BRAVE STEP ―小さなお菓子屋さんを夢見て― 作:クレナイハルハ
場所は変わり、まどろみの森。
その出口にソニアは立っていた。
ローズ委員長のブラックナイトを起こすと言う宣言と共に行われたムゲンダイナの復活。
それを止めるため、過去にブラックナイトを沈めた英雄を、伝説のポケモンザシアンとザマゼンタを呼び起こすためにユウリとホップはまどろみのも森の奥地へ向かっていった。
あの二人を信じるなら、ここにザシアンとザマゼンタを呼び起こすための何かがある。
二人がその何かを掴んで戻ることを祈りつつ、幼馴染みでもありチャンピオンとしてムゲンダイナへと向かったダンデが無事か不安になる。
すると、スマホロトムから一つの通知がきた。
確認するとそれは、ナックルスタジアムの上。
ムゲンダイナが映った動画だった。
こんなときに動画を回すなんて、とそんなことを思いながらもその動画を確認する。
少しでも、ムゲンダイナを止めるための何かを掴むために。
そして動画が再生される、動画に映っているのは宙に浮かび戦闘するムゲンダイナと、ムゲンダイナの周囲を飛び回りながら攻撃をするダンデのリザードン。
そして、リザードンへと迫るヘドロばくだんやかえんほうしゃを遮るように紫色の光を纏った斬撃が跳び、生成されたヘドロばくだんや口らしき場所から放たれるかえんほうしゃを妨害する。
ダンデくん、リザードン以外にもポケモンに指示を?
そんな疑問を浮かべた瞬間、それが映った。
真っ白な体に大きな翼が特徴的なポケモン、まるでシアンと見つけたタペストリーに描かれていたあのポケモンとそっくりだった。
慌てた動画を隅々まで確認するが、数秒だけソレが映っているのを見つけた。
リザードンへと指示を飛ばすマントを羽織ったダンデ、そしてダンデの後ろでまるで祈るように両手を組真っ白な髪の少女。
「うそ、そんな……まさか」
心臓が、嫌な音を立てて跳ねる。
見間違いであってほしいと、思ってしまった。
解像度が低いけど、もし私の予想が確かなら間違いなくあの子だ。
違うことを祈って、震える指でシアンへ通話をかける。
呼び出し音が、やけに長く感じた。
出ない。
もう一度かける……それでも、出ない。
動画にあるのは、リザードンをサポートするように立ち回るメガアブソルと胸の前で両手を組んでいるシアンの姿だけだった。
あの子、戦ってるの?
バトルが苦手だと話していた彼女が、どうしてあそこにいる?
そんな疑問と共にスマホロトムから流れる映像に、ふと過去にシアンと見つけたタペストリーの三枚目の絵が脳裏を過る。
"ポケモン、少女の祈りを経て新たな姿となりて災いへと立ち向かう"
以前に立てた非現実的な仮説。
シアンはかつてガラル地方を追放された聖女の子孫、もしくは生まれ変わりではないか。
あり得ないと考え、捨てたはずの空論。
でも、目の前にあのタペストリーを再現するかのような光景がある。
もし、彼女がそうならあの教会での出来事も納得できる。
なぜ、教会の地下がこれまで発見されなかったのか。あの仕掛けをしるものしか、解けないからだ。
彼女は、ガラルの歴史を解き明かそうとする私を、真実へ導いてくれた。
改竄された歴史から、正しい歴史を探して伝えてくれる人物を探して私へ。
「シアン、貴方は………」
「ソニアー!」
「ソニアさーん!」
その手に一見、ボロボロな盾と件らしきものを手にまどろみの森から帰ってきたユウリとホップ。
ザシアンとザマゼンタはどうなったのかとか、そう言ったことを聞こうと思っていた。
でも、今の私はそれを伝えられなかった。
「二人とも、早くナックルスタジアムへ行くわよ!すぐにでも戻らないと」
「そ、ソニアさん?」
「どうしたんだソニア、もしかして兄貴に何かあったのか!?」
私の焦りに、ユウリとホップが先程までの希望を見いだしたものから不安げな物へと変化する。
そんな二人を見て私は、深呼吸をした。
ダメね、子供を不安にさせるなんて……私もまだまだ子供なのかもしれないわね。
そう思いつつ、スマホロトムの映像をそのまま二人へと見せる。
「これを見て、早くナックルスタジアムに行かないといけない理由は分かるわね?」
スマホロトムの映像を見た二人は目を見開いた。
「ダンデさんと、シアン?」
「アイツ、バトルが苦手なのに何をしてんだ!?ユウリ!早く兄貴達の所に行くんだゾ!」
「………凄い」
「え?」
「シアンのアブソルだよね、ダンデさんのリザードンにムゲンダイナの攻撃が向かないように、動いている。しかもシアンはほとんど指示をしていない」
「これがアイツの言っていた、アイツのバトル……あんな力があるのに、なんで隠してたんだ?あれならきっとジムを突破出来たんじゃ……」
そうか、シアンはきっとあの力をギリギリまで温存していた。
表向きはジムチャレンジが上手く行かず敗退したようにみせて、ずっとこの時、この瞬間を待っていたんだ。
ブラックナイトを終らせるために、聖女としての使命を果たすために。
私や二人にポケモンバトルが苦手だと話し、バトルを避けていた理由は聖女の記録を読んだ私には分かる。
