BRAVE STEP ―小さなお菓子屋さんを夢見て― 作:クレナイハルハ
あれから、家を出ることなくお母さんとお父さんの元で過ごす事になった。
私はシアンとして、お父さんとお母さんと生きている。
あの後、何故か私の家にオーキド博士がやって来た。
始めて話したオーキド博士の声は、聞きなれた声だけど初対面と言うことがあり少し変な感じだった。
なんでも、私がロケット団に襲われ気絶した後にアブソルを助けてくれたトレーナーから、アブソルがその姿を変化させて見たことのない姿になったらしい。
そのときの私は、アブソルの姿が変化したという言葉からメガシンカしたアブソルが脳裏を過ったけど、キーストーンもメガストーンも無いのにメガシンカ出来るわけがないと思った。
でも、ポケモンが一人でメガシンカしたかもしれないという情報はオーキド博士。
いやこの世界にいるポケモン博士からしたら、そんな情報があれば詳しく知りたいらしく、私や両親はカロス地方に行くことになった。
両親の仕事だが、オーキド博士が働きかけてくれたのか私がカロスヘ行く間はお休みを取らせてもらえる事になった。
あんなことがあった後なのに、両親から離れて博士とカロスヘ行くのはお父さんもお母さんも嫌だったらしくオーキド博士に感謝していた。
そしてカロス地方での時間は、思っていたよりもずっと濃くて、そしてあっという間に過ぎていった。
まず私のアブソルの変化、やっぱりただの変化じゃなくて、メガシンカの可能性が高いらしい。
オーキド博士とプラターヌ博士は、そう結論づけた。
そんな流れで出会ったのが、コルニさんだった。
メガシンカを扱うかくとうタイプのジムリーダーである彼女は、このカロスでメガシンカを最初に発見した一族の末裔。
優秀なトレーナー達に渡す“継承者”として、キーストーンを渡すらしい。
アニメやゲームで見た通りのファッションをしていて、少し引いてしまった。
『あなたとアブソルの絆なら、きっとメガシンカをうまく使えるようになるよ!お姉さんが鍛えて上げるんだから、間違いないよ!』
そう言って渡されたキーストーンは、少しだけ重かった。
でも、不思議と嫌じゃなかった。
私はメガシンカは好きだ、ポケモンの好きな要素はダイマックスやZワザより、メガシンカが。
それからしばらくの間、私とアブソルはコルニさんの元でメガシンカしたアブソルの力を制御する練習をした。
アブソルが体の変化に戸惑うことがなくなり、しっかり、切り替えられるようになるように。
思うようにいかなくて、何度も失敗して。
それでも少しずつ、ほんの少しずつだけど、扱えるようになっていった。
メガシンカの練習と平行して、コルニさんは私にポケモンバトルのことも教えてくれた。
『今後は自分のことも、ポケモンも守れるよう戦えるようにならないとね!』
やっぱり、ゲームと現実は全く違う別物だった。
指示を出す声が小さければ、アブソルは動けない。
アブソルの体の大きさ、動き、手が届く距離。
全てを考えて指示を出さないといけない。
全然勝てなかった、相手はジムリーダーだし当たり前かな。
ポケモンバトルは、正直あまり好きじゃない。
でも、ポケモンバトルで負けた理由だけは分かるようになっていった。
悔しい、なんて思うことも、少しだけ増えた。
そうして私は、ある日。
コルニさんからネックレスの先にキーストーンが嵌められたシンプルな物を貰った。
そしてアブソルが身につけるメガストーンがついたチョーカーも。
チョーカーはアブソルの毛でメガストーンが若干見えにくくなっている。
この歳でメガシンカを使うトレーナーとか、目をつけられるだろうから、きっとそこら辺も考えてくれたのかな。
そうしてアブソルの件も落ちついてカロスを離れる前、私はコルニさんへのお礼にお菓子を作った。
