BRAVE STEP ―小さなお菓子屋さんを夢見て―   作:クレナイハルハ

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STEP34─勇気の一歩と、その先へ─

メガアブソルが撹乱し、リザードンが鋭い攻撃をぶつける。

そんな二体のポケモンと戦うムゲンダイナは、ダンダンは攻撃を続けていた為か、攻撃をするスピードが遅くなっていた。

そしてリザードンへと指示を飛ばすダンデは、シアンのアブソルの動きに内心で驚きと感嘆の声を漏らしていた。

ポケモンバトルが苦手、なんの冗談だ。

彼女のアブソルも、彼女の指示も彼女たちのポケモンバトルとして成立している。

何ならば、この力があればジムチャレンジを勝ち進むのだって可能だろう。

だが、今はそれを考えるべきではない。

そう思い、最初と比べてかなり弱ってきている様子のムゲンダイナを見つめた、その時だった。

 

「シアン!ダンデさん!」

 

「兄貴!シアン!!」

 

背後から聞こえてきた声に、ダンデは驚きながら振り向く。

シアンは警戒したまま、背後から聞こえる声へとチラリと目を向ける。

そこにはまどろみの森から戻ったユウリとホップが立っていた。

 

「二人とも、心配して来てくれたのか。本当に強く、逞しくなったな」

 

あんなに小さかった弟が友達とジムを突破し、俺を心配してここへ駆けつけるまでに成長した。

ジムチャレンジを経て、強くそして逞しく育った弟とユウリの姿にダンデは心から感動した。

 

「だがもう大丈夫だ、ムゲンダイナは俺たちが追い詰めた!あとは暴走を止めるためにボールで捕獲するだけだ!」

 

そう言いながらダンデは取り出したモンスターボールを何処かフラフラと飛行するムゲンダイナへと投げた。

ムゲンダイナにボールがぶつかり、その巨体がボールへと吸い込まれていく。そしてムゲンダイナが入ったボールが城壁へと落ちてくる。

背後でムゲンダイナが捕獲されたことに安堵した様子を見せるユウリとホップ。

だが、ボールは――揺れなかった。

一度も、だ。

カラン、と軽い音を立てて転がるモンスターボール。

捕獲されたはずのそれは、まるで“中身が空”であるかのように静まり返っている。

次の瞬間。

ビキッ――と、嫌な音が響いた。

 

「なっ……!?」

 

ボールの中央に、ひびが入る。

そして、砕けた。

 

「リザードン!」

 

ダンデはリザードンを弟とそのライバルへと向かわせ、自分の近くにいる少女を庇うため抱き寄せる。

砕け散ったボールの残骸から、溢れ出すように紫黒のエネルギーが噴き出す。

だが、ダンデは自身が抱き寄せた少女を見て驚いた。

普通ならば恐怖や怯えがある筈なのに、彼女は両手を組んだまま、呼吸も荒くなく静かだった。

 

「アブソル、私とダンデさんの前に来て"まもる"!」

 

それは、的確でダンデ自身の事も考えた指示だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダンデさんに抱き寄せられながら、リザードンがユウリ達の元へと向かわせるダンデさんに私は即座にゲームのシーンを思い出した。

このボールから出てくる時のムゲンダイナの余波で、ダンデさんは傷付いた。

だからこそ、私がすることは分かっている。

 

「アブソル、私とダンデさんの前に来て"まもる"!」

 

メガアブソルはその大きな翼を広げ、大地を強く踏みしめ球形の透明なバリアを張る。

その瞳と顔には、指示された名前の通り絶対に守りたいという意志があった。

この世界における"まもる"は、全ての技を塞いでくれるような万能でチートのようなものではない。

喰らい続ければ"まもる"で張ったバリアを破壊されることなんて当たり前だ。

でも、今回のムゲンダイナとの戦いで殆んど技を受けていないアブソルの状態なら……メガシンカしたアブソルならきっと耐えられる。

胸の前で組んでいた両手をより力を込めてアブソルが耐えきることを祈る。

 

「グァァァァアアアアアアアアアッ!!」

 

ムゲンダイナが再び目の前に現れ咆哮をあげるなか、私とダンデさんの前ではムゲンダイナの広げた余波のダメージを受け、ボロボロになりながらも、しっかりと地面を踏みしめたっているメガアブソルの姿があった。

チラリと背後を見ればリザードンに守られたホップとユウリは無事な様子で、ボールから出てきたムゲンダイナへと目を向ける。

 

