BRAVE STEP ―小さなお菓子屋さんを夢見て― 作:クレナイハルハ
朝、目が覚め外に降る雪を見たグレイシアは軽く延びをする。
その部屋は、グレイシアにとって懐かしいカントー式に近い畳のしかれた和室と呼ばれるものだ。
ガラル地方では珍しいそんな部屋にしかれた布団で眠る自身のトレーナーに、グレイシアは「早く起きろ」とばかりにお腹へとダイブを決めた。
「グブッ!?」
グレイシアの体重による衝撃に、女性にあるまじき声を漏らした私は、瞼を擦りつつ布団から体を起こした。
どうやら完全に起こすつもりで飛び込んできたらしい。
最近はすっかり、この起こし方が日課になっていた……うぅ、お腹痛い。
しかも、確実に一番柔らかい場所を狙って飛び込んでくるあたり、妙に慣れてきているのが怖い。
肌寒さを感じるが隣で寝ている珍しい水色の髪の少女……久々に人間の姿に変身したミュウが寒そうに身じろぎをしたので、体にかかっていた布団を被せる。
伸びをしながら窓ガラスから見えたのは雪の降るすこし曇り空、そして温泉から立ち上る湯気だった。
キルクスタウン、古い建物が立ち並ぶ温泉町で雪が降っている事が特徴的なこの街の中央には英雄の湯という大きな温泉がある。
ちなみに、ポケモンしか入れない。
ゲームだとポケモン専用の温泉しかなかったけど、現実となるとやはりか沢山の温泉宿と人の入れる温泉が並んでいる。
原作で入れたホテルであるホテルイオニアには、浴場があり温泉からお湯を引いているらしい。
ジムチャレンジの期間と言うこともあり満室、町は多くの人とポケモン達で賑わっていた。
寒いのを我慢して来ていた寝巻きを脱ぎ、
私は今、キルクスタウンの外れにある温泉宿に住み込みで働かせて貰っている。
お陰でジムチャレンジ期間のほとんどをここで過ごせそうだ。
この温泉宿は昔にカントーから来た夫婦で始めた温泉宿でガラルでは珍しい着物で接客をする事かは、一時期繁盛していたらしい。
今は女将さんと板前のおじさんとおばさん夫婦で切り盛りしているらしい。
ジムチャレンジ期間だと、こうして沢山の観光客が来るからか、住み込みでアルバイトを募集しているらしい。
働いて一ヶ月ほどしたけど、女将のおばさんと 板前のおじさんが優しすぎて少しだけ辛い。
まるで私の事を孫のように扱うものだから少し困ってしまう。
数週間前にユウリとホップが無事アラベスクタウンのジムを突破できたらしい。
マリィちゃんもアラベスクタウンにいてジムに苦戦してるらしい。
「おはようございますおじさん、おばさん」
「おはよう、嬢ちゃん。ごはんが出来てるからゆっくり食べな。」
「シアン、ごはんを食べたら少し玄関前を掃いておいてくれないかい?」
「わかりました、食べたら玄関前を掃いておきます。ロトム、メモをお願い」
「ふふ、シアンちゃん本当にありがとうねぇ。こんなボロ温泉宿で働いてくれて」
「い、いえ。私からお願いした事ですから……」
食堂に向かいおじさん達に挨拶をしつつ、おじさんが用意してくれたごはんの乗ったお盆を受け取る。
おばさんから頼まれた仕事もスマホロトムに頼んでメモして貰う。
久しぶりにカレーじゃ無いものでお米を食べたな、カントー地方は日本の地域が元だ。
ここで食べさせて貰ってるごはんの殆どが何処か懐かしさを感じてしまう。
「ふふ、お嬢ちゃんみたいな娘がいる親は幸せもんだ。料理も出来て、掃除に洗濯が出来て着物が似合う綺麗な髪。それにあんなにも美味しそうに飯を食ってくれる、是非ともうちの旅館で働き続けて欲しいなぁ」
「何言ってるのよアンタ、この子がウチに就職するのは早いよ!せめてあと10年はたってからさ」
「あ、アハハ……その、ありがとうございます」
前世ではこのような、是非ともうちの企業に来てくれ、なんて事は言われたことがない。
何なら社会に出る前に転生してしまったから、少し嬉しいと感じた。
いつか私がお店をもったら、絶対にこの宿屋にお菓子を卸したい……そう思った。
まあ、まだ店を持てるか分からないんだけどね。
ご飯を食べ終えた私は、食器を返却してからあてがわれた部屋に戻り、起きた様子のミュウとミュウを見ていたグレイシアをボールに戻して着物の内ポケットに入れる。
