BRAVE STEP ―小さなお菓子屋さんを夢見て― 作:クレナイハルハ
久しぶりにエンジンシティのカフェでのんびりとしていたソニアは、外のテラス席に座り空気を吸い込んで、ゆっくり吐いた。
ユウリやホップ、そしてシアンから聞いた話からガラル地方の伝承をより深く調べる生活が続いていた。
研究資料や考察、色々と引きこもっていたからか余計に目の前の景色が新鮮だ。
「んー♪たまには研究やフィールドワークばかりじゃなくて息抜きも大切ね!」
バトルカフェへと入り普通に注文したサイコソーダを飲みながら、ふとエンジンシティの入り口の門を見る。
そこには、俯いたままエンジンシティから出ていく見覚えのある少女の姿があった。
ホップやユウリの幼馴染み、シアン。
以前言葉を交わしてから久しぶりとなる一方的な再会だった。
彼女の様子に困惑した。
確かシアンは恐ろしい程に強いグレイシアでターフジムを攻略していた筈だ。
なのに、どうしてあそこまで沈んでいる?
疑問を浮かべつつ、私はスマホロトムでシアンの動向を調べる。
ネットに出ている動画を見れば、バウジムの勝利したシアンがエンジンシティで敗北する姿が映っていた。
動画や記事を見れば、それ以降に一度もジムチャレンジに参加していないことがわかった。
あ、あぁ………。
何が『何かあったら連絡して貰えるように』だ、『相談を受けられるように』だ。
こうなる予想はしていた筈なのに、そうなったら話を聞けるようにしようと考えていた筈なのに。
気づけば自分の研究に没頭し、彼女のことなんて忘れていた。
私がそうだったから、わかっていた筈だったのに。
動画に映る、ジムリーダーからのアドバイスに体を震わせて俯いた状態で聞く姿。
ジムリーダーになんとか一言話し、その場から離れていくシアンの姿。
重なって見えた。
過去のジムチャレンジ、心が折れそうになりながらも頑張り続けた先で折れた私の姿が。
あの姿勢だけで分かった。
罪悪感が胸の内に沸いた。
シアンに以前送った『貴方ならきっとファイナルまで進めるわ』と言う
それがどれだけ彼女に胸に希望を与えてしまい、こうして深い悲しみと絶望を与えてしまったのか。
わかっている、筈だったのに。
分からない、ならあの時私はなんと声をかければ良かったのだろうか?
貴方にバトルの才能はない、きっとセミファイナル出場は難しいと現実をぶつければよかったの?
あの時、どんな選択をすれば私にとって……彼女にとって最善なの?
「ごめんね」
本来なら彼女に伝えるべきであろうそんな言葉が口から漏れる。
私に分かったのは今のシアンの状況と、自分が声をかけるのが遅すぎたという事だった。
ワイルドエリアへと戻ってきた私は、前の場所から少し離れた場所へ設置したテントの入り口に座り、目の前の風景を眺めていた。
隣にはアブソルが座って瞳を閉じ眠っているのか、それとも休んでいるのかわからない。
グレイシアとマホイップがテントの奥でが少し先で一緒に眠っているのが見えた。
人見知りのマホイップが、グレイシアやアブソルはあまり距離を詰めてこないタイプのポケモンだからか安心できる対象なのか、グレイシアへと体を預けて眠っている。
「ずっとワイルドエリアに引きこもってるけど、別の町にいった方が良いのかな?」
ジムチャレンジ期間中はもうジムバトルをするつもりはない。
もう私への期待は、エンジンシティでのジムバトルで全てを捨てられた筈だ。
問題はこれからのジムチャレンジ期間、どうユウリやホップ達の質問や言葉を躱していくかだ。
勿論だが、彼らに嫌な思いはして欲しくない。
かといって、彼らへの応援に行くのは少しだけ気まずいのだ。
応援が終わったあとにユウリやホップ達ならきっと、シアンも頑張ってねと言うのが想像できる。
その応援が苦しい、だって私は頑張ってない筈だから。
二人のした努力に比べたら微々たる量の努力。
負けるために参加した私が、足元を見てる私が真っ直ぐに前を、空を見ている二人と歩むのが少しだけ苦しく感じる。
きっと私が子供なら、二人と同じように前と空を見れた。
でも私は大人を……現実を知っている。
だからこそ、上じゃなくて下を見る。
理想ではなく、夢でなく、現実を見る。
だからだろう、きっとユウリやホップと話すことが気不味く感じるのだろう。
そんな事を考えていると、イーブイのキグルミを着た綺麗な水色の髪の毛が特徴的なポケモンごっこの女の子がテントの後ろの方から来たのか、ヒョッコリと現れた。
「また来たんだね」
いつものように、足音もなく現れた笑顔を浮かべた水色の髪が特徴的な女の子は、私の隣に座る。
すると、突如として鼻をスンスンと鳴らすと近くに置いてあった私のリュックサックを見つめた。
えっと、何か付いてたりするかな?
