BRAVE STEP ―小さなお菓子屋さんを夢見て― 作:クレナイハルハ
次の日の朝、クラベルさんからの返事は、思ったよりも早く届いた。
内容は、短期間の留学である私に対して、通常より早く課外授業を体験させてくれるというものだった。
以前に聞いていた――“宝探し”。
グレープアカデミーで行われている特別な課外授業で、自分だけの宝物を見つけるための時間。
学園で授業を受けるのも良し。
パルデア地方を旅するのも良し。
そんな授業を私に許可してくれるらしい。
メールには自分にとって価値のある体験をしてほしい、そう書かれていた。
そしてもう一つ。
私がカエデさんの元で勉強したいと考えていることも、すでに伝えてくれているらしい。
あとは、カエデさんの返答次第。
……どうなるかは、まだ分からない。
とりあえず明日からは、短期留学生としてグレープアカデミーのクラスへ編入だ。
今世の自分にとって、初めての学園。
前世でなれた筈の学校生活を活かせば、学園での生活も上手く行くだろうか。
不安を感じながらも、私は寮を出てグレープアカデミーへ向かった。
ジニアさんの後ろをついて廊下を歩く、校内放送で朝の時間、もしくは授業開始のチャイムが流れるなか歩くのはなんというか不思議だ。
転校生なのだから、こうしているのは普通なのだ。
でも前世の思考に引っ張られているからなのか急がないと遅刻、先生がくる、早く教室に入らないと、と少しだけ焦りの気持ちが沸き上がってくる。
「それじゃあ、ぼくが呼んだら教室に入ってきて下さいねぇ」
そう言いながら1-Aと描かれた札の下げられた教室に入っていくジニアさんを見送る。
ここが、私が短期留学中に配属されるクラス。
どんな人がいるなか、仲良くできなくても話してもらえる程度になれたら良いなと思う。
うるさく鼓動する心臓に、深呼吸を繰り返していた時だ。
「シアンさぁーん、入ってきて良いですよぉー」
「ふぇあい!?」
聞こえてきた声に深呼吸中だったからか、変な声を上げてしまう。
クスクスと笑い声が聞こえてくる、羞恥心から顔が熱くなる。
教室の扉に触れて、二回深呼吸してから扉を開けて中に入る。
教室は日差しが入り、暖かない印象を覚える。
黒板らしき場所には電子モニター?のような物が設置されていてポケモンの世界らしさを覚える。
沢山の視線を感じながらも、ジニアさんのいる教壇へと登る。
「それじゃあ、紹介しますねぇ。短い間ですがこのクラスに来た短期留学生のシアンさんです。」
「し、シアンです。その、ガラル地方から来ました」
まさか、自分がアニメや漫画で見るような転校生をやることになるとは思わなかったな。
まぁ、私はアニメや漫画のような美少女でもツンデレでも無いんだけど。
「それでは、シアンさんに何か質問したいことがある人はいますかぁ?」
そんなジニア先生の言葉に、教室がざわざわと生徒達の声で埋め尽くされる。
こういったときの質問でどんなことが来るのか、少しだけ身構えていると、一人の生徒が手を上げた。
「シアンさんはポケモンはどんなポケモンが好きですか?」
「え、えっと……可愛いポケモンかな」
「そうなんだ!私も可愛いポケモン好きなんだ!よろしくねー!」
「は、はい……」
「はーい!なんで短期留学しにきたの?」
「ぅえ!?えぇと……」
短期留学の理由。
流石に手持ちのカルボウの姿が、変だから診て貰うため……というのは駄目だ。
カルボウのオッドアイは欲しがる人なら無理にでも手にしようとするタイプだろうし。
「その、気分転換といいますか。他の地方について見てみたいと思ったから……です」
「はーい!質問です!」
次々と聞こえてくる質問に答えていると、元気良く手を上げた生徒がいた。
褐色肌で綺麗な黒髪をデポニーテールにし前髪には緑色のメッシュが入っている女の子が手を上げていた。
なんだろう、メッシュが普通とか改めてポケモンの世界の自由度が高いのだと感じる。
「シアンさんは、短期留学の間この学園で何を学びたいんですか?あと将来の夢はなんですか?」
「わ、私の将来の夢は……お菓子屋さんを開くことです。なので、ここではパルデア地方ならではのお菓子や食べ物、調理法について勉強したいと思っています」
「いいね、応援するよ!」
「あ、ありがとうございます……」
「はぁい、質問はそれまでにして本日の授業に移りますよぉ。と、その前にシアンさんは職員室に行ってくださいね。宝探しについて、クラベル校長からお話があるそうですよぉ」
宝探しの件、そう聞いて真っ先に頭に浮かんだのはカエデさんの元でのお菓子作りの勉強の許可。
「分かりました」
即座に教室を出て、職員室に向かう。
職員室へ向かう廊下は、教室よりも少し静かだった。
授業を受けている生徒達の声が、閉じた扉の向こうから微かに聞こえてくる。
その音を聞きながら歩いていると、不思議と少しだけ落ち着いてきた。
「失礼します……」
職員室の扉を開けると、そこには既にクラベルさんが立っていた。
「来ましたね、シアンさん」
柔らかな笑みを浮かべているが、少しだけ校長らしい厳かな雰囲気を纏っている。
「改めて、あなたに少し早いですが課外授業“宝探し”の許可を与えます」
そう言って渡されたのは、一冊のガイドブックとパルデア地方の地図だった。
「何を宝とするかは、人それぞれです。友情、強さ、知識、夢…そして時には、自分自身であることもあります。カエデさんには、すでに事情を伝えてあります。安心して学んできてください。」
「ありがとうございます、クラベルさん」
「では、良き旅を」
「はい!」
まずはカエデさんの元でお菓子についての勉強だ。
少し緊張するし、初めて会うのは怖い。
いくらスマホで見かけたのが優しそうな人だったとしても、会って話すまで分からない。
でも、少しだけ楽しみだ。
こうして私のパルデア地方での少し早めの特別課外授業、宝探しが始まった。