これで働く準備は万端、早速箒を持って玄関前に出る。
若干の肌寒さを感じながら玄関前に軽く積もった雪を箒で退けるついでに落ちているゴミを回収する。
着物姿が珍しいのか、視線を感じるけど気にしないようにして箒を動かす作業に集中する。
きっとジムチャレンジャーのシアンではなく、この宿屋で働く従業員が注目されていたのだろう。
今、ユウリ達が原作で言うところの次に向かうジムはこのアラベスクタウンのジム。
そしてここ、キルクスタウンのジムバトルを突破すればあと二つのジムを突破すればセミファイナルだ。
悪タイプのジム、スパイクタウンのネズさん。
ドラゴンタイプのジム、ナックルタウンのキバナさん。
ジムチャレンジ開催から、かなりの時間が過ぎた。
ネットだと既に沢山の人がジムチャレンジを辞退していると聞いた。
カブさんのジムで多くのジムチャレンジャーに負けて辞退しているらしい。
ふと、視線をあげるとソニアさんらしき人影を見掛けた。
目があったような気がするけど、気のせいかな。確かステーキハウスおいしんボブでタペストリーを見つけるという原作ストーリーがあったから、恐らくはソニアさんで確定だと思ったけど、勘違いかな。
ジムチャレンジが終わりセミファイナルが始まるまであと1ヶ月程。
もう暫くの間、ここで働いたら私はセミファイナルに出場することなく敗退で無事、私はジムチャレンジを終えられる。
あとは二人をセミファイナルを観客席から応援するだけ、と言いたいけどムゲンダイナの件があるから少しどうするか考えないと。
「あの、ここの旅館に予約した者なんだけど」
「は、はい!いらっしゃいませ、ご案内しますね」
取りあえず目の前のお客さんの対応をするため、スマホロトムに女将さんを玄関に連れてきて貰うよう頼みつつ、お客さんを受付へと案内するのだった。
ジムチャレンジも終盤が差し迫ってきた。
ホップやユウリのジムチャレンジでの活躍はネットで大きく取り上げられていて、セミファイナル候補として、名前が広がっている。
二人ともチャンピオンであるダンデくんの推薦で出場したポケモンバトルの才能があると感じられる二人で、ここまで勝ち進んでいるのは流石とした言いようがない。
アーマーガアタクシーでキルクスタウンへと向かいながらスマホロトムでネットの記事を眺める。
そんな二人とは違い、殆どの情報が上がらない
会ったとき感じた罪悪感が更に重くなったような気がした。
才のあるトレーナーと、才のないトレーナー。
その間に感じる劣等感は私にはよく分かっている。
だって、私がそうだったから。
「……シアン」
少し早く鼓動を始めた心臓の音を落ち着けるように深呼吸しながら、検索エンジンでシアンについて調べる。
唯一、ネットに出ているのはエンジンシティでカブさんに破れた記録のみ。
動画サイトでは、おやつで本気を出すグレイシアという動画が有名になっている。
ふと、シアンの文字が転載されたサイトを見つけた。
そのサイトでは今年のジムチャレンジ参加者についての考察が書かれていた。
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【名前】シアン
【背番号】46
※恐らくは白とかけている。
【手持ちのポケモン】
アブソル
グレイシア
マホイップ
【概要】
ジムチャレンジに参加している少女。
ローズ委員長の推薦で参加しているトレーナーの一人。
公式戦であるジムチャレンジではエンジンシティのジムバトル以降、会場に姿を見せていない。
そのため、現在は事実上の“消息不明選手”として扱われている。
ラテラルタウンの一件でジムチャレンジの資格を剥奪されたビート選手と同じく、ローズ委員長からの推薦者である点から、当初は注目度も高かった。
しかし現在では、その動向の不透明さから様々な憶測が飛び交っている。
【戦闘スタイル】
・アブソルを軸としたカウンター気味の戦闘
・グレイシアは特定条件下(おやつ?)で爆発的なパフォーマンスを発揮
・マホイップは補助寄りと見られるが詳細不明
