BRAVE STEP ―小さなお菓子屋さんを夢見て― 作:クレナイハルハ
次の日、私とサイトウさんはおまわりさんとジュンサーさんと共にバウタウンの交番で昨日の件についての説明をしていた。
所謂、事情聴取という奴だ。
サイトウさんが、それなりの立場であるジムリーダーが共に行動しているからなのか、それともこれが普通なのか早めに事情聴取が終わった。
お昼を少し過ぎた時間帯にポケモンセンターへと帰ってきていた。
そして掴まれた肩に関しては、ジョーイさんが冷やしたから動かして問題ないという言葉を貰ったため、ポケモンセンターの厨房を借りて、木の実を使ったお菓子作りを進めていた。
サイトウさんへのお礼として、今自分の作れる最高のお菓子を作ろうと気合いを入れて作業を進める。
そんな私の少し後ろでは、椅子に座ったサイトウさんが、お菓子を作っている光景を眺めている。
マホイップの出してくれるクリームをふんだん使ったお菓子を作る予定だ。
まずターフタウン産のリンゴと木の実を使ったフルーツサンド。
これは事情聴取でお昼を食べ損ねてしまったから少し主食になるものも欲しいからだ。
そして昨日買った木の実と、以前にターフタウンで買ったターフタウン産の果物や木の実の果汁を使った飴。
これに関しては、グレイシアの1日ひとつのおやつのための日持ちがするストックだ。
続いて以前と同じようにマカロン、今回はマホイップのクリームの他にもチョコやイチゴといった様々なクリームを用意している。
そしてカロス地方、ゲームでも出ていたポフレだ。
ポケモンセンターはそれなりに広い、アニメのように旅するポケモントレーナーが宿泊する場所でもあるため、食事を作るための厨房も広く充実していた。
だから、こうして一気に沢山のお菓子を作ることが出来ている。
本当にポケモンセンター様々だ。
「あの、シアンさん………」
「は、はい!なんでしょう?」
ポフレの生地を作る手を止め、振り返る。
でもサイトウさんは黙ったままだった。
少しの間沈黙が続く。
サイトウさんは迷っているのか、口を開き掛けては閉じることを繰り返していた。
迷ってるのかもしれない、取りあえずお菓子作りを進めつつ、サイトウさんの言葉を待つ。
ポケモンセンターの厨房に、生地を作る音やオーブンが稼働する音が響く。
「シアンさんのアブソルの事なのですが……」
「やっぱり、気になりますよね……」
そう言いながら私はオーブンから焼けたマカロンが乗った天板を調理台の上に乗せてからサイトウさんの方へと振り向いた。
「はい、シアンさんのアブソルはその……はっきり言って異常でした。本来ならアブソルは穏やかで、戦闘を好まないポケモンのはずです」
サイトウさんの言葉を聞きつつ、クッキングシートから剥がし、マカロンコックを大きなお皿へと並べる。
あとは冷えるのを待って、クリームで挟むだけ。
「でもシアンさんのアブソルは図鑑の情報とは真逆のようにも見えました。人混みで途切れつつでしたが、シアンさんに危害を加えたあの男に対して、アブソルは必要以上に執着し攻撃をしようとしているのが見えました。シアンさんの言葉を聞いてもなお、それをやめる様子もなかった」
事情聴取で分かったが、アブソルがボールから出てきたときサイトウさんは私達を囲むように出来た人混みから私たちの行動を見ていたらしい。
私の元へ向かい、人混みを掻き分けて来たからか私たちの状況も人混みで見えたり見えなかったりと詳しい事が見えなかったらしい。
「確かに、トレーナーであるシアンさんへ危害を加えられたら怒るのも当たり前です。ですがあれは、明らかに異常でした。周りにいた関係のない人にまで威嚇するなんて」
「やっぱり、異常……ですよね」
「気分を悪くしてしまったならすいません。ですがあの様子はあまりにも……」
苦笑しつつ、ポフレの生地をいれる型を用意し、丁寧にゴムベラを使って型へ流し入れる。
