BRAVE STEP ―小さなお菓子屋さんを夢見て― 作:クレナイハルハ
寮室に置いておく物や食材を買うために、寮を出てテーブルシティにある様々な店で食材や日用品等の買い物を済ませた私、シアン。
カルボウの目について異常がないと一安心して買い物に出たものの、急に水色の髪が特徴的な女の子に呼び止められてしまう。
だ、なんて少しだけ現実逃避をしていると私だけど、少しだけいやかなり現実を見たくない。
「どうやって!?あれですよ!このグレイシアすっごくすっごく強いんですよ!?どうやって捕まえたんですか!?」
その問いに、すぐには答えられなかった。
別に、私はグレイシアを捕まえるつもりなんて無かったし、バトルをしてもいない。
大量に作って余らせていたお菓子を、野良のグレイシアが食べてくれるから、出掛けて会ったときにあげて、消費して貰っていた。
そうしたら、グレイシアが私の後をついて来てしまった。
グレイシアに私と来るか聞けば、頷かれた。
まるでアニメのポケモン等で良く言われる友情ゲットと似たようなものが出来たことに少しだけビックリした記憶がある。
「……えっとその、お菓子をあげて……」
「お菓子!?それだけで!?そんなので捕まる相手じゃないですよこの子!!?」
がばっ、と身を乗り出してくる少女。
彼女は自分の胸に手を当てると驚愕と混乱の混ざったような瞳で言葉を紡ぐ。
「私、何回も挑んだんですよ!?何回も!何回も!負けても、負けても何回も諦めずに!それでも全然捕まらなくて……」
「シア……」
呆れたように、グレイシアが目を細める。
「なのにお菓子ってなんですか!?お菓子をあげただけでゲットしただなんて納得できませんよ!!」
びしっ、と指を突きつけられる。
「だから、証明してください!!」
「え……?」
「あなたがこの子のトレーナーに相応しいってこと!!」
その言葉と同時にカチリ、と少女がボールを手に取って私へと構えた。
その動作から、彼女が次に言うことは簡単に想像出来た。
「ポケモンバトルで!!」
思わず、息が詰まる。
ポケモンバトル、ジムチャレンジ以降で一度も行っていない。
自分がバトルは苦手であること、ポケモンに委ねる戦い方がジムチャレンジでも不評が多かったから、自然とバトルをすることが無くなっていた。
どうにか断ろうと思考を巡らせていた、その時だった。
「カァ!!」
私の言葉より早く、肯定ともいえる鳴き声をあげたポケモンがいた。
足元を歩いていた、グレイシアの隣にいるカルボウだった。
「……か、カルボウ?」
「受けてくれるってことですね!では私達もいきましょう、ミミッキュ!」
そんなカルボウの様子にポケモンバトルを承諾したのだと思われたのか、少女がモンスターボールを投げる。
ボールの中から現れたのはアニメでもゲームでも大きな印象を残したポケモン、ミミッキュだった。
「キュキュキュ!!」
ゴースト、フェアリータイプ。
そんなポケモンの登場に、カルボウは即座に走り出した。
「ま、まって下さい!まだ私は、バトルするだなんて一言も───」
私がどう弁明すべきか考えているなか、カルボウは鳴き声をあげながら勢い良くミミッキュへと向かっていく。
「クゥァァァァアッ!!」
「カルボウ!?」
ミミッキュへと向かっていくカルボウに手をのばす私。
そんな中、ふと足元を見ればグレイシアがいつもより気だるげな様子というよりは何処か冷めたような目でカルボウを眺めているような気がした。
「ミミッキュ、"つるぎのまい"です!ギリギリまで引き付けて下さい!」
ミミッキュがつるぎのまいを舞っている中、カルボウはそれを気にすることもなく向かっていく。
「カルボウ、おねがいだから止まって──」
そんな私の懇願に近い声を他所に、カルボウは勢い良く体をミミッキュへとぶつかる。
ぶつかり、確実に自分の攻撃が当たったことへの自身からか自信満々といった様子だったカルボウだが、その表情は変化していく。
攻撃が当たった筈なのに、なんでこいつは何の反応も示さないのだろうかと。
そんな事を考えていたカルボウだったが、突如として目の前のポケモンの顔が首が、唐突にコテっと倒れた。
そんな生物としての現象としてはあり得ず、恐怖と困惑からか硬直するカルボウ。
ばけのかわ、何度もゲームで見てきた光景。
「か、カルボウ!いますぐ距離を───」