エンジンシティでのジム戦では、本来の実力を発揮できていなかった可能性が指摘されている。
一部では「実力を隠している」「メンタル面に問題あり」などの声もある。
【確認されている目撃情報】
・バウタウン市場にて、アブソルが暴走したとの報告
・同時刻、トレーナーと思われる少女が負傷しポケモンセンターへ搬送されたという情報あり
・その際、ガラルジムリーダーであるサイトウが関与していたとの目撃談
※いずれも断片的情報であり、同一人物かは未確定
【現在の状況についての考察】
・事件による負傷、または精神的ダメージによる離脱
・ジムチャレンジ資格の一時停止、または剥奪
・自主的な辞退
など複数の説が存在する。
なお、現時点で公式からの発表はなく、
“静かにフェードアウトした選手”として扱われつつある。
【補足】
動画サイトにて「おやつで本気を出すグレイシア」という映像が拡散されており、一部で話題となっている。
しかし、これ以降の活動記録は確認されていない。
【総評】
才能の片鱗を見せながらも、表舞台から姿を消した謎多きトレーナー。
今年のジムチャレンジにおける“失踪枠”の一人といえるだろう。
また、同じ推薦枠であるビート選手の件も含め、
ローズ委員長の人選に疑問を持つ声も少なくない。
一方で、ダンデ推薦の選手(ホップ、ユウリ)が順調に勝ち進んでいることから、
「やはりチャンピオンの見る目は確かだった」という意見も目立つ。
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急いで、概要にあった事件について調べる。
バウタウンでアブソルが暴れた件は、詳しく調べた結果、アブソルのトレーナーが不審者に襲われた結果として起こってしまったらしい。
次にポケモンセンターの一件だが、これはいくら調べても分からなかった。
きっと私も、彼女を追い込んでしまった一人なのかもしれない。
……いや、“かもしれない”ではない。
私は、あの子を追い詰めた側の人間だ
あの日吐いた『貴方ならきっとファイナルまで進めるわ』という嘘。
期待をさせてしまっからこそ、それに答えようとして……でも勝てなくて苦しくなって体調を崩すほどにまで追い込んでしまった?
あの日に、彼女の力になりたいと思ったのに。
結局は何も出来ず、私より酷い結果に終わってしまいそうになっている。
前に会ったとき、ナックルシティであった時の様子は普通だった。
いや、普通に見えるよう演技をしていたのだろうか?
悪い方にばかり考えてしまうな。
キルクスタウンへ行く理由、ホップとユウリの応援と、キルクスタウンにあると言う英雄の湯についても調べるため。
ガラル地方の歴史を紐解く鍵はまだ見つからない、ユウリと共に見たナックルジムの宝物庫の絵、シアンと見つけた教会地下の小さなタペストリー。
まぁ、どちらもまだまだ分からないことだらけね。
「お客さん、お待たせしました!」
「はーい」
そう考えていると、キルクスタウンに着いた。
料金を支払って外に出ると、寒さが一番に体を襲ってきた。
コートの前を閉めて、アーマーガアタクシーから出て歩き出す。
「町の中央より、端っこの方が安くすむと思ってたけど……これなら中央まで送って貰った方が良かったかなぁ」
これから、スタジアムまで歩くことを考えそんな呟きと同時に吐き出したため息が、真っ白になって空気中に溶けていく。
ふと箒を掃く音が聞こえて、そちらを見たとき私は目を見開いた。
ガラルでは珍しい着物を着て、箒を使って古い旅館らしき場所の玄関前を掃いている、シアンがいた。
目を伏せて箒を掃く姿は、名画から切り抜いたようだけど、その下を向く姿にまるで全てを諦めてしまったように見える。
思わず声をかけるべきかどうか迷った、私がガラルの歴史を紐解こうと奮闘していた時に彼女はどれだけの苦しみと悲しみ、焦りを感じていたのか分からない。
少し話しただけで分かるほど、彼女は優しいから。
一瞬だが、彼女と目が合う。
何かを言わなければいけない気がした。
でも、何を言えばいいのか分からなかった。
私は驚きと、感じた罪悪感からすぐに目をそらして早足にその場から離れてしまった。