お母さんに手伝って貰って、上手くできたかは分からなかったけど。
出来上がったクッキーを、コルニさんは嬉しそうに食べてくれた。
『すごく美味しいよ!シアン!さすがは私の妹だね!』
そう言って笑ってくれたのが、なんだか少しだけ嬉しくて。
胸の奥が、ほんの少しだけあたたかくなる。
その気持ちの名前は、まだよく分からないままだったけど。
こうして私は、アブソルの一件を終えてカントー地方へと帰ってきた。
それから、カントー地方で過ごしていたのだけど、お父さんやお母さんの転勤に着いていく形で様々な地方へと引っ越した。
色んな場所にいって、色々なポケモンや人たちと出会った。
手持ちのポケモンが増えたり、いろんなことがあってそして今、私はガラル地方のハロンタウンで暮らしている。
私の容姿はポケモンソード、シールドの主人公の姿だ、だからかハロンタウンに住んでいる主人公であるユウリとホップに始めて会った時は凄く驚かれたのを今でも覚えてる。
そんな少し前の事を思い出しながら、部屋のベッドに座りスマホロトムでポケモンでも安心して食べられる色々なお菓子を作る動画を見ていた。
あれから色々な場所で生活した事から私にも夢が出来た、それはポケモンもトレーナーも笑顔になれる。
そんな小さなお菓子屋さんを開くことだ。
女の子の小さな頃になりたい夢ランキングでも上位に来るであろうケーキ屋さん、パティシエ。
まさか自分が本当にそんな夢を抱くことになるだなんて、思っても見なかった。
チラリと本棚を見ると、付箋がいくつも挟まれたお菓子のレシピ本が数冊並んでいた。
ふと、視線を戻した時スマホロトムの映像はCMに入ったのか先程まで見ていたポケモンも食べられるお菓子作りの動画とうって代わりジムチャレンジの広告が流れていた。
キョダイマックスしたリザードンが、相手のトレーナーが繰り出したジュラルドに攻撃し、気絶させた後にリザードンのトレーナー。
チャンピオンのダンデが『さぁ、君たちの挑戦を俺は待ってるぜ!』とそう言いながらリザードンポーズを取る。『さぁ、チャンピオンタイム……いや、ジムチャレンジ開催だ!!』という言葉と共に映像が切り替わり、ジムチャレンジの開始日とセミファイナルトーナメント、ファイナルトーナメント開催予定日が記されていた。
「そろそろ、原作が始まるんだ」
そういえば、テレビでは毎日のようにジムチャレンジとカレーのCMが流れ、ガラル地方中が盛り上がっている。
ゲーム、物語の通りならユウリとホップがチャンピオンであるダンデさんからポケモンを貰い、ジムチャレンに参加することを決めて推薦状を貰う頃だろう。
まさか、自分が10歳になってガラル地方で生活しているときに剣盾のストーリーが始まるだなんて思わなかったな。
10歳になった私は、両親の元から離れず生活していた。
あんなことがあったからか、私が10歳になっても家を出ないことには何も言わなかった。
むしろ、二人とも働いているから家の家事をしているのはほぼ私みたいな感じになってしまっている。
自室を出て、キッチンへ向かう。
スマホロトムを持ち動画を見ながら、昨日の夜に冷やしておいたお菓子の様子を見ようと冷蔵庫の取っ手を掴んだ、その時だった。
「シアーーンッ!」
「ひう!?」
部屋の扉がバタンッ!と大きな音が聞こえ、振り返ると玄関に友達のホップの姿があった。
元気そうな声をあげながら入ってきたホップに私は驚き、手にスマホロトムを持っていたことを忘れていた。
カタンとスマホロトムが床に落ちた音がした次の瞬間、私の部屋の扉がダン!と開き、玄関へと走る何かの音が聞こえてすぐに私は口を開いた。
「アブソル、やめてっ!!」