「今です!"でんじは"!」
「キッキュッ」
私の言葉を遮るように、少女の指示がミミッキュへ飛ぶ。
ミミッキュから放たれたリング状の光、複数の光の環と稲妻に包まれたカルボウは、身体中に時折雷がはしる。
「カァッ!?ルァァア!!」
「カルボウ!?」
まひ状態になったカルボウは、痺れうまく動けない身体に何処か怒るような声を上げる。
「カァッ……!ルァァア!!」
無理やり体を動かし、再びミミッキュへと踏み込もうとする。 けれど、その足はすぐ止まる。
まるで「動けっ……」と言うように鳴きながら体を捩るカルボウ。
そんなカルボウの意思とは裏腹に、身体は思うように動かない。
「麻痺は完璧ですね!ミミッキュ、もう一度"つるぎのまい"です!」
「キュッ」
軽やかに舞うミミッキュ。
対してカルボウは、ただその場で歯噛みすることしかできない。
「カァァァッ!!」
無理やり踏み出す。 一歩、また一歩。
遅い。
明らかに、さっきまでとは違う動き。
鈍い動きでミミッキュへと殴りかかるが、ミミッキュの軽やかな動きと身体の痺れのせいか、時々身体が震え硬直により攻撃が当たることはなかった。
「カルボウ……」
止まってほしいのに、止まってくれない。
それでもカルボウは、前に出ることをやめなかった。
「いいですよミミッキュ!その調子で舞って下さい!」
トレーナーの指示を聞かないポケモン。
ゲームならレベルが高く、トレーナーの指示を聞かないポケモンというのもいた。
この世界にレベルという概念はない。
生まれたばかりのカルボウが、どうして指示を聞かないのか。
過ごした時間が少ないから?
それとも、私に何か原因があるのだろうか?
考え込む私を他所にカルボウとミミッキュのポケモンバトルは次々と変化していく。
カルボウの身体が、動きがどんどん鈍っていく。
「決めましょうミミッキュ、"ゴーストダイブ"です!!」
その瞬間だった。
す、とその場にいたミミッキュの姿が影へと消える。
「……クァっ!?」
カルボウが、その二色の瞳を大きく見開き足を止める。
視線が揺れる。 左右へ、前へ、ミミッキュの姿を必死に探す。
そんな様子は、まるで「どこだ……!」と言っているように、荒く呼吸しながら周囲を見渡していた。
次の瞬間、カルボウの背後。
カルボウの背後から生まれた小さな影が大きく変化した。
「カルボウ、そこから逃げて!」
「ッ──!?」
影が、跳ねるように現れる。
「キュッ!」
「カァッ……!!」
衝撃、ミミッキュの足元?の布から現れた大きな爪によってカルボウの小さな体が、地面へと叩きつけられる。
数度、転がり土煙を上げながら止まったカルボウの瞳はぐるぐるとしており戦闘続行が不可能であることを示していた。
「どうですか!これがフローズンルーラーを捕まえたくて鍛えてきた私です!」
「ミミッキュ♪」
そう言いながら人差し指を立てた手を掲げる少女に対して、嬉しそうに鳴き声をあげるミミッキュ。
私はベルトに固定したカルボウのモンスターボールをかざしてカルボウをボールに戻した。
すると足元にいたグレイシアが深いため息をつきながら前に出る。
……え、グレイシア?
「出てきましたね!今度こそ私が貴方を倒して──」
そんな彼女の言葉を他所に、ミミッキュへと肉薄したグレイシアは即座に冷気を纏った足でミミッキュへとトリプルアクセルを叩き込みミミッキュを吹き飛ばした。
吹き飛ばされたミミッキュは土煙をあげながら地面を滑っていく。
そして少し離れてから止まったミミッキュの瞳は、ぐるぐるとした感じの戦闘不能状態だった。
「シァ……」
「うぇ!?ミミッキュ!?あれ!?え?」
そんなミミッキュの元へと走り抱き起こしながらモンスターボールへと戻した少女。
「……やっぱり、強いですね!」
悔しそうに歯を食いしばり、一瞬だけ、グレイシアを見る。
「その子は……諦めませんから!次こそは勝ちますから!なので……なので!」
彼女は戸惑ったような様子から一変してその場から走り出した。
「これで勝ったと、思わないでくださぁぃぃいいぃぃぃ!!」
そんな声と共に走り去る少女に、またもや深いため息を着くグレイシア。
「な、なんだったの?今の……」
そんな二人の様子に戸惑いながら、取りあえずカルボウを治して貰うため近くのポケモンセンターへと向かうのだった。