「くっ、まだあれ程の力がっ!?」

 

ダンデさんが驚きの声をあげるなか、ユウリとホップが私やダンデさんに走りよってきた。

 

「兄貴!大丈夫か!?」

 

「シアン!怪我はない?無理してない!?」

 

そんな二人に私とダンデさんは無傷であることを伝え、改めて目の前のムゲンダイナへと向き直る。

 

「ユウリ!あれを試すゾ!」

 

「うん!」

 

そう言いながら私たちの前に出たホップてユウリは鞄から"くちたけん"と"くちたたて"を取り出す。

私はその行動に、声が出せなかった。

本来ならばそれは、ムゲンダイマックスしたムゲンダイナへ抗う時に行う筈のものであり。

ザシアンとザマゼンタをここへと呼び出すための行動だった。

 

「ザシアンとザマゼンタ……だったよな?聞こえるなら力を貸してくれ!」

 

「お願い、私たちとムゲンダイナを止めて!」

 

そう言いながらユウリとホップがその朽ちた剣と盾を重ねた時だった。

彼方に流れ星が二つ、落ちた。

いや、落ちていない。

此方へと真っ直ぐ、二筋の光が降りてくる。

ムゲンダイナを通りすぎて私たちの前に現れたのは、二体の狼のようなポケモン。

ザシアンとザマゼンタ、その二匹のポケモンがそこへ降り立った事へ反応したのかホップとユウリが持っていた"くちたけん"と"くちたたて"が浮かび上がり、それぞれがザシアンとザマゼンタへ飛んでいきそれぞれの体へと触れた瞬間。

ザシアンとザマゼンタが姿を変えた、私にとっては見慣れた姿。

ザシアンは剣を咥えた『けんのおう』の姿へ。

 

ザマゼンタはその体に盾を纏う『たてのおう』の姿へ。

 

「ウルォォオオオオオオーードッ!!」

 

「ウルゥゥウウウウウウーードッ!!」

 

二匹の伝説のポケモンが、揃って咆哮をあげる。

その場が、空気が震えるような錯覚を覚える程のプレッシャー。

 

「ヨシッ!ソニアの話し通りだ!みんなでブラックナイトを終らせるゾ!ゴリランダー!」

 

「後は、みんなでムゲンダイナに攻撃して弱らせて捕獲だね!有利に決めちゃえ、エースバーン!」

 

「あぁ、そうだな。お前らがここまで頑張ってるんだ、俺が……チャンピオンで、大人である俺がこうしてる訳には行かないな。そうだろ、リザードンっ!」

 

「ザァーッ!!」

 

そんな二人に、ダンデさんはゆっくりと立ちあがりそんな彼に答える様にリザードンが気合いをいれるように咆哮をあげる。

そんな三人の会話に、流石は主人公とそのライバル、無敗のチャンピオンだと不思議と安心感を覚えた。

そんな事を思っていたら私の側に、メガアブソルがいた。

自然と、私を守ろうとしてくれるこの子のいつもの場所。

 

「………」

 

彼は、私が指示しない限りムゲンダイナと戦う気は無いのだろう、きっと私を守るために、ただそこにいてくれる。

両手を組み包むようにして持っていたキーストーンがドクンと鼓動したような気がした。

気になり、組んでいた手を開いて見てみると一度メガシンカを使ったからか光らないはずのキーストーンが淡い光を纏っていた。

何となく教会で見つけた最初のタペストリーに描かれていた黒いアブソルらしきポケモンの存在が脳裏に浮かんだ。

 

『貴方なら、私が鎮める事しか出来なかったあの姿を……きっと、上手く扱えるかもしれませんね』

 

本来なら、あり得ない。

一度メガシンカしたポケモンが、もう一度変化するなんて。

でも、なんだか行けるような気がした。

 

「アブソル、まだいける?」

 

静かにそう聞くとアブソルは当たり前だと告げるように頷いた、私はしっかりと自分の足で立ち、彼女たちの側へ()()()()()()()

 

「私たちもいこう、アブソル」

 

「ソルっ!」

 

その場に四人のポケモントレーナーと六体のポケモンが並ぶ。

 

「シアン、大丈夫?バトルは苦手なら無理しなくても」

 

「そうだゾ!シアンはもう十分戦ったんだ、後は俺たちに任せてくれ!」

 

「ううん、私も一緒に戦うよ。これは私が自分の意思で決めたことだから」

 

