BRAVE STEP ―小さなお菓子屋さんを夢見て―   作:クレナイハルハ

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STEP23─知らない歴史─

ソニアさんのメッセージにあったのは、あれからナックルシティでガラルの歴史について新たな発見があったから一緒に見て欲しい。

という物だった、色々な地方に行ったことがあった私の視点での意見が欲しいらしい。

ガラルの歴史についての発見、恐らくはキバナさんが管理している宝物庫でのタペストリーだろうか?

待ち合わせ場所を確認すると、待ち合わせ場所は宝物庫ではなくナックルシティの外れだった。

 

……どうして、こんな場所に?

 

そんなことを思いながら、スマホロトムでアーマーガアタクシーでナックルシティへと向かう。

ナックルシティについて待ち合わせ場所であるポケモンセンターへ向かうと、スマホロトムを見ているソニアさんが見えた。

 

「ぁあ、あの……」

 

「っ、久しぶりねシアン!」

 

声をかけた瞬間、ソニアさんは一瞬だがぎこちない笑顔を浮かべたがすぐに元の笑顔になりそう返事を返してくれた。

 

「来てくれてありがとう!ジムチャレンジ、2つもジムバトルを攻略するなんて凄いじゃない!」

 

「アハハ、ありがとうございます。私よりホップやユウリの方がもっと凄いんですけどね」

 

「そんなことないわ!ジムに勝つだけでも十分凄いのに、二つもクリアしてるんだから!」

 

そう元気付けるようにいつもの調子で笑っているけど、どこか少しだけズレているような変な感じがした。

もしかして、励まそうとさてくれてるのかな。

ユウリとホップが、かなりジムの攻略が早いから無理しないようにって。

まぁ、私はもうジムに行く気はない。

あとはひっそり、期限まで引きこもるだけだ。

 

「早速いきましょうか!」

 

そう言いながらソニアさんが歩きだしたのは、宝物庫がある場所とは反対だった。

 

「その、何処に……」

 

「へ?あぁ!ごめんなさい、説明してなかったわね。今から行くのは、ナックルシティの外れにある教会よ」

 

「きょ、教会ですか……」

 

教会ってあれだよね?お祈りしたり、懺悔したりする場所でシスターや神父さんがいるっていう。

 

「なんでもその教会はかなり昔からあるらしくてね、もしかしたら前に見せた本の事やガラルの歴史について、新しい発見があるんじゃないかって思って!」

 

「な、なるほど」

 

ソニアさんと並んで歩き少しあるいていると、教会らしき場所が見えてきた。

街の外れにひっそりと佇んでいる石造りの、小さな教会だった。

人の気配はほとんどなく、ゴーストタイプが住んでいそうな雰囲気がある。

 

「さ!許可は貰ってるから入っちゃいましょ!」

 

「うぇ!?」

 

怖くないのかずんずんと入っていくソニアさんに続いて教会の中に入る。

人の気配はほとんどない。

けれど──誰かに見られているような、

不思議な静けさがそこにはあった。

中は薄暗く、外の光が差し込むことでようやく輪郭が分かる程度の明るさだった。

古びた木製の長椅子が左右に並び、その奥には祈りを捧げるための祭壇がある。

 

「……思ってたより、ずっと古いわね」

 

ソニアさんが小さく呟く。

足を踏み入れると、コツンと靴音が静かに響いた。

人の気配はない……けれど、完全に廃れているわけでもない。

ほんの僅かに、誰かが手入れしているような空気が残っている。

 

「教会って初めて来たけど、なんか落ち着く雰囲気ね。ちょっと不思議な感じ」

 

そう言いながらソニアさんは興味深そうに周囲を見回し、壁や柱に刻まれた模様を確認しメモし始めた。

ゆっくりと教会の中を見て回る。

壁には色褪せた絵画のようなものがいくつか掛けられていた。

ただ、どれも風化が激しく、何が描かれているのかはっきりとは分からない。

 

「……これ、人物……かな?」

 

そんな中で近づいて目を凝らすと、ぼんやりと人影のようなものが見えるものがあった。

その隣には、何か獣のような影。

 

「……」

 

視線が、反らせない。

真っ白だけど、所々に黒の混ざったポケモンらしき影と真っ白な髪で真っ白なヴェールのようなものを頭から被っている少女。

既視感があった、その立ち姿に。

以前に、私とアブソルが一緒にいる所を撮った写真に似ているような気がした。

 

「シアン、こっち見て!」

 

ソニアさんの声に、慌てて振り向くとソニアさんは壁に刻まれた古い文字を指差していた。

 

「これ、ガラルの古語っぽいんだけど……ところどころ消えてるのよね。完全には読めないわ」

 

「何て書いてあるんですか?」

 

「えっと……“祈り”、“変化”、“災い”……あとは……“光”……かしら。以前にシアンに見せたあの本の文と似てるわね」

 