私の部屋から飛び出してきたアブソルが、ホップへ向けた鋭い爪が生えた前足を振り上げたまま止まる。
「ありがとう、でもこの人は大丈夫だから」
「………ソル」
慌ててアブソルの元へと向かい、抱き締めながら撫でると、アブソルはその場を離れリビングの床に伏せて目を閉じた。
取りあえず、ホップに怪我をさせてしまわなかった事に安堵し息を吐く。
あの日、ロケット団に襲われ入院した辺りからだろうか。
アブソルは、変わった。
私やお母さん、お父さん以外のすべての人へ敵意を向けるようになった。
常に敵意を剥き出しにして威嚇し、私へ触ろうとする人がいるとボールから勝手に出てきて襲い掛かろうとする。
その度に私はハグで抱き締めてどうにか落ち着かせて来た。
あの事件がきっかけで、私もこの子も大きく変わってしまった。
「あ、危なかった。助かったぞシアン」
「その、大丈夫だった?ごめんねアブソルが……」
「気にしなくて大丈夫だぞ!シアンが止めてくれたからな。それに、シアンのアブソルの事を忘れてた俺が悪かったんだぞ………」
「えっと、それでどうしたの?」
「そうだった!今からユウリと一緒に兄貴を迎えに行くんだけど、シアンも一緒に行かないか?」
そう話すホップにとうとう原作が始まったのだと実感した。
この後、ダンデを迎えに行ったあとユウリとホップはダンデからはじめてのポケモン。
ヒバニー、メッソン、サルノリの中からそれぞれ1匹を選びバトルをする。
そしてバーベキューを楽しんだ二人は、チャンピオンからジムチャレンジに参加するために必要な推薦状を貰い旅に出るのだ。
「い、いいよ私は……その、私はポケモン持ってるし。ユウリと二人で行ってきなよ」
「そうか、わかった!それじゃあ行ってくるぞ!!」
「その、ダンデさんによろしく……伝えてね」
「わかった!」
そう言いながら玄関のドアを開け走っていくホップを見送り、一息着く。
やはり、人と話すのは苦手だなぁ。
そんなことを考えながら私は玄関のドアを閉めた。
「ふぅ」
踵を返して、リビングで伏せて目を閉じているアブソルを少し撫でてから昨日冷蔵庫へ入れたソレを確認する。
お母さんが帰ってくるのは夜だ、お父さんは残念なことに今はアローラへ出張中である。
別れを惜しむお父さんのお尻を蹴り、出発させたお母さん。
そんな二人の姿は印象的すぎて簡単に思い出せた。
そんなわけで今は私とお母さんの二人暮らしをしている状況だ。
リビングで伏せているアブソルの近くにおかれたソファに座り、スマホロトムを操作する。
先程見ていた鋼タイプのポケモンが好む、食べられるお菓子の作り方の続きを見ようと再生ボタンをタップした瞬間。
「シアーン!シアンも一緒にダンデさんの所に行こーよ!!」
「ふぃあぁっ!?」
何処かデジャヴを感じる玄関の扉が開く音と共に聞こえてきた大声に、またもや変な声を出しながらスマホロトムを落としかけ、なんとかキャッチする。
「ユ、ユウリ!?いや私は──」
そう言って椅子に座る私の手を引っ張る彼女の名前はユウリ。
ポケモンソード、シールドの主人公だ。
頭にベレー帽を身に付けた彼女に手を掴まれドキリと心臓が強く、早く鼓動する。
このユウリの距離感の近さは、前世が男の私にとってはかなりドギマギしてしまう。
コルニ姉さんもそうだけど、この世界の女性はみんな距離が近くて困ってしまう。
これが、主人公たる陽キャの力、恐るべし。
あれ、考えてみれば二人が遊ぶ時いつもこうして私も連れ出されていたような……。
「ほらほら早く!シアンも一緒に行くよ!」
そう言いながら私の手を引いて玄関へと連行するユウリ、私は手を掴まれているため前のめりになり着いていくことになる。
「わ、わかったから!一緒に行くから待って!うぅ……アブソル!あれ持ってきて!」
