BRAVE STEP ―小さなお菓子屋さんを夢見て―   作:クレナイハルハ

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STEP28─隠された歴史─

キルクスタウンの夜は静かだ。

昼間はジムチャレンジを見に来た人達で賑わっていた通りも、今は雪の音だけが支配している。

そんな中で、ソニアは宿の一室で資料とにらめっこしていた。 

 

「……ふぅ」

 

小さく息を吐いて、肩を回す。

机の上には、古びた文献やメモ、スマホロトムにまとめたデータが表示されている。

ガラルに伝わる“二人の英雄”の伝承に隠された剣と盾のポケモン。

 

そんな伝承の中から消された"聖女"。

 

「英雄の方は、まぁ情報が多い分、やりやすいんだけどね……」

 

伝承も多い分、剣と盾の伝説のポケモンと二人の英雄。

そこははっきりしている。

 

「でも、聖女の方は、どうにも曖昧すぎるのよねぇ……」

 

そもそも、聖女と敬称を着けたのは私だし。

聖女についての文献のページをめくる、そこに書かれているのは、どれも似たような内容だ。

災厄の時代、人々を導いた存在。

英雄の活躍するなかで共に戦ったと思われる存在。

 

そこまではいい。

 

「……その後が、ない」

 

ぽつりと呟く。

英雄とポケモンがどうなったか、それはおいしんボブにあるタペストリーで分かった。

問題は聖女について。

戦いの後、どうなったか。

どう語り継がれたか、分からないのだ。

 

「そんなわけ、ないでしょ」

 

タペストリーがあるのだ、きっとタペストリーに描かれた聖女と仮定した少女がどうなったのかも書いている人がいる筈。

開いていたページをもう一度見返す。

別の資料も手に取る。

 

「聖女って……どんな存在だったのかしら」

 

見た限り、伝説のポケモンを使役していたと考えるべきかよね。

そんなことを思いながらページを捲ろうとした、その時だった。

 

ぱらり、と。

ページをめくろうとした指先に、わずかな引っ掛かりを感じた。

 

「……ん?」

 

紙の端が、不自然に浮いている。

まるで上から、貼り付けられていたみたいに。

慎重に爪を差し込む。

ぺり、と。

薄く重ねられていた紙が、静かに剥がれ落ちた。

 

「あれ?」

 

拾い上げると、それは他の資料とは違う、随分と古びた紙だった。

まるで誰かが後から挟んだみたいな。

そこに書かれていたのは、見たことのない本と同じ材質の紙。

これまでのパターンからその文を読み解いていく。

 

"これは貴族により、存在を消された聖女について記したものである" 

 

「これはっ!?」

 

今まで気付かなかった、新たな歴史を紐解く鍵に違いない。

そう思いながら、これまでの文章や文字のパターンから書かれたいる内容を解読していく。

 

"災いにより変化したポケモン、苦しみのなか一人の少女の祈りにより浄化され本来の姿を取り戻す"

 

"その祈りは、ただ癒すものにあらず。

ポケモンの在り方そのものを書き換える奇跡であった"

 

"ポケモン、少女の祈りを経て新たな姿となりて災いへと立ち向かう"

 

"少女は二人の若者と共に災いを退けた"

 

"二人の若者は英雄と呼ばれ、彼らと共に戦った剣のポケモン、盾のポケモンは深い眠りについた"

 

"少女は聖女と呼ばれ、多くの民衆からの支持を得た。彼女の救ったポケモンは、彼女と寄り添い続けた"

 

……そこまで読んで、指が止まる。

 

「ここまでは……今分かっている情報ね」

 

"民は王ではなく、聖女の言葉に耳を傾け始めた"

 

"貴族は自身の権力の失墜を恐れた"

 

「……なるほど、そう来るのね」

 

小さく呟く。

 

予想はしていた。

でも、実際にこうして記されていると――重い。

思わず眉をひそめる。

 

"英雄は二人ではなく一人とされ、剣のポケモンと盾のポケモンはその存在を抹消された"

 

"聖女は民衆の支持と、ポケモンの姿を変化させる程の祈りを、貴族は恐れ聖女は敵国の間者として捕縛した"

 

「間者……スパイってことよね?」

 

そんな都合のいい話があるわけない。

これは罪じゃない。

罪に“見せかけるための理由付け”だ。

 