そう言いながら安心させるように笑う、そんな私を見た二人はポカンと口を開けると、笑顔を浮かべながらムゲンダイナへと向き直った。

 

「流石は私達のライバル!」

「流石は俺達のライバルだゾ!」

 

きっと、私がメガシンカを使えること等色々と聞きたいことがある筈なのに、こうして私をライバルだと本心で話してくれるの言葉が、胸をじんわりと暖かくしてくれた。

 

それはきっと、踏み出さなかったら見えなかった景色。

 

踏み出さなければ、体験できなかった旅。

 

途切れていたかもしれない関係。

 

きっと出来なかったポケモンバトル。

 

「うん!」

 

私はしっかりと自分の足で立ち、彼女たちの側へ()()()()()()()

 

もう一度、淡く輝くキーストーンを両手で包み込む。

アブソルは僅かに目を見開き、自身のチョーカーについているメガストーンへと視線を向ける。

本来ならメガシンカしたことで反応しない筈のアブソルナイトが、半分だけ黒く光り輝いていた。

本来なら、あり得ない。

一度メガシンカしたポケモンが、もう一度変化するなんて。

 

でも何となく、アブソルなら行けるような気がした。

 

「アブソル、私と一歩を踏み出してくれる?」

 

そんな私の言葉に、アブソルは当たり前だと言わんばかりに頷き私の前へと出る。

 

「ブラックナイトを沈める…いや、終らせるために。切り拓く力を」

 

祈り、願う。

かつてそうして聖女がそれを沈めたように、両手を組みアブソルへと祈る。

そんな私をユウリとホップは何処か神妙な面持ちで見つめ、ザシアンとザマゼンタは懐かしいものを見るような目でシアンの行動を見守る

メガシンカした筈のアブソルの体を、メガシンカした時と同様にアブソルナイトから生まれた光が、私の掌に包まれたキーストーンから生まれた光と混ざり、アブソルの体を大きな光で包む。

 

「アブソル、メガシンカ!」

 

光でできた殻に、ピシッとヒビが入り一気に殻が弾け飛び、宙にDNAの二重らせん構造のような虹色に輝くメガシンカマークが浮かび上がる。

現れたのは、先程までのメガシンカした真っ白なアブソルとは正反対の姿だった。

 

「黒い、アブソル……」

 

先程までのメガアブソルが天使なら、目の前に立っているアブソルはまるで悪魔のようだった。

体毛は禍々しい漆黒に染まり、左側にだけ巨大なツメのように逆立つ翼。

アニメでもゲームでも、こんなアブソルは()()()()()()()

アブソルは、自身の体を見て驚いた様子を見せる。だが、すぐに()()()()ような様子を見せた。

まるで、こうなることを知っているかのような。

そのとき、私は思い出した。

私がロケット団にさらわれた時にアブソルがメガシンカしたこと、初めてコルニ姉さんの元でメガシンカをしたとき何処か戸惑っているような様子をしていたこと。

全てが、繋がったような気がした。

そっか、アブソルは最初にメガシンカした姿がこっちだったんだ。

 

「更に、メガシンカした!?」

 

「凄いよシアン!さっきのアブソルも凄かったけど、こっちも凄い強そう!」

 

「これは……かなり強そうだな!全員でムゲンダイナを捕まえるぞ!」

 

ダンデさんの言葉にユウリとホップ、私が各々のポケモンへと指示を出す。

 

「エースバーン、"かえんぼーる"!連続で撃ち込んで!」

 

「ゴリランダー!"ドラムアタック"だゾ!!」

 

「リザードン、"げんしのちから"!」

 

「アブソル!あなたのタイミングで"つるぎのまい"をしてから"シャドークロー"!」

 

原作の倍の人数とポケモンだったからか、それとも別の理由か。

私たちによって、ムゲンダイナはムゲンダイマックスすることなくユウリの投げたモンスターボールに捕獲され、無事ガラルの危機は去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3日後、シュートシティのシュートスタジアムには沢山の人々が集まり歓声をあげていた。

それもその筈だ。

シュートスタジアムではジムチャレンジの最後の種目、セミファイナル、ファイナルトーナメントを勝ち上がったユウリがチャンピオンダンデと一進一退の攻防をしていたから。

そうして今、ユウリとダンデさんの戦いが最後を迎えようとしていた。

互いのエースポケモン、ユウリはエースバーン。ダンデさんはリザードンをキョダイマックスさせており、その巨大なポケモン同士が睨みあっていた。

 

