BRAVE STEP ―小さなお菓子屋さんを夢見て― 作:クレナイハルハ
セミファイナルトーナメントが行われるシュートシティのシュートスタジアム。
そこではまるで大地を揺らしているような錯覚すら感じられる大きな歓声で盛り上がっていた。
勝ち上がったチャレンジャー同士のポケモンバトルは、凄く見応えがあり胸が熱くなるものを感じた。
原作通りマリィとユウリ、ホップは原作とおり他のチャレンジャーと対戦した。
ユウリとマリィはユウリが勝利し、ホップは対戦相手に圧勝した。
流石は未来のチャンピオンとそのライバルだなと、歓声の中静かに笑う。
でも、それと同時にこれから先の物語を考えて体が震える。
ローズ委員長によるムゲンダイナの復活、そしてそれよりナックルスタジアムでダンデがムゲンダイナと戦い、追い込んで捕獲する。
だが捕獲は叶わずモンスターボールは爆発、そして爆発するムゲンダイナのエネルギーから庇いダンデとダンデのリザードンは膝をつくことになる。
目の前がゲームではないと知ったからか、考えてしまう。
少しでも、私に何か出来ないだろうかと。
ダンデさんが背負いすぎて少しでも傷付かない未来を。
少しでもユウリやホップがムゲンダイナとの戦いで傷付かない明日を。
自分に出来ることはなんだろうと、そう思ってしまう。
怖いし、どう未来が変化するかも分からない。
でも、やらないよりはやった方が……良い。
何もしないで後悔するくらいなら、きっとその方がいい。
そんな事を考えていると、セミファイナルの最後の試合の選手がフィールドへと現れる。
ユウリとホップ、その二人がフィールドの真ん中で言葉を交わすが当然だが二人にはマイクなんてついているわけでも無いので何を話しているかまでは分からない。
でもそんな二人の様子に、自然とゲームでの会話を思い出した。
ゲームでの話していたホップのセリフ、何故かホップの口の動きから、そう話しているような気がした。
そのタイミングで、ドローンロトムが二人の元へと飛んで行く、すると二人の声がフィールドへと聞こえてくる。
「あの日の約束を果たす!いいか、勝つのは俺だぞ!」
「私だって、負けないよホップ!」
二人が真剣な瞳で見詰めあった次の瞬間、両者がニヤリとクチを笑わせ同時に口を開いた。
「そして私が、シアンの作るお祝いケーキの味を決めるんだから!」
「そして俺がシアンの作るお祝いケーキの味を決めるんだゾ!」
その言葉が聞こえた瞬間、私は思わず頭が真っ白になった。
いやまって、二人とも?
ちょ、ここでいう必要あるーっ!?
瞬間、モンスターボールが一つ開いて私の膝に現れたグレイシアは血眼で周囲を見渡しだした。
もしかして、ケーキって単語で出てきた?
……いや、なんでそんな物騒な顔してるの。
ユウリとホップの衝撃にグレイシアの衝撃と思わず先ほどまで慌てた自分が、急に落ち着いていく。
……でも同時に、胸の奥が少しだけ軽くなる。
この戦いを見届けたら、少しだけ動いてみようかな。
私なりに、この世界を生きていくために。
あれから、ホップとユウリの戦いは原作通りユウリが勝利した。
スタジアムに響く歓声が落ち着いたころ、私はアーマーガアタクシーに乗ってハロンタウンへと帰ってきていた。
ユウリとホップは原作通りにダンデさんに誘われて一緒にご飯を食べに行っている筈だ。
ここに来る原作キャラはいないだろう。
そんなことを考えながら、ハロンタウンの外れ、柵が設置されているまどろみの森の入り口へ私は来ていた。
私なりに出来ることの一つは、伝説のポケモンであるザシアンとザマゼンタにユウリとホップのことをお願いするだけ。
きっと
まどろみの森、奥にザシアンとザマゼンタが眠る場所があり霧が立ち込めている事が特徴的なそこは、何者も入ってはならないとされている。
もう少ししたらホップとユウリがザシアンとザマゼンタの力を借りようとこの地に来るという、『くちたたて』と『くちたけん』を拾うというイベントが始まる。
だから、その前に。
深く息を吸い込む
いをけっして、柵を乗り越えまどろみの森へと入る。暫く歩くと、突如として霧が濃くなってきた。
まだザシアンとザマゼンタの姿も遠吠えも聞こえない。
あれは、恐らくはゲームだからこそ起こるであろう主人公のイベント。
当然だが私に起こることはない、起こらなくていい。でも霧が出ているなら、可能性はあるかもしれない。