そう思っていると突如として女の子は立ち上がり、私のリュックサックの元へにじり寄ると、私のリュックサックのジッパーを開けて中をガサゴソと漁り始めた。
「な、何をして……」
いつもの大人しく甘えん坊な女の子とは思えない狂行に動けないでいた。
女の子の行動もそうなのだが、女の子の表情。
まるで失くした大切な何かを探すような必死の表情だった。
思わずリュックサックを中身を漁っている女の子になにも言えずにいると、お目当てのものを見付けたのか、女の子は目を輝かせて両腕に1つずつ何かを取り出して掲げた。
その様子はまるでゲームでレアなアイテムをゲットしたような様子の女の子が掲げているもの。
それは先程のエンジンシティのポケモンセンターで貰ったプレミアボール、そしてガラガラ抽選機のくじ引きで当てたゴージャスボールの入った小箱だった。
「も、もしかして自分のポケモンが欲しかったとか?」
ポケモンごっこの女の子の見た目から、自分のポケモンを持つトレーナーを羨ましがっておるのだろうか?
この世界の子供なら、このようになってしまうのも仕方ないのだろうか。
気持ちは分かる気がするけど、せめて一言いって欲しかったな。
そう思っていると女の子はプレミアボールと小箱を交互に眺めると、やがて木箱の方を私の方へと放り投げた。
「さ、さすがに放るのはだめ!」
慌てて女の子の投げたゴージャスボールを追いかけて落ちる前に小箱をキャッチした。
傷がないか小箱を開けてゴージャスボールを確認する、大丈夫そうだった。
安堵しつつ、小箱を持ったままポケモンごっこの女の子の方を見ふと、女の子は嬉しそうにプレミアボールの中央にあるボタンを自分のおでこへと押し付けていた。
なんでそんな事をしているの?
そんな事をしても、自分は捕まえられないよ?
モンスターボールはポケモンを捕まえるものであり、人間を捕まえることなんて出来ない。
そう思っていた次の瞬間、女の子はボールから出た赤い光により包まれプレミアボールの中へと入っていった。
「へ?」
プレミアボールが地面へと落下する。
2、3回程小さく揺れるとポン!と言う前世で聞きなれたポケモンの捕獲を知らせる音が鳴った。
「え……へ!?えぇぇぇえーー!?」
「ッ!」
困惑と驚愕の混じった私の叫び声にアブソルは目を開き、即座に立ち上がり戦闘態勢となる。
周りを警戒していたが、何もなかった事を確認すると安堵したような様子で先程までと同じように座り目を瞑る。
グレイシアは「何?」と少しだけ困惑した様子で近寄ってきた、マホイップも同じように心配そうに此方へと向かってくる。
ポケモンごっこの女の子をゲット?しちゃった……え、どういうことなの?
困惑しながらも捕獲が完了したプレミアボールを拾い上げる。
「と!取り敢えずボールから出して──」
そう思いながらプレミアボールのボタンを押す、するとプレミアボールがパカッ!と開き中から出てきたのは水色の髪が特徴的なイーブイの着ぐるみを着たポケモンごっこの女の子……ではなく。
水色の体を持つ小さなポケモンだった。
「え……」
そのポケモンはある文献にそう記されていた。
自由に姿を消す事が出来るため、発見することは非常に難しいが、清らかな心と会いたいという強い気持ちを併せ持つ者の前にのみ姿を現す。
「ミウー?」
【全国図鑑No.0151】
『しんしゅポケモン』ミュウ
色違いである水色のミュウが、驚いたまま固まっている私の周りをくるくると飛び回り私の顔の前にまで近寄ると、不思議そうに首をかしげていた。