そう言いながら顎に手を当て思考するソニアさんを邪魔しないよう、私はまだ見ていない祭壇の方へと歩いていく。

祭壇の前には、祈りを捧げるための台があり、その上には小さな石板のようなものが置かれていた。

何気なく、それに手を伸ばす。

 

「……?」

 

ほんの少しだけ、石板が動いたような気がした。

 

「……あれ?」

 

もう一度、力を込めて押してみる。

ゴトッ。

鈍い音がして、石板がわずかに沈み込んだ。

次の瞬間、ゴゴゴ……と低い振動が足元から伝わってきて思わず即座にその場から離れソニアさんの近くへと移動する。

 

「え、なにこれ!?」

 

ソニアさんが驚いた声を上げる。

振り替えると、部屋の隅にある床の一部が、ゆっくりと横にずれていく。

まるで、隠されていた何かを露わにするように。

やがて完全に開いたそこには下へと続く、石造りの階段が現れていた。

冷たい空気が、ゆっくりと這い上がってくるのを感じてぶるりとからだが震えた。

 

「……地下、ね」

 

ソニアさんが小さく呟く。

その声は、いつもの明るさとは違って、少しだけ緊張を含んでいた。

 

「……行ってみましょう」

 

その言葉に、私は小さく頷く。

私の知らない、ゲームには存在しなかった教会と教会に隠されていた地下。

本来なら、ユウリ達を呼んで調べるのだろう。

でも、止まらなかった。

目の前にある自分の知らない歴史が、気になって仕方がなかった。

ゲームを進めて謎を解き明かすような、ワクワクが少しだけ胸の中に生まれていた。

ソニアさんと共に螺旋状に作られた階段を下りていく、階段を最後まで下りた先には扉があった。

 

「まさか、教会にこんな仕掛けがあったなんて。しかもこの雰囲気、きっと私たちの知る歴史を大きく覆すような何かがあるかもしれないわ!」

 

そう言いながら、扉を開けて中に入っていくソニアさんに続いて私は部屋の扉を潜る。

扉の先に広がっていた空間は、思っていたよりもずっと広かった。

地下とは思えないほど整えられた石造りの部屋。

湿った空気の中に、長い時間閉ざされていたような静けさが漂っている。

壁には──三つのタペストリー。

ナックルシティの宝物庫に飾られているものと似ているけれど、どれも一回り小さく、そして何より……描かれている内容が違った。

 

「……これは……!」

 

ソニアさんが、息を呑むように一歩前に出る。

その声には、はっきりとした興奮が混ざっていた。

 

「間違いないわ……これ、宝物庫のタペストリーと同じくらい古い…使われている材質も似ている…きっと宝物庫のタペストリーとほぼ同時期に作られたもの!」

 

すぐにスマホロトムを取り出して記録を取り始めるソニアさん、そんなソニアさんの隣で私は、壁にかけられた3つのタペストリーを見つめていた。

 

一枚目。

何処かアブソルと似たシルエットの真っ黒なポケモンらしき存在へと手を差し伸べる白いヴェールを纏った、一人の少女。

 

二枚目。

先程の少女が膝を着いて祈るようなポーズを取っており、そんな少女の前には先程のポケモンと似たシルエットなが黒が減り白と黒の混ざったポケモンらしき存在。

 

三枚目。

真っ黒な渦へと立ち向かう白と黒のポケモンが背中に白い翼を生やしており、その背後では先程の白いヴェールをまとった少女が両手を組んで祈りを捧げるようなポーズを取っている。

私の知らない、ゲームには登場しなかった未知の場所。

ゲームでは描かれなかった未知の歴史。

そんな未知に触れているなかで、私は少しだけタペストリーに描かれた絵に既視感を覚えた。

似てるのだ……少女が腕を組んでいる姿は私がカロス地方でメガシンカをする際に行っていた、所謂メガシンカのポーズに。

 

「気のせい、だよね?」

 

「シアン?どうかした?」

 

「い、いえ……その……」

 

上手く言葉に出来ない。

ただの偶然、そう思ってするのに、視線が離せない。

 

「シアンこのタペストリーを見て」

 

ソニアさんが最初のタペストリーを指差す。

そこには、荒れ狂うような黒い影と、それに向かって手を伸ばす少女の姿が描かれていた。

ソニアさんが指差したそのタペストリーに、改めて視線を向ける。

荒れ狂うような黒い影。 その前に立ち、手を差し伸べる少女。

 

「これ……前に見たタペストリーには無かった構図よね」

 

ソニアさんは興奮を抑えきれない様子で続ける。

 

「宝物庫にあったのは、“二人の英雄がブラックナイトを鎮めた”っていう物語だった。でもこれは違う……」

 

指先が、少女の姿をなぞる。

 

「この子が“最初にブラックナイトに関わった存在”……いえ、もしかしたら──」

 

一瞬、言葉を選ぶように間を置いてから。

 

「ブラックナイトを鎮める“きっかけ”になった存在、なのかもしれないわ」

 

「……きっかけ」

 