私は胸の前で両手を拝むように組ませて、目を瞑る。
「ザシアン、ザマゼンタ。人のエゴにより忘れ去らた、眠りし英雄よ。どうか、私の言葉に耳をお貸しください」
相手は伝説のポケモン、だからこそ普通に声掛けではなく、それらしい言葉遣いで言葉を紡ぐ。
「まもなく、ブラックナイトが復活させられムゲンダイナが現れこの地方を襲うでしょう。どうか、それを解決するためここへ来る二人の若者、ユウリとホップに、その力をお貸しください。」
目を瞑り、暫く待つが返事がない。
やっぱり、無理なんだと思っていると近くに何かの気配を感じて少しだけ身体が固まる。
これがもし野生のポケモンなら、私は普通に大怪我をしてしまうから。
『ウルゥーーード………』
暫くして、何処か聞きなれた大地を蹴る音と共にゲームで聞いた遠ぼえが貸すかに聞こえた。
その遠ぼえに驚き、思わず身体が反応して瞼を開けた。
まどろみの森に入る入り口の柵を越えた場所だった、確かにまどろみの森に入った。
なのに、私はまどろみの森の入り口に立っている。
確かに、奥へ進んでいたはずだった。
数分は、歩いたはずなのに。
……なのに。
私は、最初に越えた柵のすぐ内側に立っていた。
思わず周囲を見渡していたとき、足が何かにぶつかりチャリと金属のような音が聞こえて足元を見下ろす。
そこには、ネックレスのような物が落ちていた。
まるで、最初からそこに落ちていたような気がするソレはここへ入る前は絶対に無い筈の物だった。
革ひもらしき物の先についたひし形の飾りらしき物がついている。
それを初めて見た筈なのに、私は何故か懐かしいと思った。
思わずしゃがみ、ソレを掌に乗せる。
見れば菱形のそれの中央に、荒く削られた虹色の鉱石らしき物が嵌められていた。
目に近付けて良く見たとき、初めてそれがキーストーンだと気付いた。
「どうして、キーストーンが」
私が貰った丸くてすべすべした感じのキーストーンとはちがう、ざらざらごつごつとした感触がアニメやゲームで見てきた恐らくは加工品であるソレとは全く違う。
メガシンカ使いはガラルにはいない筈、それにメガシンカ使いがキーストーンを捨てるなんてミスはしない筈だ。
それなら、どうしてこんな所に……。
拾った瞬間、何処か戻ってきたような変な感覚が胸の奥を走った。
どくん、と。
心臓の鼓動が、妙に大きく響く。
いや、違う……今のは心臓じゃない。
私は服のなかにいれているキーストーンを取り出すとコルニ姉さんから貰ったキーストーンが嵌められたネックレスが淡く光っていた。
メガシンカする時とは違う現象に戸惑っていると手に持っていた革紐のついたキーストーンがまるで共鳴するように淡く光る。
何の気なしに、キーストーン同士を近付けていく次の瞬間。
メガシンカを使うときのような眩い光がその場に広がる。
思わず目を瞑る、そして暫くして瞼を開ける。
何故か私の手にあったキーストーンのついた装飾は消えており、見ればコルニ姉さんから貰ったネックレスのキーストーンの裏にくっついていた。
まるで最初からそうであったように。
「えぇ!?これ、一体何が………」
次の瞬間、視界が白く染まる。
『──ごめんなさい』
目の前には、私の姿と瓜二つの少女がいた。
彼女は申し訳なさそうに目を伏せており、頭に白いヴェールのようなものを被っている。
まるで、シスターみたいだ。
彼女の顔を見た瞬間、息が詰まった。
似ている、なんて言葉じゃ足りない。
鏡を見ているみたいで、でも、何か違う。
もっと静かで、もっと優しくて、
そして、どこか壊れそうなほど儚い。
「……あの、誰ですか」
そう問いかけたはずなのに。
胸の奥では、もう答えを知っている気がした。
ソニアさんと教会の地下でタペストリーに触れたあの日、見た途切れ途切れの記憶。
違和感しか感じられない筈なのに感じた、その記憶への懐かしさ。
きっと、この身体と魂が持つ前世の記憶なのかもしれない。
『ごめんなさい。あなたに、全部を背負わせてしまって』
その声を聞いた瞬間、知らないはずの光景が脳裏を過ぎる。
燃える空、泣き叫ぶポケモン。
祈る自分の手。
「……っ!」
『──あの時、終わらせたはずだった』
少女は静かに言った。
『でも……私たちでは、ダメだった。あの子たちと共に戦っても……ブラックナイトを、完全に沈めることはできなかったの』