出る杭は打たれるという言葉があるように、周りから裏切られることが嫌だった。
聖女が、その祈りの強力ゆえに貴族からありもしない間者という罪を作られ追放されたように。
「二人とも、これは後でダンデくんにも言うことだけどシアンのアブソルは……アブソルのあの姿はね。普通じゃないの」
「え?急に、何を…」
「まだ確証が持てなくて、二人にはまだ話していなかったことがあるの」
ユウリとホップが、真剣な表情でこちらを見る。
「ガラルの過去にブラックナイトを沈めたとされる二人の若者と伝説のポケモン、ザシアンとザマゼンタ。隠されていた伝説のポケモンの他に、ガラルの歴史から隠されていたことがあったの」
「隠されていた、こと?」
「いったい、なんなんだ?」
「過去のガラル地方で起きたブラックナイトを沈めるために戦った二人の英雄と伝説のポケモン、その他に“聖女”と呼ばれる存在がいた」
「聖女?」
「聖女はポケモンに祈りを捧げ、その力を引き出し……災い――ブラックナイトに立ち向かった存在よ」
ホップとユウリの表情が、困惑に揺れる。
無理もない。
こんな話、急に信じろという方が無理だ。
「……でも、それだけじゃない」
私は一度言葉を切った。
そこから先を説明すべきか迷う。
でも、ここから先を知る権利があるのはユウリやホップも同じのはずだ。
「その力が原因で、聖女は貶められて……ガラルを追放された。歴史からも、消されたの」
空気が、わずかに重くなる。
スマホロトムへ視線を落とす。
そこに映るのは、祈るように手を組むシアンと、異様な姿へ変化したアブソル。
「聖女の力は普通じゃない。使い方次第で、ポケモンの姿すら変えてしまう。」
スマホロトムに以前に教会の地下で撮影した聖女について記された小さな三枚のタペストリーを表示させ、二人に見せる。
「“ポケモン、少女の祈りを経て新たな姿となりて災いへと立ち向かう”……」
「この記述が今、目の前で起きてる。あり得ないって……そう思ってた。でも、違う……これはもう、“そうとしか考えられない”」
ゆっくりと、二人を見る。
「シアンは……その“聖女”に関係している可能性があるの」
その言葉に二人の表情が驚愕に染まる。
「血筋なのか、生まれ変わりなのかは分からない……でもねあの子が、自分の力を隠していた理由は分かるわ」
「……理由ってなんだよ。友達なのに相談もしないなんて少しだけ、悲しいんだゾ」
「そうだよ、友達なんだから相談してくれたって……」
理解はしているが、納得はしていない様子のホップがそう呟くような小さな声でそう呟く。
それに連鎖するようにユウリも少しだけショックを受けたような表情を浮かべていた。
大人には分かってしまう、友達とはいえ話せない相談というものが。
だからこそ、シアンが何も言わなかった理由は、分かってしまった。
「シアンはきっと、怖かったのよ。同じように……失うのが」
私の失うという言葉に疑問を浮かべる二人にゆっくり、分かりやすいよう言葉を選んで声にしていく。
「聖女のように、力を使ったせいで、大切なものを失うことになるんじゃないかって」
小さく息を吐く。
「だから、あの子は相談しなかった……いや、相談出来なかったの。きっとシアンにとって貴方達が、友達が大切で信じているからこそ……裏切られることが嫌だった。普通じゃないと、遠ざけられるのが怖かった」
私の言葉に、二人は黙り込んでしまった。
風が、森を揺らす。
ざわり、と葉が擦れる音だけが、妙に大きく聞こえた。
「…………でもさ」
沈黙を破ったのは、ホップだった。
拳を握りしめたまま、顔を伏せている。
「それでも……言ってほしかったんだゾ」
その声は、少しだけ震えていた。
「オレたち、友達だろ……?」
ユウリも、ぎゅっと唇を結んでから、小さく頷く。
「……うん。怖いのは分かるよ、でも……それでもシアンがひとりで抱え込むのは違うじゃん」
その言葉に、ソニアは一瞬だけ目を細めた。
ああ、この子ならきっと大丈夫だ。
「……そうね」
小さく、息を吐く。
「だからこそ、今から行くのよ」
顔を上げ、二人を真っ直ぐに見る。
「シアンは一人で戦ってる。ダンデくんと一緒とはいえ、本来ならあの場に立つ必要なんてなかったはずなのに」
スマホロトムの画面には、なおも戦い続ける姿。
祈る少女と、それに応えるポケモン。
「それでもあの子は、自分で選んであそこにいる」
──────だから。
「今度は、私たちが行く番よ」
一歩、踏み出す。
「過去の英雄でも、聖女でもない。“今”を生きる私たちが、あの子を助けに行くの」
その言葉に、ホップは顔を上げた。
迷いは、もうなかった。
「……当たり前だろ!」
強く言い切る。
「オレたちのライバルで、友達なんだゾ!」
ユウリも、しっかりと頷いた。
その瞳には、確かな意志が宿っている。
「行こう、ホップ!」
「おう!」
二人は同時に走り出す。
まどろみの森を抜け、その先……ナックルスタジアムへと。
ソニアも、その背中を追いながら小さく呟いた。
「……無事でいてね。シアン、ダンデくん」