BRAVE STEP ―小さなお菓子屋さんを夢見て―   作:クレナイハルハ

20 / 41
STEP20─逃げ切り─

 

会場からの熱気とは裏腹に、私の心は冷えきっていった。

アブソル、グレイシア、マホイップと入念に打合せした、カブさんとのジムバトルで敗北するシナリオ。

ガラル地方でジムチャレンジをする多くのチャレンジャーにとって、カブさんのジムチャレンジが最初の関門とされている。

ゲームでも、本人がカブに勝てずにジムチャレンジを諦めるチャレンジャーも多いと話していた。

 

「マホイップ、戦闘不能!」

 

だから、ここで負けても別に不自然じゃない。

 

「アブソル、戦闘不能!」

 

ここで負けて心が折れて諦めても。

 

「グレイシア戦闘不能!よって勝者、ジムリーダーカブ!!」

 

なんの不自然もない筈だから。

審判の声が聞こえた瞬間にモンスターボールを翳して倒れたふりをするグレイシアをボールへと戻す。

ようやく、長いジムバトルが終わったのだとモンスターボールを見つめていると気が付けば私の目の前までカブさんが歩いて来ていた。

その姿に、何故か私は逃げたくなった。

静かに歩いてくる彼の姿が、まるで叱るあいてを見つけた教師のような顔に似ていたから。

 

「……きみ、ルリナからのアドバイスは覚えているかい?」

 

「は、い……」

 

上手く、言葉が出せない。

内気だから、コミュ障だからじゃない。

この人に感じる負い目、罪悪感がそうさせるのだろうか。

 

「君の戦いは特殊だ。悪い訳じゃない、それもポケモンバトルの形の1つだと思う。でも、それに甘えているようじゃ、このジムは突破できないよ」

 

視線が泳ぐ、カブさんの顔を直視できない。

負けるためのジムバトルで、負けても納得される相手として選んでいることが、積み重ねられてきたこれまでの罪悪感が、私の首を絞めている。

 

「1つだけ、聞かせて欲しいんだ。……きみは、勝つためにここへ来たのかい?」

 

「ぅあ……」

 

何かを言わなければいけない気がした。

でも、言葉が出てこない。

私は勝ちに来た訳じゃない、負けるために来た。

それを見破られてはいけない。

もしバレたら、全てが無駄になる。

片手でユニフォームの上から早く強く鼓動し続ける心臓を押さえ少しだけ前傾姿勢になる。

視界が狭くなる。

周囲の声が遠くなる。

足元がふらつく。

肩が震え、深呼吸を繰り返してから私はようやく声を発することができた。

 

「その、この子達をポケモンセンターに連れていくので失礼します……」

 

「ま、まってくれ。まだ話は──」

 

「ジムバトル……ありがとう、ございました。」

 

自分でも分かる程に言葉が、震えていた。

 

足早にスタジアムから逃げるように更衣室へと逃げ込んだ。

扉を閉め、誰もいないのを確認してようやく息を吐いた。

 

ようやく、終わったのだ。

 

これでもうポケモンバトルをしなくても良い、あとは原作通りに物語が続いていくことを祈り、ワイルドエリアへ引きこもれば良いんだ。

どうにか思考を明るくし、ユニフォームから普段の服装へと着替える。

そして次のチャレンジャーの話題で盛り上がる人達を背に、エンジンスタジアムを出てポケモンセンターへと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スタジアムの喧騒の中、カブはその場に立ち尽くしていた。

本来ならば、次のチャレンジャーへと意識を切り替えるべき時間だ。 観客はすでに別の試合に歓声を上げている。

だが──。

 

「……」

 

先ほどの少女の背中が、どうしても脳裏から離れなかった。

負けたトレーナーは、何人も見てきた。

悔しさに歯を食いしばる者。

涙を堪える者。

それでも前を向こうとする者。

だが、あの子は違った。

悔しさではない。

納得でもない。

言うなら、“逃げていた”。

 

「……勝つために来たのかい、か」

 

自分の問いを、カブは小さく反芻する。

答えられなかった理由は、何だ?

実力不足ではない。

彼女にはまだまだ伸び代だって感じられる。

経験でもない。

もっと、根本的な何か。

 

「……まるで」

 

 

まるで、最初から──。

 

「……いや」

 

カブはゆっくりと首を振る。

考えすぎかもしれない。

だが、それでも。

 

「……あの子は、本当にあれでいいと思っているのかな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ワイルドエリアキャンプ生活を始めて少し経った。

好きなときに寝て起きるような生活に、更に拍車がかかってしまった気がする。

そんな事を考えながら、私はワイルドエリアからエンジンシティへと入る。

キャンプをしているが自給自足している訳ではない、だからこうして食材や日用品の買い物へ町に入る。

いつもの様に食材コーナーへと向かっていると、いつもより人が多く行き来していると感じた。

確かに今はジムチャレンジの期間だから沢山の人が集まっているが、その期間中よりも人がいる気がする。

不思議に思っているとガランガランガラン!とベルの音が鳴り響きいた。

そんな音に思わず肩がビクリと反応した、音の鳴る方を見ると、くじ引きと書かれた場所があった。

恐らく人が多いのはあれが原因だろうか。

どんな景品があるのか気になり、スマホロトムのカメラ機能のズームを使い景品の欄を見る。

──────────────────────

メガシンカ賞:パルデア地方3泊4日旅行券

ダイマックス賞:ゴージャスボール

リザードン賞:栄養ドリンク10セット

リザード賞:能力を上げるハネ10セット

ヒトカゲ賞:ボール各種類詰め合わせ、各ジムリーダーグッズ

参加賞:ポケモンフーズ、ティッシュ

──────────────────────

普通に金賞とか銀賞にしてないのは、恐らくこのガラル地方のチャンピオンであるダンデさんが有名だからだろう。

ダンデさんの相棒であるリザードンの進化過程にそって賞を付けているみたいだ。

それにしても『パルデア地方』なんて、前世じゃ聞いたことのない地方だ。

もしかして、ゲームやアニメに登場しない地方だろうか?

