BRAVE STEP ―小さなお菓子屋さんを夢見て― 作:クレナイハルハ
夕方、温泉宿での仕事が一段落した頃。
私は宿に宿泊するお客さんに出す晩御飯の必要な食材で足りない物が出てしまい、買い出しを頼まれ買い物に出ていた。
せっかくの雪の町、ボールから出したグレイシアと一緒にキルクスタウンの道を歩く。
グレイシア自身は確かに雪道だけど、で?みたいなジト目を頂いてしまった。
喜ぶかと思ったけど、室内でゆっくりする方が好きみたいだ。
口から漏れる息が真っ白な煙となって宙に溶けていくのを眺めていると、前世の冬みたいだなと感じる。
ガラル地方、いやポケモンの世界では町の外に出れば、たちまち暖かかったり暑かったり、砂嵐が起きていたりと気候が変動している。
春夏秋冬と季節が分かれている前世を知る限り、どんな仕組みでそんな風に天候が変わるものなのか、不思議でならない。
ジムもそうだ、室内でも一面が氷だったり、ローラースケート場だったり忍者屋敷だったり、ロッククライミングする壁があったり、温泉だったり、プールだったり……割とアニメもゲームもジムは何でもありだったと思う。
「寒いな……でも、いつも着てた服より寒くないし着物って思ったより暖かいんだなぁ」
初めて来てから着物が若干ハマって来ているのが、少しだけ面白いかも。
前世では着物なんて着る機会なかったし。
以前に女将さんから聞いた話だと、かなり有名な
宿が繁盛していた時に、たまったお金で結婚記念日にプレゼントされたとのこと。
そのことがよっぽど嬉しかったらしく、ニコニコと思い出し笑いをしながら話してくれた。
歳をとっても、仲が良いようで何よりです。
さて、おつかいの買い物の件だが、板前のおじさん曰く宿の料理には欠かせないスパイスが足りなくなってしまったらしい。
女将さんは宿を離れるわけには行かないので、アルバイトをしている私が選ばれこうして出掛けているのである。
それにしても、午前中に降っていた雪が止んで曇り空から晴れた空になっている、もしや誰かがポケモンバトルで『にほんばれ』でも使ったのだろうか?
違うならば、こうした晴れた時は、主人公が今から何らかの行動を起こす前。
もしくは、起こした結果なんだろうなぁ。
そんな事を考えながら恐らくはお気に入りのチャレンジャーのジムバトルを見に来たのであろう人達の集まるキルクスタウンの英雄の湯前を通りすぎようとした。
その時だった。
「決めるよエースバーン!"かえんボール"!」
「耐えてくれゴリランダーッ!頼むッ耐えてくれぇ!!」
そんな聞き覚えのある叫びともとらえられる指示と同時に、小さな爆発が聞こえて思わず足を止めた。
見ればポケモンバトルをしているユウリとホップ、そして互いにボロボロになりながらも立っているエースバーンの姿と倒れ付したゴリランダーの姿。
そして、そんな二人から少し離れた場所にバトルを見守っていたのであろうソニアさんの姿が見えた。
「くっそー、また負けちまった。でも、ユウリに勝つ道筋が見えた気がする。ユウリ!今度は──」
「うん、今度は──」
「「セミファイナルトーナメントで!!」」
互いにポケモンをボールに戻すと、互いに歩みよりホップとユウリが握手しながらそう話す。
するとそんな二人の様子を見ていたソニアさんが
拍手しながら二人の健闘を讃えた。
「いやぁすごいポケモンバトルだったね二人とも!この調子でダンデの無敗記録を破って新チャンピオンになっちゃいなよ!」
「「がんばります!」」
ハモリながらも、決意を言葉する二人とソニアさんの姿を見ていて、私は少し感動していた。
だって、ゲームでは物語を進めるために必要なライバルとの強制的なポケモンバトルイベント。
数分で終わるものだ、でも目の前に写っているのは、とても感動的な光景だ。
バトルを見れたのは最後の一瞬だけ、でも互いに切磋琢磨し鍛えたポケモンで火の粉が舞うような熱いバトルが繰り広げられていた事が簡単に想像が出来る。
「凄い、さすがは主人公達だ」
私には絶対に出来そうにないポケモンバトルを終えた二人を見ていると、先程までの地面を歩いてきたグレイシアが私の肩に飛び乗ってきた。
「わっとと、どうしたの?」
急に重りが肩に乗ってきた事で若干の重さによる苦しさと衝撃に耐えつつそう言うと、グレイシアは私の頬に顔を寄せてすり寄ってきた。
まるで「気にしなくていい」と言うみたいに。
そういえばとスマホロトムの時計をみる、少し急いで温泉宿に戻らないと。
踵を返して英雄の湯に背を向けて歩き出そうとした次の瞬間、グレイシアがぴょんと私の肩から飛び降りて私の方を振り返る。
まるで早く行こうと伝えているように感じて笑いながら一緒に早足で宿へと向かった。
ソニアさんと別れた私とホップはお互いに今日の宿を取るのを忘れていた事に気付いて、慌ててポケモンセンターへと向かった。
今はジムチャレンジ期間、私やホップのようなチャレンジャーがポケモンセンターに泊まる事は当然あるのだけど、人が多ければ泊まれないなんて事は普通にあり得る。
急いで向かった結果、キルクスタウンのポケモンセンターの部屋は満室で宿泊が出来なかった。
取りあえずホップと私はポケモン達を回復して貰い、急いで今日の宿を探すことになった。