ユウリだからか警戒する必要がないと感じ、リビングで伏せたままのアブソルに声をかける。
アブソルは直ぐに目蓋を開くと、走りだし私の部屋へ。
ユウリに手を引かれ屋根で出来た影から日向へ踏み出す。
とても温かく強い日差しが私に降り注いで来る、思わず捕まれてない方の手で日光を遮る。
「眩しい……」
ずっと家にいることが多いインドア派な私にとって外の日光は少し眩しすぎる。
「ほら早く、一緒に行こうよ!ホップも待ってるし!」
「ま、まって!せめて家の鍵だけ……」
「あ、そっか。じゃあ待ってるから早く!」
原作を壊したくなかったから、二人で行って貰いたかったのに、ここまで連れ出されたら着いていくしかない状況になってしまった……とほほ。
外に出てようやくユウリから解放された私は、アブソルが咥えて持ってきてくれたベルトを受け取って腰に巻く。
このベルトについたポーチのような小さなポケットには、家の鍵が入っている。
普段出掛けることはないが、出掛ける際はこれさえ持って出れば問題はないため鍵を入れっぱなしにしていたことが、ここで良い方向に働くとは思わなかったな。
「ぅぅ……ありがとう、アブソル」
そう言いながらベルトに固定されたボールの一つを手に取って、アブソルをボールへと戻す。
ユウリに急かされながら、ポーチなら取り出した家の鍵で玄関の扉を閉める。
ハロンタウン、いかに都会から離れた町のような場所とはいえど、犯罪が起こらない可能性はない。
戸締まりもせずに家の外に出るのはさすがに不用心だ。
「よし!鍵もしめたし、それじゃあ早速いこー!」
そう元気良く声を上げながら私の手を引いて走るユウリに、どうにか走ってついていく。
インドア派には、外を走るのは少しキツイです。
家の庭を出て道に出ると、ホップが待っていてユウリとユウリに手を引かれた私を見て笑う。
「お、ユウリ!それにシアンも?!やっぱり行きたくなったんだな!兄貴に友達を紹介するのが楽しみだぞ!」
「ダンデさんに会うの楽しみ~!さぁ、みんなでブラッシータウンにいくぞー!」
「「おー!」」
そう言って勢い良く手を上げる二人、子供がこうして張りきっている姿は微笑ましいく感じる。
いや、私も子供ではあるんだけど精神年齢がね……。
そんなことを考えていると、二人がニコニコしたまま私の方を見る。
え……私もその……や、やらないと、ダメ?
「お、おー」
二人が勢いよく突き出したのとは違い、少しへにょりと半分くらいしか、あげていない手。
うぅ、恥ずかしくてそんなに目立つような事は出来ないよぉ。
頬が熱いのを感じながら、手を上げたまま固まっていると二人は満足そうに頷き、口を開いた。
「よし、ブラッシータウンまで競争だぞ!」
「負っけないぞ~!シアンも早く早く!置いてっちゃうよー!」
そう言いながら、私に背を向けて走りだす二人にポカーンとしていた。
え……え?
私を家から引っ張り出しておいて、放置!?
「ま、まってよ~!」
そう言いながら、慌てて二人の背中を追いかける。
今思い出して見れば、これが私がガラル地方へ来てからの日常だ。
──でも。
でも今日、そんな日常が終わる。
二人はダンデさんに推薦状を貰い、ジムチャレンジに参加し旅に出る。
だからこれも最後かもしれない、ジムチャレンジが終われば二人ともこのように過ごせない。
ユウリはチャンピオンに。
ホップは博士の助手に。
だから、せめて今日ぐらいは二人と一緒にいよう。
気が付けば、原作の登場人物でも、二次元の存在でもなくて。
大切な“友達”になっていた二人と、別れる日だから。
ご愛読ありがとうございます。
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