「シアンさん、あのアブソルは何処でゲットしたんですか?」
「あの子は私が小さいときに両親から貰った卵から生まれたんです」
「では……その時からあのように?」
「違います。優しくて、いつも笑って私と遊んでくれていた。そんな穏やかな子でした」
「では、何故あのように?」
「5年前、私が5歳でまだカントー地方に住んでいた時の事です。」
「カントー地方に?」
そう、あれは私がカントー地方に住んでいた頃。
私がシアンとなった、きっかけとも言える事件。
私は目を細め、遥か昔に起こった出来事を思い出す。
「カントー地方の町にある野原でアブソルと一緒に遊んでいた時に、へんな人に声を掛けられたんです。『珍しいポケモンを連れているね』って」
「変な人?それにアブソルが珍しいとは」
「カントー地方にはアブソルは生息していませんから。サイトウさんは…
「聞いたことはあります、以前にカントー地方とジョウト地方で悪事を働いていた組織ですよね?確か何年か前に壊滅させられたと聞いていますが……」
サイトウさんは何かに気付いたのか、まさかと呟き紡いでいた言葉を止めた。
「私はロケット団の一人に声をかけられたんです。当時はまだ、カントー地方でロケット団の活動が活発でしたから」
あの時、男の人が着ていた服が今でも鮮明に思い出せる。あのRの付いた黒い服を着た
今思えば私が5歳の時、ゲームで言うポケモン赤緑のストーリーが進んでいたのだろう。
「最初に『そのポケモンを貰おうか』と、そう言われたんです。当然、私は断りました。そうしたら急に『大人しく渡せば良いものを』って言って怖い顔で私たちへと近付いて来たんです。その時の私はアブソルを連れて行かれたくなくて、しがみついて連れていかれないように抵抗しました」
ポケモンバトルなんて出来なかったし、アブソルの覚えている技すら知らなかった。
アブソルを渡したくなくて、連れていかれたく無くて、必死にハクを抱き付いて離さないようにした。
でも大の大人に小さな子供が抗えるはずなんて無くて。
「子供の私は大人には力で敵いません、無理やり引き離されちゃったんです。その時、引き離された時の勢いで私は近くの岩に頭をぶつけてました」
そう言いながらポフレの生地が入った型がいくつも並んだ天板をオーブンへと入れて温度を設定する。
「前髪で上手く隠れてるんですけど」
そう言いながら私は前髪を上げて見せる、そこには4センチぐらいの傷の後が残っている。
サイトウちゃんが目を見開き私へと近付いて恐る恐るおでこの傷に手を添え撫でるサイトウさん。え、その急に近づかれると少し困ってしまうと言いますか………。
「もう、痛く無いんですか?」
「治ってはいますが、時々痛む時があります。その、あんまり見てて気持ちの良い物じゃないので」
そう言いながらサイトウさんから一歩下がってあげていた前髪を下ろして整える、傷口が隠れるように。
オーブンの中で膨らんでいくポフレを確認して、しっかり加熱されていることを確認した。
「話を戻しますね。岩で頭をぶつけ気絶した私私は病院で目を覚ましました、お母さん達の話だと通りがかったトレーナーさんが助けてくれたらしいです。」
「それは、凄い過去ですね………」
「その時からですね、アブソルがあんな風に成ったのは。ずっと静かで、私やお母さん以外には常に敵意を剥き出しにして威嚇して、私を驚かせたり触ろうとする人がいるとボールから勝手に出てきて襲い掛かろうとする」
その度に私はアブソルを抱き締めてどうにか落ち着かせて来た。
「たぶん……人間が信じられない。いや、人間が憎いんだと思います。住んでいた町は皆良い人ばっかりだったから尚更、あの男の人が憎く思ってしまった。アブソルは私に近付く人が、特に男は敵だと、そう思っているんだと思います」
「そんな事が……」