ワイルドエリアでキャンプするように、町の近くの道路でテントを立てる選択肢もあるのだけど、私とホップはジムチャレンジや先ほどのポケモンバトルで疲れていた。
正直、もう一歩も歩きたくないくらいだった。
可能なら、早く宿を見つけて横になりたい。
スマホロトムで見れば、町の中央は既に満室の宿やホテルが多く表示されており、私達は微かな希望を求めて、こうして町の端の方へと向かっていた。
夕暮れとなり、暗くなり始めた時だ。
少し古い温泉宿が見えた。
ガラルでは珍しいカントー地方やジョウト地方のような作りの建物で、入り口らしき場所には木で作られた小さな板があり「空き室あり」と文字が掘られている。
「見てホップ!あそこ、空いてるって!」
「ようやく休めそうだゾ……何部屋空いてるか分からないし、早く受付した方が良さそうだな」
急いで宿の入り口でガラルでは珍しい引き戸の玄関を開く、石で作られた玄関には靴箱があり、履き替えようのスリッパが入っている。
ガラルでは珍しいカントー地方やジョウト地方のような作りの室内だ。
「カントー地方やジョウト地方の旅館みたい……」
「ガラルであんまりこういう宿は見たことがないんだゾ」
ガラルでは珍しい作りの宿に思わず見いっていた私とホップを他所に、パタパタと早足に此方へと向かってくる足音が聞こえた。
「お、おまたせしました!いらっしゃいませお客様……え?」
一瞬、時間が止まった。
少し慌てた様子で現れた店員はガラルでは見掛けない着物を着ていた、そしてその店員の見覚えのある白い髪に顔。
ジムチャレンジを一緒にしているが最近、全く音沙汰のなかったシアンだった。
「シアン!?なんでここに、それにその格好は?」
「えっと、住み込みのアルバイトかな。少し金欠で……」
「それで、ここでアルバイトなのか?」
「その服凄い似合うよシアン!確か、キモノ?だっけ?」
「う、うん。ありがとうユウリ、取りあえず二人ともお客さんでいいんだよね?今受付に案内します」
そう言いながらシアンに説明された通り、靴を脱いで玄関の靴箱にしまう。
そしてシアンに案内され廊下を歩きて暫くすると、受付に恐らくはこの温泉宿の人らしい着物を着たおばさんがいた。
「此方が受付になります。女将さん、お願いします」
「案内ありがとねシアンちゃん。さて、よくいらっしゃいましたお客様……あら、ジムを突破した有名なチャレンジャーさん達じゃないの」
「こんにちわ、シアンがお世話になってます!」
「おや、知り合いなのかい?」
「オレ達は友達なんだぞ!」
おばさんは驚いた様子をみせると「そうだったのかい」と呟き、申し訳なさそうに口を開いた。
「シアンは働き者でいつも助かってるよ、所で宿泊なんだけど残り一部屋しか残ってないんだ」
「そ、そうなんですか……」
ど、どうしよう?
残り一部屋しか残ってないなら私がホップのどちらかがまた宿探しに外に出ないと……。
「だけど、あなた達がシアンの友達なら男の子の方が残りの部屋に宿泊して、女の子の方は今シアンが使ってる部屋に一緒に泊まって貰えばいいんじゃないかい?今から宿を探すのは大変だろう」
そう言いながらおばさんはシアンの方を見る、シアンはすぐに「ありがとうございます」とおばさんに話して軽く頭を下げる。
おばさんがホップを部屋に案内するらしく、私とホップはそこで別れて、私はシアンが使っているという部屋に案内して貰った。
「ここが、私が使わせて貰ってる部屋だよ」
「ここかぁ、いい部屋だね!」
「う、うん。そうだ、お布団は敷いておくからユウリは温泉に入ってきていいよ」
「ありがとシアン。じゃあ先に入ってくるね!」
そう言ってユウリが大きな荷物を置いて、部屋から出ていった。
一人になった部屋で、私は他の部屋から持ってきた布団を床に敷いていく。
久しぶりに会ってもっとこう……色々聞かれると思っていたのに、何も聞かれなかった?
布団を敷く手が、ほんの少しだけ止まる。
……あれ? 私、安心してる?
詳しい情報を聞かれなくて、ほっとしてるはずなのに。
それが、少しだけ──寂しいと思ってしまった。
「……変なの」
小さく呟いて、私はまた手を動かした。
温泉へ向かう廊下を歩きながら、私は小さく息を吐いた。
「……シアン、変わったなぁ」
前……ジムチャレンジが始まったときから、どこか無理して笑ってた気がする。
でも今は、なんだか、落ち着きすぎている。
それが、いいことなのか分からない。
でもまるでジムチャレンジに、参加していないみたいな感じがする。
シアンも私のライバルだとそう思っていたけど、気がつけば私とシアンの距離は大きく離れていた。
……離れていた、じゃない。
私が、進んでしまっただけだ。
置き去りに、していた。
気がつけば、私のとなりを歩くライバル達からシアンの姿が消えていた。
マリィもホップもあと少しのところまできているのに、シアンだけはあそこから変わらない。
足を止めて、少しだけ振り返る。
「私、シアンと普通に話せていたかな」
そう呟いて、胸の奥に残る小さな違和感を振り払うように、私は温泉へと向かった。
今回の話で、リメイク以前の内容に追い付きました。
今後の更新はかなり遅めになると思います。