はい」

 

取りあえず、ベタにチョコレートとかでマカロンとか作ろうかな。

本当にゲームの通りスイーツ好きみたいだ。

前に作ってうまく行ったから、少し自信あるし。

ともかくバウタウンの市場にある食材をみつつ、何を作るか決めていこう。

ふふ、マホイップにはまた活躍して貰わないとかな。

 

「……楽しみです」

 

ぽつりと。

隣を歩くサイトウさんが、そう呟いた。

その声は小さかったけれど、ゲームでみていた姿。

あ、これ絶対めちゃくちゃ楽しみにしてるやつだ……。

 

この人の期待に答えられるようなお菓子が自分に作れるのか、少しだけ不安になった。

 

でも……頑張ろう。

 

そう、強く思った。

 

 




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