私はもう一度、タペストリーを見る。

黒い影に向かって、恐れる様子もなく手を伸ばす少女。

 

「次、これを見て」

 

ソニアさんが、二枚目のタペストリーへと移る。

 

「これは明らかに“変化”の場面ね。“祈り”のあとに何かが起きている」

 

描かれているのは、膝をついて祈る少女。 そしてその前にいる、先ほどとは違う姿のポケモン。

 

「黒かった存在が……白を取り戻してる。きっと彼女がきっかけで、完全じゃないけど、確実に変わった」

 

「……暴走が、収まってる……?」

 

思わず、口から零れた。

なんとなく、口から漏れた言葉。

何故かタペストリーの姿から、アニメで見たメガシンカの変化による力で暴走したルカリオがいた。何故かその記憶が、タペストリーのポケモンらしき存在から、連想された。

 

「え?」

 

「い、いえ……なんでも」

 

「そう?そして最後はこれよ!」

 

三枚目。

黒い渦。

それに立ち向かう、白と黒の翼を持つポケモン。 そして、その背後で祈る少女。

 

「これはもう、はっきりしてるわね」

 

ソニアさんは確信に満ちた声で言った。

 

「このポケモンは一枚目のタペストリーから二枚目、三枚目と“変化”したもとは同じ存在。そして後ろで祈っているこの子は」

 

再び、少女を指す。

 

「その変化を引き起こした存在。恐らくは本にも載っていた“祈り”によって」

 

静かな地下に、その言葉が響く。

 

「つまり、このタペストリーが示しているのは…“二人の英雄”とは別に、もう一人。災いに立ち向かった存在がいたってこと」

 

「……もう一人?」

 

「ええ。でも──」

 

ソニアさんは少しだけ眉をひそめる。

 

「おかしいのよ。こんな重要な存在、今まで読んできたどの文献に、ほとんど情報がないなんて」

 

ガラルの歴史といえば、“二人の英雄”。

それ以外の存在なんて、聞いたことがない。

 

「意図的に消された……?」

 

ぽつりと呟いた私の言葉に、ソニアさんが反応する。

 

「その可能性も、あるわね」

 

地下の空気が、少しだけ重くなる。

歴史から消された存在。

語られなかった、もう一つの真実。

 

「シアン?」

 

「っ……!」

 

気付けば、無意識に一歩前へ出ていた。

タペストリーに、手が届きそうな距離まで。

 

「……その子、ね」

 

ソニアさんが静かに言う。

 

「“聖女”とでも呼びましょうか、タペストリーに描かれた彼女は、そんな存在なのかもしれないわ。上にあった文献、ここにあるタペストリーからより詳しい内容について調べる必要がありそうね」

 

「……聖女……」

 

その言葉が、やけに胸の奥に引っかかった。

まるで、()()()()()()()()()かのような、妙な感覚だった。

気付けば私は、無意識に手を伸ばしていた。

タペストリーに描かれた、あの少女へと。

 

「シアン?」

 

ソニアさんの声が遠くに聞こえる。

指先が、布に触れた――その瞬間。

――ぞくり、と。

背筋を冷たい何かが駆け上がった。

 

「っ……!?」

 

思わず息を呑む。

視界が、ほんの一瞬だけ揺らいだ気がした。

 

『──やめて』

 

『──この子は……』

 

祈る少女。

 

『──大丈夫、もう大丈夫だたら』

 

『──あなたはもう』

 

白と黒の獣。

 

『──それが、あなたの本当の……』

 

黒い渦。

 

『──お願い、力を』

 

『──……』

 

『──いこう』

 

向けられた悪意と理不尽な判定

 

『──だめ……怒らないで……』

 

『──……行こう』

 

その光景が、まるで“記憶”のように頭の奥をかすめる。

言葉にならない、強い想いだけが流れ込んでくる。

 

「……なに、これ……」

 

知らないはずなのに。

見たことがあるはずがないのに。

何故か懐かしい、と感じた。

 

「シアン、大丈夫?」

 

「だ、大丈夫です……ちょっと、ふらっとしただけで……」

 

タペストリーから手を離す。

けれど、一度生まれた違和感は消えなかった。

……似てる、それだけじゃない

あの少女の祈る姿、メガシンカする際の私。

ポケモンに寄り添う際の距離感。

最後のタペストリーの絵。

昔、コルニ姉さんと自分のポケモンバトルをした際に振り返る為に録画した動画で見た客観的なメガシンカをアブソルと私の姿と似ていた。

 

……私と、アブソル……?

 

そこまで考えて、思考を止めた。

 

そんなはず、あるわけがない。

これはただの偶然だ。

そう思う、思っている筈なのに……胸の奥が、ざわついていた。

 

ゲームにはなかった、ガラル地方の歴史。

 

それは──ここが“現実”だと、突きつけてくる。

 

そして、タペストリーの……歴史の中にいる“それ”が、私と似ているという事実が。

 

どうしようもなく、怖かった。

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