"戦争をしていた敵国と、少女の祈りがポケモンの姿を変化させる現象は似ていた故だった"

 

"聖女は抵抗せず、その身を差し出したという"

 

"聖女はポケモンと共にこの国を追放された"

 

「……追放」

 

その単語を、ゆっくりとなぞる。

胸の奥が、嫌な音を立てた。

これで、全てが繋がったような気がした。

ガラル地方に伝説ポケモンの存在が伝わっていない理由、本来二人いた英雄と存在を消された聖女。

 

"その時、彼女に寄り添うポケモンは激しく怒り狂ったが、聖女はただ一言『大丈夫』と告げ、それを鎮めた"

 

"追放された聖女は、何も言わずポケモンと共に姿を消した"

 

それは処刑ではない、けれど“存在の抹消”と同義だ。

 

"故に、彼女の名も功績も記録より削除されることとなった"

 

"これは後世に伝えるべき、真実を記したもの"

 

"どうかこの書物が、正しき心を持つ者へ渡ることを祈る"

 

「ありがとう、この本を残してくれて。私が、この真実の歴史を伝えて見せる」

 

紙を持つ手に、わずかに力がこもる。

 

「そういえば聖女は追放されたあとどうなったのか、描かれてないわね……」

 

別の地方や国へと逃げ延びたのか、それとも亡くなってしまったのか。

それは分からない、でももし聖女が生きていて他の地方で生きていたのなら、きっと彼女の子孫が何処かにいるかもしれない。

 

そう思った瞬間、私は思い出した。

 

『やっぱり、隠されてるんだね』

 

あの時の声が、妙にはっきりと思い出される。

初めて、シアンと出会ったその時。

彼女がターフタウンの地上絵を見て呟いていた言葉。

 

「まさか……そんなの」

 

あり得ない。

そんな都合のいい話、あるわけがない。

でも……もし、仮に───。

 

そこまで考えて、思考を止める。

 

頭の中に浮かんだ一つの仮説。

ガラル地方を追放された聖女の子孫。

もしくは生まれ変わり。

あまりにも当てつけで、あまりにも現実味のない推察。

妄想だと言われても納得してしまうような荒唐無稽の仮説。

でも、その仮説で考えるならばあのときの言葉の意味が納得できる。

あの、諦めたような悲しむような声色で呟いていた言葉。

スマホロトムに保存したタペストリーに描かれていた、背中から翼を生やした白と黒のポケモンを確認する。

スマホロトムの検索機能を使って、タペストリーに描かれていたポケモンらしき存在を検索する。

似ているポケモンの姿がヒットすれば、この伝説のポケモンと思われる存在についてのヒントになる筈。

そう思っていたとき、スマホロトムが検索の終了を告げる。

スマホロトムの画面に表示されたのは、メガアブソルというポケモンだった。

 

「……メガ、アブソル?」

 

四足、背中の翼、変化した姿。

タペストリーの絵と、頭の中でぴたりと重なる。

メガシンカ、その言葉に即座に教会の地下で見つけたタペストリーの写真を確認する。

タペストリーに写るポケモンの変化、最初のタペストリーに移る真っ黒なポケモンは分からない。

でも二枚目と三枚目のポケモンらしき存在の特徴は、アブソルと一致する。

今まで私は聖女と共にいるポケモンは、伝説のポケモンとばかり考えていた。

剣と盾のポケモンが伝説のポケモンであるなら、このタペストリーに映ったポケモンもその筈だと。

祈りによる変化、それがもし、メガシンカだとしたら。

繋がる、一つじゃない。

点と点が、勝手に線になっていく。

祈り、ポケモンの変化、寄り添う存在。

そして――あの子の言葉。

 

「……嘘、でしょ」

 

否定したいのに、

頭の中では、もう結論が形を作り始めている。

 

繋がってはいけないものまで。

 

「……もし」

 

ぽつりと、呟く。

もし本当にあの子が――。

そこまで考えて、背筋に冷たいものが走る。

 

「……やめましょう、ありえないわ。現実的に、しっかりと証拠を見つけて結論を着けないとおばあ様に怒られちゃうわ」

 

考えるのを、やめた。

 

でも一度浮かんだ仮説は、もう消えてはくれなかった。

まるで、最初からそこにあった真実みたいに。

 

「今日は切り上げて休もうかしら!」

 

背伸びをしながら、私はベッドへと向かった。

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