 

「取り敢えず、先に食材を買わないと」

 

私は目立たないようにしている。

ワイルドエリアに引きこもってる訳だし、人と話すのは苦手だ。

取り敢えずいつも買い物をする木の実屋さんに入る、するも店主であるおばさんが私を見て声をかけてきた。

 

「ん?おや、またアンタかい?」

 

「こ、こんにちわ……」

 

「そろそろ別の町に行ったと思ってたけど、まだ残ってたんだねぇ。さ、何にする?」

 

「あ、あはは……なかなかジムのバトルに勝てなくて」

 

まさか、店員さんに顔を覚えられているとは思わなかった。

どうにか出たジムバトルに勝てなくて、という嘘が出た事に安堵する。

まぁ、本当は挑んでない。

おばさんに返事を返しながら買う予定だった木の実のメモが表示されたスマホロトムを確認しながら、買い物籠へと木の実を入れていく。

会計へと籠を持っていく。

 

「その、会計を……おっ、お願いしましゅッ!?」

 

うぅ、話してる途中で舌を軽く噛んだ。

 

「アッハハ、いつも黙ったままの子にこんな可愛らしい一面があるなんてね。舌は大丈夫かい?」

 

「は、はい」

 

顔が熱い……これがワイルドエリア引きこもっていた弊害か。

これ、いずれ話すのも出来なくならないよね?

私、ゲームのレッドさんみたいになったりしないよね?

自分の舌の回らない現実に、とてつもなく嫌な感じがするよ。

頭を抱えたい衝動にかられていると、私の前に一枚の引換券のような物が差し出された。

 

「はいよ、これが木の実を入れた袋とくじ引きの抽選券ね。」

 

「あ、ありがとうございます」

 

袋と抽選券を受け取り、頭を下げて木の実屋さんから出る。

ついでに近くのポケモンセンターへ向かう、正確にはポケモンセンターではなくポケモンセンターの中にあるフレンドリィショップが目的だ。

最近キャンプをするなか、襲ってくるポケモンを撃退したときにキズぐすりの類を大量に消費してしまい、追加しなければならなくなった。

ポケモンセンターでフレンドリィショップ店員さんに購入する予定だったキズぐすりや襲ってきたポケモンの注意をそらすためのピッピ人形、毒や麻痺への対策としてなんでもなおしをそれぞれいくつか購入する。

 

「購入ありがとうございます!こちらオマケのプレミアボールになります!」

 

差し出された購入した物が入った袋と共に渡されたプレミアボールに、そういえばこんな要素があったなと、ゲームでの買い物について思い出した。

ゲームではポケモンのボールを特定の個数以上購入すると、プレミアボールが数個貰うことが出来る。

プレミアボールを受け取り、鞄へとしまってポケモンセンターを出る。

うーん………どうしよう、これ以上手持ちを増やす予定なんて無かったのにボールなんて………。

スマホロトムで調べたところ、この世界でもプレミアボールは非売品らしい。

背負っていたリュックサックにプレミアボールをしまい、来るときとは違い重くなったリュックサックを背負い直す。

ガランガランガラン!と言う音が聞こえて、そういえば私も抽選券を持っているのを思い出した。

せっかくだし、やっていこうかな。

狙うは勿論、というか確定で参加賞だろう。

こういう抽選で、参加賞以外は当てたことないんだよね……今世も前世も、残念なことに当てたことはない。

 

「らっしゃい、お嬢ちゃん。抽選券を貰うぜ。ふむ、一枚なら一回だな」

 

促されたガラガラ抽選機を一度回す、すると出てきたのは金色の玉だった。

 

「……うへ?」

 

思わず某おじさんのような口癖が口から漏れた、次の瞬間ガランガランガラン!とハンドベルが鳴り響いた。

 

「お嬢ちゃん運がいいねえ!こちらダイマックス賞のゴージャスボールになります!」

 

「え、は?うぇえあ?!」

 

当たったことに困惑しながら渡されたボールが入っているのであろう小箱を受け取る。

ま、またボールを手に入れちゃった、それもお高いゴージャスボールを……。

ゴージャスボール、通常のモンスターボールとは違い黒いボディに金色の上品なラインが特徴的なボールだ。

ゲームだと『捕まえた野生ポケモンがとてもなかよくなりやすくなるいごこちのいいボール』と表記されていた。

も、もしお金に困ったりしたらこれを売れば少しは足しになるかも……。

それに、新しいボールなんて私には必要ないし。

そう思いながらゴージャスボールをリュックサックの奥に入れて、早足でエンジンシティの門へと向かう。

はぁ、もうこれ以上ポケモンを捕まえないつもりだったのに2つもボールを手に入れてしまった。

 

この二つ、セットで販売できないかなぁ……。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。