「エースバーン!キョダイカキョウ!!」

 

「リザードン!キョダイゴクエン!!」

 

リザードンの吐いた炎と、エースバーンの蹴りあげた炎がぶつかり合う。

そうして、倒れたのは───リザードンだった。

 

ダンデは少しだけ帽子を深くかぶり、悔しそうな表情を隠す。

だが、すぐに笑顔を浮かべ被っていた帽子を空へと投げた。

 

「チャンピオンタイム イズ オーバー……最高の試合に、ありがとうだ!!」

 

ダンデの言葉に、シュートスタジアムの歓声が鳴り響く。

そして試合を見守っていた私達からも大きな声が飛んでいた。

 

「やった!ユウリが、ユウリが兄貴に勝ったんだぞシアン!」

 

「う、うん!?やっ、やったねホップ……」

 

「はぁ、嬉しいのは分かりましたから、少し落ち着いたらどうですか……」

 

「ホップ、シアンもそんなに距離詰められたら話せるのも話せんよー?」

 

「ご、ごめん……ユウリが勝ったのが嬉しくて」

 

「ううん、大丈夫だよ。勝ったのが嬉しいのは、私も同じだから」

 

マリィとビートの言葉にショボンとするホップ、どうにか励まそうとそう言葉を返す。

目の前でチャンピオンタイムイズオーバーを見れた事、ユウリがチャンピオンとなったことに 感動すると同時に、この場にいられたことに改めて感謝していた。

 

「ふふ、ユウリのチャンピオンお祝いのケーキ……頑張って作らないとね」

 

「うちも手伝うよ、その方が早く作れるし」

 

「どうしてもと言うのであれば、僕も参加してあげましょう」

 

「俺も手伝うんだゾ!きっと、みんなで作ったケーキはユウリも喜ぶに決まってる!」

 

あの日に勇気を出して踏み出した一歩、逃げるための一歩でもあったソレのお陰で私はこうして沢山の経験ができた。

人だけじゃなく、ポケモンとの出会いがあって、ゲームでは知らない歴史やこの体に宿っていた魂の前世を知って、ムゲンダイナとの戦いがあった。

最初は怖くて、迷って、それでも歩き続けた。

夢はまだ叶っていないし、歩いていく途中だけど。

あの時、踏み出した一歩は小さかったかもしれないけど、私は少しだけ前に進めたような気がした。

 

……ほんと、変わったな。

 

最初は原作に関わるつもりなんて無かった。

 

ジムチャレンジだって、ローズ委員長やガラル地方から逃げるように踏み出した一歩だった。

でも今は違う。

 

「……うん」

 

胸の前で、そっと手を握る。

友達がいて、笑い合えて、同じ景色を見ている。

勇気を持って踏み出した一歩。

怖くてもいい。

迷ってもいい。

それでも踏み出すことを選んだ、その一歩こそが私を、ここまで連れてきてくれた。

小さくて、頼りなくて、それでも確かに前へ進んだ一歩。

 

これは、私が勇気の一歩(BRAVE STEP)を踏み出した物語。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ、突然のお願いにも関わらず引き受けていただきありがとうございます、マグノリア博士。ポケモンの卵の孵化を手伝って頂けて、本当に助かりますよ」

 

「いえいえ、こちらこそですよ。遠く()()()()()()のポケモンに触れられる機会なんて、そうあるものではありませんからね」

 

穏やかに笑うマグノリア博士に対して、通信越しの男声はどこか安堵した様子で頬をかきながら息をついた。

 

「では、後ほど卵を一つお送りします。もし無事に孵ったなら、そのポケモンの様子も教えてくださいね。楽しみにまっていますので」

 

通信は静かに途切れる。

 

「さて、と……」

 

ひとり呟き、マグノリアは窓の外へと目を向ける。

 

「この卵を任せる相手は……」

 

ユウリはチャンピオンとして多忙。

ホップも助手として研究に打ち込んでいる最中。

ならば、と……あの二人と仲の良い一人の少女の姿が脳裏に浮かぶ。

 

「あの子なら……あるいは」

 

くすり、と小さく笑い、マグノリア博士は端末を手に取った。

 

「ソニアに、聞いてみるとしようかね」

 




season1 ~ジムチャレンジ編~ 完

Next STEP──その先へ。

season2 ~パルデア短期留学編~
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