そう呟くサイトウさん見るとオーブンを見るとポフレが全種類が良い感じに焼けていたので取り出して調理台の上に置く。
「私に、アブソルが威嚇することはないですよね?シアンさんの友人として認められたと思うべきでしょうか」
「そ、そうかもしれませんね」
「そう言えば...何故シアンさんはコルニのもとに?」
話している間に冷めたポフレにモンスターボールからだしたマホイップに出して貰ったクリームをかける。
「アブソルは私が気絶したあと、ロケット団から私を守ろうとしてメガシンカした、らしいんです」
私の言葉にサイトウさんは驚いた様子で口を開いた。
「そんな……メガシンカはキーストーンとメガストーンの二つが存在し、トレーナーとポケモンの絆があって初めて成立する筈では?」
「本来ならそうなんです、なのでアブソルがメガシンカ出来た理由を調べるためにカロス地方に行きました。コルニ姉さんとは、その時に会ったんです」
そしてマホイップの出したクリームの上に用意しておいたクッキーやカットした木の実を飾り付けをして、出来上がったのはポフレのフルデコの『スイート』『サワー』『フレッシュ』『ビター』『スパイシー』それぞれ5個だ。
これでポフレは完成だ。
他のお菓子も全て仕上げをして行く。
「なるほど、そういう経緯でしたか」
「その、改めて本当にご迷惑をお掛けしました」
「大丈夫です、それに貴方と友人になれましたから迷惑なんて気にしなくて良いですよ」
そう言ってくれるサイトウさんは本当に優しい人だと思い少しだけ笑ってしまう。
「お待たせ、しました」
そう言ってサイトウちゃんの前に完成したそれぞれのポフレ、フルーツサンド、マカロンを置いた。
飴は持ち帰り用だ。
「これは………」
「ポフレ、フルーツサンドにマカロンです。マホイップのクリームを使ってるので美味しいですよ」
「ま、 マホイップのクリームを!?マホイップのクリームをこのお菓子に使ったなら、かなり高いのでは……」
何処かソワソワとしているサイトウさんの目線が私とテーブルに置いたお菓子が乗せられた皿へと交互に揺れている。
「その、お礼ですから。それに、まだお菓子やさんで働いていない素人のお菓子ですからそこまで高い値段はつきませんよ……遠慮せずに食べて下さい」
思わずクスリと笑いながら促すと、サイトウさんはゆっくりとポフレを口に運んだ。
瞬間、サイトウさんの目がキラキラと輝いたような気がした。
「美味しいです!シアンさんはお菓子作りが得意なんですね!」
「あ、ありがとうございます。将来はポケモンでも食べられるお菓子やケーキを作るお菓子屋さんになりたくて、お菓子作りをしてるんです」
ポフレの他にもフルーツサンドやマカロンへとてを伸ばしては口に含むサイトウさん。
どんどんと山盛りのマカロンとポフレ、フルーツサンドがサイトウさんの胃の中に収まっていくのを眺める。
私はサイトウさんに、過去を話した。
でも、全てを話した訳じゃない。
アブソルの過去とメガシンカだけ、私が負けるためにジムチャレンジに参加していることは伝えていない。
もし、何らかの理由で負ける為にジムチャレンジに参加しているなんて情報がローズさんで伝わったら全部が台無しだから。
この後、サイトウさんは食べきれなかったお菓子をタッパーに入れて持ち帰っていった。
私としては作りきって余った時が大変だから、持っていって貰えるのは正直助かるのだ。
ちなみにアブソルやマホイップもお菓子を食べてはくれる、一番のお菓子処理班はグレイシアだ。
それにしても、まさかサイトウさんとメッセージアプリで連絡先を交換してしまった。
推しのキャラクターとこうして仲良くなれて本当にうれしかったけど、もうあんな怖い目には会いたくないとそう思った。
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