ほんの少しだけ、少女の声が震える。
『だから今も、こうして……また同じことが起ころうとしている』
一歩、こちらに近づく。
『ごめんなさい。本当は……私たちの時代で終わらせるべきだったのに、それをあなたに背負わせてしまう。でも』
彼女は、伏せていた目を此方へと向ける。
その瞳には優しさが籠っているようだった。
『あなたは、私じゃない。たとえ同じ魂でも、同じ運命でも、あなたは、あなたとして生きていいの。だから───お願い。』
『繰り返しちゃいけない……あの悲劇を終わらせて。ブラックナイトを、ムゲンダイナを今度こそ』
「ごめんなさい……」
私は、小さく首を振る。
それは私の役目じゃない、ユウリの……主人公の役目だから。
「私は……ブラックナイトを倒すことは出来ません。ポケモンバトル、苦手だから」
少しだけ苦笑して、それでもはっきりと告げる。
「でも!ムゲンダイナのことは……きっと、大丈夫です」
目の前の彼女はわずかに目を見開く。
「ユウリがいます。彼女なら……捕まえます!ムゲンダイナを」
一瞬の沈黙、そして少女はかすかに首を振る。
『また……同じことが、繰り返されてしまう。あの力は……人の手には、余るものだから』
その言葉に、私はゆっくりと首を振った。
「いいえ。同じには、なりません」
少しだけ、言葉を選ぶように息を吸う。
「だってユウリは……ムゲンダイナと、戦うだけじゃない。ちゃんと、向き合って……きっと一緒に歩こうとする人です」
『……どうして、そう言えるのですか』
その問いに、少しだけ迷う。
きっと、ユウリが主人公だからと言ってもこの人は納得しない。でも、それなら別の伝え方をすれば良いだけだ。
「……私は」
静かに、笑いながらはっきりと告げる。
「未来を知っているんです。でも、それは絶対じゃない。それでも……そうなるって、信じられる未来があるんです」
目の前の少女の目を見開き、口をポカンと開けた。
「ムゲンダイナが……ユウリと一緒にいる未来。戦いの先で、ちゃんと、終わらせられている未来を」
『……そう、ですか』
少女は、ほんの少しだけ微笑んだ。
『それなら今度は、きっと大丈夫かもしれませんね』
そう言うと少女はその手を私へと向けて翳す。
私の胸元に出ていたネックレスについた二つのキーストーンが、少女の手に反応して光りだした。
そして次の瞬間、脳裏に浮かんだのは私の知らない姿へとメガシンカアブソルが大地を踏みしめて咆哮をあげる光景。
『貴方なら、私が鎮める事しか出来なかったあの姿を……きっと、上手く扱えるかもしれませんね』
「いや、さすがにあなたのアブソルは私のアブソルとは違いますし」
『ふふ、そうでしょうか。あなたが知らなくても、あの子に少なくとも片鱗はありました。これから、あの姿について分かっていくでしょう。』
何処か悪戯っぽく笑いながら、先程までの儚さとは違う溌剌とした様子で彼女は言った。
『私の祈石を託します。任せましたよ、シアン』
「え」
『貴方は彼らとも違う、共に戦うのでなく導く存在でありなさい』
次の瞬間、目の前の景色がまどろみの森へと戻っていた。
そんな現実が、先程までの現象を夢だと考えそうになるがネックレスにキーストーンが二つ着いている事から、これまでの出来事を現実だと教えてくれた。
なんだか、変な感じ。
私はこのポケモン世界の主人公じゃない、そう思ってきたけど実はガラルの歴史から消された聖女の転生体?で、何故か彼女のキーストーンを託されてしまった。
「アハハ、あれだけ主人公じゃないと思っておきながらこんなの……あり?」
いつからか私は自分が主人公じゃないからと、自分を少しだけ押さえ気味だったかもしれない。
うん、そうだ。
私は私の人生という本の主人公だ。
だから私は、私が心からやりたいと思うことをする。
別に、お菓子屋さんの夢が変わった訳じゃない。お菓子屋さんになりたいことも、主人公になりたくない事も同じだ。
でも今、私ができて……やりたいことをしたい。
だから………私は、原作から目を背けない。
私に出来る形で、この未来に関わる。
私は覚悟を決めた。
次の日、ナックルスタジアムにダンデさんやユウリ達が到着するまで、私はアブソルと一緒にムゲンダイナを少しでも弱らせる。
戦うためじゃない。
あの人たちが来るまで、少しでも被害を減らすために。
きっと、それが今の私がしたいことだと思うから。